46.MVP報酬
「そう言えばさ、ノワ、レイン今回からMVPが三人になってたけどさ、MVP報酬は何を貰ったんだ?」
次の日の朝、宿で俺がそう言うと、無言でレインは見慣れた八面体の水晶を俺に投げ捨てて。
ノワは思い出したようにストレージを確認した。
「ええと、これかな・・・、はい団長」
それは36面体、金平糖のような形状をした水晶であり、見るからにレインの報酬の上位互換的なアイテムだった。
俺はそれの説明文を表示させて読み上げる。
「ええと、自由転移水晶、1〜100の好きな階層の街に転移する事が出来る、対象4名、使用回数使い切り・・・か、レインのアイテムが強制ノーリスクゲームオーバーだとしたら、このアイテムはピンチの時の強制エスケープで使えるって事か?、どっちが有効かは分からないが、これもMVPの報酬に相応しい、チート級の効果だな」
実質、負け確ゲームオーバーを1回だけやり直せるという事は残機を増やせるに等しい効果だろう、対象が4名までなのが限定的ではあるものの、それも4人パーティーの俺たちからすれば関係ない話だ。
しかも今の時点で100階層に行けるというのも、かなり気になる話ではある。
街にある転移門は開放された街にしか飛べない仕様だが、仮にこのアイテムを二つ手に入れれば行きと帰りの往復が出来て、上位の街の強力なアイテムを手に入れる事が出来るからだ。
他にも脱出不可能とされているボス部屋の偵察に使ったり、ボス戦をスキップして未知の階層の探索に使ったりと、使い道は脱出に限らずにいくらでも思いつくような強力なアイテムである。
モンスターのレアドロップ武器みたくプレイヤーに対して直接的な恩恵がある訳では無いが、しかしレアドロップの武器なども、どうせ階層が上がるにつれてインフレに置いていかれるものだし、ならばこういった唯一無二の救済アイテムの方が役に立つ場面は多いだろう。
俺はこのアイテムをどう使おうか考えてから、一先ずノワに告げた。
「ノワ、このアイテムを俺にくれ、リーダーの俺が持ってた方が使い道も色々あって助かるだろう、代わりに俺が拾った『生命の種』をお前にやる、これなら釣り合ってるよな?」
そう言って俺は20階層で手に入れた『生命の種』、ボス戦後に拾った低レベルプレイヤー由来の種では無く、ノワが斬り殺した殺人鬼から生まれた種をノワに差し出した。
これらは取引の後に、ノワの〝取り分〟だからとラスコから俺が直接手渡されたものだった訳だが、自分で食う気にもなれず、しかし殺人鬼由来の『生命の種』なんてノワが食うとも思わなかったので保管していたものだった。
それを見てノワは遠慮がちに首を横に振る。
「え、いや、いいよ、団長には『天星』と『天華』貰ったし、それにそれ、オレが持ってても必要ない物だし、要らないからあげるよ、だからその種は団長が食うべきだ、だって団長は、まだレベル1なんだろう?、だったらさっさとレベル上げて蘇生魔法覚えるべきなんじゃないのか?」
「・・・確かに、少し前までならその方が安牌だったが、21階層から蘇生薬が買えるようになったし、錬金術による調合で効果値の高いポーションなんかも作れるようになったからな、俺がレベルを上げるメリットが俺の戦闘力の僅かな底上げくらいしか無くなった訳だが、だがお前は違うだろ、お前は─────俺たちのエースだ、だからお前が負けたら俺たち全員の沽券に関わる、だから〝今回は〟お前が食え、そんでラスコとバグル、両方ぶっ飛ばせるくらい強くなって俺を安心させてくれ、そしたら俺も、安心して自分のレベルを優先出来るようになるから」
俺は昨日強くなりたいと言ったノワの決意に応えるように、強くなれとノワの背中を押すように種を手渡した。
それにノワは感激を受けたように涙ぐんで受け取る。
「・・・団長!!、ありがとう団長、オレ、団長の分まで強くなるよ!!」
そう言ってノワは俺の差し出した『生命の種』を飲み込んだ。
そして飲み込んだノワは不可解そうな表情でステータスバーを表示させる。
「ん・・・?、あれ、なんか急にレベルが10個くらい上がったんだけど・・・」
「へぇ、じゃああれかもな、ボス部屋では大量にプレイヤーが死んだ訳だし、そこで『生命の種』を拾っては食われ拾っては食われを繰り返して〝濃縮〟された当たりの種だったのかもな、運が良かったな、羨ましいぜ」
俺は殺人鬼由来の『生命の種』であるとは敢えて言わずにとぼけてみせた。
そして思い出した風に今度はモモに言ってやった。
「あ、そうだ、おいモモ」
「は、はい、何ですか急に?」
モモは俺から話しかけられた事に何か小言を言われるのかと警戒していたが、俺はそんなモモにイラつきながらも柔和な態度で続けた。
