21.殺人鬼の真実とは
俺は数日の日を置いた後、紹介状を使って王女への接触を試みた。
そしてそれでも会えませんと言われて強攻した結果、王女の部屋に王女はおらず、メイドを問い詰めた所、王女は神官の屋敷に匿われているという結論が出て、そして今度は、神官に会う為にお使いクエストをこなす事となった。
それで今度は神官に会うために白金騎士の称号が必要だったが、それをレインが既に獲得していた為に、今度はレインを連れて総員で神官の屋敷に押しかけたのである。
この道中、どこに行っても連合軍の連中が見張りに付いていたが、俺は有名人のレインとノワを用心棒に、そして『J0̸KERS』のモロエの名前なんかも使って、暗に「金渡すから密告したら殺す」と、下っ端の見張りを脅迫、賄賂で無理やり黙らせて、強引に口封じしたのであった。
こうして俺はようやくのこと、王女と面会する機会を得たのであった。
「ようこそお越しくださいました【勇者】様」
そう言って優雅に頭を下げる王女はこの世界で一番造形が美しい品格すら感じさせるほどに高貴なNPCだったが、俺は連合軍に監視されている立場であるが故に時間が惜しく、率直に尋ねた。
「それで王女様、殺人鬼の正体についてご存知ですか、王様はなぜ殺されたのでしょうか」
「それは・・・」
王女が言い淀むと、隣に控えていた神官、無機質な印象の女がそれに答えた。
「それをお教えになる為には、あなたにその資格があるのかを問わねばなりません、あなたは、一体だれが陛下を殺害したとお考えですか」
どうやら、ここまでのクエストをこなしてもなお、自動進行でスムーズには進めさせてはくれないようだ。
最近のRPGには結構ありがちな謎解き要素ではあるが、MMOのデスゲームに果たして必要な要素なのだろうか、俺は甚だ疑問だったが、仕方無しに答えた。
「お前の出番だ、レイン!!」
「え?、今ここでそれを言う!?、というかこのイベント進めたの、1から10までキリリンなんだしさ、ここはキリリンが当てずっぽうでも答えるべき場面だよね」
「悪い、一応候補はあるというか、疑わしい奴は一人しかいないんだが、それでも俺は自信が無いし、時間が勿体無い、だからレイン、お前の素晴らしい頭脳で助けてくれ!、団長命令だ!!」
「・・・まったく、お助けキャラっていうのはそんなに安易に迂闊にお手軽に利用していいもんじゃないだろうに、ドラえ○んさながらに頼らないでくれよ、しょうがないにゃあ・・・、答えは──────────騎士だ、犯人が指名手配されていない事、王宮に出入りする権限を持っている事、死体が葬儀されずに残されている事、白金騎士が元帥相当の地位に換算される事、そして王女と神官が隠居している事、その他諸々を加味すれば、国王の死は殺人鬼による反抗では無く、騎士によるクーデターだった、ま、状況証拠だけでも真っ先に疑われるべきは騎士なのに、最初から完全犯罪として迷宮入りしてる時点で、犯人は捜査した警察側の人間、つまり騎士以外有り得ないという結論になる訳だ」
と、レインは名探偵さながらの名推理を披露してくれた。
全く関係無い話だが、俺の体感だと、名探偵という職業のIQは平均しても200近くありそうな気がする。
故にレインも200は無いにしろ、これが正解ならそこそこの天才的な頭脳を持っている証と言ってもいいのかもしれない。
俺たちは「おお」と声をあげながら、その名推理を拍手で称えた。
レインはホームズさながらに (俺はホームズを読んだ事は無いが)指を突き出すポーズを決めているが、これで推理が外れてたら一生の笑いもんとしてネタに出来る所だったのだが、残念な事にレインと俺の推理は間違っていなかったようだ。
神官は頷いて、王女は観念したように語り始めた。
「・・・お話する時が来たようですね、この国の成り立ちから続く、この呪われた王国の真実についてを」
そこから王女が語り出したストーリーは、例によって長いので省略させてもらうがこうだ。
