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3話 古き血の意思

「あれ?聞こえてるー?見えてるー?もしもーし」


 すげー。

 今、夢見てるよ。僕。

 これが夢だって分かっちゃってるよ。


「それね、明晰夢っていうんだよ。

 夢を夢だって認識できる夢。

 まぁ、これは少し違うんだけどね。

 そうだなー、瞑想に近いかな。

 あえて言葉にするならね」


「……」


 あまりの衝撃に言葉を失う。

 実際に物理的な、力学的な衝撃を受けた訳ではなく、衝撃的な出来事を目の当たりにしたという意味合いで。

 つまり、心を内を読まれるという、通常ならば有り得ない、日常において起こり得ない現象が、アスラの口から言葉を奪った。


「フフフッ。どうしてって顔してるね。まぁ驚いているのは私も同じだよ。こんな経験すること中々珍しいからね」


 混乱の渦中。

 うろたえるアスラに対し、彼女はペラペラと説明たり得ない説明を続ける。


「あなたは、どなたでしょうか」


 まさか夢に出てくる知らない人に、あなたは誰だと、聞くことになるなんて思いもしなかった。

 こういうのって大抵、現実で知ってる人が出てくるものじゃないの?全然知らない人なんだけど。


「そうだよね。そうだよね。そうだともさ。

 自己紹介はとても大切なことだよね。」


 納得してくれたのは嬉しいけど、とりあえずそのテンションをやめて欲しい。

 混乱が止まらないよ。


 ゴホンと咳払いをして、それでは、僭越ながらと、彼女は自らを名乗った。


「私の名前はヴァルナ・グロウハート。800年前に実在した君のご先祖様さ!」

「……」


 ごせんぞさま。

 ゴセンゾサマ。

 知っている。あぁ知っているさ。

 父さんや母さんの、さらに父さんや母さんの、そのまた父さんや母さんのことだろう?

 つまり僕の大大大……大?婆ちゃんってわけだ。

 あれ?でも目の前にいるのはお姉さんで、そのお姉さんが婆ちゃんで……?えぇ?


「あはははっ!君はほんとに可愛いなあまったく!」


 ええい!頭をポンポンするな!


「どうしたんだい?ちゃんと私は、言われた通りに、自己紹介をしただけなんだよ」

「名前だけは分かったよ」


 ふぅ、落ち着け落ち着け、こんな時こそ冷静にだ。

 これは僕が見ている夢なんだ。

 僕がしっかりすればいいだけのことなんだ。

 これは僕の夢これは僕の夢これは僕の夢僕の夢僕の夢僕の夢僕の僕の僕の僕の僕の……。


「まあ確かに君の夢であることには違いないけれど、私の夢でもあるんだよ少年」


 くぅ、当然のように心を読んでくる。


「それはどういうことなの?」


 あ、うっかり聞いてしまった。


「うん、それはね少年。魂は受け継がれるものだからだよ」


 はいはい、魂ね。


「あ!君全然信じていないなぁ!魂に関する考察はとても重要なんだよ!」


 あなたいったい何の専門家だよ。


「あのね、さっきは自分のことを800年前に実在したって言ったけれど、実際には少し異なるんだよね。

 ヴァルナ本人という訳ではなく、ヴァルナの魂が色濃く反映されているという方が正しいかもね」


……あー。


「つまりお姉さんはヴァルナだけどヴァルナじゃないってこと?」

「そゆこと」


 うん。つまりどゆこと?


