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28.裏切りの殺人鬼

「目が覚めましたか、キリヲさん」


 モモは俺の看病をしてくれていたようであり、目が覚めた俺の視界には見慣れたデフォルトアバターの顔がこちらに微笑みかけていた。

 そしてノワとレインの姿も後方に見えた、三人して気絶した俺を保護してくれたらしい。


「うっ・・・ここは」


「王国の貴賓室です、決闘に勝ったキリヲさんは国賓として王女様に保護されて、それで国王は復活し騎士は追放されて、城内の封鎖も解除されました」


「え・・・て事はもうデスゲームは開始したのか?」


「いえ、アナウンスが無いのでそれは分かりませんけど、代わりに、全プレイヤーに対して〝新聞〟が配られました」


 そう言ってモモが手渡したのは黄泉売(よみうり)虫日(ちゅうにち)朝陽(あさひ)、と言った大手の発行する新聞だった。


 そしてそこには、〝DDO集団昏睡事件〟についてのあらましが書いてあった。


 曰く


 1.初回限定盤DDOの不具合により、プレイヤーの意識が昏睡状態にある事。

 2.無理矢理に接続を剥がすと、脳が深刻なダメージを受けて障害を負う事になるので、安全な解決方法が見つかるまで、DDOの開発のゲーニックの株主である巨大資本グループが経営する医療機関に、被害者は一斉に収容された事。

 3.既に幾人かの犠牲者が、言語障害、記憶障害と引き換えに現実に帰還している事。

 4.捜査をしていく中でDDOのプレイヤーは前科者、ニート、無職が多数であり、最初からリスクを承知で販売したのでは無いかと批判を浴びている事。

 5.アイドルや政治家の子供など、影響力のある人間も巻き込まれて、現在裁判中である事。


 など、到底フェイクとは思えない作り込みで、新聞は現実におけるDDOの影響がどんなものかを教えてくれた。


「・・・って事は、命は取られないにしても、言語障害、記憶障害のペナルティのデスゲームって事には変わりないって事か」


 それなら死んでもまだマシと思うかもしれないが、仮に30代の独身弁護士が、言語障害と記憶障害でこれまでに苦労して培った能力の全てを失って、人脈も青春も失って現実に帰還した所で、それは現実に於ける社会的な死と置き換えても変わらないだろう。


 つまり死者は出ないというだけで紛うことなきデスゲームとして成立していた。


 俺は新聞を読んだ後に、他に人がいないのを確認してからみんなに告げた。


「──────────俺たちのパーティーは、ここで解散する、理由は、俺には、このゲームを生き残る以外にやらなくちゃいけない事が出来たからだ」


 俺がそう言うと、予想していたのか三人ともそこまで驚いたような反応はしなかった。

 しかし予想していたからか、三人とも引き留める気満々のようだ。


「いつか言うと思ってましたけど、思ったより早かったですね、でもキリヲさん、ここを抜けたとして、誰とパーティー組むんですか、キリヲさんみたいにそこそこ優秀で面倒見もいいけど、口が悪くて性格も悪くていつも文句ばかり言ってる陰険(いんけん)偏屈(へんくつ)性悪男(しょうわるおとこ)、拾ってくれるギルドとかあるんですかね」


「・・・それは、あのギャン中とか、死んでもいい奴らを適当に集めて、最悪、悪人と組めば、パーティー作るくらいは・・・」


「無理、・・・団長は人でなしだから、四人も集めるなんて奇跡でも起こらないと無理、だから、今ある奇跡を大事にするべき、だ」


「・・・・・・」


 人でなし、その言葉は事実であるが故に俺の心を深く抉ったが、だからこそ俺は、こいつらと一緒にいられない。


「まぁ、キリリンが何に悩んで何を思いつめているのかは分からないけれど、どう考えてもボクらと組んでいる方が安全でしょ、少数精鋭で団結心も上々、決闘の勝利によって名声まで手に入れた、今更このパーティーを解散させるメリットなんて、普通は無いよね、だから──────────理由があるなら、ちゃんと話してみなよ、そうじゃないと、不誠実だろう」


 レインはまるでこちらの事情などお見通しと言わんばかりにそう言うが、だが俺はそれを言うのが怖かった。


 自分が人殺しである事、自分の一番弱くて醜い部分をさらけ出すのが怖かったし。

 そしてここまで付いてきてくれたお人好しのこいつらなら、それを受けとめて俺と一緒に茨の道を進み、アリサに無様に弄ばれて殺される結末すらも受け入れてしまうかもしれない。


