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羽根ペン

「なぜ呼ばれたか分かりますか」


 放課後、私とランドストレームくんは学校に設けられた先生の部屋に来ていた。

 先生ごとに研究室のような場所が設けられていて、ヴァンス先生ももちろんその部屋がある。


 ……そうつまり、私がいるのは推しの部屋です。


(えっちょっと待って……先生の部屋とか入れるの……!? いい匂いがするよお~~!!!)


 一面の棚には様々な本が並んでいた。水晶玉が置かれていたり、魔法陣の描かれた用紙がぺろりと本棚から飛び出したりしている。


「……授業を妨害してしまって、大変申し訳ありませんでした」


 内心荒れ狂いながら、私は先生に頭を下げた。推しの授業妨害をするなんて最低である。でも、部屋に入れたことに興奮しすぎて情緒が不安定だ。


「……っ」


 顔を上げると、私の目からは涙がぽろりと零れてしまった。感極まれり謎の涙。


「わー、泣けばいいと思ってるんだ」


 そんな私を見て、ランドストレームくんは冷やかすように言葉を紡いだ。


 この涙の成分は大半が感動の涙なので、ランドストレームくんのイヤミは聞くに値しない。

 というか、君は呼び出しにちゃんと応じるタイプだったのか。それもまた『リディアーヌ効果』なのだろうか。


「ジェニングさん、落ち着いてください。妨害と言うほどではありませんでしたし……でも、制御が出来ない魔法には危険が伴いますので次は気をつけて下さいね」

「はい……」


 今日も推しが眩しく尊い。

 仮初の姿で柔らかく微笑むヴァンス先生もとても好きすぎる。

 とはいえ、私が授業中に下心羽根ペンを暴走させてしまったことは事実であり、そこは反省しなければならない。


(魔法の制御……頑張らなくちゃ)


「――さて。ウル・ランドストレーム、校内での攻撃魔法の無許可使用は禁止されています。いくら君と言えど、看過できません」


 私がそう決意したところで、先生は先程までとは正反対の厳しい眼差しをランドストレームくんに向けた。


「人には攻撃してませーん」


 ランドストレームくんは、両手を後ろ頭に組んでどこ吹く風だ。ちっとも反省していない。

 私の推しに対しての態度が悪すぎるのではないだろうか。許すまじ。


「そういうことではないでしょう。あのような人が多い場所で、何かを燃やすという魔法を使うことは危険が伴います」

「えー、だって、その女が変なことしたから目障りだったんだもん。光って飛ぶ羽根ペンなんて、逆に危険だと思ったので対処しましたー」


 言いながら、彼は私のことを指さす。目障りだったことは本当にごめん。私も予想外だったので。


「……では、なぜ燃やしたのです? あなたほどの腕前ならば、そんなことをせずとも対処できたでしょう。あの羽根ペンはジェニングさんの私物です。他人の物を損壊したことに対する謝罪もないように思いますが」

「見たことのない力だったんで、やりすぎましたー。あんな安物の羽根ペン、いくらでも弁償しまーす」


 先生がいくら言っても、不遜な態度を取り続ける彼には全く響いていないように思える。

 

 

「……これ以上話しても時間の無駄ですね。今日のことは報告しておきます。以後気をつけるように。ランドストレームさんはもう退出してください」

「は~い」


 結局、最後までそんな調子でランドストレームくんは部屋を去って行った。

 小学生みたいだな、と思いつつ、はたと思い出す。


 確か、本当に彼は歳下だったのでは無かっただろうか。あまりに飛び抜けた魔法の才能を認められ、飛び級でこの魔法学園に入った天才だ。


(十二歳……ツンツンするショタ……なるほど……そういう設定……)


 私には見せることはないだろうが、もしかしたらリディアーヌさんの前ではデレているのかもしれない。そう思うと、何だか可愛く思えてきた。


「……ジェニングさん、申し訳ない。もっとちゃんと君に謝罪をして欲しかったのだけど」


 ヴァンス先生は眉を下げて私に向き直る。色々と考察していた私は、慌てて手をぶんぶんと横に振った。


「いえいえそんな! 私が先に変なことをしたので……燃やされちゃったのはちょっと……いやかなりビックリしましたけど」


 自業自得な部分もあるので、彼だけを責めることは出来ない。いやムカつくけども。


「君は優しいんだね」


 眼鏡の奥で目を細めた先生は、そう言うと何やらごそごそと机を漁り始めた。

 どうしたというんだろう。


「――えーと、確かこの辺に……あった!」


 机の奥から出てきたのは、何やら趣のある木箱だった。先生はそれを取り出すと、机の上に載せてその蓋を開ける。


 中には、美しい羽根ペンが入っていた。


「これ、今日燃えてしまった羽根ペンの代わりにしてください。彼の魔法を防げなかった僕にも落ち度があります」

「えっでも、これは先生の大切な物ではないんですか……?」

「……いえ、ただずっと机に入れたままにしていただけです。少し古いですが、使ってもらえるだけでありがたいので、どうか貰ってください」

「は、はい、ありがとうございます……!」


 羽根ペンを差し出され、私はそれを両手で受け取った。


(推しから直接もらう推しの公式グッズ……!?!?)


 その時私が発光したのは言うまでもなく、さらにはこの状況を生み出したランドストレームくんにもちょっと感謝したのだった。

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