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60.別れ

「なあ、ローゼ。ジジイに逃げられちゃったけど、呪いはどうなったんだ?」


私の腕の中でアレクは心配そうに尋ねた。

アレクは魔力で暗闇を仄かに照らしてくれていた。


「それがね・・・」


私は去り際の悪魔の言葉を思い出す。


『今回は特別だ。呪いを解いてやったぞ。有難く思うんだな』


確かにそう言った。

そして、確かに腕を食べたのだ。この目で見たのだ。でも、私の腕はちゃんと付いている。

じゃあ、あの腕は誰の腕なんだ?


「そう言えば・・・」


他にも何か言っていた。


「亡霊の腕って言っていた気がする・・・」


「は?」


「もしかしたら・・・」


アレクの頭を撫でていた手を止めた。アレクは不思議そうに首を傾げた。


「分かったかもしれない・・・。誰の腕か・・・」


「は? わっ、うぐっ、苦しっ!」


私はまたまたアレクをギュッと抱きしめた。


「本当に感謝だわ! いろいろな人に守られて助けられて! 本当に本当に私は幸せ者ね!」


「よく分かんないけど放せっ!」


「大丈夫よ、アレク! 呪いは解いてもらったの!」


「そうか、分かった! 解いてもらったんなら良かったな! とにかく放せって! 苦しー!」


「アレクにも感謝~~! 大好きよ~!」


「分かった分かった! もう放せってばぁ!」


そうだ! きっとあの人の腕だ! あの人の!


ジタバタ暴れるアレクに軽く腹に蹴りを入れられた。私は慌てて謝りながら力を緩めた。





仄かな明かりの中、私はアレクと向かい合った。


「じゃあ、お前を人間の世界に帰すぞ」


「ええ、お願いね。アレク」


「おう・・・」


「・・・」


「・・・」


二人の間に沈黙が流れる。

堪らなく寂しさが込み上げてくる。


「だから、泣くなってば、ローゼ。帰れるんだからさ」


「うんうん・・・。でも、アレクとはお別れなんでしょ? もう会えないんでしょ?」


「そうだけどさ・・・」


アレクの耳が寂し気に少し垂れた。


「呼んだらまた来てくれる・・・?」


「うーん、それは約束できないけど・・・。でもその時は今度こそちゃんと『願い』決めてくれよ?」


「ふふ、そうね」


私は泣きながら無理やり微笑んだ。


きっと今後彼を呼ぶことはないだろう。本当ならやってはいけないことなのだから。

ここで永遠にさようならだ。


私はアレクの両手を取った。


「アレク、私のところに来てくれて本当にありがとう。あなたのことは絶対に死ぬまで忘れないわ。会えなくても私はずっとあなたのお友達よ。いつもあなたのことを想ってる。大好きよ、アレク」


アレクは瞬きしながら私を見た。だが、すぐに丸まった目が細くなり、口元も弧を描いた。


「うん。俺もローゼの友達だ」


私は最後にアレクを抱きしめようとした時、自分の左手にしているブレスレットに気が付いた。


「あ、そうだ!」


私は急いでブレスレットを外し、アレクの首に掛けた。

ネックレスにしては少し長いが、金色がアレクの緑がかった灰色の肌に映える。どこか悪魔っぽさが増した気がする。何かちょっと悪そうで格好良いかも。


「うん、似合う似合う」


私は満足気に頷いた。


「アレク。これはお友達の証よ。私のことを忘れないでね」


「絶対に忘れないぞ! 忘れるもんか!」


アレクは私の胸に飛び付いた。

私はそんなアレクを抱きしめる。


「じゃあ、行くぞ!」


アレクがそう言うと、私たちは上に向かって上昇し始めた。


グングンとすごいスピードで上昇して行く。

落ちる時と同じくらいのスピードだ。頭に強い風圧を感じる。それでも胸にアレクを抱いているせいで怖くはない。


どこまで登っただろう?

頭上に薄らと明かりが見えてきた。


「ローゼ。俺に名前をくれてありがとう。俺、これから他の奴らにも『アレク』って呼ばせるよ。自慢してやるんだ。俺には名前があるんだって!」


胸に抱いていたアレクが私を見上げて笑った。最後の別れの時がやって来たのだ。

私はアレクの額にキスを落とした。


「じゃあな! ローゼ、元気でな!」


「アレク! 大好きよ! 大好きよ!」


他にも伝えたい言葉はいっぱいあるのにこの言葉しか出てこない。


「アレクっ!」


そう叫んだ時にはもうアレクは私の腕から姿を消していた。

アレクを抱きしめていたはずの腕を呆然と見つめる。その間も私の体はグングンと上昇していき、頭上にある光にどんどん近づいていく。


「アレクーっ! 元気でねー!」


私は下に広がる暗闇に叫んだ。同時に白い光に到達し、その中に吸い込まれていった。



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