 それは俺にとってバッドエンドだし、俺は俺の〝弱点〟を作る訳にはいかない、だから別れるしかないと思っているのだから。


 言い(よど)んでいる俺に、モモが優しく告げた。


「キリヲさん、キリヲさんは私たちがキリヲさんに大きな期待とか信頼とか寄せてるとか勘違いしてるかもしれませんが、意外とそんな事無いので、だから、別れるにしてもちゃんと納得出来る理由を話して欲しいだけなので、どうか話してくれませんか、このまま別れたらきっと、お互いにとって未練になって、それでずっとギクシャクした関係のまま、死ぬ間際に泣いて今日の事を詫びる事になるかもしれませんよ」


「・・・・・確かに」


「大丈夫、わっ、オレもっ・・・、団長はキリト様と名前が似てるけど、キリト様と同一視した事は一度も無いから、ちゃんとありのままの団長だけを見てるから、だから幻滅とかしないし、安心してくれていい、よ・・・」


 三人とも、どうやら別れの心の準備は出来ているようだ、ならば話しても問題ないかと、俺は自分の生涯についてを、初恋のお姉さんから、DDOの入手経路からさっき見た夢の内容まで含めて洗いざらい告白したのであった。


 それを聞いた三人の反応は。




「え・・・、なんか、すごく、物語の主人公みたいです」


「生き別れの妹とゲームの中で再会する、王道だけど熱い展開だね」


「・・・そっか、団長は、やっぱり・・・なんだ…」


 流石に俺もフィクションみたいな設定をすんなり受け入れられるとは思わなかったので、羨望(せんぼう)の眼差しを向けられるのはむず痒かったが、これで(みそぎ)を済まして肩の荷が下りた気分だった。


「これで分かったろ、俺と仲良くしたらアリサに命を狙われて、俺を絶望させる為のエサにされるかもしれない、だから俺はっ、悪人以外と組んじゃいけないゴミ人間だったんだよ!!」


 俺はそう言って部屋を立ち去ろうとする、しかしそれを三人に抱きつかれて阻止された。


「おい、話聞いただろう、俺は悪人なんだ、だからお前らとは一緒にはいられないんだよ!!」


「まぁ待ちたまえ、今のはキリリンのターン、次はボクらのターンだ、キリリンの話を聞いたんだし、今度はボクらの話を聞く義務が、キリリンにはあるんじゃないのかい」


「話って、仮にお前らが俺と一緒に心中しても構わないって言っても俺が嫌なんだよ、お前らと一緒にいる事で、お前らが弱点になって、俺が弱くなるのが嫌だ、だから俺は、お前らと一緒にいたくないんだよ!!」


 拘束されて駄々をこねる俺にモモが言った。


「キリヲさん、聞いてください、私、私は、本当はいい子なんかじゃ無いんです、いつもいつも、私は他の人から愛情を〝貰う〟だけの人間で、貰ったものを返さないで、それをずっと当たり前と思っているような、そんな人間だったんです、補欠合格の時も人から譲って貰って、服もおもちゃも友達もなんでも、このゲームだって友達と約束したって理由で、お姉ちゃんから無理矢理借りて、悪い事だって分かってたのに、だから私このゲームに閉じ込められた時天罰が下ったんだなって思って、それで、今度は善人になろうって演じてただけなんです!!」


「・・・え、いや、でも、そういうクソガキって結構いるし、別にそこまで悪い事でも無いような…」


 モモは無知で無邪気で、純真無垢(じゅんしんむく)であるが故に無自覚に人を傷つける、それは別に意外性の無い話だと思ったが。


「それに、私、私本当は、キリヲさんの言ってる事、全部正しいって、誰よりも客観的で公平な意見だって、分かってて、分かってキリヲさんに逆らってました、キリヲさんの優しさに甘えて、面倒な事や辛い事は全部、キリヲさんがやってくれたらいいなって、キリヲさんの優しさにずっと甘えてました、だから私、本当はとても悪い子なんです!!」


「まじかよオイ・・・」


 その告白は、俺が今まで感じていたモモに対する評価をひっくり返すようなものであり、人間不信のトラウマをほじくり返すような、モモの裏表だった。

 いや、レインはモモが〝優秀〟だときちんと評価していた訳だし、補欠合格とは言え名門校だし、モモをバカで世間知らずな善人だと思っていたのは、完全に俺の主観の話なのだが。


