13.酒場にて
日々を生きるプレイヤーにとって酒場とはお金を無駄に消費する贅沢品だ。
故に利用するプレイヤーも資金に余裕のある、クエストを独占出来ている上位層に限られていたが、しかし、酒場が最も多くの情報が集まる場所になるのは、RPGのお約束という話だろう。
故に俺は、プレイから12日目にして初めて、酒場を利用する事にしたのである。
そこは既に多くの騎士やプレイヤーで賑わっており、そして新参の俺を想定より友好的な態度で迎え入れてくれた。
「お、兄ちゃんは確か、団長を倒した兄ちゃんの仲間の、えーと」
ビーターギルド『J0̸KERS』のリーダーらしき男が、俺を見るなりそう声をかけてきた。
「あ、キリヲです、レインは俺のギルメンっすね、一応」
レインの名前を出しておく事で、向こうにとって有用な存在であるとアピールしながら俺は挨拶した。
「キリヲ、まるでキリトみてーな名前だな!がはは、俺の名前はモロエ、俺も『腹黒眼鏡』のモジりだし、なんか気が合いそうだな!」
「ああ、ログホラっすね、大人気で有名なアニメの!、原作は見た事無いんすけど…」
「ああ、俺もアニメしかみてないけど、ま!、それはいいだろ、取り敢えずここに来たって事は何か情報収集してるんだろ、それとも情報を売りに来たのか?、賞金首について有用な情報くれたら逮捕した時に3割渡すぜ」
『J0̸KERS』なら100万渡してもいいかなと一瞬思ったが、まぁそれを話すにしても今日である必要は無いか。
「ああいえ、俺は国王を殺した殺人鬼についての、その情報を集めに来たんですけど・・・」
俺が国王と口にした瞬間、賑わっていた騎士たちの笑い声が一瞬だけ止まって場が凍りつくが、直ぐに騎士たちは何事も無かったかのように酒盛りに興じていた。
「はは、ビビったろ?、俺も最初はビビった、どうやら騎士たちの間ではその言葉は禁句に近いらしい、何かあったみたいだからな」
モロエははははと快活に笑った。
俺はビーターなんてニートでゲーム廃人の社会不適合者の陰キャしかいないと思っていたから、モロエが思ったよりノリが陽キャだった事に面食らっていた。
「何か、重税を課していたとか、そういう事なんでしょか・・・」
「つーかキリヲ、そんな畏まんなよ、ゲームなんだしさ、もっと楽しくやろうぜ、俺はデスゲームに巻き込まれた事は不幸だが、こうして酒を飲んで〝宴〟をしている時くらいは楽しくやりたいんだよ、お前だって敬語使って気を遣うのは疲れるだろ」
「分かんないです、だって俺、未成年ですし・・・」
ゲームの中では上下関係なんて気にする必要が無いのは分かっていても、やっぱり陰キャの俺に年上に対してタメ口はものすごくハードルが高かった。
「うわっ、お前未成年かよ、だったらここに入るのも犯罪じゃん、ま、ゲームだから関係無いけどな、がはは」
モロエは酔っているのか常にテンションがおかしいが、陰キャの俺にとってはその方が話しやすいのも確かだ。
俺も注文した苦い麦のジュースを一口含んで、シラフじゃないテンションで尋ねた。
「それでモロエさん、殺人鬼って見つかりそうですかね、俺も色んな所から情報収集をして、殺人鬼の発見がこのゲームのチュートリアルからの解放条件だと思うし、このままこの街に閉じ込められていたら、やがて金の無いプレイヤーが暴発して、悪人のプレイヤーによって虐殺が起こり、パワーバランスも一気に悪人側に傾く、そうなる前に殺人鬼を何としても見つけないといけないと思うんですけど」
「確かにお前の言う通り、このままじゃ善人側にとってまずいのは間違いねぇ、悪人に力をつけられたら、俺たちは一気に狩られるだろう、今現在、飢えて軽犯罪で捕まってるのも根が善人のプレイヤーばかりだ、俺たちも殺人鬼の捜索は、一刻も早くするべきだと思っている」
「じゃあ教えてください、何か知ってる事はありませんか」
「・・・いいや、分かっている事はあるが、知ってる事は、公開されてるような情報ばかりだ、殺人鬼については、俺たちは何も隠し立てや独占をしてないからな」
「分かっている事・・・?」
「はは、俺たちはビーターだからな、当然、この階層のボスが誰か、知っているっていう話だよ」
「な──────────、それじゃああなた達は、分かっていてこの膠着状況を作り出しているって事ですか?」
「そうではあるがそうじゃない、殺人鬼については俺たちは何も知らない、手掛かりすらな、だから困ってるんだ、1階層ボスがどうやって殺人鬼を呼び込んだのか、それが分からねぇ、そして1階層のボスを教えるのは、これがデスゲームだとしても、それは最低のネタバレになるだろう、どうせ未知の階層では初見で戦わないといけないし、ネタバレに頼るのは良くないし、ゲーマーとして許せねぇ、だから教えられないし、誰かが殺人鬼を見つけるのを待っている、って訳だ」
ネタバレは悪、これはゲーマーとして正しいが、人生の時間を使って生きている一人のプレイヤーとしては間違いだろう。
だが『J0̸KERS』が暇人ニートゲーム廃人集団であるならば、人生を浪費する事に対して執着しないのも当然の事に思えた。
「・・・そんなの、勝手ですよ、こっちは、青春の、もう二度と取り返せないような取り返しのつかない時間を使ってるのに、そんな理屈で、情報を隠すなんて・・・」
「悪ぃな兄ちゃん、兄ちゃんの若い時間を奪う事に心苦しさが無いわけじゃねぇよ、でも、これはデスゲームなんだ、生き急いだからって長生き出来る訳じゃねぇ、慎重だからって安全とも限らねぇ、だったら──────────後悔しないように、楽しく生きるしかねぇだろ!!!」
ドンッ!!!、とモロエはジョッキを飲み干して机に叩き付けて、マスターにおかわりを注文した。
恐らく、現実では引きこもりの貧弱なオッサンなのだろうモロエの事が、ここではまるで大海賊の船長のように、大きく見えたのであった。
俺はモロエに礼を言って酒場を後にする。
麦のジュースの値段は500グラン、情報屋の入場料としては破格だろう。
モロエはネタバレを避けたが、それでも有益な情報が無かった訳でも無いからだ。
俺自身、これがゲームのシナリオであると目星をつけて、自分の中で組み立てている仮説があったし、モロエが言った「ネタバレだから話せない」は、その説を大きく補強する要素だ。
無論、このゲームはMMOなので、一斉に進めるメインストーリーがあるとは思えない。
だが、チュートリアルなら、話は別だ。
全てのプレイヤーを一同に集め、たった一人の【勇者】を選抜し、ストーリーの大枠を作り上げる。
その為の〝儀式〟としてチュートリアルが存在しているならば、それは必要な事だし、そして、それには手順を踏む必要性が存在するだろう。
それを逆算して考える、まるで推理ゲームのような要素だが、だがこれが〝実験〟であるのならば、そこにも何かしらの意図が含まれるという事になる。
点と点を繋げていく作業、IQ150超えの超天才なら一瞬で終わり答えに辿り着くのだろうが、凡人枠の俺は可能性をしらみ潰しにして地道に考えていくしかない。
だがこの工程にやりがいを感じていたのも確かだった。




