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おばあちゃんの小話『黒滝村青滝であります!』

祖母は奈良県の山奥、黒滝村に育った。

生まれたのは大正12年、関東大震災のあった年だ。今からだいたい100年前。

仲の良い両親と頼れる7人の兄、優しい姉が1人に可愛い弟が3人、合計14人もの大所帯だった。

祖母は生まれつき少し虚弱ではあったがおおむね健康だった。子供が12人もいると家の中は喧嘩や笑い声が絶えずとても賑やかで、キヨ子はおしゃべり好きの明るい少女に育った。


そういう環境があったせいか、祖母は話がとても上手で私が小さい頃からそれはそれはいろんな話をしてくれた。

『黒滝村』と聞くといつも思い出す祖母の小話がある。



「あのな、戦争から帰ってきた兄さんが教えてくれた話やけどな。

 兵隊さんに行ったらな、

 最初ひろいトコに皆ズラーっと一列に並べさせられてな、

 その前をこっわい顔した上官が棒を持って歩くんやと!


 こないして(こうして)

 自分の手に棒を何べんも当てもって(あてながら)な。

 ゆ~っくりゆっくり前を行ったり来たりしてな。

 その間、新兵さんらはちょっとでも動いたらあかんねんと!

 動いたもんなら、

 「コラーッ! 貴様、何をたるんどるかーッ!」

 言うて殴られんねんと!


 上官は端から順々に、新兵さんの名前と出身地をきいていったんやて。

 ほんなら皆、緊張しぃもって(しながら)

 「◯◯であります! 出身は◯◯県□□村××であります!」

 「よし! 次!」

 言うて、次の人が同じように答えていくねんと!


 そないして(そうして)、どんどん兄さんの順番が近づいてきて、

 とうとう隣の人の順番になってんて!

 「△△◇◇であります!

  出身は奈良県吉野郡黒滝村青滝であります!」

 そない言うたとたんに上官が

 「貴様ーッ! 上官を馬鹿にするかーッ!」言うて棒で殴ってんと!

 ほたら(そしたら)、その兵隊さんは

 「本当であります! 自分は黒滝村の青滝という…」

 「貴様まだ言うかーッ! ふざけるなーッ!」言うて、

 そらもうめちゃくちゃに殴られて、しまいに蹴り倒されてんと!

 兄さんは怖ぁてこわぁて、しゃあなかってんけど、「えい!」思うて

 「…ほっ、本当であります! 奈良県の吉野郡には

  黒滝村青滝という集落があるのであります!」って言うてんと!


 ほな、その上官がグルっとこっち向いてな、

 えらい目で兄さんを睨み付けてな、

 「…お前の名前は…?」

 言うて訊くんやて!

 もう、兄さんはぶるぶる震えもって(震えながら)

 「ミズノキヨシであります!

  出身は奈良県吉野郡黒滝村岩戸であります!」て答えたんやて!


 上官は兄さんの真ぁ前(真ん前)まで顔を近づけてな、

 「…本当か…?

  上官を愚弄するとただではおかんぞ…。」言うて…。

 せやけど兄さんは「えい!くそ!」思うて、

 「はい! 本当のことであります!

  嘘だと思われましたら他の方に訊いてください!」

 て大きな声で言うてんて!


 ほんなら上官はしばらく兄さんを睨んどったけど、

 そのうち次の人へ行ってくれてんと!


 そらもう、生きた心地がせんかったて、兄さん言うてたわ!」



黙って話の続きを待つ私に、祖母はニッコリ八重歯を見せて、

 「えらい時代に生まれんで良かったなぁ! ミホコ!」

そう言っていつも小話を締めた。



祖母は日付がわからない、新しいことが覚えられないなどの認知症状はあったが、死ぬ少し前まで自分の持ちネタを披露していた。

(※地名や名前は全て架空のものに変えてあります。)

上官の真似をするときに「コラーッ!」と言って目を剥いて話すおばあちゃんが面白くて、幼いころ何度もこの話をせがみました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 上官さん記憶に存在する村人達。  自分の目の前にいる青年は、見覚えの無い存在…。  「愚弄するのか!?」(オレはオマエなどしらん!) そうだよね、あなたは村を出たあの日に時が止まってい…
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