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さくら貝

ちょっと暗い話になるので、嫌いな方は読み飛ばして下さいね(*´人`*)

 実は祖母はこの施設の前に、1ヶ月ほど別のところに入れられた。私は自分が勤めていた施設に入れてほしかったが、母は祖母を看るのは自分なのだから任せておけと言って聞き入れなかった。

 その頃、私と母は揉めており、母の機嫌を損ねると良くない事になりそうで強いことが言えず、引き下がるしかなかった。


 結局、退院の日も教えてくれず「良いとこがあったからそこへ入れた」と事後報告のみだった。悪い予感がした私は主人に相談し、急遽実家に帰る予定を立て、その10日後ぐらいに祖母に会いに行った。


 当時は今から15年近く前で、まだグループホームという形態が世に出始めたばかりだった。そんな状況だったからきっとあり得たのだろうが、そこは古い学生寮か下宿屋みたいなボロボロの二階建ての建物で、入り口も廊下も狭く汚く、各居室は2帖ほどだった。全部で6部屋ほどあると言ったか、そのひとつに母の知り合いの高齢男性が入居していたこともあり、ちょうどひと部屋空きが出たことが決め手となって、即入居を申し込んだのだと母は言った。どこが経営母体なのか全く不明の怪しいグループホームで、とにかく安さだけが売りのようだった。

 介護士らしき女性が一人いたが、忙しいのだろうか言葉遣いもぞんざいで、対応もいい加減だった。もちろん医師や看護士はいなかった。


 どこも車椅子が1台通るのがやっとのような狭っくるしい建物の中で、入居者は耳が悪いのかそれとも単に柄が悪いのかあちこちで怒鳴り合い、他の居室に煙が入ろうがお構いなしにそこらじゅうでタバコを吹かしていた。

 壁を叩けば低い天井から埃が落ちてきそうな息苦しい部屋の中、祖母はよほど周りの音がうるさいのだろう、狭いベッドで布団をかぶって眠っていた。私は恐る恐る声をかけた。


「…おばあちゃん…。」


「ミホコけ…。来てくれたんけ…」


 祖母は弱々しく目を開いた。病院でいた時もそれほど元気ではなかったが、ここではまたいっそうやつれて生気が無く見えた。


「大丈夫か、おばあちゃん…。

 …ここ…、えらいとこやなぁ…」


「…(かすかに頷き) ずっと、うるさいねん…」


「…そうか…」


私はそれ以上かける言葉が見つからなかった。


 部屋の中には母が持ってきたテレビとカレンダーはあるものの、心を安らげてくれるようなものは何もなかった。時折、母の知り合いの高齢男性(祖母とも面識があった)が2階から降りてきて祖母を訪ねてくれるのだと聞いた。


 私は祖母の手を取り、どこか身体に痛いところは無いかとたずねた。特には無いというので、私は血流が良くなるように指や腕、背中や太股などをさすった。足の指もマッサージしようと布団をめくったらプンと嫌な臭いがした。

 おしゃれできれい好きな祖母から今までにしたことのない臭い。こんな施設だからお風呂に入れてもらえないことはすぐに想像できたが、普通なら入浴できない利用者には清拭もするし、陰部も綺麗に洗浄するものだ。これはあちこち不潔な状態で何日も放って置かれている臭い。たぶん靴下すら何日も変えてない、そんな臭いだった。


 私は主人と結婚するまでは実家にいたので、見守り介護のつもりでいつも祖母と一緒にお風呂に入っていた。母も加わって3人で仲良く入ることもあった。頭や身体を私が洗うこともあったから、祖母の身体は隅々までよく知っていた。

 祖母はスリムで色白だった。髪は豊かで白髪が少なく、子供が一度も吸ったことのない乳房は小振りだが垂れもせず色も形も美しく、とりわけ手足の爪などは砂浜で波に洗われているさくら貝のように綺麗だった。私は介護の実習や特養勤務時代にいろんな利用者さんの足をケア中に見たが、だいたいは小指や薬指の爪が潰れていたり、ひどい人なら全部の爪が水虫で分厚く変形したりしていた。祖母のように綺麗な足の人は珍しかった。


 なのに、祖母の小さなさくら貝は、伸びた爪が黄色く変色し、ストレスのせいか縞が入って欠け、指の間からは水虫特有の異臭を放っていた。私は悲しくて悔しくて涙が滲んだ。

私は母と職員に、祖母の足に水虫ができていることを伝え、薬を塗るように言ったが、二人とも「あぁ、こんなんたいした事ない。」と言って笑った。

私は帰りの車の中で、もう一度母に祖母を別の施設に入れるよう説得した。母は「特養なんか急に入れてくれるわけがない」とか「あそこは○○さん(例の高齢男性)が入ってるから安心」などと言って渋った。だが、私も今回は一歩も引かなかった。


私はすぐにアポを取って、翌日自分が勤めていた施設を訪ねた。そして、仲の良かった上司数人に事情を話して、なんとか入れてもらえないかと頼んだ。幸い調整可能だったようで良い返事をもらえた。

帰って母に伝えると、驚きながらも「まぁ、あそこなら近いし…。あんたも勤めてたし…」と渋々承諾。月が変わる頃には祖母はまともな施設に入れることになった。


 あの気持ちの悪い下宿屋からの移動もすべて施設からお迎えが来て、祖母を大切に連れていってくれた。

祖母の足のさくら貝は、ふれあいの皆さんが毎日お薬を塗ってくださったおかげで1ヶ月ほどで完治し、異臭も無くなり、また元のきれいな姿に戻りました!♡(つд;*)♡

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