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59.腕

足元に転がった腕を見て、息が止まりそうになった。


「う・・・、腕・・・?」


腕・・・。私の・・・。私の腕・・・!


痛みは感じない。でも、確かに腕が落ちている・・・。

私はその場に崩れ落ちた。


向かいから悪魔がゆっくりと近づいてくる。私は呆然と彼を見つめた。


「ローゼーー!!」


その時、私の背後から大きな声が聞こえたと思ったら、同時に真っ白な光の線が飛んできた。

それは私の横を擦り抜き、真っ直ぐ悪魔に向かって行く。


「チッ!」


悪魔は舌打ちをしながら光を避けた。


「ローゼ! 大丈夫か?!」


アレクが私の胸に飛び込んできた。


「ローゼ! ケガはないか? 変な事されなかったか?」


「アレク・・・」


私はボーッとアレクを見つめた。

アレクは私の胸から飛び出すと、悪魔に向かって行った。


「おい! クソジジイ! さっきはよくもやってくれたな!!」


「ふん、邪魔立てなどするからだ。ガキの分際で」


「なんだとぉ! そっちこそ老いぼれのくせにーっ!」


アレクがもう一度光を放とうと手をかざしたが、悪魔が発する方が早かった。アレクはその光を腕にかすってしまい、バランスを崩した。


その隙に悪魔は私の足元に転がっていた腕を拾い上げた。


「本当なら欲しいのはこの腕ではなかったんだがな。血肉の無い亡霊の腕など。まあ、誠意として受け取ってやる」


そう言って、拾った腕を一気に飲み込こんだ。


あ・・・。食べてしまった・・・。私の腕・・・。もう、無くなってしまった、完全に。


私は頭が真っ白になった。

悪魔はそんな私を一瞥すると、指を鳴らした。


「ふん。これで大目に見てやる。これ以上お前らに付き合うのも面倒だ。呪いを解いてやったぞ。有難く思うんだな」


そこにまた悪魔に向かって強い光の線が放たれた。アレクだ。悪魔は面倒臭そうにヒョイッ避けると、信じられないスピードで一気に上に向かって上昇して行き、あっという間に姿が見えなくなった。


「あーー! 逃げやがったぁ! くそー、後で覚えてろよー!」


アレクは悔しそうに叫んだが、後を追うことなく、すぐに私のもとに飛んできた。


「ローゼ! 大丈夫だったか?」


アレクは私の胸に抱き付いた。


「アレク・・・。アレク・・・。腕が・・・。私の腕が・・・」


今になって私の瞳からボタボタと涙が零れだした。


「腕・・・、食べられちゃった・・・。私の腕・・・」


「何言ってんだ? 腕はちゃんとあるぞ?」


アレクが首を傾げている。


「え・・・? だって・・・。さっき・・・取られちゃったんだけど・・・」


「じゃあ、何で両手で涙を拭いてんだ?」


「あ゛・・・」


あれ・・・?

私は改めて自分の涙を拭いていた手を見る。確かに両手で目を拭いていた。


「えええーーー!?」


「声デカイって!」


アレクが大きな耳を両手で塞いだ。


「アーレークー! 腕があるーー!」


私はギューッと力一杯アレクを抱きしめた。

うげっという苦し気な声が聞こえたが、構わずギューッと抱きしめた。





「アレク! アレク! 無事だったのね! 助けに来てくれたのね! ありがとう!

ありがとう! ありがとぉーー!」


私はアレクに何度も頬擦りをした。


「本当にごめんね。私のせいで何度も何度も痛い思いをさせちゃって。さっきも痛かったでしょう?」


「ふん! あんな程度痛いもんか!」


「でも、ビクビク痙攣して気を失っちゃったでしょ? すごく痛かったよね? 大丈夫?」


「ちがーう! 気失ってなんていないぞ! ちょっと寝ちゃっただけだ!! 俺は強いんだからな、本当は! あんな老いぼれ、ボッコボコに出来たんだからな!」


「そうかぁ、そうかぁ。アレクは強いのね。うんうん、知ってるわ。でもごめんね。もう痛くない?」


「痛くない! もうっ、しつこいなぁ!」


アレクは頬擦りする私の顔を両手でグイっと押しやった。

つれないこの仕草も可愛くって愛おしい。


「それより、お前を人間の世界に返さなきゃ。アーサーの願いなんだ」


「アーサー様の?」


「おう」


アレクは大きく頷いた。


「『ローゼを無事に連れ戻してくれ』ってさ。ちゃんと血も貰ったんだ。だからその願いを叶えないと」


そうだ。アーサーは私が連れ去られるところを目撃したんだ。どれだけ心配しているだろう。きっと今頃生きた心地もしていないに違いない。早く帰ってあげないと!


「本当なら、アーサーが俺を召喚したわけじゃないから願いを叶えてやる必要はないんだけどな。あいつ、死にそうな顔して頼んできたから、今回は特別だぞ!」


アレクはちょっと意地悪い顔をしてニッと笑った。


「まあ、ありがとう。でも、それじゃあ、アレクはアーサー様に頼まれなければ来てくれなかったのね・・・」


私はわざとシュンとして見せた。


「べ、別に、そういうわけじゃないぞ! ただ、人間を連れ戻すにはエネルギーがいるんだ! それには血がいるから、アーサーに血を寄こせって頼ん・・・命令してだなー、そのなー」


「ありがとう! アレク。あなたからアーサー様に頼んでくれたのね?」


「ちがう! アーサーが俺に頼んだんだ! あいつが俺に懇願したんだ! だから助けに来てやったんだ!」


もちろん、アレクが言っていることも絶対に本当だろう。

だが、私が言っていることも絶対に間違っていない。アレクは悪魔なだけに素直じゃない。


二人がお互いに私のことを思ってくれたことに胸が熱くなる。


「もう! 何でまた泣くんだよー、泣き虫だなぁ、ローゼは」


「だって、嬉しいんだもん」


「嬉しいのに何で泣くんだ?」


「人間はね、嬉しくても涙が出る生き物なのよ。ありがとう、アレク」


私は不思議そうな顔をしているアレクの頭を優しく撫でると、もう一度抱きしめた。



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