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1話 アスラ・グロウハート

 アスラ・グロウハートは、シンオラシオン帝国の外れにある小さな村の幸せな家庭で生まれた。

 5才にもなると、村の友達と森へ遊びに行けるくらいに活発になっていた。

 アスラは他の子と比べると気遣いがとても上手く、誰とでも良い関係を作れることもあって、両親は安心して遊ばせることができた。


「おいアスラ!持ってきたか?」

「バッチリだよ!」


 アスラが向かった森の中には、アスラと友達数人がかりで建てたと思われるツリーハウス。

 そしてその横には一際目立つ巨大な木がそびえ立っている。  


「じゃじゃーん!!」


 皆の歓声と共に、アスラは母から借りた風呂敷を広げ、その中身をあらわにした。


「すっげー!本物の頭がい骨だ!」

「牛の頭がい骨だよ。むかし父さんがたまたま捕まえたって言ってたのを借りてきたんだ!」

「いいなそれ!さっそく飾ろうぜ!」

「俺さ!基地の外がいいと思うんだ!そしたらこの基地に忍び込もうとした奴らビビって逃げちまうぜ!きっと!」


 そうしてツリーハウスのてっぺんに、飾られた頭がい骨は、象徴として充分すぎるほどに雰囲気を漂わせていた。


「それでは今日の作戦を伝えます」


 僕たちは長テーブルに着き、会議をする体制を整えると、1番端の友達が顔の前で手を組み、話し始めた。


「今日の作戦は……うーん……諸君、何か案はあるかね」

「議長!そろそろおやつの時間にするべきだと思います!」

「おやつは昨日食べた。それにもうすぐ16時になってしまう。今からおやつは無理だ」

「議長。発言しても?」

「発言を許す。なんだねジョン」

「森に落とし穴を作るというのはどうでしょうか?あと僕ジョンじゃないです。誰ですかそれ」

「危ないからダメだ」


 会議は全然進まなかった。


「森のパトロールなんてどう?」

「それでいいか」


 あっさり決まった。


「いいか、何か見つけたら必ず報告すること。見たことない虫とか動物とか、危険があるかもしれないからな」

「ラジャー!」


 森の中を進んで行く。

 草をかき分け、川を渡り、ほら穴を見つけては皆で目を輝かせて中に入っていく。

 すると、草むらから物音が聞こえてきた。

 友達の1人が最初に気がつき、皆で草むらを囲むように広がった。


「いいか、スミス。俺の合図で草むらをつつけ」


 リーダー格の友達が唾を飲み込み、もう1人に指示を出す。

 皆からも同じような緊張感を感じた。


「リーダー……この中にスミスなんてやついません。そして僕は嫌です。リーダーがいってよ」

「お、俺には現場の指揮という立派な役割があるので、出来ません」


 そんな調子で、皆が自分から行くのをしぶっていると、そいつは草むらから顔を出した。


「うわぁぁあ!!!……なんだ、キツネかよ」

「驚かせやがって」

「行こーぜ」


 皆があからさまに、そいつから興味を失うと、後ろを向いて歩き始めた。

 しかしその中で1人、アスラはキツネに近づいていく。


「皆、ちょっと待って。このキツネ怪我してるみたいなんだ」

「怪我?いーよそんなの、放っておこうぜ」


 皆はそういって先に進もうとする。

 しかしアスラはキツネの手当てをすると言い、自分の荷物から薬と包帯を取り出した。


「アスラは本当にこの森の動物好きだよな。不思議と動物達もアスラに懐いてるようにも見えるぜ」

「うん。この子怖がってるみたいだったから……よし。これで大丈夫。行っていいよ」


 そうすると、キツネはどこかにいってしまった。


「面白そうだから、あのキツネについて行ってみようぜ!」


 誰かがそんなこと言うと、皆楽しそうに賛同した。

 アスラも同じようについて行くことに乗り気だった。


