魔物の襲撃-2
前話に感想をくださり本当にありがとうございます。
私自身では上手く表現ができないと悩んでいた部分にお褒めの言葉を頂き、驚きながらもこれからもっと文章力を身につけたいと前向きな気持ちになれました。
北門なら昨日入ってきた場所だ、村の中央にある宿からは距離がある。
昨日初めて使ったばかりの方向操作のスキルを使うため集中する。
足に力を入れると体が飛び上がるがまだ使いこなせずにふらつく、でもそんなのは気にしていられない、俺が行ったところで何が出来るわけでもない、それでも自分の意思で行動をすれば何かが変わる、それをアメリアが教えてくれたじゃないか。
《──ああ、またこの力を使う時がきたんだな…》
ふと頭の中に誰かの声が聞こえたような気がした。
すると突然ある魔法が頭に浮かんだ。
「この魔法なら…」
治癒魔法以外の魔法、これがクロウシスの言っていた他の魂に刻まれた魔法なのか?
空から見える北門では、低い鉄作にゴブリンと思わしき生き物がよじ登ろうとしては、内側にいる村人がそれぞれの武器で切ったり突いたりしての攻防を繰り返している。
クリフトを筆頭に鎧をつけた数人が鉄柵の外に出て鋭い爪と牙を持つ四足獣…ブレイドパンサーと呼ばれていた魔物と戦っているようだ。
俺は、あそこに行くんだ!
そう強く意識すると体が前に進んでいく。
鉄柵の近くまでたどりつき、よく見ると中には鍬や斧で応戦する人までいる。
状況は良くないらしく村人が妨害するよりもゴブリンの這い上がるペースの方が早い、柵の上の方まで迫ってきたゴブリンには農具や棒が届かず、最終手段として降りて中に入って来たところを仕留めようと、あきらかに非戦闘員と思われる老人を含む村人も警戒態勢で待機していた。
数匹ならなんとかなるかもしれない、しかし軽く数えただけでも30匹はくだらない。
そんな数がなだれ込んできたら間違いなくここで食い止めることは出来ないだろう。
さっき頭に浮かんだ魔法を使ってみるしかない。
それには村人とゴブリンの距離が近すぎる。
躊躇している時間はない、しかし万が一村人を巻き込んでしまったら、この力はあまりに危険すぎる。
使ったことはないはずなのに、なぜか俺はその力ををよく知っている気がする。
絶対に間違えるわけにはいかない、そう考えて地上に叫ぶ。
「柵から離れてくれ!」
すると柵の内側で守っていた村人は声の主を探して空にいる俺を見つける。
「浮いてる!?」
数人の村人が驚いたように指をさす。
いち早く俺の姿を確認したガイルは柵の外側から怒鳴るように叫ぶ。
「馬鹿野郎!なんで来やがった!」
「いいから柵から離れるように言ってくれないか!巻き込むかもしれない!!」
空中からの俺の訴えに判断を迷っているようだった。
「何か策があるのか!?」
大剣でゴブリンをはじきながら、余裕の無い中でキッと睨みつけてくる。
「初めて使う魔法だから正確な範囲がわからない!だから上手くいく為に協力してくれ!!」
ここは正直に言うしかない。
なぜなら絶対に失敗できない魔法なのだから。
《──俺はこの力をそう使うことにしたのか…?》
再び誰かの声が聞こえた気がしたけど、今は考えてる余裕なんかないんだ。
ガイルはため息をつきながら柵の内外にいる者に手を広げて号令をだす。
「てめえら!言う通りに柵から離れろ!」
「でも…」
「そんなことをしたらコイツらが入ってくるぞ…?」
不安を隠せないように反論していた者もいたが、数人が退き始めたことで全員が後ろに下がる。
それを確認して俺は両手をゴブリンに向けて集中する。
ゴブリンだけ、ゴブリンだけ…
そう念じると掌に緑の光が渦巻き、ゴブリンたちの体も緑に光ったかと思うと
『ギャッ』
『グギャ…アア!?』
ゴブリンたちから溢れ出た光が俺の手に集まり吸い込まれるように消えていく。
『カハッ…』
直後、柵に登ろうとしていたゴブリンたちは持っていた粗末なこん棒や弓を落とし、鉄柵を掴む力も無くなったのかそのまま次々と地面に転がり落ち、やがて動かなくなった。
自分の手が熱を持っているのがわかる、そして、この手で何をしたのかも。
「なっ、なんだ?」
「何が起こった…?」
目の前の状況に困惑の色を隠せない村人は、戦闘態勢をとることも忘れてゴブリンと俺を交互に見ている。
下にいる村人を見渡すが誰も倒れてはいない、成功したらしい事に胸をほっと撫で下ろす。
「くそお!どきやがれ!」
「ガイルさん!!」
柵の外ではガイルが体長3メートルほどのブレイドパンサーに組み敷かれ、大剣を横にしてパンサーの口につっかえることでなんとか耐えていた。
助けようと横からクリフトがブレイドパンサーに長剣で切りつけようとするも、すぐに他のパンサーがやってきて中々近づくことができない。
