魔物の襲撃
少し進みました。少しでも楽しんでくださると幸いです。
「ところでルンナには乗れたのか?」
クリフトが店の入口に突っ立っている俺に話題をふってくる。
「明後日には村を発つ目処がついたんだが、どうする?」
「そ、それが…」
ルンナ自体には乗れてはいない、浮かんだはいいものの制御できずに引っ張ってもらったと言えばいいんだろうか?
この世界の魔法の基準がわからないので迂闊な発言は避けたい。
視線が泳ぎ、少女と目が合う。
「あの、私も連れて行ってもらうことはできますか?」
アメリアさん?何を控えめに大胆発言しているんだ?
「なんだと!?」
これに反応したのはガイルだった。
「ヤマト様!?アメリアに何を言いやがったんだ!?」
俺?
高圧的な態度で様付けしてくるこのおっさんをなんとかしてくれ!
「そりゃあいいじゃないか!」
予想外の助け舟を出したのはレモニアだった。
「へえっ?」
ガイルから変な声が出る。
「アメリアは首都のリーゼンブルグに行ったことが無かっただろ?いい機会だと思うけどねえ」
「アメリアは病み上がりだぞ!?」
ガイルが最もなことを言っているが、レモニアは気にせず続けた。
「何かあってもヤマト様が治してくれるさ」
ねっ、とこちらにウインクをしてくる。
巻き込まないでくれ。
「もちろんできることはしますけど…」
歯切れの悪い返事にガイルは味方を探す。
「クリフト!おめえだってガキ連れての長旅なんざ、ごめんだろう!?」
するとクリフトはふむ、と記憶をたどるように少し上に視線を移しながら白い歯を見せて笑う。
「俺も親父に連れられて初めてリーゼンブルグに行ったのは今のアメリアより小さい時だったから、いいんじゃないか?」
ガイルの気持ちを知ってか知らずかクリフトが明後日の方向にホームランをかっ飛ばす。
「なっ!?オレが言ってんのはそういうことじゃねえ!ヤ、ヤマト様!ヤマト様だってガキは困るだろう!」
気持ち的に敵であるはずの俺に助けを求めてきたか。
しかし正直なところ俺もこの世界の旅がどんなものになるのかは想像もつかない。
「うーーん、俺も連れていってもらう身ですから…」
「よし、決まり」
ぱんっと手を打ってレモニアが嬉しそうにガイルの腕を引っ張ってカウンター裏に引きずっていく。
「アメリアがいればルンナに乗れるな!空路を混ぜた経路で行ければ早いぞっ」
何も知らないクリフトがアメリアに親指を立てる。
「アメリアはいいのか?」
こそっとアメリアに耳打ちをする
「はい、おじさん達のことを伝えて一刻も早く王都から勇者様に来ていただきたいんです。きっとあの場にいた私が話したほうが現状を分かってもらえると思うんです…」
そこまで考えていたのか!しっかりした子だこと!
異世界の旅に浮き足立っていた自分が恥ずかしい…
「ところでヤマトは何レベルなんだ?」
「40デス」
カウンター裏からレモニアのブハッと噴き出す音が聞こえてくる。
「40!?ヤマトは何歳なんだ?」
ん?なんだなんだその反応は…
「17歳だけど、クリフトは?」
「17!?」
その驚きはどういう意味だ。
「悪い、もう少し幼いかと…俺は19歳だ。8つの頃から親父や兄貴にくっついて魔物退治もしてきたが、レベルは92だ」
二つ上!?もっと年上かと思ったぞ。いや、それより
「レベルも…高!!」
頼もしすぎない!?それもう勇者じゃん!!
「いやいや、俺は平均だ!40っていうと、親に狩りに連れてってもらい始めた子供たちがそのくらいだな」
「え、駆け出し冒険者のレベルが40って…」
「ああ、だからその頃に身分証代わりにギルドに登録して冒険者カードを発行してもらうんだよ」
はい騙されたー!
カウンター裏のレモニアを見ると顔を真っ赤にして腹を抱えて笑いをこらえている。
「じゃあアメリアの9レベルってのは」
ばっとアメリアを見る。
「ヤ、ヤマト様、ごめんなさい、よく知らない人にレベルを聞かれても本当の数字は言っちゃダメだって…」
アメリアまで俺に嘘を!?
いや、待てよ?そこじゃない!
この世界のレベル観念どうなってんだ。
「まあ、レベルを聞いて悪用したり騙す奴がいるのは事実だからな。戦争帰りで戦いから身を引きたい奴なんかも中々本当のレベルは言わないぞ?」
「へ、へえ…」
「あ!ヤマトのレベルもフェイクか?そうだな、不躾にレベルを聞いて悪かったな」
嘘をつかれたと思ったのかクリフトは少し寂しそうに笑う。
いや、フェイクってかそもそも数字じゃないんだよ。
顔文字なんですよオォオ!
