10.団長討伐
俺たちは適当に野良クエストを探しながら時間を潰し、そして15時になって修練場へと向かった。
対戦相手は今日も騎士団長バスター、そして観客は昨日に比べて集まっている人数は減っていた。
おそらく、バスターを倒すのが無理ゲーと思われたからこそ、報酬目当てのプレイヤーはクエストでの金策を優先し、本気でバスターを倒そうとする実力者だけが集まった形になったからだろう。
挑戦権は一人一回、先鋒は上位のギルドが独占する形だが、20回ばかり戦うと、他のプレイヤー達にも参加する順番が回ってきた。
そこで一人のプレイヤーが、初めてバスターと接戦を繰り広げる。
安物の片手剣を両手で持つ二刀流。
現在スキルや職業が解放されていない状態なので、それは完全に独学の剣技という事になるのだが。
だが驚くべき事にそのプレイヤーは、まるでアニメやゲームのように軽快に剣を振り回し、圧倒的な速度を誇るバスターに対して、手数で応戦していたのである。
「お、おい、今何秒だよ」
「21秒・・・、間違いなく今日の最高記録だ」
「まだこんな猛者が残ってたのか、あいつソロだよな、絶対ウチで取るぞ」
ギャラリーがそんな会話を繰り広げるくらい、二刀流の男は凄絶だった。
リアルキリトと言っても過言では無いくらいに、男の剣技は卓越していて、バスターとも互角に渡り合っていたのである。
「彼、有名人なのかい?、随分と騒がれてるけど」
「知らん、二刀流使いなんて普通にしてたら有名人だし、多分今日が修練場デビューのソロプレイヤーだろ」
「ふうん、それで、あれと互角に戦えるのって、そんなに凄い事なのかい?」
「当然だろ、プロゲーマーやインターハイ経験者みたいな強豪プレイヤーですら秒殺してるんだ、普通の人間なら瞬殺で済まないレベルだよ」
「でも動きは直線的だし、持ってる剣以外の搦手がある訳でもないだろ、剣だけに注意していれば、そこまで戦うのが難しい相手にも見えないけど」
「見た目はな、でも、あいつの剣は受けたら吹っ飛ばされるレベルの剛剣なんだよ、二刀流の奴は綺麗に受け流してるが、普通に受けたら吹っ飛ばされる、だからあの二刀流の剣士は凄いんだよ」
とは言え、バスターの剣がガー不の超絶パワー系という解析は昨日行われた事である為に、昨日いなかったレインが分からなくても仕方ない事か。
と、3分経った頃だろうか、二刀流の剣士はゲーム内で設定されたスタミナが切れたようであり、動きが鈍った所をバスターに撃破された。
そんな二刀流の男に大勢のプレイヤーが駆け寄る、勧誘の為だ。
しかし男はそれらを無視して、ひとけの無い所に陣取り、次の対戦の観戦に移るのであった。
だがしかし、男が熱戦を繰り広げた後に、こぞって参加する人間はいない。
なぜならここにいるプレイヤーの殆どは、上位ギルドからスカウトされる為のアピールの為にいる、このタイミングで参加する事は、マイナス要因にしかならないからだ。
だが、そこで一人のプレイヤーが名乗りをあげた。
「ボクの名はレイン、対戦申し込ませてもらうよ」
「承った、王国近衛騎士団騎士団長、バスター、参る」
「空気を読まないタイミングで申し込んだな・・・」
と言いつつ、レインがそういう無神経タイプというのは分かり切ってた事だし意外性は無かったのだが、俺はレインにいい意味で期待を裏切られたのだ。
「──────────疾!!」
「ぉう!?」
「あの兄ちゃん、危なっかしいが初撃を避けたか、中々やるな」
「だが初撃くらい今日まで観察してたなら避けるのは当然さ、こっからが本番だ」
「せい、やぁ、たぁ、とぁ、ほぁ、せやああああああ!!!」
疾風の6連撃、四肢と頭部を狙い体勢を崩した所から狙われる心臓への鋭い一撃、一撃必殺の初撃を避けた後に繰り出される、不可避の必殺技だ。
「お、おぅ、うぉ、わぉ、ひゅう、おっと!?」
しかしレインには、全ての攻撃が見えているのだろう、全てを紙一重ギリギリで避ける事で体制を崩すこともなく、最後の一撃を余裕を持って回避した。
「殆どのプレイヤーが脱落するあの必殺コンボを完璧に避けるなんて・・・」
「・・・な、あの兄ちゃん20秒生き残ったぞ、こりゃあひょっとして」
「おし、あいつもウチでとるぞ、二刀流も取って二枚看板になれば、ウチのギルドは安泰だからな」
