1.新層攻略
「おい、モモ、下がれ、余計なダメージを食らうな、MPが勿体無いだろ!!」
俺はそう言って小型のゴブリンに囲まれているモモを引っペがして〝スイッチ〟すると、聖剣を握ってゴブリンの群れ相手に突撃する。
「あ、ちょっと、別に今日まだ1回も回復魔法使ってないんだから、少しくらいは私にも無茶させてくださいよ!!」
そう言ってモモ、初期設定のアバター設定の姿をした女が抗議の声を上げるが、スイッチと同時に俺は他のメンバーに指示を出した。
「ノワ、レイン、一気に仕留めるぞ、ソードスキルを使え!!」
「・・・了解、──────────スターバースト、ストリーム!!」
そんな風に二刀流でかっこよく神速の16連撃を放つ男の名はキリト、では無く、キリトの物真似をしている少年、黒羽。
ちなみにアバターはキリト似の少年アバターを使用しているが、中身は妹の同級生であり中学生女子らしいが、まぁ出会った事の無いリアルの事は気にしなくていいだろう。
彼はキリトの物真似をしているだけあって実力もこのゲーム、DDOの中でも抜きん出た実力者であり、最強格の一角に数えられる程の実力と人気で、密かにファンクラブを持っている程だ。
そんなノワの快進撃により、集団でこちらを囲いこんでいたゴブリンの包囲網が崩れた。
俺はそこですかさずアイテム、毒煙玉をゴブリンの群れのボスであるゴブリンキングに投つけると、更に指示を出した。
「いけ!!、レイン!!、トドメをさせ!!」
毒煙玉を使用する事により、呼吸を妨害する事によって厄介なゴブリンキングの詠唱と指揮を封殺し、その隙に俺とノワで道を切り開く。
その隙間を縫うように、レイン、ナイフを持った中性的な容姿をした少女がゴブリンの正面へと一息で駆け抜ける。
ゴブリンキングとの一対一、ステータス面ではゴブリンキングに軍配が上がるために、その丸太のように太い腕に殴られただけでも即死レベルのダメージは免れないが、少女は躊躇わずにゴブリンキングの懐へと潜り込む。
そしてゴブリンキングの大砲のようなパンチをスレスレで避けて、致命的な一撃を見舞った。
「ソードスキル、《アサシンスティング》!!」
暗殺者の刺突、当たれば大ダメージを与える代わりに、急所に当たらなければダメージが出ないというハイリスクハイリターンなソードスキルだが、レインはそれを敵の攻撃を回避しながら正確にゴブリンの心臓に突き立てて、一撃でゴブリンキングは倒され消滅する。
レインもまた、このゲームの中で最強格の一角として名を上げた実力者であり、その反応速度はプロゲーマーすらも上回る程で、受けに回った時の強さは右に出る者はいないのである。
「よし、残党も残らず狩るぞ、おいモモ、ゴブリン逃がすなよ!!、一匹1000グランの獲物なんだならな!!」
「わ、分かってますよ!」
モモは心優しく穏和な少女であるが故に無益な殺生をする事に抵抗を持っていて、パーティーを組んだ当初はスライム一匹狩るのにも難儀していたものの、今となっては知性の低い雑魚モンスターくらいならば、少し手間取る事もあるが討伐出来るようになっていた。
「えい!!、これで全部ですかね?」
「ああ、お疲れさん、ゴブリンキングとゴブリンクイーン、そして雑魚ゴブリンが15匹、しめて45000グランの儲けだな」
内訳はゴブリンキング1万、クイーン2万、ゴブリン15匹で15000で合計して45000と言った内訳だ。
ゴブリンなどのモンスターはRPGではありがちな魔石、それの系統である〝魂殻石〟と呼ばれるアイテムを落とし、そのアイテムの買い取り価格がだいたいそれくらいの値段という話である。
魂殻石はモンスターによって種類や色の異なる石であり、ゴブリンなら緑色で丸っこい形をしていると言った特徴だ。
