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7.ご機嫌伺い

翌朝の朝食。

昨日の気楽な一人飯とは一変。重い足取りでサロンに向かう。


「おはようございます。侯爵様」


そう挨拶をして、席に着く。

最近は笑顔をすら作れなくなったな・・・。


食事が運ばれてきたとき、アーサーが口を開いた。


「昨日、マイクから聞いた。だいぶご機嫌だったと。何か良い事があったのか?」


わあ! 喋った! また喋った! なになに? どうした?


私はちょうどフォークを口に運んでいる体勢で固まってしまい、口を開いた状態でアーサーの方を見た。


「・・・」

「・・・」


私はそのままの状態で目線をマイクに向けた。マイクはマイクで、驚いて固まっている私に驚いたようだ。何か不味いことを言ってしまったのかと、目が泳いでいる。


私は口を閉じ、ゆっくりフォークを下ろすと、


「そんな。いつも通りでしたわ」


にっこりと笑った。


『あんたがいなかったから、気楽だったんだよ!』


と、声を大にして言ってしまいたいが、もちろん言えるわけもなく。


「・・・報告と違うな・・・」


アーサーはチラリとマイクを見た。マイクは困ったように私を見る。

なんでそんな懇願するような目で見るのよ! ああ、確かに昨日ははしゃいじゃいましたけど? それが何か? ってか、何でそんなこと報告すんのよ!


「確かに、昨日は気分が良かったので。でも特別に何かがあったとかいう訳ではございませんわ」


「・・・そうか」


「はい」


私は返事をすると、すぐに食事に取り掛かった。

猛烈にイライラする。


何よ! 私ははしゃいでもいけないんかい? ご機嫌になっても悪いのかい?


苛立ちが凄すぎて、ナイフとフォークに力が入り過ぎ、カチャカチャと音を立ててしまう。

ああ、これはいかん! 今日はもう退散しよう。


「今朝は食欲がありませんの。もう失礼しますわ」


私は作り笑顔をすることも忘れて、サロンを出て行った。





仕事に行く夫を見送る気はないので、彼が出て行くまで自分の部屋でまったりしていようと思っていると、執事のマイクが私付きの侍女メアリーと一緒にやって来た。


「奥様。お加減は如何でしょうか? 食欲がないとのことですので、食べやすいようにスープをお持ちしました」


「え? あ、ありがとう」


そういう意味の食欲がないわけでは・・・。

気を遣わせちゃったわ。


メアリーはいそいそと食事をテーブルに置く。


「奥様。召し上がれそうですか? お辛いですか?」


「いやいやいや! ぜーんぜん! さっきはちょっとムカついて・・・じゃなくて、イラついて・・・でもなく、少しだけ胃がムカムカして食欲が無かっただけなの。もう大丈夫よ。ありがとう。頂くわ」


私はソファーに座って用意してくれた野菜スープを食べ始めた。


「美味しーっ!」


朝食を抜いてお腹が空いていたし、気も楽だから余計に美味しい!

あっという間に平らげた。その食べっぷりに二人は唖然としている。

そりゃそうだ。具合が悪いと思ったようだからね。


「お元気そうで、ようございました。旦那様が心配しておりました」


「え・・・?」


「食べやすいものを部屋に持って行くようにと旦那様のご指示でして」


なんでまた・・・?


「あの・・・奥様。私は失言してしまったようでお許しくださいませ」


マイクは深々と頭を下げた。


「昨日の夜は本当に奥様がご機嫌のようでしたので、つい旦那様にご報告を・・・。奥様にとってはご迷惑だったようで・・・」


本当だ。まったく!


「旦那様が奥様のご機嫌の理由を知りたかったのは・・・、奥様の事をお考えになられてのことです」


「は?」


「どうしたら奥様の機嫌がよくなるか、悩んでいらっしゃいましたから」


「へ?」


いやいやいや、それは無いと思います。

だって、あの人、私の事めちゃめちゃ嫌いみたいだし。


「お許しください。奥様。本来なら私ごときが口を挟むべきではないことは重々承知でございます」


マイクは上げた頭をもう一度下げた。


「えっと、マイクの勘違いじゃないかしら? 私は旦那様に嫌われているのよ? それは見ていて分かるでしょう? これ以上付きまとうのは逆に旦那様に酷な事と思うので、自重することにしたのよ」


「嫌われているですと・・・?」


マイクは顔を上げ、真っ青な顔で私を見た。


「ええ、そうよ。婚約時代にも愛することは無いって言われたし」


「それは・・・、そんなことはございません! 奥様!」


「本当よ。私が嘘吐いているとでも?」


「いいえ、滅相もございません。ですが、幼い頃より旦那様に仕えている身。旦那様のことはよく分かっているつもりでございます。奥様を嫌うなど・・・。奥様をとても大切に思っているはずでございます!」


「でも、未だに夜はお部屋にはいらっしゃらないわよ?」


「それは・・・」


マイクは言い淀んだ。


「それがいい証拠でしょう。それに、あの方は私の顔なんて見もしないじゃない。にっこりと微笑みかけたって、怒ったようにすぐ顔を背けるもの。それをすぐ傍で見ていながら、知らないとは言わせないわよ、マイク」


「そ、それは・・・」


マイクはやはりはっきりと否定できず、言葉に詰まっている。

別にマイクを責めても仕方がない。


「もう止めましょう。私もあなたに当たりたくないわ。ごめんなさい、メアリーも」


私たち二人のやり取りをオロオロと見ていたメアリーに声を掛けた。


「スープは美味しかったわ。どうもありがとう。食後のお茶を頂ける?」


「かしこまりました」


マイクもこれ以上の反論は諦め、二人は頭を下げて部屋から出て行った。



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