と、レインの隠れた才能は日の目に晒されて、ここにいた観客達を魅了していた。
それだけの偉業なのである、二刀流野郎は中身がキリト級の変態チート野郎だからで説明つくが、正直俺はレインがなんで強いのか分からなかった。
なんでこんなチート級に強い奴が時給300グランの猫狩りなんてやっていたのか分からなかった。
だから俺はレインの強さにただ、困惑していたのである。
しばらくレインはバスターと激戦を繰り広げていたが、レインは回避に専念するばかりで、反撃の糸口を掴めずにいるようだ。
「今何秒だ?」
「そろそろ3分だ、攻撃してないからもう少し持つだろうが、いずれスタミナの限界は来るだろう、そうなりゃあの兄ちゃんに勝ち目は無さそうだが」
「やるな、レイン殿、私相手にここまで耐えたのはそなたが初だ、故に敬意を持って、我が最大の奥義で応えよう」
反撃しないレインに痺れを切らしたのか、三分たったら使う設定なのかは分からないが、そこでバスターは一旦距離を取ってから、再び構え直した。
とんでもない必殺技が繰り出されると、誰もが息を飲んだその時──────────
「隙あり!!、そこだああああああ!!!」
まるでこの瞬間を待っていたと言わんばかりに、狙い済まされた一撃がバスター目掛けて放たれる。
おそらく、瞬きよりも刹那の、ほんの一瞬の隙、達人にしか見極められないような、バスターの重心が攻めに転じる前に溜めを作るほんの一瞬の隙を、レインは的確に攻めた。
「ぬううううううう」
そこでバスターは沈んだ重心で無理矢理に回避を試みるが、レインはそこで手を緩める事無く、バスターに体勢を立て直す隙を与えずに攻勢に持ち込む。
「はあああああああああああああああ!!!」
レインはここを勝機と捉え、残ったスタミナの全てを解放するが如く、果敢に攻め込む。
斬撃の速度はバスターに敵うべくもない、だが、急所を狙った正確な一撃はバスターに生半可な回避を許さずに、着実にバスターの体勢を悪化させて反応を鈍らせていく。
まるで詰将棋のようだ。
手順を間違えればバスターは体勢を整えて反撃に転じるだろう、そしてレインはスタミナが尽きて負ける、そんなギリギリの攻防だった。
この勝負の結末がどうなるか、この時点では誰もが予測不可能であり、固唾を飲んで見守る。
そこで俺は、ある情報を思い出して叫んだ。
「レイン!!、左から攻めろ!!、バスターは左からの反応が僅かに鈍い!!、って、ツチノコが言ってた」
「──────────っ!!」
レインに俺の声が聞こえた可能性は低い、それほどにレインは没頭していたが、それほどに勝負は接戦だったのだ。
そんな限界ギリギリの決闘の勝敗は────────
「──────────私の、負けだ・・・」
「はぁはぁはぁ、ボクの…勝ち?、じゃないでしょ、まだ決着は着いてないよ」
「いいや、これがもし真剣勝負ならば一撃で十分だ、それにそなたは私の攻撃を全て見切り、僅かな隙を突いて勝機を掴んだ、これはそなたの完全勝利と言って差し支え無いだろう、見事だ」
「むぅ、ボクはまだ遊び足りないんだけどなぁ、でもこのままやってもボクのスタミナが切れて負けてたか、なんか体が重たくなってきたし」
「では、勝者の報酬だ、そなたがこの世界の真の勇者だ、その証を渡そう、これが、王家に伝わる聖剣である」
そう言ってバスターは部下に聖剣を取りに行かせてレインに手渡した。
「聖剣って、ゲームならもっと個人の好みに合わせてナイフとかダガーとかもっと取り回しのいい武器を選ばせてくれよ、こんな重たい長物貰ってもボク要らないんだけど」
レインは不服そうだがバスターはそれに答えずに修練場の閉場をつげた。
そしてレインもまた、多くのプレイヤー達にとり囲まれるのだが、無視して俺とモモのいる場所に駆け寄った。
俺たちは周囲のプレイヤーの注目を集めつつも、修練場から立ち去る。
「はいこれ、あげる」
『レインから『グランキャリバー』が送られた』とメッセージが表示される。
「え、なんで俺に渡すんだよ、これ、どう見てもユニークアイテムだし、そんな気軽にあげていいものじゃないだろ」
「ボクの仲間になる代金とでも思って、それにキリリンのアドバイスのおかげで勝ったようなものだし、キリリンは〝強い善人〟と組みたいんだよね、ボクが仲間じゃ不満かな?」