 でも、だからこそモモが悪人で裏切られていたというのは、この期に及んでも信じられないような話なのである。


 それだけモモの存在は俺にとって、雑に扱ってるように見えて密かに心を寄せていたという事なのだから。


 そんな鳩が豆鉄砲くらったように口を開ける俺に、今度はノワが話しかけた。


「団長、実はオレ、・・・わたしも、団長に言わないといけない事が・・・」


「お前がキリトガチ恋夢女子って事か?、だったら言わなくていいぞ、もう分かってるから」


 そんなの、見てれば分かるってくらい態度でバレバレだったわけだが。


「ち、ちが、オレ、・・・っ私は、キリト様を愛してるとかじゃなくて、尊敬してるだけだから」


「は?、じゃあプレイヤーネームも『キリト様尊敬』とかにしとけよ、紛らわしいな、じゃあなんだよ!!」


「じ、実は、わた、しは・・・、マリヲさんの事、知ってる、ます」


「──────────え?、じゃあリアルの知り合いって事か?、ひょっとしてクラスメートだったりするのかよ!?、つーかさっきの説明でも本名は隠したのに、いきなり俺の本名ぶっぱしてんじゃねーよマナー違反だろ、お前どこ中だよ」


「えと・・・市立光馬中学校、ですけど」


「・・・地元だが、俺のとは別だな、じゃあ高校、いや、小学校の同級生、なのか・・・?」


「はい、昔、リサちゃんと、一緒に、遊んでて、それで・・・」


「アリサと・・・?」


 アリサに友達はいない、同級生の事をゴミ人間と蔑んでいたクズのアリサに、まともな友達なんている訳無いし、そしてアリサは性格が悪くて人付き合いも下手だったので、悪目立ちして嫌われてむしろいじめられていた側だったのだ、だからそんなアリサに、友達がいたとはにわかには信じられない話だ。


 それは妹にべったりにされていた兄だったから確信を持って言える話だし、そんなアリサに友達がいたなんて、全くもって信じられない話だった。


 疑いの目を向ける俺にノワは、たどたどしく語ってくれた。


「・・・私、小学校では、いじめられてて、学校に行くのも嫌だったんだけど、リサちゃんだけが、体育の時とペア組んでくれて、いじめから守ってくれて、だから、私、もしも、リサちゃんにもう一度会えるなら、会ってお話が、したいです、だって、助けてもらったから」


「・・・そんな事、アリサからは一度も聞いた事ないが、でもあいつ、同級生の事はゴミ人間としか言わなかったし、学校の事は話さなかったからな、知らなくても仕方ない、か・・・お前の事情は分かった、でも、あいつは、アリサは、人間のクズで生き物に対してなんの愛情も持たない化け物だからな、会話しても無駄だと、俺は思うぞ」


「そんな事、無い、です、だって、アリサちゃんは、お兄さんの、事が大好きで、いつも自慢してて、だから、それに、アリサちゃんが暴力を振るったのも、いじめられてた私を守る為で、私を庇ってくれて、罪を一人で全部被ってくれて、だから、私はアリサちゃんに、もしもう一度会えるなら、会って、お礼を言わないといけないんですっ・・・」


「な、あいつが・・・?」


 それは青天の霹靂(へきれき)だ。


 愛を知らない悲しきモンスターだと思っていたアリサが、実は心優しい普通の女の子だったと言われたくらいに、俺の中の常識を覆すような話だ。


 ノワの話が作り話で、ノワの存在自体がアリサの作り出した幻だと言われた方が納得出来るくらい、その話は俺の人生観を裏切るような話だった。


 俺は本日2度目の無様な放心姿を晒すと、そこにレインが満を持してと言わんばかりに語りかけた。


「さて、最後はボクの番だね、とは言っても、ボクは二人みたいに驚きの新事実とかある訳でもないし、それに、キリリンだって仮にボクらにどんな事情があったとしても、それでパーティーを続けようとは思わないでしょ」


「まぁな・・・」


 正直一番ミステリアスな存在であるレインは、モモとノワを遥かに超越した突拍子も無い事実が飛び出す事が予想されたが、仮にレインがどんな秘密を抱えていたとしてもそれで俺が心変わりする事はありえない。