「フフッ」


 ヴァルナは体勢を正すと、先程までとは売って変わり、優しい声色で微笑んだ。


「さっき君は、父上や母上にも両親がいて、そのまた上にもいてって、話していたよね」


 アスラもつられて体勢を正す。


「うん」

「血筋というのは、魂の繋がりなの。

 親から子へ、魂は受け継がれていき、君はここに、確かに存在しているのよ」


 なんとも壮大な話に、アスラは身を震わせる。


「私はそんな、幾重に入り交じった魂たちの、言わば中継役。

 普段はこんな現象起こらないのだけれど、君の特別な力が、私と君を引き合わせたのかもね」


 彼女は本当に、嬉しそうに笑った。

 僕はヴァルナを、見つめることしか出来なかったけれど、彼女が笑うその姿が一瞬、母さんと重なり、あぁ、僕とこの人は本当に繋がっているんだなぁと思った。


「っ……」


 すると、先程までの笑顔は徐々に薄くなり、やがて、苦悶の表情へと変わった。


「アスラ。私たちの、グロウハート家の血筋には、呪いがかけられているの」


 突然の告白に頭がついて行かない。


「君もきっと、苦しい思いをすると思うわ」

「え、ちょっと待ってよ、呪い?なにそれ」

「私も詳しくは分からないわ。

 ただ1つ分かるのは、私たちの魔力は他の人とは異なるということ。

 だけど、忘れないで、君は父上と母上から、多くの愛を注がれて生きている。

 その愛も魂の形。

 君はただ君らしく、君らしさを探せばいいのよ」


 僕はただ一言。


「分かった」


 はっきりと言ってしまえば、僕の分かったというのが、いったい何に対する分かったなのか、自分でもよく分かっていなかったように思う。

 しかしあの場合、あの場面においては、そう答える以外に彼女への誠意というか、真摯に向き合う方法は無かった。

 

 でも、実際はどうだろうか。

 君は呪われてるんだよと言われ、はい分かりましたと答えたはいいけれど、それでほんとに何かが起こって、最悪の場合死んでしまいましたなんてごめんだ。

 最悪の場合というか、最小でそうかもしれない。

 僕一人だけという最小。

 そうだ、呪いの及ぶ範囲が僕だけとは限らないのだ。

 

「うん、君が重く受け取ってくれて私は嬉しいんだけど、さすがに重すぎかも。

 呪いと言っても命に関わることじゃないから。」


 呪いのルーツをたどれば、そういうのもあるんだろうけどねと、ヴァルナは言った。


 いや、それでも、それにしても、命に関わることでは無いにしても、呪いなんて言葉を聞いてしまえば誰だって身構える。


「そう言えば聞いた話だと君、ドラゴンに襲われたそうじゃないか。大丈夫だったの?」


 一体誰に聞いたんだよとつっこみたくもなったが、彼女のニンマリとした顔を見ると、そんな気も失せるというものだ。


「正直、物凄く怖かったけど、クロノって人が助けてくれたから、怪我だって少し擦りむいたくらいですんだよ」


 ん?でも待てよ。なんでドラゴンのこと知ってるんだ?

 心が読めるったって、ドラゴンのことは考えてないはずだけど。


「そうか、じゃあそのクロノって人には恩返ししないとだね」


 そう、恩返しだ。

 それは僕も考えていた。


 クロノが何を考えて、僕を弟子にしようとしているのかは分からない。

 僕は珍しいスキルを使ってるって言ってたけど、僕にはそんな実感ないし、ドラゴン相手には何も出来なかったわけだし。

 でもやっぱり、そのドラゴンを倒したクロノが言うのだから、僕は特別なのかもしれない。

 そう思うと、ちょっと嬉しい。

 ちょっとだけね。

 別に調子に乗ってるとかじゃない。

 別に思い上がってるとかじゃないんだ。

 褒められれば誰だって嬉しい。


「……ラ……」


 だからってそんなに求められても困っちゃうっていうか、調子に乗っちゃうのも無理はないっていうか。


「…スラ……!」


 いや調子に乗ってるとかじゃないんだけどね!


「アスラー!起きてー!ご飯出来たよー!」

「え?」


 目が覚めた。

 夢から覚めた。

 …………いつから?

 夢と現実の境がはっきりとしない。

 えーと……。ヴァルナは最後に、なんて言ってたっけ?


 まぁいいか。あれが夢だって言うなら、また会えるはずだし。

 目は覚ましたが、ご飯を冷ます訳にはいかないしね。


 そうして僕は軽快なステップで寝室のドアを開けて。


「よ!」

「…………………………よ」

 

 クロノとの、あっけない再開を果たすのだった。

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