「いや、不満とかは無いけど、でも・・・、お前なんとなくサイコっぽいし、強い奴は強い奴と組むべきだと思うし、俺なんかじゃ、お前とは釣り合わないだろ」
ゲーム理論、合理性で考えれば、仮に悪人だとしてもレインと組む事は大きなメリットであり、断る理由は無いが。
だが、レイン側が俺と組みたがる理由が定かでは無い以上、信用出来ない相手、しかも上下関係がはっきりしてる相手と組むのは、とてもリスクが大きいものに思えた。
何故ならレインに主導権を握られる事は、自分の身の丈の合わない危険地域で囮を命じられる可能性もあるからだ。
「はは、戦闘力で言ったら、モモくんなんて完全に蚊帳の外でしょ、ボクは君たちに戦力としての働きなんて求めてないよ、家事とか情報集めとか、ここで生活するにはどう足掻いても一人じゃ限界あるからね、だからモモくんが家事担当、キリリンが情報担当で、ボクの痒い所に届く手足として働いてくれればそれでいいよ、それは、君の生存戦略にとっても得な話だよね」
「つまり、俺はお前に情報だけ提供するだけで、戦闘参加なんかはしなくてもいいって事か?」
「ま、基本はね、困ったら助けて貰う事はあるだろうけど、ボクは生き残る事と楽しく生きる事優先だから、別に狩りとか戦闘とか、好きでもなんでも無いんだよね」
「意外だな、そんなに強いなら、アクションゲームとかやり込んでるものかと思ったけど」
「いや別に強いとかじゃないよ、ボクはあの騎士の動きを暗記して回避して、弱った所を暗記した騎士の動きを使って逆に攻めただけだし、傾向と対策、その結果としての勝利だし、感覚としては音ゲーやってるようなものだよ、ゲームの敵なんて避け方、倒し方に定石があるのが普通でしょ、ボクはセオリー通りに戦っただけで、二刀流の彼みたいにアドリブで戦ったりは出来ないから、多分そんなには強くないよ」
「いや、言ってる事はなんとなく理解出来るが、普通にバスターの攻撃は音ゲーの比較にならないくらい速いし、先ず反応出来てる時点で超人だってアレは、普通に卓球とかバドミントンとかやってもめちゃくちゃ強いんじゃないのかお前」
「うーん、どうだろうね、やった事ないから分かんないや、それで、ボクの仲間になるって事でいいよね、聖剣あげたんだし」
「いや、それは・・・」
全てのプレイヤーは、おそらく生き残る事を最優先事項としてプレイしている。
だがレインとモモは、明らかにその目的に反した行動をしている。
正直、そんな異端で規格外な奴らと、パーティーを組むなんて有り得ないだろう。
ダクネスとめぐみんに比べたらまだマシというレベルだ。
いや、奴らは善人確定してるし、デスゲームならまだまともに働く可能性はある、それに俺はカズマみたいな主人公じゃないから、こいつらのやらかしの尻拭いを完遂出来るとは限らない。
俺は想像してみる事にした。
レインがやらかしそうな一番やばい事、こいつの事はまだよく分からんが、こんだけ強いなら恐らく他のプレイヤーから注目されるし、命を狙われる可能性もある。
それでレインをおびき寄せるエサとして、俺が人質にされる可能性もあるかもしれない。
何故ならこれは善人と悪人が殺し合うデスゲームだからだ。
次にモモがやらかしそうな一番やばい事、こいつは人権意識が高すぎる、故に、間違いなく罠を仕掛けた悪人に騙されて、俺たちのアジトをばらしたり、無自覚に俺たちを悪人の巣窟に誘い込んだり、助けなくていい奴を助けて俺たちを窮地に陥れるかもしれない。
ダメだ、最悪を考えたら、とてもじゃないが組める相手では無い。
俺は聖剣を返してバイバイしようとコンソールを操作しようとするが。
「モモくん、キリリンはどうやらボクらの誠意をみたいそうだ、これはもう泣き落とししかないね、モモくん、キリリンの胸に抱きついてキリリンが満足するまで泣き落とすんだ」
「・・・っ、分かりました・・・!!」
「うおっ」
俺はモモに抱きつかれてまた身動きが取れなくなった。
「お願いしますキリヲさん、仲間になってください!、殺人鬼のいる世界で、絶対善人だって信じられるキリヲさんだけが頼りなんです、だからお願いします、仲間になってください!!」
「いや、俺が善人って、俺って結構悪人だぞ?、モモの事は利用価値でしか見てないし、必要なら殺しくらいは平気でやる、だってこれはゲームだからな」