「リーダー、この足跡が怪しいと思います」

「よし、進むぞ」


 キツネの姿は見えないが、それらしき痕跡をたどることで、行き先をつきとめようとしていた。

 人が入れなそうな茂みにも、子供の体ならスルスルと、入っていくことができる。

 皆は茂みの中ではぐれぬよう、こまめに互いの名前を呼びあった。

 リーダーを先頭に皆は1列になって茂みの中を進んでいく。

 しばらく経つと急にリーダーから返事が来なくなった。


「ねぇ!リーダー?何かあったの?」


 茂みを抜けた先にリーダーは立っていた。

 後に続いて、皆も茂みを抜ける。

 するとそこには…………。


「おおおお!!!!」

「すっげぇー!満開の花畑だー!」

 凄く綺麗だ。

 今までこんな花畑見たことない。

 リーダーも言葉を失ってる。

 花畑ではキツネの親子が駆け回っていた。


「なんでこんな所に花畑なんかあるんだろー」

「村の誰かがここまで来て育ててたのかな」

「いくらこの村が綺麗な花畑で有名だからってこんな森の奥に作らないって!」

「てことは、自然の花畑だあ!!!!」


 僕達は花畑を夢中で駆け回った。

 こんな絶景スポットを自分達が占領できること、自分達だけが知っていることが、とにかく嬉しかった。

 花畑は夕日に照らされ、来たときとは別の景色に変わっていた。


 走り疲れて、花畑に寝っ転がって空を見ていると、1人が思い出したかのように口を開いた。


「そうだ!そろそろ帰らないと」

「なんだよ、何かあるのか?」

「うん……来年からギムキョウイクってのが始まるらしくてさ、ママが勉強しろってうるさいんだ」

「へー、お前の母ちゃん怒ると怖いもんな。俺らも帰るか」


 くたくたになった僕たちは急ぎ足で家に向った。


「あ!」

「どうしたアスラ?」

「いっけねー基地に風呂敷忘れてきちゃった」

「今日はもう遅いし、明日また取り行こうぜ」

「ごめん、母さんから借りた大切な風呂敷なんだ。パッと戻るだけだから、先に帰っててよ!」

「そうか、分かった!気をつけろよ!」

「うん!」


 日は完全に落ちきっている。


 夜の森は夜行性の動物がいっぱいいて危ないって言われてるけど、風呂敷取るだけだし、それに……僕なら大丈夫なはず。


 いつも通ってるのに、暗くなるだけで雰囲気が全然ちがっていた。

 少しドキドキしながらも、いつもの道いつもの木、そう思えば、いくらか、気持ちは楽だった。

 いつもの道、いつもの木、いつもの………………………………ツリーハウスが無くなっていた。

 代わりにあったのは、いや、いたのは。


「……………………ドラゴン」


 ゥゥヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 走った。

 くたくただった体はその事を忘れ、ただ走ることだけで精一杯だった。

 離れない鳴き声、追ってきていることはすぐに理解できた。


 なんだよあれ!ドラゴン!?怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!え?基地無くなってた??壊された!?あのドラゴンに!?


「あ!」


 木の枝につまづいてしまった。

 普段から遊んでいるとはいえ夜の森。

 今の体力を考えれば転ぶのは必然だった。


 やだ。

 やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!怖い怖い怖い怖い怖い怖い!母さん!父さん!


 地面にうずくまる。


 あ、もしかしたら、ドラゴンでも……。


 アスラは勇気を振り絞り上を見上げた。

 しかし、ドラゴンの瞳には何も映っていなかった。

 あるのは漆黒だけ。


「何も……分からない…………」


 ドラゴンの爪が目の前に迫る。


「っぶぅねぇえええええ!ギリギリセーフ!」


 え?


