24.騎士団対決3番勝負
「これより勇者対王国騎士の、この国の命運を賭けた決闘を執り行う、審判は王国最高神官である私が努めさせてもらう、ではルールを説明する」
例によって神官の説明は端折るが、その内容はこう。
1.両者は3名を選出し、勝ち残り戦によって行う事。
2.決闘の勝敗は、相手を降参、または行動不能にする事。
3.勇者側が勝てば、騎士側は勇者側の要求を呑み、同時に王国から追放される事。
4.騎士側が勝てば、逆に勇者側が騎士側の要求を呑み、国王殺害の罪を被って決闘に参加した3名を王国から追放する事。
というものだった。
勝てば官軍負ければ賊軍という、非常にシンプルで分かりやすいルールだろう。
そしてそれは修練場ではなく、見世物目的の施設である王国の闘技場にて大々的に行われる事になった為に、観客席には多くのプレイヤー達で埋め尽くされており、俺たちは大きな注目を受けていたのである。
「そういえばだけどキリリン、こんだけ注目浴びてるなら、そろそろギルドの開設と名前も考えるべきじゃないかな、じゃないとボクらも不便でしょ」
「それはそうだが・・・、俺ネーミングセンスある訳でもないしなぁ、適当に『闇夜の白猫団』とか、『夜明けの鶏たち』とかでもいいかな?」
「わたっ・・・、オレは・・・『漆黒の深淵』とか『無月の門』とかがいいと思う」
「いや、そんな厨二ネームがかっこいいのはアニメや漫画の中だけだから、普通にそんな厨二くさい名前してたら笑われるから、俺、「ダークwwwシャドウwwwwさん、よろっすwwwww」ってDQNに煽られるの耐えられないから」
ノワは名前からして黒い物と厨二くさいものが大好きな趣味らしいが、そういうのは俺はもう卒業した (多分)から、今さら乗っかれる程羞恥心はバグってないので付き合えないのである。
「まぁ厨二丸出しのギルド名は流石にだけど、弱そうな名前でも舐められるし、強そう名前はつけたいよね、『アウトレイジ』とか『飛翔白麗』とか」
レインもレインで微妙にオタクくさいというか、ノワとは別方向に厨二くさいネーミングだが、確かに言ってる事には一理あった。
強そうという観点は確かに大事だし、怒腐露津苦みたいな当て字や卍みたいなヤンキー路線は流石に嫌だけど、〇〇団や〇〇ーズみたいな王道ネームはハズレが無くてかっこいいしな。
「そうだな・・・、よしモモ!、決闘が終わるまでに、なんか強そうな名前考えとけ!!、ヒントはズで終わるなんかかっこいいカタカナ語だ」
「えっ!?、私がやるんですか!?、普通こういうのってリーダーがいい感じに話をまとめる雰囲気で、お話の最後らへんに「じゃあ俺たちは・・・」みたいな感じで、ピッタリな名前を考えるものなんじゃないんですか!?」
「・・・うっせぇな、俺たちはこれからする決闘の事で頭がいっぱいなんだよ!!、今だって緊張してるの紛らわそうと必死に明るく振舞ってんの!、だからドンドン情熱ド初心者で、お散歩感覚でデスゲーム世界をお散歩してるお気楽能天気のお前が一番適任なんだよ!!、お前が俺たちに貢献出来る最初で最後のチャンスだぞ、是非とも強そうでかっこよくて舐められない感じでお話の締めに相応しい俺たちにピッタリの名前を考えてくれ!!」
最低の丸投げである。
だが、決闘を控えている身分で、余所事に思考を割く余裕は無かったのだ。
つまりこれは働きアリの法則であり、怠け者には怠け者に相応しい仕事を与えるという、適材適所の采配という訳だ。
「・・・っ勝手に仲間外れにしたくせに!!、じゃあどんな名前になっても、知りませんからね!!」
モモは不満そうだったが、こいつのエンジョイ気質はデスゲームが開始する前に矯正しておきたいので、今回だけは俺もちょっと厳しい態度を取らせてもらった。
「心配するな、変な名前なら当然却下するし、決闘が終われば俺も考えるからさ」
そんなやり取りを挟みつつ、俺たちは決闘へと臨んだのである。
