32.DuplicateDataOrigination
duplicate=複製
data=データ
origination=起点
転移水晶を使用して浮遊感に包まれながら100層へと飛ばされる感覚に俺はふと、昔見た「どこでもドア」の考察についてを思い出していた。
ワープとは原理的には一度、物体を破壊して再構成して転移させてる、みたいな話から、もし仮にどこでもでドアの間に体を半分ずつ出した状態にして、その状態で殺した場合に、どっち側がその人間にとっての〝本体〟になるのか、テセウスの船に通ずるような哲学的な問題が生じるという考察を俺は思い出した。
別にゲームの中のワープならば、存在を破壊して再構築するような機能では無いのだから、そんな心配は杞憂なのだが、ただ俺の意識として、ワープは実は怖いものだという考えが僅かにこびり付いていたのである。
そんな事を思い出しつつ俺は、暫時の間だけ浮遊感に恐怖を覚えつつ、目を瞑っていたポラリスに強く手を握られながら、100層へと飛んだのであった。
「──────────っと、ここがワルガリア帝国か、思ったより普通の街だな・・・最終階層にしてはなんというか、普通な感じだ」
俺たちは街の広場らしき円形の街道の中心に着地した、なんとなくグランディス王国の広場と似たような印象を受けるが、まぁ広場なんてどこもこんなものだろうとその違和感を飲み込みつつ辺りを見渡す。
30階層が奴隷の国として古代ローマ的な文明レベルだったり、そのボス部屋が超古代文明的な鋼鉄のピラミッドだったのとは対照的に、ワルガリア帝国は1層のグランディス王国と変わらない王道の中世ファンタジーの街並みだった。
ただやはり100層、この世界の支配者という権威があるからだろう、王道の中世ファンタジーの中でもかなり意匠の凝った、石焼きの煉瓦作りの街並みに、洗練されて瀟洒な街灯、ゴシック様式の大聖堂に時計塔など、ヨーロッパの有名建築物を詰め込んだような、街全体が観光名所のような、そんな圧巻の街並みだった。
「・・・なるほど、これが苦労して100層に到達したプレイヤーの〝ご褒美〟になるって訳か、普通に攻略して100層に来ていたら、この景色に感動していたんだろうな」
このゲームに初めてログインした時も感動したものだが、それと同等の驚きはあったので、順当にここに来た時の感動は間違いなく得難いものだろうと思われた。
時刻はまだ15時くらいだろうか、昼の正午がボス戦の予定時刻であり、体感的にはまだ3時間も経っていないくらいだから、すぐに宿を探して休む必要も無い。
俺はワルガリア帝国の街並みに同じく感動しているポラリスの様子から、少しだけ街の中を探索する事にした。
どこか行きたい所はあるかと訊ねるとポラリスは、城の方を指差したので、俺はポラリスと手を繋ぎながら王城らしき城へと向かった。
街道を歩いていると幾人かのNPCとすれ違うが、特に異変は無く、どこにでもいる普通のNPCだった。
「お、兄ちゃん、初めて見る顔だな、どうだい?、この『携帯型食料』買わねぇか?、一度に5個まで携帯出来て、1つ食えば1日は腹を満たしてくれる優れものだぜ?、1個500グラン、5個買えばサービスで状態異常薬もつけてやる、早い者勝ちだぜ?」
「──────────えっ?、ああ、いや、もう持ってるんで結構です・・・」
100層、そこで懐かしいセリフを吐く定型文NPCが出てきた事に俺は驚きつつ辺りを見渡すと、1層で見覚えのあるNPCが幾人か存在している事に俺は気づく。
「・・・もしかしてNPCの開発リソースの節約の為に、1層の連中をコピペしたのか?、街並みは凝ってる割に手抜きだな・・・、こんな定型文NPCとか、設置しない方がマシだろ…」
とか言いつつ俺は王城へと歩いていく。
体感的に、広場から王城までの距離感もよく似ていたし、全体的に貧しかったグランディスと違って建物は豪奢だが、きっちりスラムも存在して街の作りそのものがグランディスによく似ていた。
もしかしたらこの街は建築物だけアップデートしただけで、グランディスとほぼ同じ街なのでは無いかという疑念が湧き上がるが、そんな疑念すらも吹き飛ばすあるものを、俺は見つけてしまう。