「だろうね、君はそういう人間だ、〝必要ならやる〟そんな思想が言葉の端々から滲み出ている、でもだからボクは、無能で善人だけど君が欲しいと思ったんだよ」
「だからなんで、俺が善人だと思うんだよ、善人は猫を殺さないし、人を殺す事を肯定したりしないだろ」
「何言ってるんですかキリヲさん、キリヲさんが言ったんじゃないですか、猫も豚も〝お肉〟だと、差別する事は悪い事だと、だったら
──────────人も〝お肉〟で、私たちが生きる為に必要な〝糧〟だし、そして善人なら悪人を倒さなきゃいけないのは、このゲームのルールとして当然の事じゃないんですか、だから、〝必要な時だけ殺す〟そんなキリヲさんが善人じゃなかったら、この世界の善人は皆死ななきゃいけないって話じゃないですか」
「それは──────────」
レインが言っていたモモの優秀さ、それが何なのか、俺はそこで実感した。
俺はただ漠然と、生き残る為にはそれが効率的で必要だからと、殺しを肯定する事にしていたが。
モモはそれよりもはっきりと深い本質で、このゲームを理解しているという事なのである。
俺はこいつは悪人にも平気で施しを与える愚か者だと、勝手に見下して、見限っていたが、それはきっと間違いであり、モモはもしかしたら悪人すらも完璧に見抜いて、必要な時に必要なことが出来る人間、なのかもしれないと、その言葉を聞いて俺は思ってしまった。
そしてモモの言葉に俺は自分が善人である事を否定出来ず、ぐうの音もでないくらいに打ちのめされてしまったのである。
「お願いしますキリヲさん、私には善人のあなたが必要なんです、私が信頼出来るのはキリヲさんだけなんです、だからどうか、どうか」
モモからは痛みを感じるほどかなり強い力で締め付けられていた。
HPゲージが保護されていなければ、間違いなくダメージを受けるほどに強く、しかしそれは、この孤独な戦いを強いられるゲームの中で、嫌なものじゃなかった。
「キリリン、これで分かっただろ、モモくんは足でまといにならないならば、君がボクらを拒む理由は、今は存在しないんじゃないのかい」
「・・・お前が強いのを隠していれば、っていうのは流石に後の祭りか、まぁいい、分かった、認めてやる、お前らは俺の仲間になる相応しい人間だと、俺が認める、仲間になってやるよ」
「わざわざ言葉にしないと認められないなんて、君の性格はかなりひねくれたツンデレなんだね、男のツンデレは流行らないよ」
「ほっとけ・・・、組むからには、絶対生き残るからな、100歩譲って裏切るのは仕方ないが、死ぬのだけは許さないからな、一蓮托生、俺が死ぬまで絶対死ぬな」
こんな言葉が出るということは、間違いなく俺は仲間に飢えていたし、仲間を死なせたくないツンデレなんだろうなと、そこで初めての実感を得た。
「我ら生まれた日生まれた時は違えど、死す時は同じ日同じ時を願わんという奴ですね、桃園の誓いみたいです」
「だったらボクは関羽だね、知勇兼備、ボクっ娘だし、神様適正の高さもピッタリだ、これからはボクの事を関ちゃんと呼ぶといいよ、お義兄ちゃん」
「・・・俺を兄と呼ぶな、ギルド作るにしても団長はどう考えてもお前だろうが」
「ええ〜、聖剣あげたんだし団長くらい引き受けてよ、ボクは鉄砲玉要員だし、上に立つのは無理だよ、それともバカにしていた小娘二人も掌握出来ないの」
「私も、キリヲさんがリーダーの方がいいと思います、キリヲさん仲間想いだし、損得とか効率とかそういうの得意そうですし、キリヲさんがリーダーなら上手くやれそうな気がします」
確かに、俺の思想は政治家よりというか、合理主義や功利主義というか、そういう面で参謀向きではあるが、リーダーシップが取れるかは別の話だろう。
それに、リーダーになってしまえば辞められなくなるし、一生面倒みないといけなくなる。
多分、団員を守る為に自分の体を張るみたいな事も、〝必要ならば〟、する。
だから無責任で勝手気ままなヒラ団員の方がいいが。
だがどう考えてもレインにもモモにもリーダー適正は無いし、既に〝やるしかない〟状況に追い込まれていたのである。
「・・・ちっ、俺がリーダーやるからには、俺の足引っ張るなよ、そしたら即〝教育〟だから」
こうして俺はデスゲームでは絶対仲間にしてはいけないような、超特大時限爆弾の地雷女二人とパーティーを組んでしまったのである。