「ボス、あいつらって確か」
「ああ、どうやら主人公の座を射止めたのはあの兄ちゃん達みたいだな、未成年らしいけど、たった4人でここまで来るとは大したもんだぜ」
「でもデスゲームでこんな注目を浴びる舞台に立つなんて、やっぱバカなんすかねぇ」
「ま、若さゆえの無鉄砲って奴だなガハハ、デスゲームならああいう命知らずがいねぇと攻略だって進まねぇし、これであいつらが勝ったら、そのご褒美として味方になってやろうぜ」
「確かに、嫌われ者のビーターと、デスゲーム界の主人公、連合軍に対抗する為に共闘する味方としては不足ないすけど、勝てますかね?」
「ま、どちらにしてもガキだけでこの舞台を整えただけでも称賛に値するって話だろ、俺たちの大多数は、その日の日銭を稼ぐだけで精一杯だった訳だし、ビーター以外でちゃんとストーリー攻略を成し遂げたっていうのは、それだけですげぇよ」
『J0̸KERS』の長、モロエはビール片手に観客席から舞台を見下ろしていた。
彼が最も関心を向けていたのはかつて戦った強敵だったが、その男は騎士団の後方に控えてなりを潜め、不気味な程に大人しい様子だった。
それを見てモロエはこの戦いに自分が手助け出来る事は何も無いと、そう考えていたのである。
「それでは先鋒、前へ」
神官の合図で闘技場の上に両軍の先鋒が登場する、と、思われたその時。
「待った!!!」
そこで待ったを唱えた人物がいた。
観客を含め、この決闘という神聖な真剣勝負の場に、水を刺すような不心得者がいた事に、皆が寝耳に水を受けたような反応だが、ざわめく空気を一掃するように、男は声を上げた。
「俺は『愛と平和の連合軍』2番隊副隊長、カントンだ、この勝負に、意義を申し立てる!!、我々連合軍はこの勝負を認知せず、故に、この勝負を認める訳にはいかないっ!!!」
と、どうやらその男はこの期に及んで俺たちの抜け駆けに気付いたようであり、この土壇場でそのように異議を唱えるが。
それに対して審判である神官が、淡々とカントンの退出を促した。
「こちらにいる【勇者】様は、宰相、騎士団長、そして王女様に認められて【勇者】の代表としてここに立っておられるお方、よって他の誰にも、かの勇者様を否定する権利などありませぬ故、どうかお引き取りを」
相手も一応勇者の身分だからか、不心得な闖入者であるカントンにもかなり丁寧な対応だが、しかしカントンは相手をNPCだと侮ってか、素直に引き下がる事はしなかった。
「おいお前!!」
カントンは怒りを露わにして俺を指さした。
面倒なので俺はとぼけた態度で答える。
「ええと・・・、誰だっけ?」
「連合軍2番隊副隊長のカントンだ、さっき名乗っただろう、貴様、よくも騙してくれたな!!」
「え、なんの事だ?、そっちの隊長さんとは既に話を付けてあったし、俺たちがこの決闘を受けたのも、俺たちのギルドが一番個人の戦力に優れていて、勝算が高かったからで、それについてはそっちの隊長さんも納得済みの話の筈だったんだがな」
一応、事後報告という形にはなるが、俺はパーティーを結成してから、有名大手のギルドとは一通り自分から話しかけてコネを作っておき、事後報告式にメールであらましを伝えていた。
情報の独占は嫌われて、逆に、共有目的の公開は好かれる。
ただそれだけの人気取りの為のパフォーマンスではあるが、弱小ギルドとしてそつの無い下準備も、ちゃんとこなしていたのである。
故に、ここでカントンが乱入してきたのは、俺としても予想外だった。
「・・・うるさい、お前のせいで俺は、NPCの監視任務すらまともにこなせないのかとバカにされ、2番隊副隊長の座すらも降ろされそうになったんだ!!、このままじゃあ一生一軍に上がれねぇ、だから、おいお前、俺と決闘しろ!!、俺が勝ったら、決闘の権利を俺によこせ!!」
「・・・・・・」
なんか必死な奴だなと思ったが、2番隊副隊長、つまり二軍だったからか。
