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2.思い出した

「そうだった・・・、私、もうすぐ結婚するんだったわ・・・」


前世の記憶ばかりに思いをはせ過ぎて、現世の現状を忘れていた。それを思い出した私は慌てふためいた。


「そ、そうよ、もうすぐ・・・。って、あれ? あと10日後じゃなかったっけ? ちょっと私、どれだけ眠ってた? 今いつよ? もしかして一週間切った?」


鏡の前で一人オロオロしていると、カチャッと扉が開く音が聞こえた。

振り向くと、メイドが水の入った桶とタオルをもって入ってきた。起きている私と目が合って、一瞬驚いた顔をしたが、それは見る見る歓喜の顔に変わっていった。


「お嬢様! お目覚めですか!? ああ! 良かった!!」


小走りでベッドのサイドテーブルに桶とタオルを置くと、私の傍に駆け寄って手を取り、背中を支えた。


「立ち上がって大丈夫ですか? 眩暈はしませんか? もう一度ベッドにお戻りください。すぐに旦那様と奥様をお呼びしますね」


「大丈夫よ、マリアンヌ。気分はもうすっかり良いのよ」


「そうですか。それでも横になってください。突然寝込まれてしまって、目覚めたと思ったらまた丸一日目覚めずに・・・。その間、何も召し上がっていないのですよ。さあ、横になってください」


彼女は私専属の侍女、マリアンヌ。

彼女によって有無を言わせずベッドに戻される。


丸一日というのは、目覚めた後のひどい頭痛で気を失ってからか。一日も眠っていたのね。


「ねえ、マリアンヌ。その前・・・。目が覚めてもう一度気絶する前。その前に熱が出て倒れたでしょう? その時はどのくらい眠っていたの?」


ベッドに潜りながらマリアンヌに尋ねた。


「三日ですよ! 三日! もう、どんなに心配したことか・・・」


マリアンヌはまるで説教でもしているような口調で私に布団を掛けた。

まあ、心配し過ぎてつい小言になっちゃったんでしょうね。


三日か・・・。そして丸一日・・・。


「ってことは、結婚式まで一週間切ってる・・・」


「そうですわ! お嬢様が待ち焦がれていた結婚式ですよ! それまでにしっかり体調を戻しましょうね!」


「待ち焦がれてた・・・」


私は思わず天蓋を見つめながら呟いた。

その呟きはマリアンヌには聞こえなかったようだ。


「すぐ旦那様と奥様をお呼びします。お医者様も手配いたしますからね」


彼女は早口でそう言うと、足早に部屋から出て行った。


「待ち焦がれていた・・・か・・・」


私はもう一度呟いた。


そうだ。思い出した。確かに待ち焦がれていた。

半年前に決まった結婚式。招待客からドレスから全てが整い、浮かれまくっていた。

ウエディングドレスもマリアンヌに止められながらも、何度試着しただろう?

その度に、これから迎える栄えある日を、明るく輝かしい未来を思い描き、心躍らせていたのだ。今思えば、あの時が一番に幸せな時だった。


そんな幸福絶頂にいた私は、突如、奈落の底に叩きつけられたのだ。


それも、事もあろうに未来の夫となる婚約者本人によって。


『君も分かっているとは思うが、これは政略結婚だ。私に愛されたいという思いを持っていたら捨ててくれ。その期待には応えられない』


そう伝えられたのだ。結婚式前の最後の顔合わせの席で。

それが五日前。


そして、その翌日、ショックのせいか熱を出して倒れたのだった。



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