1.この王国は、ひと握りの悪人と、大多数の善人で構成された国であり、そして、この世界における、最低の等級の国であるという事。
2.故に悪人は善人から搾取し、そして犯罪を犯しても罪にならないからこそ、〝平和〟を維持して来た事。
3.しかし国王は、その秩序を破壊する為に、全てを明らかにし、【勇者】を召喚して、この国の民を解放しようとしていた事。
4.そしてその計画を王国の秩序の保持を望む騎士に止められて、殺害されてしまった事。
5.しかし王家の人間が死ぬと、王家の人間は布告役の呪いを受けている為に100階層に存在するワルガリア帝国にその死が知られて、帝国から使者が送られて国王の死が露見する為に、死ぬ間際で時間凍結の魔法で放置されている事。
6.国王の体を生きたまま食らう事で、その人間は民を従わせる「王家の力」を手に入れられて、それによって騎士は覇権争いで対立していて、そして国王が死んだら「王家の力」が王女に移るという事。
7.騎士は現在、「王家の力」を奪ってワルガリア帝国に取り入ろうとする寝返り派と、このまま王家に変わってグランディスを支配しようとする保守派で対立している事。
以上が、王女が知る真実の全てだった。
恐らくこの後、国王の肉体を自分で食うなり、騎士団長バスターを追求するなりすれば、チュートリアルは完遂され、PKが解放されるようになるのだろう。
最後に俺は王女に一つだけ質問した。
「・・・あの、教えてください王女様、あなたも国王も王族であり悪人って事になりますよね、だったらなぜそんな、保身や自己利益と真逆になるような行動を行うのでしょうか、悪人ならば、民を解放しようとしたり、騎士に反発するのはおかしいですよね」
いや、これは悪人の定義によるものかもしれないが、でも悪人ならば、民を虐げる事に疑問を抱かないし、王女も騎士に恭順すれば良かった話だと思うが。
それに王女は、どこか自虐を含んだ風に答えた。
「確かに、道理からみればおかしな事かもしれませんが、王家としては、一番大切な目的は王家を恒久的に繁栄させる事、それが民を解放する事であり、騎士に反発する事だった、それだけの事です、父が民を解放しようとしたのも民が可哀想だったからではなく、搾取される側の最下層の国のお山の大将でいるのが嫌だったから、故に民を率いてこの世界そのものに下克上を仕掛ける気で秘密を暴露し、そして【勇者】様をこの世に呼び出した、私も、父のその考えに賛同したからこそ、自らが王になり変わろうとする騎士に反発し、〝資格〟を持った【勇者】様が現れるのを待っていた、本当にただ、それだけの事です」
「・・・では、俺たちはこれから何をすればよろしいのでしょうか、王道RPGならば、ここで父親の仇を取ってくれだとか、世界を救ってくれだとか、頼まれるものだと思うのですが」
「さて、私は勇者様に何をお願いするべきなのでしょうね・・・、私に姫としての役割があるならばそう言った願い事もあるのかもしれません、ですが、この世界には倒すべき魔王も救うべき王女もいませんから、だから勇者様の心のままに、好きな風にこの世界を救済して頂ければよろしいかと、たとえばこの罪深い命を摘み取るのも、いたぶって罰を与えるのも、慈悲と寵愛を与えるのも、それはどれも等しく救済になりますから」
「・・・・・・そうですか、貴方は無欲なんですね、自分の、望みを言わないなんて」
「王家には、「王家を存続させる事」それ以上の目的も望みもありませんから、ですから私は王家滅亡の瀬戸際の今、ただ時制に身を委ねるしかないと、それだけの事です、滅びも没落も、それが王家の運命ならば、等しく受け入れるだけですから」
倒すべき魔王も救うべき王女もいない、これがこの世界の真意であり、善悪の定義する所なのだろう。
つまり、何が正しいのかは自分で決めるしかないという事だ。
この世界で何を目的にして生きるのかは、自分自身で決めるしかないという事。
それは簡単そうに見えて難解な問題なのだろうと、この時の俺は思った…。




