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51.お説教

私が呆然と立ち尽くしていると、アーサーはゆっくりと立ち上がった。

大きく深呼吸し、コホンと咳払いすると、


「それよりも、ローゼ」


少し深刻そうな顔をこちらに向けた。そして、私の傍にやって来るとアレクを指差した。


「これは一体どういうことだ?」


「え、そ、そのですね・・・」


恥ずかしが抜けきらないところに、隠し事がバレて軽くパニックを起こし、まともに答えられない。


「どう見てもこの世のものではなさそうだ」


「はい・・・。悪魔です・・・。私が呼び寄せました」


「貴女という人は・・・、本当に・・・」


アーサーは額に手を当て、呆れ返ったようにはあ~~と溜息を付いた。


「あれだけ危険な真似はしないようにと言ったのに、聞いていなかったのか? それとも故意に破ったのか?」


「ご、ごめんなさい」


メアリーに続き二度目の説教。ここは素直に謝った。


「本当に無謀過ぎる。今後は絶対にやめてくれ」


いつになく厳しい口調のアーサーに、私はシュンと項垂れた。


「はい・・・。申し訳ございませんでした」


「本当だ。お陰で巻き込まれたんだからな、こっちは」


しおらしく頭を下げている横でアレクが横槍を入れてくる。カチンときてアレクを睨んだ。


「悪いと思ってるわよ。だから、あなたにも何度も謝ってるじゃない」


「悪いと思っているなら早く何か願え!」


「夜中までには考えるから、ちょっと待ってなさいよ! しつこいわね!」


「なんだと!」


「まあまあ、待ってくれ」


私とアレクの間にアーサーが割って入った。


「とにかく、この状況を私にしっかりと説明してくれ。まだよく話が見えていないんだ」


「はい。すいません・・・」


私は眉間に手を当てて大きく溜息を付くアーサーにもう一度謝った。





「まったく、貴女には驚かされてばかりだ。なぜかメアリーが部屋に入らせないようにしたので不審に思ったが、まさか悪魔を召喚していたとは・・・」


「元凶ジジ・・・ウィリアム様が残したノートを発見したのです。それに召喚方法が書いてあったので興奮してしまって、つい・・・」


「『つい』ですることではないと思うが」


「はい・・・」


私は項垂れながら、ウィリアムのノートをアーサーに差し出した。アーサーは受け取るとパラパラと中をめくった。


「それと、こちらが原本・・・禁書ですわ」


傍にあるテーブルに置いていた禁書も差し出した。アーサーはノートを私に戻すと禁書を手に取った。


「この類の本はすべて燃やしたと聞いていたが、残っていたんだな・・・」


「はい。屋根裏部屋の研究室に隠し棚があって、そこに保管されておりました」


「そうか・・・」


本に目を落としたままアーサーは黙ってしまった。

うーん、怒っていると分かっている人に黙られると地味にビビる。


「あ、あの、アーサー様・・・?」


恐る恐るアーサーに声を掛けた。我々の様子なんぞ全く気にしていないアレクは横で呑気に欠伸をしている。


「まだ怒ってますか・・・? 怒ってますよね・・・」


「いや・・・怒ってなどいない」


アーサーはそっと本をテーブルに置いた。


「確かに黒魔術を実践したことは褒められることではないし、まったく感心しない。だが貴女の根気の強さと行動力には感服する・・・。そして同時に、貴女にこんなにも苦労を掛けてしまったことを情けなく思う」


「苦労だなんて・・・」


首を横に振る私にアーサーは手を伸ばすと、ギュッと抱きしめた。


「怒ってなんていない。むしろ感謝している。ただ心配なんだ。もう無茶をしないでくれ」


「はい。ごめんなさい」


私も彼の背中に手を回し、ギュッと力を込めた。

彼の体温がジンワリ伝わってくる。ホッとすると同時に胸が熱くなる。暫らくそうしていたかったが、優しく体を離されたので顔を上げた。熱い眼差しでアーサーが私を見下ろしている。

そっと目を閉じたその時、


「なあ、俺、腹が減ったんだけど。何か食い物ない?」


デリカシーの無い言葉が聞こえ、私たちは慌てて離れた。





ちょうどお昼の時間になったので、メアリーに昼食の用意をお願いした。

私は悪魔を腕に抱き、アーサーと三人で一緒に食事を始めた。


「それにしても、アーサー様はアレクを見てもちっとも驚きませんでしたわね。アーサー様だって悪魔を見たのは初めてでしょう?」


私はアレクにジャムをたっぷり塗ったパンを食べさせながら、アーサーに尋ねた。

アレクは甘いものが好きなのか、幸せそうに眼を細め、モグモグ食べている。醜い顔のはずなのに、可愛らしくて仕方がない。


「いや、もちろん驚いたが、それよりも貴女の発言の方が衝撃的だったから・・・」


「っ!!」


今度は私の方が衝撃を食らって、アレクに与えていたパンを彼の顔に押し当ててしまった。


「むぐっ・・・」


一気にパンを口に突っ込まれ、バタつくアレク。


「何すんだよぉ」


「ご、ごめん!」


私は慌てて手を放し、顔中についてしまったジャムを丁寧にハンカチで拭った。そして咳き込むアレクに紅茶を飲ませようとした。


「熱い・・・」


アレクのピンと尖った耳が垂れる。

う・・・、可愛い・・・。


「そう? ちょっと待ってね」


私は紅茶にフーフーと息をかけ、少し冷ましてから彼の口にカップを運んだ。

アレクはチビチビとゆっくり紅茶をすする。私が持っているカップに一緒になって両手を添えて飲む様が何とも可愛らしい。


く~~っと萌えているところに、給仕をしていたメアリーがスッと寄ってきた。


「奥様・・・」


メアリーを見ると何やら目配せする。その方向を見ると。

あ・・・。


背後にゴゴゴゴォー!っという効果音と黒い渦を背負ったアーサーがジトっとこちらを見ていた。


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