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天帝王記  作者: Z−1
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第七章:動き出す国々

朝日が顔を覗かせ始めたとき、街は黒く崩れ去っていた。

戦場の傷跡として、街は炎と血の渦に沈んだ。そして、その渦に多くの人が飲み込まれ、死んでいった。


「街の火は全て鎮火しました。住民の避難も完了、ベリオル王と連携をとり、避難民の保護をするだけとなりました」

ビビットが疲れた顔で、バレルに報告を済ませる。頷くバレルの顔にも疲れの色が出ている。

あの後、ヨハンを名乗る牙の軍勢を押し返すのに、夜明けまで戦いがあった。離れた村から一気に駆けつけ、戦をしたというのもあり、兵達にも交代で休息を取らせている。

「深追いはしなかった分、立て直すのにそう時間は掛からないだろうが、それは牙の連中も同じことだろうな」

街での戦いに最後まで助力してくれた男、バンセツが呟く。その言葉遣いにビビットが顔を顰めた。

「将軍に対して、礼儀が無いのかお前は」

バンセツを睨み付けるが、バンセツはそれを気にした風もなく、やんわりと笑む。

「よい、そのように気を立てることではない」

「周りの者にあなどられます!!」

そこに、翼伯が現れた。三人を見ると、首を傾げる。

「バンセツ、弁天はどうした?」

ああ、と兵士の休息のために立てたプレハブ小屋を指さす。

「あそこで、リンの遊び相手をさせてる。なんなら、坊主も行ったらどうだ?」

翼伯は最後の言葉を無視して、次はバレルに話しかける。

「このまま、ヨハンに向かうのか?」

ビビットが顔を赤くして、翼伯に何か言おうとするのを、バレルが手で制して答える。

「いや、一度、王に報告をしなければなるまい。この侵略の全貌が分かってきたからな」

「軍を一回引くのか?」

バンセツが尋ねる。

「一部はここに残すが、大半は国に戻ることになるだろうな。後のことは陛下の指示待ちとなるだろうな」

「時間が掛かり過ぎる!その間、牙の連中が静かに待ってくれるはずないだろう!!」

翼伯がそれに声を荒げるが、三人は思いの外落ち着いている。なぜだろうと、翼伯は三人を見る。


突然、足下の影が揺れた。そこから一人の男が現れた。すかさずえびらから刀を抜こうとするが、バンセツが待て、と止める。

「影臣だ。これを待っていただけだろう」

影から出てきた男は、翼伯に失礼と一言言うとバレルを見た。

「陛下にお伝えしてくれ、ベリオルに攻めて来たのは、ヨハンを騙る牙の軍勢。しかし、武具はヨハンの物だったと。ベリオル侵攻は鎮圧したが、またいつ動き出すかはわからない。一部をベリオルに残し、残りは本国へお返しする…と」

影の男が頷く。

「おそらく、ヨハンは牙の手に落ちたと見て良い」

「将軍の意は?」

言葉少なに、バレルに問う影の男。

「ヨハンに進軍し、牙の軍を討つ。ヨハンを解放すれば、後は牙の動き次第ということになるがな。以上だ。任せたぞ、カイエル」

カイエルと呼ばれた男は頷くと、影となり、翼伯の足下に落ちる。一度影が揺れると、もう元通りの影が翼伯の足下にあるだけになった。

「どういうことだ?」

翼伯が元通り、自分の動きに合わせて動く影を見ながら、バンセツに問う。

「あれは、ホラストの影臣カイエルさ。簡単に言えば王の右腕だな。ホラストの影臣は影走りが出来るってんで、伝令役や斥候としての才が飛び抜けてるのさ」

では、今ので報告が済んだのだろうか。というより、滅多に王宮内部のことは公にされることはない。それを知っていたバンセツを翼伯は見つめる。

「ん?どうした。俺の顔に何か付いてるか?」

「いや」

バレルの説明では、カイエルが報告を済まし、もう一度国王からの伝言をしに来るのは、三日程度かかるという。それは破格の速さを意味していた。ここと王都を往復するのに馬や船を使って、一月はかかる。