「・・・ん、張り紙がある、何が書かれているのかな───────え?」
張り紙にはこう書かれていた、「攻略組、30階層突破、今回も一人の脱落者も無し」と。
「え、どういう事だ、まさか、まさか・・・」
俺は嫌な予感がしつつも、その張り紙を読み上げる。
「30階層のボス、邪悪な王国の尖兵の操る殺戮龍、それは必殺のブレスと殺戮聖女になる第二形態、そして取り巻きによる自爆特攻と尋常なく厄介な相手だったものの、プロゲーマーツチノコ率いる我らが攻略組は今回も見事に一人の死者も出すこと無くボスを攻略した、その中でも『二刀流のノワ』『歌姫天使様』『神軍師アリサ』の活躍が目覚ましく、彼ら無くして今回の大勝利は無かっただろう、我々がこのデスゲームに閉じ込められてはや3ヶ月が経つが、この調子ならば年内での解放も有り得るだろう、攻略組のますますの活躍と検討を祈る、だと・・・っ」
背筋が凍りつくような感覚に俺はへたりこんだ。
ポラリスはそんな俺を心配するが、俺は戦慄、混乱、絶望、あらゆる感情が意識を支配して、どんな感情を持つのが正しいのかと、完全に混乱していた。
これからお兄ちゃんはこの世界で幾度となく死んでもらう事になる訳だけど、どんな死に方なら一番絶望してくれるかな。
お兄ちゃんは沢山経験して、喜びや幸せも経験して、その果てに絶望して、私と一緒に死んでくれるのが、私にとってのハッピーエンドなんだから。
「───────あいつ、やりやがったな、俺を絶望させる為に・・・クソっ、これがあの悪魔の考えたシナリオって事かよ!!」
このゲームに閉じ込められた時から、確かに自分が本物なのかAIなのか、そういう疑問を持った事はあった訳だが、そんな伏線がきちんと、最悪の形で回収されてしまった事に俺は、このシナリオを仕組んだアリサに対する憤りを抑えられなかった。
俺たちは複製されている。
それはあるひとつの、この世で最も残酷な結論が導かれるという事。
つまり──────────
「俺たちが殺すべき相手、滅ぼすべき〝悪人〟とは、己の複製体って事かよ・・・っ!!」
善人と悪人、どこにその線引きがあるかも不明だったし、殺人鬼は寄せ集めても100人しかいないようなごく少数の存在だ、完全に数が均等に振り分けられた悪人とはつまり、複製された人間以外に有り得ないものだった。
だから間違いなく殺人鬼とは、このゲームを〝正当にクリアする〟為の真のエースになっただろう、戦うべき相手が人間ならば、殺人鬼以上にそれをこなせる者はいないのだから。
しかし俺たちは自らの手で、ゲームをクリアする為に必要な切り札を滅ぼしてしまった。
ラスコがいれば嬉々として、殺してもいい人間たちを一人残らずに狩り殺してくれたのは間違いない。
だからこれはこの瞬間に、ラスコを殺した俺の、果たすべき使命に変わったのである。
ここから、俺の生存戦略を賭けた、生き残るために仕方なしに複製全員殺す、真の物語が始まるのである。
という訳でどんでん返しの4章です
お楽しみ頂けたでしょうか
ここの結末は決まっていたんですけど、道中の展開はかなり迷いました、5章で終わらせる為にどうしてもキャラを削る必要があったので、大鉈を振るうような展開になってしまいましたが、キャラの退場には極力伏線を貼っていたので、多少は納得して頂けたら幸いですm(_ _)m
次回最終章ですが、今回以上に熱い展開が書けるのか、驚かせられる展開が書けるのか、感動させられる物語が書けるのか、自分の低過ぎる実力に不安しかありませんが、読者様とは一期一会の相手と思い、全身全霊を懸けて書き上げる所存ですので、次章も付き合って頂けたら幸いですm(_ _)m
ここまで読んで頂き誠にありがとうございますm(_ _)m
想定の倍は長くなってしまい、読者様が付いてきてくれるのか不安しかありませんでしたが、それでも付いてきてくださってる読者様には感謝の至極でございます( ; ; )
半年も付きあってくださった読者様が絶対満足して感動するような、そんな結末を描けるように精一杯書き上げますので、どうか最後まで付き合って頂けたら幸いですm(_ _)m




