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夢のまた夢

作者: 都都 都

 近所の子どもが三人ほど、チョークを片手に家を訪ねてきた。


 夏休みのあいだは毎日めんどうを見るよう親から言われている。「大学生の夏休みって暇なんでしょ?」とのことだ。


 最近はチョークでアスファルトに落書きをするのにはまっているようで、子どもたちは昨日描いていた、最近はやりの怪獣を夢中になって描きかけの状態から描いている。子守を任されているので当然、子どもたちのお絵かきに付き合わされるわけだが、今日は家の前から移動しなければならないようだ。


「学校に怪獣が出た、なんかぐちょぐちょしてる!」


 小学五年生くらいの男の子が一人、血相を変えて走ってきた。名前は知らないがこの辺りでよく見かける少年だ。


 少年によるとその怪獣は赤い色をしていてマグマの塊みたいなやつらしい。それを聞いた六歳の子ども三人が黙っているはずがなかった。


 少年の案内に従って近所の小学校を訪れたのだが、もちろん怪獣が校舎を壊したり火を噴いたりなどしてはいなかった。グラウンドには数人、少年と同い年くらいの男女がいるだけだ。


「おいおまえら、怪獣は!」


 少年が張り上げた声に、グラウンドに立つ数人の小学生が不思議そうな顔で近づいて来た。


「怪獣ってなあに?」


「それより、さっきからあそこに変な人がいる」


 少年以外の小学生は怪獣に興味はないそうで、みんなしてタイヤ跳びのタイヤに腰掛けている若そうな女を指さした。


 隣に立っている小学一年生の三人はつまらなそうにこちらを見上げてくる。


 戻ろうか、と声を掛けると、今度は少年たちが手を引いた。


「ちょっと話しかけてきてよ」


 子どもというのは人がどう思うかなどお構いなしだ。強引に女がいる方へ押し出される。


「こんにちは、ここで何されているんですか」


 子どもたちはこの女を不審に思っているようで、近づこうとはしなかった。随分と後ろの方から鋭い視線が送られてくる。


「ここの卒業生なのよ。ところで最近、夢は見てる?」


「このまえ、自分が小さかったときのを見ました」


「そう。夢は、見た方がいい」


 言うと女は青色のタイヤから立ち上がり、校門を通り抜けていった。子どもたちは怪訝そうな目で女を見送っていたが、やがて見えなくなると彼女のことを聞きにたかった。


 その日は女の言葉を思い出して早く寝床に着いた。


 こんな夢を見た。


 朝日のせいで目が覚めた。窓の方に目をやると、かあさんがカーテンを勢いよく開け放ったところだった。今日は土曜日だから小学校は休みなのに、早起きをしてしまったみたいだ。


「おはよう。今日はお友達と遊ぶ約束してるんでしょ?」


 寝ぼけた頭に友達三人の顔が浮かぶ。今日はチョークで、きのう描いていた絵の続きを描こう、と約束していたことを思い出した。


 ちょうどお昼を食べ終えたころ、チャイムが鳴って外に出る。家の前には描きかけの怪獣の絵が不格好に寝そべっていた。


「学校に怪獣が出た、なんかぐちょぐちょしてる!」


 突然忙しない足音とともに叫ぶような声が住宅街に響いた。登校するときよく見かける五年生のお兄さんだ。名前は知らないが、よく何人もの友達と一緒にいる。


 友達三人は「かいじゅう」という音の並びを認識して瞳を輝かせていた。持っていたチョークを放り投げ、青ざめた表情をしたお兄さんについて行く気満々のようだ。


 近所の小学校に着くと、お兄さんと同い年くらいのお兄さんお姉さん数人と、怪獣の着ぐるみがいた。赤い色をしていてマグマのような柄が印象的だ。


「おいおまえら、怪獣は!」


 少年が張り上げた声に、グラウンドに立つお兄さんお姉さんが不思議そうな顔で近づいて来た。


「どうしたの、何かあった?」


「怪獣ってあれのこと?」


 みんなが指した方を見て、先ほどまで焦った様子だったお兄さんがポカンと口を開けた。


 タイヤ跳びの隣にいる怪獣の着ぐるみだ。


 子どもが好きそうなデザインをしているのに、なぜか誰も近づこうとしない。それどころか話しかけに行く人の押し付け合いが始まってしまった。


「あの、おれが行ってきます」


 お兄さんお姉さんは小学一年生が行こうとしているのに誰も止めようとしなかった。何を不安に思っているのかよく分からない。


「こんにちは、ここで何しているんですか?」


 怪獣は何も答えない。微動だにしない笑顔が目の前にあるだけだ。


「火、噴けますか?」


 随分と後ろの方から不安そうな眼差しが送られているのが分かった。


「最近、夢は見てる?」


 女の人の声だ。


「このまえ、自分が大きくなったときのを見ました」


「そう、夢は見た方がいい」


 すると怪獣はテクテクと校門から歩いて出て行った。お兄さんお姉さんや友達も、怪訝そうに怪獣を見送っていたが、やがて見えなくなると怪獣のことを聞きにたかった。


 その日は怪獣の言葉を思い出して早く寝床に着いた。


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