ガイルは懐から出した小刀で飛びかかるパンサーを切り、なんとかダメージを与えてはいるがガイルがどれだけもつのか…
他の者も同様にそれぞれ対峙した魔物に隙を見せることができず身動きが取れずにいる。
「ガイルさん!クリフトっ」
さっきの魔法はできるだけ使いたくない、巻き込んでしまったら目も当てられない。
急いで柵の外まで飛んでいき、状況を確認する。
背に腹はかえられない!どのくらいの威力かわからないけどもうひとつ試してみるしかない。
視界に捉えた魔物を覆うように右手を端から端まで水平にかざして、極限まで集中しブレイドパンサーの姿だけを目に焼き付けながら魔法を放つ。
もちろん人間以外と念じながらだ。
その瞬間パンサーは身体の中心から膨らみ、血肉をまき散らしながら爆ぜていく。
『ギャ…』
叫ぶ暇もなく、飛び散った内臓や残った部位には緑の炎が上がり一瞬にして灰と化す。
「緑の…炎だと!?」
ガイルは慌てて飛び退くが、炎は人に移ることなく魔物だけを焼き尽くすと、先程のゴブリンと同じように俺の手の中に集束し消えていった。
柵の外の魔物は跡形もなく消えたのだ。
「うわっ、グロい!!」
やった俺でもドン引きだ。
慣れていない今使えそうな魔法で、固体に攻撃できそうなのはこれだと思ったんだが。
威力はすごいけど、燃えるだけじゃだめだったのか?飛び散るのいる?
「う…」
鉄柵の外で戦っていた村人の多くが怪我をしているらしく、気が抜けると同時に崩れるように膝をつく者もいる。
ドン引きしてる場合じゃないな。
避けた体制のまま硬直しているガイルもよく見ると血だらけだ。
気を取り直して治癒魔法を発動させる。
辺り一面には緑の霧が出現し、触れた者を癒していく。
俺の間接的な死因である範囲治癒魔法の効果はどうだ!
しかしこの世界は魔法が目に見えるのか、便利だな、元の世界の俺だって見えていれば誰かが垂れ流してますよと注意してくれたかもしれないのにな。
傷を庇いやっとのことで立っていた者達からも驚きの声が上がる。
「こ、これは?」
「爪で切り裂かれたのに、跡形もない…」
「痛みが消えていく…」
「これが治癒魔法だってのか…?」
「詠唱も無しに…」
それぞれが自分の体を見たり触って不思議そうに確かめている。
なんとか力になることが出来たようだ。
残基マークを見るがあまり違いはわからない。
ほっとして降りようとするとあと少しで地面に足が着きそうというところで、安心したせいか力が抜けいきなり地面に落下した。
着地の準備をしていた足から落ちて、ぐきっと可哀相な音がする。
今カッコイイところじゃないの?でも一番高いところじゃなくて降りてる途中でよかった!
口を開けたまま村人が俺に注目する。
恥っっずかしいぃ!
そんなに見ないでほしい!知らん顔する優しさをだなあ…じゃなくて、見てないで助けて?
足をおさえてうずくまる俺の姿にクリフトがはっと我に返り駆け寄ってきた。
「ヤ、ヤマト!?大丈夫か?」
鎧や服にはたくさんの傷がついていたがクリフト自体は治癒の魔法が効いたらしく無傷のようだ。
「はは、捻ったかもしれない…」
「治せないのか?」
「自分には使えないらしいんだ…」
元の世界でもそうだったが、こちらでもそこは同じなのかと落胆する。
涙目で答える俺をクリフトが担ぎ始める、すると村人の一人が近づいてくる。
「冷やした方がいい」
そう言って何か呪文らしきものを詠唱してから魔法で冷やした自分の手を俺の足首にそえてくれる。
ガイルもぼーっとしていたが、頭を激しく振ってから立ち上がった。
「柵のゴブリン共を片付けるぞ!死体を焼いて魔物避けの煙を焚くんだ!」
そう指示を出し始めると、村人たちもその声を受けて動き出す。
さらに数人は危機がさったことを村全体に知らせるために走り出した。
「おいおいヤマト様…あんたとんでもないな…」
遠くからガイルにそんなことを言われた気がするが、聞かなかったことにしておこう。
だってあんなグロい倒し方は俺の意思ではないんだから。
クリフトが宿屋につき扉を規則的にノックすると、顔を出したのは厳しい表情のレモニアだった。
「怪我人かい?えらい早く帰ってきたけど、状況はどうなってるんだい?」
レモニアにはまだ撃退の報せが届いていなかったらしく、クリフトの隣にいき小さい声で様子を聞く。
「はー、それなんですけどね」
なんと答えたらいいのかと迷いながら脱力するクリフトは俺を見た。
「撃退どころか全滅させちまいましたよ…!」
ははっと笑うクリフトに疑問を浮かべたままこちらを見ているレモニアだった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。




