2.攻略組面接試験
「じゃあ、君たちのゲームの実績とか教えてくれるかな?」
次の日、俺は〝攻略組〟の立ち上げ会場である広場にて、入団面接を受けていた。
どうやらテンペとビーター達を中心にして既に〝攻略組〟の中核のメンバーは決まっているようであり、俺たちは面接を受けて一軍と二軍に分けられるそうだ。
ビーターから説明されたこのゲームのギルドのシステムは
1.ギルドのメンバーになる事によって一括メールが送れる事と
2.ギルドメンバーなら名簿にて生死を確認出来る事
3.死んだ時に所持品以外の財産の所有権がギルドに譲渡される事
4.上位のギルドに所属する事によって免税や割引などの特権を受けられる事
と言った様々なメリットがあるらしい。
故にソロプレイは推奨されないものだが、しかしギルドは定員があり、その数は初期で50、ギルドレベルを上げる事で上限は増えるものの、とても全プレイヤーを収容できるものでは無かった。
故にこうして、面接でプレイヤーを厳選し、一軍と二軍に分けるという話だった。
その理屈には一応納得出来るのだが。
「え、えっと、自分は一応、が、ガンダムのゲームで、地区予選決勝まで行った事があって、あ、あと、一応月間ランク30位以内にも入った事があって、あ、あと・・・」
「君は二軍ね、悪いけど、ガンダムのゲームとか、俺ら誰も知らないから」
「自分、エペはプレデター、ヴァロはレディアン、一応友達とPUBGやCODで何度か全国大会出た事もあります」
「君は一軍だ、これからよろしく」
「オレ、音ゲーで全国大会行った事があるで、大学でも音ゲーサークル入って音ゲーに打ち込んでたし、ダンエボで背面Daisuke完璧に踊れるで!!」
「おっけ、二軍ね」
「俺はゲームとかはスマブラとかしかやった事無いんすけど、高校時代は一応野球の名門校でエースで4番やってて、甲子園にも行って、そんで大学で肩壊して彼女とスマブラするようになったんすけど、オンラインでもスマブラで負けた事は1度も無いっす、レートも2000くらいはあって、あ、名前は『マモ』でやってました、俺、本名が山本なんで」
「いいね君、一軍」
このように、面接は善人か悪人かなどは一切考慮せずに、純粋なゲームの実績だけで判断されていた。
まぁそりゃ善人エピソードなんて嘘でいくらでも偽装出来る訳だし、善人を炙り出すのが無理なら実力者から選抜するのは当然の話ではあるが、しかし、善人は善人を優先して保護しなくては淘汰されてしまうのに、善人を厳選をしなくていいのかは疑問だった。
〝攻略組〟ギルドに加入しようとする者はおよそ2000人くらいだろうか、昨日と同じ広場に集合している訳だが、昨日ほどの窒息した人口密度は無かった。
善人側からすれば自分を保護すると公言している〝攻略組〟にこぞって加入したがるものだと思ったが、まぁ、これがゲームである以上、知り合いや仲間内でギルドを組む連中も一定数いるだろうし、完全に善人を集め切るのは無理な話か。
そんな風に周囲を観察していたら、俺の順番が来た。
ここまで観察した感じ、自分の素性を正直に話すと一軍になるのはかなり微妙だが、しかし、嘘をついてまで一軍になってデスゲームの先陣を切りたいかと言われてもそれもまた微妙なので、俺は当たり障りの無い範囲で答えた。
「俺はMMOとかネトゲとかプレイするのはこれが初めてで、ゲームはスマブラとかは友達とやったりしますけど、特別やり込んだとか強いとかは無いっす、あ、でも一応、友達と一緒に荒野とかエペみたいなバトロワで接待してドン勝させるのはまぁまぁ得意です、流石にプレデターチームに勝った事は無いんすけど、マスター帯ならそこそこやれます」
「ふーん、もしかして君、高校生?」
「え、あ、はい、まぁ一応、高校生っすけど」
ネトゲは年功序列とかあまり気にしないと前情報を得ていたので、ここで年齢を追及された事に面食らうが、なにか俺の解答に不手際でもあったのだろうか?。
「あ、年齢聞くのは普通はタブーなんだけどね、ただ、さっきの子もこのゲームが初MMOで高校生だって言ってたから、だから未成年がデスゲームにどんくらいの割合いるのか、個人的に興味があったってだけ、それに、未成年を前線に送り込む訳にはいかないしね、一応聞くけど、三軍でもいいかな?」
「三軍、ですか・・・?」
未成年だから戦力外という事だろうが、何をやらされるのだろうか?。
「このゲーム、鍛治師とか商人とか、非戦闘職も選べるようになってるんだよね、ある意味勝ち組職だよ、だって戦わずに報酬を得られて、クリアに貢献出来るんだから、自力でレベルを上げられない非戦闘員でギルドの育成枠なんて、普通は競争になる枠なんだけど、団長の方針で非戦闘員は未成年の子を優先して取るように言われてるんだ、君MMO初めてなんでしょ?、だったら初見殺しだらけの前線なんて行ったら直ぐ死んじゃうし、職人になる事をオススメしてるんだけど」
職人か、・・・VRMMOはセカンドライフ的な側面も持つので、そういう政治とか経済とか、戦闘以外で効力を発揮する職業も往々にして重要な職業として設定されるものではあるが、だが正直、鍛治とか裁縫とか料理みたいな仕事、わざわざゲームの中でやりたい奴は変人だけだろう。
無論デスゲームの中で保護してもらえるという条件付きならば、魅力的な提案に見えない訳でも無いが、だが、それがどれだけの効力があるのかも分からないし、そして、スキルツリーやステ振りなど、そういう取り返しの付かない要素で不利になる可能性も大きい。
何より、レベルの上昇条件が限定的である以上、一生レベルを上げられないまま飼い殺しにされる可能性だって高い、普通、こういう育成枠とは、先行者利益などで上位を維持できるだけの余剰資産があって初めて成立するもの、だと思う。
故に、最初から育成枠設けるというのは、仮に未成年の保護という名目だとしても、胡散臭い話だと思った。
俺は、MMOの経験こそ無いが、王道RPGやソシャゲ、育成ゲームなどの知識はあったので、客観的にこの話には裏があると判断したのである。
なので。
「・・・・・・ありがたい提案ですけど、俺、自分の手でこのゲームを終わらせたいって、そう思ってるんで、後方で引き篭ってるのは性にあわないというか、なので、断らせて貰います」
そう言って俺は頭を下げて踵を返した。
二軍に入るというのも隔離されたメンツのしょぼさから、まともにコミュニケーションを取れる気がしなくて嫌だったからだ。
それに、このゲームには1万人のプレイヤーがいて、初期のギルドの最大人数は50人だ、仲間内でやっているギルドだって、パーティーを組む上で人手を探している所あるだろう、わざわざ〝攻略組〟に拘る必要も無いと思ったのである。
あらゆるソシャゲにおいての稼働開始初期の上位に君臨するのは、身内の廃人で固めたゲーマーサークルやギルドだ、結局、初期の初期においては、人数に裏打ちされた政治力は役に立たず、プレイ時間と課金と団結力が絶対正義になるという話である。
だからスタートダッシュを決めるという視点ならば、そういうギルドを探す方が得だろう。
という事で俺は広場を離れ、街の中を探索する事にしたのであった。