「お前、今回はちゃんと俺のいいつけ通り振り返らずに宿まで走ってちゃんと引き篭っていたんだよな?」
俺がそう言うとモモはドキッとしたような後ろめたい表情を見せるものの頷いて、重々しく答えた。
「え、えぇ、最初は「また訳わかんない暴走が始まったのかな」って、気が気では無かったんですけど、でもよくよく考えてみたらしぶとさだけは誰にも負けないキリヲさんが、あの状況で簡単に死ぬはずも無いかって思って、それでまぁスイーツ巡りもしたかったんですけど、またネチネチ小言言われるのも嫌だったんで、言いつけ通りにしただけです」
ツンデレなのか天然なのか、言葉の端々に俺への嫌味が含まれていたが、俺はとにもかくにも言いつけを守ったモモを褒めそやして、モモを笑顔で賞賛してやる。
「偉い!!、モモ!!、お前は偉いぞ、ご褒美にこれをやろう!!」
そう言って俺は2個目の殺人鬼由来の『生命の種』を取り出してモモに手渡した。
「ええ!?、これ、『生命の種』じゃないですか?、どうして私に!?、何か裏とかあるんじゃないですか?」
モモはそんな失礼な態度で俺の好意を無下にしようとするが、俺は甚だしくイラつきつつも、にこやかにモモに言ってやった。
「いい子にはご褒美をあげる、当然の話だ、お前は今回、予備の聖女として活躍してくれたし、バカ二人と違って俺の言う事ちゃんと聞いてくれたからな、俺からのMVP報酬みたいなもんだし、素直な感謝と労いの気持ちだよ、不服か?」
「い、いえ、でも、本当に、貰ってもいいんですかね?」
その言葉に納得したのか頷きつつも、それでもモモは遠慮がちだったので、俺は優しく諭してやる。
「お前も今回のボス戦で理解しただろ、【聖女】はリスクの高いポジションだって、だからお前が低レベルだと攻略自体に不利がつくんだよ、お前はパーティーだけじゃない、この攻略組全体の王将みたいな存在なんだから、だったらお前が強くなるのは全体の利益になるって話だし、妥当性しか無いだろ」
「・・・分かりました、確かに言う通りです、なのでありがたく頂きます」
そう言ってモモが種を飲み込むのを、俺はしっかりと見守った。
「・・・って、あれ?、私までレベルが10くらい上がってるんですけど!?、え、こんな事ってあるんですか?」
俺は追求されるのも面倒なので、大根役者なりの演技でとぼけて見せる。
「え!?、まじかよ、クッソ、ちょっと恩を売っておいて次からも従順になってもらおうって意図で渡したのに、まさかそっちも当たりの種だったのかよ、しくった〜、おいモモ、スキルポイントに余裕出来たからって変なスキル取るんじゃねぇぞ、ステータスもHP500になるまでは他に振るの禁止だからな!!」
「わ、分かってますよ、ほら、HP500になりました、えーと、スキルポイントはどうしましょう?」
「まぁ隠密とれる【暗殺者】や【盗賊】とか頑丈取れる【肉体強化】系のスキルも欲しい所ではあるが、先ずは【強化魔法】のパッシブ効果である、味方強化範囲向上と強化値上昇のスキル取っとくべきだろう、【強化魔法】の上位スキルである《無敵の加護》は短時間とはいえ最強状態付与無敵付与で使い所さんに困らない強力魔法だしな、取り敢えず【強化魔法】をマックスの10まで上げろ」
俺は獲得する予定のスキルについては一通り調べて頭に入れていた。
なのでモモのステ振りに関しても、レベル30までなら既に構想が固まっていたのである。
「分かりました、確かに無敵付与はすごいですね・・・って、これMP消費100ですか、効果時間5秒、ほぼ1回しか使えないスキルでこれって・・・本当に使い道あるんですか?、MP吸い取る敵とかもいる訳ですし、MP100だと運用も難しそうですが・・・」
「だったら残りはMPに振れ、そんでスキルポイントも余ってるなら【自己回復】に全ツッパしろ、俺の計算によればHPを500にして、【自己回復】レベル6の、時間回復Ⅲ、毎秒1%回復のパッシブスキルを獲得すれば、レベル1のプレイヤーからの攻撃に限り、1分間無抵抗で殴られ続けても死なないし、仮にお前が落とし穴に落ちてゴブリンの群れに袋叩きにされても死ななくなって生存率が飛躍的に向上する」
「・・・どんな状況を想定して言ってるのか分かりませんが、まぁ貰った種でのレベルアップですし、分かりました、言う通りにします」
「まるで自分で見つけた種なら俺の意見に逆らうとでも言わんばかりの態度だが、今は見逃してやろう」
モモが言った通りにステ振りするのを確認し終えるとそこでレインが俺に言ってきた。
「ねぇ、ボクには何も無いわけ?、ボクだって色々頑張ってんだけど」
生意気で自由気ままな上で淡白な奴だが、それでもこんな風に時おり拗ねた態度も見せてくる。
そんな気まぐれで世話のかかる性格なのは分かっていたので、俺は仕方無しに折れた。