「じゃあ〝決闘〟で決めるしかないよね、ルールは簡単、負けたらパーティーを続ける、勝ったらパーティーは解散、それでいいよね?」


 レインは俺の性格などお見通しと言わんばかりにそう提案する。

 それで俺もどれだけ議論しても無駄だと悟ったので、その決闘を受け入れた。


「・・・分かった」


 勝算がある訳では無い、だが、こうする以外の要求を押し通す方法を見つけられなかっただけだ。


 俺とレインは王女に頼んで王城の広間を使わせてもらい、そこでの決闘で白黒つけさせて貰う事にした。



「さて、ボクにとってはこれがリベンジマッチだ、とは言え、キリリンの手の内なんて殆ど読めてるからね、負ける気はしないよ」


 観客はモモとノワの二人だけ、完全に隔離(かくり)された空間に俺たちは向かい合った。


 レインは舐めプする気は無いのか、木剣を使った前回とは違い、最初から自分の得意武器であるナイフを構えた。

 それに応えて俺も聖剣を抜刀する。

 他の高レベル装備とは違い聖剣は使用者のステータスに応じて強さが変わる武器である為に、ドーピング無しでも装備する事が出来た。

 このアドバンテージだけでも少しの勝機にはなるだろうか。


 俺は微かな緊張感とチクリとした罪悪感を感じながら答えた。


「・・・ああ、俺も勝てる気はそんなしないな、今でも疑問だったんだ、俺ですら耐えられたキンダムの一撃、悲鳴すら上げなかったお前が、あれくらいで本当に行動不能になったのか、ってな」


「ま、せっかくキリリンがトリを飾る舞台が整ってたんだから、その活躍の場を奪うのは鉄砲玉の役割じゃないからね、団長の顔を立てたんだよ、だから最後のキリリンの大立ち回り、ボクは感動したよ」


「そうかい、おかげで俺は死ぬような目にあった訳だし、今後もこんな展開が続くならやってられないが、ま、今回は結果オーライだから許してやるよ、それでレイン、一つ質問なんだが」


「なんだい、言っとくけどボクは、リアルのガードは硬いよ、そこらへんの情報はちゃんとボクを攻略してから引き出して貰わないと」


 真剣な剣幕で尋ねる俺にレインは茶化すようにおどけて見せるが、俺は構わずに尋ねた。


「殺人鬼の懸賞金が取り下げられた今だから言うが、ドピュッシーを殺したの、お前だろ」


「・・・ま、それはエリーゼの証言を聞いてるキリリンならば、当然辿り着く答えだよね、エリーゼの証言によれば犯人は中性的な女で瞳の色は赤か黄色、他のプレイヤーにはボクは男の子に見える事が多いみたいだけど、ルビーの瞳をした女の子なんて、かなり特定される情報だからね」


「それに、あのアジトだって埃っぽいが、放置された無人の家という雰囲気では無かった、あの家の住人も、お前が─────」


「おいおい、ここで罪状の審理でもしようというのかい、今するべきは決闘だろ、そんなつまらない話は、勝負の後にでもすればいい」


「いや、大事な事だ、お前は効率的にNPCを狩る為に俺たちに近づいた、俺たちという存在を隠れ蓑にして効率的に殺人を行うために、最初から()()()()()()にたどり着く為にプレイしていたんだ、ま、お前からはサイコ感をひしひしと感じていた訳だし、ドピュッシーの殺害ついては意外性とかは無いんだがな」


 バスター撃破から殺人鬼探し、そして騎士団との決闘までの流れは全て、俺が自発的にやったというよりはレインに誘導されていた訳だし。

 おそらく、俺がギャン中から100万勝ち取る幸運に恵まれていなければ、レインから100万を用立てて貰う事になったのだろう。

 つまりレインは最初から先の展開を見越して、ドビュッシーを殺害したりノワを味方に引き入れたりしていたという訳である。

 レインという人間の解像度が上がった今ならば、ここまでの事象は偶然ではなく必然だったのだと、そう確信を持てるという事だ。


「そう、ふふ、君ならそういうと思ってたよ、キリリンは無能で愚昧だけど、合理性と分析力だけは高い人間性だからね、だからボクの事も〝理解〟するだろうと思ってたよ、それで、そんなボクを、君はどうしようっていうんだい」


