27.hack//down hole Ⅰ
「おーい、起きて、お兄ちゃん、・・・起きろ!!」
ボコッ
「うっ・・・お前は──────────アリサ…」
「久しぶりだね、お兄ちゃん」
俺は夢のような庭園の中にいた。
そこは幻想的な美しい花と、幻想的で荘厳な城に囲まれた、どこか郷愁で退廃的で、そしてきらびやかでどこまでも幻想的な、中世ファンタジーの王道を具現化したようなおとぎ話の箱庭だった。
俺は混乱しつつ、アリサに答えた。
「これは夢なのか、それとも現実なのか」
それにアリサは不機嫌な顔をした、それは「言わなくても分かるでしょ」と言うアリサの不親切な答えであり、俺はここがどこなのかをその態度で察した。
「・・・やっぱり、お前だったんだな、転売価格が100万を超える高級ハードであるVRデバイスの『vrender』と限定生産品であるDDOの初回版を送り付けてきたのは、もしかして、このデスゲームもお前が仕組んだものなのか?」
DDOの参加費用は少なく見積っても30万はかかる高級品だった。
故にプレイヤーは金とコネを持ってるプロゲーマーやインフルエンサー、20~30代のコアゲーマーがメインだった訳であり、本来なら俺が手に入れられるような代物では無かったのだ。
DDOはコアなゲーマーが倍率100倍を超える抽選販売によって勝ち取る普通では手に入れられないような超希少品だ。
そんなものを一般高校生で、ゲーマーでもない俺が手に入れる道理は無いし、だから俺は、コアゲーマーで廃人のキリトとは違うのだ。
アリサは俺の質問には答える気は無いようで一方的に語りかけて来た。
「ねぇ、お兄ちゃん、これからお兄ちゃんはこの世界で幾度となく死んでもらう事になる訳だけど、どんな死に方なら一番絶望してくれるかな、お兄ちゃんは私の事殺したんだから、私に殺されるべきだよね、だから私は、私を殺したお兄ちゃんに、私の痛みを知って、私と同じ苦しみを知って貰いたいんだけど、お兄ちゃんは、私に殺されるまで、私の所まで辿り着いてくれるかな」
まるで挑戦状のような挑発だ。
どうやらアリサの目的は、自分を殺した俺に対する復讐らしい。
なんで殺したはずのアリサが生きてるのかって話だが、アリサは天才だったから、脳水槽にされてたり、超高額な蘇生医療を受けたり、そんな可能性だって有り得る話だろう、多分。
だから生きてる事に対してはそこまで不思議を感じていない、そもそもアリサとの別れは俺にとって封印された記憶であり、鮮明に覚えている訳では無いからだ。
「・・・つまり、「デスゲームの中で俺だけが死なない件」ってか?、そんで化け物扱いされて俺は、他のプレイヤーから目の敵にされて追放とかか?、やめとけやめとけ、そんなありきたりな展開で絶望するほど、お前を殺してからの4年間の俺の絶望は軽くない、俺はずっと、人間不信と愛情の飢えを感じたまま、この世に絶望して生きたんだからな、今更誰に裏切られて誰に殺されたとしても、俺が絶望する事は無いし、俺を絶望させたいなら、この世界の中に閉じ込めて拷問するのがいいんじゃないか」
「もちろん、それもシナリオには組み込んでるよ、でも、それだけじゃあつまらないでしょ、お兄ちゃんは沢山経験して、喜びや幸せも経験して、その果てに絶望して、私と一緒に死んでくれるのが、私とってのハッピーエンドなんだから、だから、お兄ちゃん、待ってるよ」
「ちっ、今どき兄妹無理心中流行らせようとか狂ってるな、・・・まぁいい、お前が俺を絶望させたいなら、俺はそれ以上の希望を手に入れて、今度はお前をこっち側に引き寄せるだけだ、今度は俺は、お前を独りにさせないし、突き放したりもしない、何度でも何度でも、お前が屈するまでお前を屈服させてやる、それが俺のハッピーエンドだからな」
俺は既にハッピーエンドのフラグを立てていた、だからここでアリサを見捨てる理由は無かったのだ。
そう、それが、アリサを殺してしまった俺に出来る、唯一の贖罪にして救いなのだから。
「くすくす、じゃあゲーム成立だね、お兄ちゃんが絶望するか否か、楽しみだよ」
パチン
アリサが指を鳴らすと、俺は浮遊感に包まれて次元を超越し、そこから元の座標に戻されたのであった。