「とにもかくにも、三日ここでじっとしてるのか?」

ある程度、道筋はハッキリしているのに、動けないもどかしさがバンセツにもあるらしい。

「そういうことにはなるだろうが、補給もしなくてはならん。やることはある」

ビビットがそれに答える。

「じゃあ、俺は帰る」

急にバンセツが歩き出した。誰もが唖然とする中、そのまま離れていく。バレルが困惑した表情で翼伯を見る。

「いや、俺にもわからない。そういえば、俺はあいつのことは何一つ知らない」



フェルノアの前にカイエルが姿を見せた。

「で、どうであった?」

「軍勢はヨハンではなく牙と、ヨハンは牙に押さえられている様子だと」

「やはり…な。ヨハンがこのように愚劣な行為に走るはずがない」

「陛下の指示をバレル殿はお待ちです」

「うむ、王軍一連をバレルの下へ向かわせるのだ。合流次第、ヨハンへ進軍を開始だ。ヨハンには事前に言い渡しておく。さすれば問題もない」

「少々、戦力が少ないと…」

「問題なかろう。ヨハンに牙の本体はおらんだろう。駐屯兵程度なら一連で済む。それに、ドルト王が我らの進軍に、指をくわえて見てるだけは有り得んからな。バレルの下へ向かえ」

「御意」

カイエルが影となり、消えた。



すでに、三日が経とうとしていた。その間に、バレルは協力態勢を整えるために、ベリオルの国王と会っていた。すでに、補給路は確立され、後方の憂いは消えた。後は前にある敵陣だけが、当面の憂いとなるだろう。

カイエルも少し前に、バレルの下へ現れて国王の命を伝えて去った。王軍到着までの半月余りを後は待つだけ、ヨハンへ渡る為の船はすでにベリオル最南端の港に置かれている。兵達も十分な休息を取り、今は訓練を行っている。

ここに残った兵達も王軍一連余り。一人一人の実力は、一騎当千といかないまでも、そこそこの実力を持っている。事実、前回の戦いで王軍からの戦死者は一人も出ていなかった。

バレルは山の向こうに在る海、そしてその先にあるヨハンを見つめるように遠くを見た。



「さて、あれからもうすぐ半月か…、牙はどう動くのだろうな」

豪華な座に腰を掛け、ゆったりと座った男は、目の前の机に十五国が記された地図を広げ、牙の国が記された部分に小石を置く。

「さて、ヨハンが解放されては、牙であろうと目を瞑っていることは出来ないでしょう。牙の本隊が動くことは間違いないかと」

その隣に立っている、側仕えのような男がその小石を手に取り、ヨハン国の上に乗せる。

「さすがに、ヨハン、ホラストといえど、牙の本隊相手では苦戦を強いられるだろうな」

「どういたしますか?」

「ここで牙の隣国、迅が牙に圧力をかけるということはないだろうか…」

椅子に座った男の口元が笑む。

「そうなれば、本隊を動かすことは難しくなってくるな」

「他国干渉をするのは珍しいのでは?官僚達が素直に頷くとは思えませんがね」

男は、低い通った声で笑う。

「王の勅命を素直に頷いて聞いたことなど無いだろう」

「王自身、朝議などに出席なされないからだと…」

「なぁに、有能な官と言われているのだろう?王の一人や二人が出席しなくとも国が動くのだろう」

側に立つ男が深い溜息をつく。まるで、腰掛けた男が、その王であるかの様に。

「だから、戯れの王や、雑意の王などとあらぬ呼び名で…」

男が再び笑う。

「俺は嫌いじゃないぞ。戯れ結構じゃないか!影で官僚達とその呼び名で俺のことを話していたことを知っているがな…弁天」

男が、弁天がそれにピクリと肩を動かす。

「王宮に居ないのに、なぜそのような事だけをお耳にするのか…。もう少し、王らしく振る舞って頂きたい。迅国王晩雪ばんせつとして…、今回も他国を歩き回り、それならまだしも、他国の戦に参加する始末…。そもそも」

突然、晩雪が立ち上がり、弁天のぼやきを遮る。

「さて、勅命を出しに行くか」

部屋の扉を開け、動きを止めると弁天の方を振り返る。

「お前も、もう少し影臣らしくしたらどうだ?」

晩雪は軽く笑い声を上げると、そのまま部屋を後にした。

こんにちは、Z−1です。

最近、また覇者の印を更新開始致しました。

こちらと同時進行です。

もう、追いつけません。あっちとこっちでどちらに何を書いたか、分からなくなるときあります。。

不器用なのは仕様です。

異世界、戦争という点では被っている二作ですが、…あぁ、後まとまりが付きにくい点ですかね。

一応、こちらの方は細かい政治的な部分もしっかりと書けたらと、妄想にふけっております。


よろしければ、長い目で優しく、時には哀れんで読んでやって下さい。

では、失礼します。

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