「ああ、お前の危険性は最初から理解して、容量用法を守って運用しているつもりだ、でも、一個だけ理解出来ない事があるんだ、モモは、善人である事を利用して、疑われないようにする隠れ(みの)として必要なんだろう、ノワは、自分と同程度の戦力として、ケンカを防ぐ為の番犬として必要だろう、だが俺は?、無能で愚昧な俺はいったいお前になんの得があってお前みたいなサイコ野郎に必要とされたんだ?、教えてくれないか───────?」


「ああ、それなら───────ボクに勝ったら教えてあげるよ」


 そう言ってレインはナイフを持って切りかかる。


 受け型のレインにしては珍しい積極策だが、俺も油断はせずに冷静に対処した。


 俺の聖剣とレインのナイフが切り結ばれて鍔迫(つばぜ)り合う。


 ガキン


「俺に利用価値なんてあるのか、お前みたいなサイコで他人をゴミだと思ってるようなサイコパスが、一体俺にどんな価値を見出して、仲間に引き入れようって言うんだ!!」


「無粋だよ、乙女の心内(こころうち)(つまび)らかにして白日の下に(さら)そうなんて、そういうのは、乙女の秘密として密やかに隠しておくのが華だろう!!」


「悪いな、俺の物語のメインヒロインはもう埋まってるんだ、だから、俺が俺の物語を始める為に、俺はお前を理解しなきゃいけないんだよ!!」


「だったら君はボクを必要としているって事になるね、いいのかい、ボクを倒したら、ボクを理解出来なくなるよ」


「ああ、そうだな、俺は、足りてなかったんだ、(あいつ)を理解する為に、正しさも、力も、知識も、愛も────悪も、でも、それを知る対象がお前らである必要は無いんだ、この世界にはまだ一万人の人間がいる訳だからな、だから、お前にこだわる気はねぇよ!!」


「全く、妬けちゃうね、そんなに知りたい事が沢山あるなんて、無知な愚者は傲慢で強欲だ、きっとそこまでの強欲なハーレム願望持ってる君は、この世界で一番の愚者なんだろう、でもね、ボクは、愚かで無能で欲張りな、そんな知りたがりな君の事が




 ──────────好きだ」




「────────────────────っ」





 ──────────それが、レインの答えだった。


 何故その答えに至ったのかは分からない。

 どんな過程でその答えを描いたのかは分からない。

 だが、レインが何を思って俺を求めているのかは、その()()だけで、はっきりと示されたのだ。



「・・・君はボクのメインディッシュだ、だから必ずボクが殺す、他の誰にも奪わせやしないよ、いいね、ボクの王子様」


 息も溶け合う至近距離、視線が交わる一瞬のこと、レインは密かに、そう(ささや)いた。


 それは俺にとっては、忘がたい永遠で、ときめくような、運命だった。


 ──────────決着。


「これでボクの勝ちだね、これからもよろしく」


 そう言って微笑むレインの顔は、いつもの見下したような視線の癖に、どこかはにかんだように、照れていたように感じられて、とても、可愛らしかった。


「・・・ああ、俺の、俺の・・・、負けだ、降参、する」


 だから俺は、理屈とか打算とか、サイコとか地雷とかそういう諸々を全部引っぺがして何もかもレインに、心ごと、()()()()しまったのである。


 殺人鬼で、サイコで、冷徹(れいてつ)で、合理性しかなくて、その上で強くて、賢くて、それなのに俺に執着してて、こちらの汚い事情の全てを見通してくる悪魔のような女。


 俺の知らない未知と未来を見通す、運命を操る悪魔のような女の子だ。


 それはこの世界の秩序という法則を破壊する為の、不確定性の果てに存在する混沌であり、それでいて絶対的で残酷なまでに平等な死という破滅の概念の象徴だ。


 レインは最初から理解や共感の通用しない、いつか俺に破滅をもたらす───────裏切りの殺人鬼(しにがみ)になるだろう。


 しかしそれはアリサの幻影を求める俺にとって、果てしない絶望に突き進む俺にとって、レインの存在はこれ以上なく得がたい存在だと、間違いなく必要な存在だと思わせるに足る、運命的に必要な要素だったから。

 元々惹かれない理由が無いし、引かれる引力しか無かったという、そういう話、なのである。


 だから俺は、レインに俺の内面の全てを見通されていたと知りつつも、レインの思惑通りになる事を甘んじて、納得して受け入れたのである。

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