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1.お仕掛け

 もしこの世に人が二人しかいなければ、片方が善人ならもう片方は必然的に悪人であり。

 片方が愛されるものならば、もう片方は必然的に愛されないものであり。

 片方が必要とされるならば、もう片方は不要になるというのが相対評価の世界である。


 そしてその残酷で厳格な〝ルール〟が、この世界の仕掛けだった。


 それはもしも「100人殺すけど100人救う人間」と「誰も殺さないけど誰も救わない人間」どっちか片方だけを選別しろと示されたとして、数の期待値で計算しか出来ないAIならば、その価値はどっちも等価値としてみなすだろう、故に、このゲームがAI開発の為の〝実験〟であるならば、その哲学的な命題に対する答えを示す必要があるという事だ。


 誰を殺すか、何人殺すか、誰を救って誰を生かそうとするのか、その〝答え〟を求める事が、このデスゲームに於ける真の目的なのだろうと、そう俺は予測を立てた。


 それはこのゲームを主催した〝機関〟の道具だったレインが「人類の未来を見通す事」が役割だと言っていたし、だったらそれに関連する答えとは、人類規模の哲学にしかならないと思われたからだ。


 思えば聖女ランクを上げる為の聖書の勉強も、一面的にはゲーム知識や攻略のヒントを授けるものだが、本質としては哲学や神学の知識をプレイヤーに与えて、答えを出す事に対しての思慮を深めさせる目的があったのだろう。


 創作の世界では平行世界との戦争とか、人類同士の生存競走とか、そういうテーマなど、今更使い古されたものだとは思うので、今更その事で迷う者は多くは無いと思いつつも、それでもやはり、複製とは言え人間を殺す事に躊躇する人間は多いのだろうと、そう思いつつ俺は裏側の世界の情報収集に勤しんでいたのであった。


 ワルガリア帝国について得られた情報をまとめるとこうだ。


 1.ワルガリア帝国は世界の支配者では無く、グランディスと同じ属国であり、ある目的の為に勇者を召喚して、世界を滅ぼそうと目論んでいるとされているグランディス王国打倒の為に決起している事。

 2.ワルガリア陣営には『神軍師アリサ』、恐らくゲームマスターのアリサの手によって、無敗、無双、無敵、無傷で各階層を攻略しており、そして、王国の攻略ペースに合わせて階層を踏破している事。

 3.ワルガリア陣営に召喚されたプレイヤーは自分でキャラメイクしたアバターでは無く、リアルをトレースして作られた素顔である事。

 4.ワルガリア側のプレイヤーは皇帝から大元帥に任命されたアリサの手によって〝完全なる支配〟によって統率されており、いかなるプレイヤーもアリサに逆らう事が出来ないと言う事。


 以上が、俺が二週間かけて夜中にこそこそと聞き込みをして得た情報だ。

 ここから得られる結論とはつまり、グランディス陣営のプレイヤーとワルガリア陣営のプレイヤーは恐らく50階層で鉢合わせする事となり、そこでアリサの手によって指揮されたプレイヤー達と、50階層を決戦の地として戦うというのがこのゲームの終点であると予測される事だろう。


 50階層が終点になる伏線としては、何度か「50階層にだけドラゴンが出現する」というNPCや聖書の情報と、このゲームのタイトルが「ダークドラゴンオンライン」であるという点から、50階層にラスボスのドラゴンが出現するというのは、物語の終点としては妥当な着地点だったと言えるだろう。


 「このゲームには倒すべき魔王も救うべき姫もいない」と、グランディス王女は言った。

 ならば、倒すべきラスボスが50階層のドラゴンになると言う可能性は否定されていないし、50階層にドラゴンがいる、このセリフが伏線で無くてなんなのかと、ここに至って俺は気づいたのである。


 これはどちらかというとライアーゲーム的な、ルールの裏を読むような話だ。


 仮にボスが100層までで競走相手がいないのであれば攻略は急ぐ必要も無いし、強化リソースを奪い合う相手も味方である他のギルドという話だが、これが終点が50階層で反対側から敵陣営と同時に競走しているのであれば、攻略は急ぐ必要があるし、リソースを奪い合う相手は絶対に味方になれない敵陣営であるという話なのだ、


 なんでアリサがプレイヤーとして参加しているのかは謎だが、だが、アリサがいる事によってワルガリア陣営側は確実にグランディス陣営を滅ぼすと断言出来るので、このゲームを円滑に進める進行役として参加していると、そういう話なのだろう。


 故に俺の使命とは、ワルガリア陣営が50階層に到達する前にそのプレイヤーを殲滅、ないしは壊滅的打撃を与える必要がある、という話なのである。

 ワルガリア陣営は死者が出てない都合上誰もレベルが上がっていないので、レベル99の俺ならば瞬殺するのは容易いだろうが、しかし同時にアリサがいる都合上、目立った動きをすれば即座に補足されて、討伐されかねない。


 アリサが完全にプレイヤーとしてチート無しでプレイしているのか、それともゲームマスターとして、SAOのヒースクリフのように絶対死なないチート付きでプレイヤーを誘導するようにプレイしているかは謎だ、故にそこの裏取りが出来るまでは大人しくしているのが吉だろう。


 幸い、まだワルガリア陣営は40階層に到達したばかりでありキリ番ボス戦に向けての育成期間に入った所だった。

 悠長にはしていられないが、これまでの傾向からして最低でも攻略までに1月近い時間が必要となるのは確実だろうし、それまでは猶予があるという訳だ。


「・・・もし、レインが俺に役割を押し付けるのが30階層じゃなければ、俺たちは何も知らずに50階層に行って、皆で絶望してたのか、だとしたらあいつは、一体どこまで見通していたんだろうな」


 名探偵のあいつの事だ、常に数百の未来を同時に見通していると言っていた、ならば、こんなクソみたいな現実もヤツは想定していたのは間違いない。

 そのおかげで俺は、1万人の殲滅という大仕事に対して1ヶ月の猶予が得られた訳だ。

 ゲームマスターのアリサが仮に〝神軍師〟だとしても、〝名探偵〟が負ける道理は無い。


 ・・・もしかしたら、複製がいないアリサの代用品がレインだったのかもしれない。

 少なくとも、天才のアリサと並び立つような頭脳のキレと、同じく人を人と思わないような無慈悲なサイコパス具合はほぼ一致している。

 レインが全てを見通していたのであれば、アリサの代用品であるレインを俺が愛してもそれはアリサにとっての地雷となる、故にその結末は考えられる中でも最悪のものになる可能性は高かったと理解していたのだろう。

 俺はレインを理解していた気になっていたが、それは一面だけで、レインは本質の上では俺なんかには一生追いつけないレベルの未来を見通していた。

 そしてきっと、それを実現させる事がレインの〝愛〟になるのだろう。


 ここに来てレインは本当にいろんなものを見通していたのだと振り返りつつ、俺は最終決戦までの準備に取り組むのであった。

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