 ドラゴンの下にいたはずの僕は、いつの間にか1人の男の腕の中にいた。


「なにしてんのお前、こんな夜の森でさぁ。まぁ、ドラゴンはイレギュラーか」


 そう言うと男は僕を降ろしドラゴンに向かって行った。


「少し待ってな。すぐに退治すっから」


 男は軽快な身のこなしで、木々を躱しながらドラゴンに近ずく。

 ドラゴンは男に狙いを定めるとその巨大な腕を振り下ろした。


「逃げて!!」


 そう叫んだそのとき、アスラの目の前で不思議なことが起こった。

 ドラゴンの腕が当たる瞬間、男の動きが空中で止まり、また次の瞬間、男が消えたかと思えば、数メートル先に急に現れたのだ。

 男はドラゴンの虚をつき、胸元に潜り込んだ。

 そこで男は。


「せぇーのっ!」


 その掛け声と共に、ドラゴンの胸めがけて右の拳を叩き込んだ。

 直後、ドラゴンは全身が硬直したかのように動きを止めた。

 男はその一瞬を見逃さず、ドラゴンの首に腕をかけると。


「ふんっぬぅうおらぁぁああ!!!!!!」


 ドラゴンをひっくり返した。

 ドラゴンはしばらく暴れると、大人しくなり、そのうち、動かなくなった。


「ふぅ……退治完了」


 僕は、唖然としていた。

 実際に見たのは初めてだったけど、あのドラゴンをものの数分で倒してしまった。


「いやー、ほんとに良かった、俺が花畑見たさに、こんな所まで来てたから良かったなぁおい。

 大丈夫か?怪我とか……あー、ひざ擦りむいてんじゃねぇか。

俺、手当てできるもん持ってないんだけど」

「あ……あ、あの、基地に荷物おいて来ちゃって、そこに薬と包帯なら」

「お、じゃ行くか。ほれ」


 男は座りこむ僕に、手を伸ばしてくれた。

 その時の力強い拳のことは、多分一生忘れない。


「それより、なんでこんな時間にこんな所にいたんだ?」

「遊んでたんだ友達と」

「その友達は?」

「先帰った」

「置いてかれたってこと?」

「えっと、忘れ物して、僕」

「それで、その基地ってとこにドラゴンがいたと」


 男はいくつか質問をすると、不思議そうな顔していた。


「あーあー、こりゃ随分派手にやったな」


 基地跡地に到着するとほぼ同時に、男はがれきを漁り始めた。


「お、あったあった」


男ががれきから取り出したのは、今日僕が持ってきた牛の…。


「子ドラゴンの頭がい骨……こんなもんぶら下げてたら、挑発材料としちゃ充分すぎるな」

「ドラゴン……の?でも父さんは牛だって」

「そりゃ子供にこんな危ねぇもんのこと話すわけねぇよ」

「さっき、どうやってドラゴンを倒したの?」

「ん?あー、ドラゴンってのはな、通常生きるためのエネルギーとして熱エネルギーを使うんだ。

 そんでドラゴンにはマグマを貯めることができる特殊な臓器を、人間で言うところの肺の当たりに持ってるんだわ。

 ドラゴンはそのマグマだまりに強い衝撃を受けると、マグマの逆流を防ごうと、全身の運動能力を集中させるため、一瞬動けなくなる。

 そんでドラゴンって実はバランス感覚が非常に鈍い。

 1度倒れたら大抵起き上がれずに死んじまう」

「そうだったんだ……大丈夫だと思ったんだけど、全然分からなかったから」

「なにが?」

「……僕、人とか動物とかの気持ちが分かるんだ。

 怖いって気持ちとか、怒ってたりすると、それが伝わってきて、ドラゴンのことも分かれば、きっと大丈夫だって思ったんだけど」

「………………まじか……うーん、そりゃお前、スキルだろうな」

「スキル?」

「声じゃなく、気持ちが分かるんだな?」

「うん」

「それは、部分強化(心)ってスキルの可能性がある。

 そーか、たまにいるんだよな無自覚で使えちまうやつが。

 言っとくけど、そのスキルめちゃくちゃ高難易度だからな」

「なんなの、そのスキルって」

「生き物は生まれつき、魔力ってのがあって、まぁ生命力の源みたいなもんだ。

 その魔力の使い方次第で色んなスキルが使えるんだ。

 よく魔力を扱えちまう動物もいるんだが、それが魔物って呼ばれてる。

 さっきのドラゴンだな。

 魔力を纏うってのが、他の魔力から身を守る1番手っ取り早い方法でな。

 まだ無自覚でスキルを使ってるうちは、ノーガードのやつ以外は厳しいかもな」

「魔物なんて、絵本でしか見とこと無かったからびっくりしてる」

「…………その絵本に出てくる勇者っているだろ」

「うん、悪い魔王を倒した、あの勇者だよね」

「そう、その勇者だ。

 その勇者が使ってた唯一のスキルも、部分強化よりさらに上位に位置づけられるスキル、強化なんだぜ」

「そうなの!?」

「おう、自信もっていいぜ。俺が保証する。勇者と同じ系統のスキル、S級スキルを無自覚で使えるんだ。お前には才能があるよ」


 アスラがこの日体験した出来事は、アスラの人生に大きな影響を与えることになる。


「おじさん、名前教えてよ」

「おじ!?……まぁいいや」


 男は息を軽く整えると、自らの名を名乗った。


「俺はクロノ・ノーマッド。職業は剣士だ」


 夜空に浮かぶ三日月が2人を照らしている。

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