連合軍は1000人規模の大組織であり、そしてその大多数が一兵卒の二軍だ。
故に連合軍は一軍に上がるという出世の競争原理こそが所属する最大の目的であり、その為にNPCの監視任務とかいうくそつまらない仕事を請け負っていて、それで任務を失敗し、失点がついて出世が絶望的になった事に対して、この男は憤っているらしい。
まぁ、ここまで逆恨みされるのも困りものだが、これも覚悟していた展開ではあるか。
とは言え、こんな小物くさいやつに構ってやるほど、俺も余裕がある訳では無い、それに。
「お前が怒る理由は分かったけど、俺らもお前に人質プレゼントしてやっただろ?、あいつは一人で100万稼げる金の鶏だ、金の鶏上げたんだから監視とかいうしょぼい任務の失敗なんて余裕で帳消しに出来る筈だろうが、だったらその件はそれで手打ちって事でいいだろ、な?」
「人質、だと?、スパイの間違いじゃないのか?、あいつは「命を賭けた金じゃないと興味無い」とか言って、全財産を賭ける事を強要するし、ブラックジャックでは絶対勝てる癖に、「あの快感を知ったらもう普通のギャンブルには戻れない」とか言って、ハイレートのポーカーやルーレットに全財産ぶち込んだ挙句、こっちが相乗りした時だけ負けて、ずっと一人勝ちしてこっちの金を巻き上げ、それで回収しようとしたら失踪するし、おかげで俺たちの資金はすっからかんだ、この責任も取って貰わないとな」
「・・・・・・」
疫病神、と呼んでいいのかは分からないが、やはりあの女が危険だと見抜いた俺の直感は間違いでは無かったのだろう。
これであの女が近くに潜んでいたら笑えないが、とにかく、付き纏われないよう、今後も警戒だけはしておこう。
「・・・分かった、決闘を受けよう、ただし、俺たちは騎士との決闘で忙しいからな、おいモモ、このお兄さんと闘技場の外で決闘してこい、そうだな、勝ったらなんでも言う事聞いてやるよ」
「えっ!?、・・・でも私もう、なんでも言う事一つ聞いてもらう権利既に持ってるんですけど」
「ばっかお前、願い事は一つより二つの方がいいに決まってるだろ、だってほら、願いが一つだけだと地球を復活させるか地球人を生き返らせるかのどっちかしか選べなくて、いざという時に困るじゃねぇか」
「いやちょっと何言ってるか分からないんですが、ていうか、キリヲさんが指名されたなら、キリヲさんが戦ってくださいよ!!」
「・・・別にいいけど、それだとお前があの超強い騎士と戦う事になるんだぞ、お前が勝算あるとしたら、どう考えてもこっちだろ」
「でもこの人話通じなさそうで怖いから嫌です、キリヲさんがここで瞬殺してください!!」
「それだと俺が連合軍の面子潰したって恨まれるかもしれないだろうが!!、だからお前が闘技場の外で「ちょっとお茶でもしませんか?」ってワンクッション挟んでから軽いノリで決闘するのが一番なんだよ、団員なら団長の心境を少しは汲んでくれよ!!」
「いつもいつも私の心境を無視してる癖に何を言いますか!、ていうかだったらこの間のなんでも言う事聞いてくれる権利ここで使います、キリヲさんがかっこよく勝って終わらせてください!!」
「てめぇ、団長の言葉に逆らいやがったな・・・!、くそう、もういい、じゃあノワ、お前があいつを瞬殺してくれ、相手がお前なら、あいつも納得するだろ!」
「・・・嫌」
「嫌とかじゃねー!!、団長がやれって言ったらそれがうんこ拾いみたいなキツい仕事でもやるのが団員ってもんだろうが!!、もういい、だったらレイン、頼めるか?」
「もちろん、それはもちろん勝ったらキリリンがなんでも言う事を聞いてくれるなら・・・、いいよ(はあと)」
「お前っ、流石に俺がお前に生殺与奪の権を与える訳が無いって分かってて言ってやがるな、畜生、分かったよモモ、じゃあお前があの騎士のどれかと、死にものぐるいで戦えよ、俺はこいつと、〝外〟で血みどろの死闘を演じて来るからな!!」
