25.デスマッチ
戦闘開始から1時間が経過した。
残っているのは奴隷合わせて1000人ばかりのプレイヤーと、ほぼ全員がレベルカンストに達した20人の殺人鬼だ。
レベルカンストしたプレイヤーがほぼ確実に取得するスキルとして《戦闘続行》《自動回復》《不死身》という、HPMPを全損させなければ殺されないというシナジースキルを殺人鬼全員が持っており、継戦能力という点で分があるために徐々に徐々にと殺人鬼たちの勢力が力を増していった。
それに個人で対抗出来るのは、同じくレベルカンストして、強力な支援役であるモモからサポートを受けているノワと、同じくカンストして、ギルドの仲間たちから支援を受けているリリーにゅだけだった。
元、攻略組のいくつかのギルドはここで全滅し、逆に今までギルドに所属していなかった、陰の実力者的な強豪プレイヤーが死んだプレイヤーの遺産と装備を引き継ぐ事で台当して、完全に今までに存在していた〝攻略組〟というパワーバランスは崩壊していた。
「くそっ、手強いな、カントンくん、スイッチだ!!」
「分かった!!、スイッチ!!方天戟スキル、《大地衝天》!!!」
ちなみに擬態奴隷を利用していかがわしい事をしようとしていたカントンだったが、きっちりペナルティを受けていたらしくその体はゴブリンに変えられていた。
そのペナルティがいつまで続くか分からないが、ゴブリンの肉体に変わった事で亜人補正がかかっているようであり、プレイヤーの頃より能力的には弱体化しておりチートバフ抜きで戦っているという事はそれなりにレベルが上がっている事が伺えた。
「死ね殺人鬼!!」
「郷さんの仇ぃいいいいいい!!」
あるプレイヤーの集団が一人の殺人鬼を討伐する。
その殺人鬼は既に100人以上を屠った後であり、倒されたにも関わらず未練も無さそうに満足げにこう語った。
「あーあ、ここで終わりかぁ、でも楽しかったぜ、現実でまたやろうや、真の殺し合いをよぉ」
「──────────は・・・?」
殺人鬼とは、殺し以外で生の実感を得られないような、殺す事だけを生き甲斐としているような、そんな人格破綻者が大半である事を、俺は虐殺事件前日の決起会で知っていた、故にこの〝キャンプファイヤー〟が逃げ場無し、死ぬまで戦うデスマッチでも、殺人鬼側の大半は逃げすに戦う事を俺は予見していたのである。
そんな調子で殺人鬼側は狂ったように暴れていた。
その殺人鬼のなりふり構わない殺意にプレイヤー達は圧倒されつつも、厳選された残りのプレイヤーの中から〝英雄〟になるべき新しい実力者が台当していき、殺人鬼たちと死闘を繰り広げていたのである。
その中での突出したプレイヤーはやはりノワとリリーにゅの二人だ。
この二人は対人戦のプロである殺人鬼にも互角以上に戦い、既に殺人鬼のキル数を2桁に迫る勢いで狩り尽くしている。
この二人が生きている限り、他のプレイヤー達も自分たちの勝利を確信して、ここで逃げ出したりしないだろう。
そして同時に、殺人鬼側の切り札として俺とラスコが門番として控えている。
俺とラスコの元にもリリーにゅを除く何人かのプレイヤーと殺人鬼が攻め込んで来た訳だが、俺たちはその全てを返り討ちにして門番としての務めを果たしていた。
特に、ラスコについては別格だった。
連合軍の残党が団長の弔い合戦に総員でラスコに攻め込んだにも関わらず、ラスコは単独で500人規模の軍団を、危うげなく瞬殺したのだから。
連合軍の幹部クラスは〝種まき〟により、ちゃんと高レベルに関わらずラスコはそれらを瞬殺した、そこにラスコの戦闘屋としての資質と実力が遺憾無く発揮されており、ラスコはこのゲームでも別格の存在なのだと俺は思い知ったのだ。
つまりリリーにゅが俺を討伐出来なかった時点でこのボス部屋は完全な密室として完成されており、このデスマッチはどちらかが滅ぶまで続けられる事になっていたのである。