「・・・お前は言う事聞かない側だったから渡す理由が無い・・・けど、・・・まぁいいか、仲間外れは可哀想だもんな」
そう言って俺は持っていた最後の『生命の種』、攻略組の死者から出来た恐らく低レベルの種をレインに手渡すと、レインは喜びもせずに口に放り込んだ。
俺は低レベルと知りつつもレインに聞いた。
「どうだレイン、まさかそれも当たりだったとかは言わないよな?」
それに対してレインはステータスバーを表示すらせずにそっけなく答えた。
最近のこいつはかなり秘密主義であり不穏だが、果たして何かどんでん返しが起こる予兆でもあるのか、俺は僅かに警戒している。
そんな俺にレインはいつもの調子で、人を食ったように白でも黒でもない答えを返した。
「ん、まぁまずまずかな、結果はキリリンの想像に任せるよ、でも人に配れるだけの種を持ってるなんてキリリンは太っ腹だね、もしかしてまだ持ってたりする?」
「いいや、これで全部だよ、ま、今回のはきついボス戦を無事に生き残ってくれたお前らに対する、俺からの精一杯の感謝の気持ちだと思って受け取ってくれ」
「ふうん、そっか、じゃあ有難く頂戴しておくよ、ねぇ、キリリン、そんな風に自分より他人を優先するなんて、そんなにボクらに執着してるって事でいいのかな」
確かに、自己犠牲マンのような腑抜けた行動だったが、恩を押し売りする行為もまた、相手によっては有効になるというだけだ。
レインはともかく、ノワとモモはレベル1の俺より遥かに危なっかしい、パーティ全体の利益を考えた時に、その方が得だと思っただけ。
・・・それで言えば、レインに渡したのは俺の100%の厚意という事になるが、ま、拗ねられても困る奴なので、恩を売る価値はあるだろう。
それに今回は前回レインがくれた『現実帰還水晶』がおおいに役に立ってくれた訳だし、それの代金と考えたら等価交換でもある。
だから誓っても自己犠牲マンの善意とかでは無い。
そんな感情的で理性的な行動に名前をつけるならば。
「・・・さぁな、素直に言えば、俺はお前らの事が疑いようもなく好きだが、だがお前らが死んだ時に、俺が泣けるのか分からないし自信が無い、だからお前らが死んだ時に俺が確実に泣ける為の布石として、お前らに〝投資〟しているだけ、なのかもな」
素直に恩を押し売りしてるとは言えないので、そんな風な婉曲的な言い回しだが、つまるところ、俺はそういう〝最悪〟を想定して常に行動する人間性であるという事だ。
「ふ・・・、相変わらず歪んでるねぇ、君のそういう所はボクも嫌いじゃないよ、君の無知であるが故に知りたがるその気質は、非人間的でありながらも人間であろうとしていてとても滑稽で哀れだ、キリリンがちゃんと泣ける人間である事を、さしでがましいけどボクも祈らせて貰うよ」
「・・・いや、俺が泣くような状況には本当はなって欲しくないんだがな、まぁ、今の発言からすると、そう取られても仕方無い、か」
俺はそう一人ごちた後に、今後の方針についてを簡単に説明した。
特に特筆することも無い、今まで通り日銭を稼ぎつつ情報を集め、存在感を消しつつ、影響力は保持し続ける伏兵としての立ち回り。
その立ち回りを変更せざるを得ない潮目の変わりが来た訳だが、一先ずは現状維持に徹する、それがこの時点の方針だ。
最悪に対する心構えさえあれば、仮に最悪が訪れても対処出来る、そんな俺の、楽観的な慎重という訳である。
だから俺は、本当の意味では、最悪の想定はしていなかった、という事だったのだろう⎯⎯⎯⎯⎯⎯。
殺人鬼ギルドの登場により、プレイヤー達の活動はおおいに活発となり、殺人鬼達に対抗するもの、賛同するもの、そしてその狭間に立って両者の板挟みになるもの、様々に分割された。
その展開の中で大きく変わった事は、全てのプレイヤーがこのデスゲームに参加する当事者意識を持って、生きるか死ぬかの戦いに身を投じざるを得ない状況になったという事だ。
それによりデスゲームによる死者は加速度的に増加して、僅か1ヶ月で半数のプレイヤーである5000人が死亡したが、それでもゲームがクリアされることは無く、この無慈悲で理不尽なデスゲームは続けられる事となった。
そして佳境を迎えた戦争は遂に大規模な衝突へと発展し、世界の趨勢が大きく揺らぐ事となる。
1ヶ月半もかかっちゃいました(><)
シナリオは最初に完成してるんですが、それを肉付けするアイデアが思ったよりもポンポン出てこなくて、毎日考えるのが頭体操にしても結構大変でした(><)
ここまでお付き合い頂いた方、本当にありがとうこざいます
m(_ _)m
4章は転、5章は結になるような、そんなどんでん返しの展開を用意しておりますので、この先もお付き合い頂ければ幸いです
m(_ _)m