誰も言う事を聞いてくれないので、仕方無しに俺はカントンを連れ出して外で決闘をすると見せかけて賄賂で円滑な交渉をする事にしたのだが。
「────────ふふ、お困りのようね」
「おい、カントン、俺に付いてこい、決闘、したいんだろ?」
「え、いや、でも、そいつは・・・」
「あ?、幻覚か?、だとしてもお前の相手は俺だろ、俺には何も見えてないし、聞こえてない、だからさっさと行くぞ」
「嗚呼、相変わらず強烈なご主人様の放置プレイ、一週間ぶりの身体に、骨の髄まで、染み渡るうっ!!!」
「・・・・・・」
俺は無視してカントンと共に外に出ようとするのだが、そいつは気にもとめずに俺たちについて来た。
闘技場の外、当然人はいない。
だが俺は注意深く周囲を観察して、誰かが聞き耳を立てていないかを見渡した。
そして俺は言ってやった。
「おい、いくら持ってる、さっさと振り込め」
ガンッ
「は、はひ、ごひゅじんしゃま・・・」
「ひぃふぅみぃ・・・、330万くらいか、一週間で結構貯めたみたいだな、でも全財産貰ったら悪いし、30万だけ返すな、用は終わりだ、────────失せろ!!!」
ボコッ
「ああん」
「よし、カントン、提案なんだが」
「なんだ、今更泣いて謝っても許してやらないぞ、俺の怒りはお前をボコすまで収まらないからな、・・・というか今の対応、流石に露骨に悪人過ぎるんじゃないか、人がやっていい所業じゃないだろ、金を巻き上げた挙句に暴力とか、ドン引きを通り越して虚無なんだが」
「うっせぇ、これはデスゲームだ、デスゲームだからああいう手合いとはちゃんと縁切りしないと俺が死んじゃうだろ、貰えるもん貰って距離を取っただけだ、それでカントン、ここに300万あるんだが」
「えっ──────────」
その一言だけで闘争心全開だったカントンの意識が金に傾いていた。
想像通りの俗物だった。
「この決闘を引き分けという事にして、お前がこれから連合軍の情報を流してくれるならこの300万、全部やるよ、前金100万、後払い200万、このデスゲームにおいて100万の価値がどれくらいのものか、お前なら分かるだろ」
「・・・・・・だが、しかし」
「ま、お前がここで俺となんの意味も無い決闘をして、何の価値も無い勝利が欲しいっていうなら、不戦勝という事でいい、ここで手に入れたちっぽけな勝利を振りかざして、二軍のまま連合軍で一生うだつの上がらない人生送ればいいさ、じゃ、俺は会場に戻るから」
「ま、待ってくれ・・・!」
「契約、成立という事でいいか?、勿論、俺は別に連合軍のスパイをしてくれと頼んでいる訳じゃない、ただ俺とフレンドになって、たまに俺と世間話をして、軽い情報交換をする関係を築いてくれればいい、俺との交友関係は、お前の出世の役にも立つと思うんだがな」
「・・・分かった、そちらの要求を飲もう」
「契約、成立だな、シナリオはこうだ、決闘で男と男の真剣勝負でお互いを認め友情が芽生えた俺たちは、そこから無二の友として仲良くなった、漫画的には悟〇とベジー〇みたいな関係だと思ってくれ」
そう言って俺たちは固く握手を結んだ。
「はぁはぁ、ご主人様、やっぱりクズで人でなしで小悪党で、最高・・・ぐえっ」
一見無駄なやり取りに見えるかもしれないが、連合軍はやはり数が多い為に、一番警戒する必要がある相手だ。
そこに賄賂を介して首輪に鈴をつけておくというのは、伏兵ポジを狙う俺としても、必要な仕事だったのである。
まぁカントンが役に立つかは分からないが、カントンを介して優秀な人材とコネを作る機会だってあるだろう。
カントンがまたバカをやって連合軍を追い出されない限りは、それなりの利用価値があるという事だ。
少しだけ余計なひと手間を挟んだわけだが、デスゲームならばいつか役に立つ日が来るかもしれないし、保険はいくらかけても足りないくらいだ、だからこれも必要な一幕なのだ、長生きしたいならば。
さて、それじゃあお待ちかねの最高潮を始めようか。




