表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

殺生石と玄翁

「狐よ、九尾よ。久しぶりよな」

そこは那須野の原。山深き場所。そこに巨岩が鎮座している。

山の中であれど、まわり一面は荒れ果て、草木は枯れ、飛ぶ鳥も飛んだまま死に絶えて落ちてくる。

その巨岩は、殺生石せっしょうせきといった。

毒気と邪気を振りまき、周りの生き物を皆、殺す。

岩に声をかけたのは、一人の僧侶。名前を玄翁げんのうという。

「力を取り戻そうと、いまだ力を蓄え、周りのものを殺し続けているな」

玄翁がそう言うと、岩の裏より一人の女が現れる。

山深い森の荒れ果てた場所には似つかわしくない妖艶な姿だった。その女が言う。

「お前か、小僧よ。我とまたまみえようとはな」

「ははは。もやは、小僧ではない。老いに老いた化け物も同じよ」

「違いない。お前はもはや死にはするまいよ」


女が岩を撫でながら言う。

「ここに何用できたのだ」

「それは知れたこと。狐を屠るためじゃ」

「かっかっかっ。我はとうに死んでおる。もはやできるのはこの地を汚すことのみ」

「それがこの地には無用なのだ」

「それでは、どうする」

「こうするのだ」

そこで、玄翁は持っていた大きな鉄槌を岩に叩きつけた。

大きな音が鳴り、岩は砕け、砕けた破片が空へと飛んでいく。

しかし、それでも巨岩はまだ、そうとうの大きさを残している。

「やれやれ、化け物の力とはその程度か。小石がいくらか砕けた程度ではないか」

「もう一度だ」

玄翁は、再び鉄槌を岩に叩きつける。

再び、大きな音が鳴り、砕けた破片が空へと飛んでいく。

さらにもう一度、玄翁は同じことをする。

そこで巨岩は、いくつかに割れた。


「やりおったな、小僧」

女はそれでも、あやしく余裕の笑みを見せている。

割れた岩の中で一番大きな岩の近くへの移動している。

「これでも十分よ。お前にもはや、これを砕く力はあるまいよ」

そうして、岩を見上げ、玄翁を侮蔑する。

「そうだな。今は、これ以上、お前を滅する法力はない」

女は、再びあやしく笑みを浮かべる。

「しかし、1000年もすればわしのこめた力が、やがてこの岩を壊すだろう」

「ならば、1000年を待たず、蓄えた力をもとに、その世を再び汚すだけよ」

「くっ」

「かっかっか。我はお前以上の化け物ぞ。この世には闇がある。人も妖も、神々でさえも皆、心に闇を持っている。その闇あるかぎり、我は不滅」

「・・・」

「人の悪意の凄まじさを、お前は随分見たはずだ。再び、我はこの世を汚す」

「そうはさせぬ。今のわしにはできずとも、後世のものが必ずお前を滅するだろう」

「ならば、それも良い。その時まで再びともに永らえようではないか」

やがて女は岩の影に姿を消した。


玄翁は一人、取り残される。

岩が割れたことで、あたりの毒気と邪気は薄まっている。

それでも、一番大きな岩は恐ろしいほどの悪意をうちに秘めている。


時は、至徳2年(1385年)8月のことだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