現在俺達がいるのが9階層、デスゲーム開始から1ヶ月、1層解放からまだ一週間しか経ってないが、ビーター達の活躍により、1日1階層のペースで攻略が進み、現在は9階層まで攻略され、ここが最前線となっている訳である。
勿論ボス攻略には俺たちも参加していた、ビーターギルド『J0̸KERS』と、プロゲーマーのツチノコとは顔見知り程度だが懇意の関係であり、その縁でボス戦にも参加させて貰ったのである。
そういう訳で俺たちは、ダンジョンの最前線でボス部屋の捜索という任務に励みつつ、金策もこなしていたのであった。
「それにしてもこの階層はゴブリンだらけですし、フロアボスもやっぱりゴブリンなんですかね?」
古代文明の遺跡のような迷宮を探索していると、モモがそんな疑問を零した。
「まぁ6階層はスライムだらけで大型スライムがボス、7階層は狼だらけで人狼、8階層は虫だらけで巨大ゴキブリ、かと思いきや軍鶏だったし、法則あるのかは分からんが、このまま行けばデカいゴブリンが親玉の線が濃厚、か」
「でもゴブリンって知性あるのが最近のサブカルのメジャーな感じだけど、ここのはただ好戦的なだけの小鬼って感じで、あんまり厄介系じゃないよね、ゴブリンキングは魔法使うけど、それも強化系や回復系ばっかで小賢しい感じじゃ無いし、そういう系統なら余裕っしょ」
「ま、まだ9階層だしな、いきなり難易度上げても攻略がつまづいて攻略が滞るだけだし、基本的にRPGって序盤でつまづく設計なんて流行らないからな、厄介敵が出てくるとしたら10階層とか50階層とか、そういうキリ番からじゃないか」
レインの言う通り、この感じならばこの階層も余裕で攻略出来そうな雰囲気だし、この調子ならばゲームクリア条件である100階層の攻略も1年内に終わらせられそうな調子だが、流石にそこまで簡単に行く訳も無いからどこかではつまづくんだろうが、だが俺たちもビーター達も、未知の階層に到達して情報の優位性が無くなったとは言え余裕があった。
10階層の難易度次第だが、今の所は攻略も順調であり、攻略がビーター主導で進んでいる事に対しての不満はありつつも、他のプレイヤー達もこのゲームに希望を感じ、馴染んでいってる様子だ。
デスゲームは今の所、数人の命知らずなソロプレイヤーの事故死はあるももの、大規模な虐殺もなく、順調に攻略が進んでいるというのが、デスゲーム開幕から一ヶ月経った現在の見解である。
「・・・どうした、ノワ?」
思考に耽っていたらノワが急に立ち止まったので、俺はお眠になったのかと、顔をつねってみるが、ノワは無言で何やら、耳を澄ませているようだった。
「──────────悲鳴、聞こえた」
言われて俺も耳を澄まして見ると、確かに何か聞こえた気がするが、ゴブリンも断末魔を上げる訳だし、わざわざ気にする程のもんでも無いと思った。
この最前線にいるのはDDOプレイヤーの中でも実力も実績も申し分ない上位層ばかり、そんなプレイヤー達が雑魚と言って遜色ないゴブリンに負ける道理なんて無かったからだ。
なので俺は気にしなかったのだが、ノワはキリトに扮している為に主人公ムーヴを率先するキャラクターである為か、その声の方へと一目散に駆け出して行ったのである。
「あ、おい、ったく、これだからエンジョイ勢は」
俺たちは慌てて迷宮の奥へと駆け出すノワの後をついて行く。
当初は自由奔放で勝手気ままなメンバー達に振り回される度に憤ったり辟易とさせられたものだったが、流石に二週間も一緒に暮らせばもう慣れたものだった。
・・・今思えば、「好事魔多し」と言うように、〝慣れ〟こそがデスゲームにおける一番危険な魔物、だったのだろう───。