嘘だってつきたくてついたわけじゃないんだぞ!? まじでこの世界のレベルってどんな扱いなんだ!
しかたない…
「実はな、俺はレベルがわからないんだよ」
「「「え!?」」」
カウンター裏にいたはずの二人も顔を出してくる。
そんな反応になるのはなんとなくわかってたけど全員でハモらないでほしい。
この話終わりにしていい?
「え…っと、こう、視界に集中してな?右下にマークが並んでるだろ?」
そこは同じなのか。
「その中のステータスってやつだ」
クリフトが可哀想な人を見るように気遣いながら丁寧に教えてくれる。
「そこにレベルってあるから…その右隣を見てくれ」
ふむふむ…
朝と同じようにステータス画面をチェックしてみる。
【レベル】・・・【(・ω・)】
「真顔っ!!」
思わず近くのテーブルをぺシーンと叩く。
「なんて?」
クリフトが聞き返してくる。
「いえ、なんでもないです…空欄ですね…」
今朝見た時と顔文字が変わっている。しかもこの顔文字も腹立つ…
アメリア以外の三人は顔を合わせて無言になる。
「そうだ、ステータス!クリフトのステータスを教えてもらえないか!?」
「あ、ああ…本当はあまり言うことじゃないんだが、HPとMPだけでいいか?」
クリフトが集中しながら自分の視界の画面をなぞっていく。
俺にもいくつか項目があるようだが、全ての数字の後ろに〈×12〉と続いている。
これは魂の残機の数だろうからはぶいて考えるべきか?
「HPが1万7200、MPは5050だな、俺はあまり魔法は得意じゃないんだ」
「…え?それもフェイクか?」
数値を聞いて耳を疑い、再度自分の視界に広がるステータスを目で追いながら何度も確認する。
そんなあほな…
「なんでそう思うんだ?」
キョトンとするクリフト、その反応は真実なのか、しばらく辺りは静まり返る。
「ヤマト、大事なのはレベルやステータスじゃないぞ。持てる力をどう使うかだ」
数値が低くても大丈夫といったように生暖かい視線を送る一同。
「あ、あのっ、ヤマト様は私が守ります」
「そ、そうだな、クリフトや他の連中もいればある程度戦えるだろう!」
「大丈夫よ!なるべく危険の少ない順路を組んでいるだろうからねえ」
全員のフォローを聞いたあとで本当の数値を言うべきか迷う。
この世界でのステータスが個人情報としてどれほど重要なのかはわからないが、クリフトは教えてくれたのに自分だけ言わないというのは気が引けてくる。
「いや、実は…」
言いかけた時、店の表のドアをけたたましく叩く音が聞こえたかと思うと中年の男が息を切らし駆け込んでくる。
「ガイル!大変だ!村の北門に魔物の群れが押し寄せてきた!」
「なんだと!?」
「森の方から血の匂いに誘われて来ちまったみたいなんだ!!」
血の匂い、昨日のことが原因か?
ガイルはカウンターの奥の壁にかけてあった大剣を手に取ると駆け込んできた男に状況の確認を始めた。
「種類と数は!」
「ゴブリンが十数匹、ブレイドパンサーが六頭だ!北門では若い奴らを中心に撃退を試みているが芳しくない」
「レモニア!アメリアを外に出すんじゃないぞ!」
そう言って駆け出していく。
クリフトも後を追うように駆け出したが、顔には焦りの色が浮かんでいたようだった。
ピンと来ないが、非常事態なんだろうか。
レモニアはテーブルや椅子を端に寄せ始める。
アメリアもそれをテキパキと手伝う。
「何をしているんですか?」
わからないながら俺も家具を運ぶ。
「この村には教会がないからてね、けが人はここに運ぶ為の場所を作ってるのさ、最悪積み上げた家具でバリケードにするんだよ」
「そんなにやばい状況なんですか?」
「ここより西で魔物の襲撃を受けた村なんかは壊滅状態だったね」
顔から血の気が引く。
「アメリア!裏口の戸締りが済んだらお湯を沸かしておくれ!」
「はい!」
アメリアは集めてきた布をカウンターに置くと倉庫に走っていく。
緊張感が走り、何もできない自分がいる…
動けない、何もわからない、誰かが怪我をしたら治癒魔法をかければいいのか?それも上手くできるかどうか…
俺に気づいたアメリアは力強く笑うと
「ヤマト様は必ず無事に王都に送り届けてみせます!」
と声をかけて、そのまま忙しなく準備に戻っていった。
怪我をした人を治す…?
ここに運ばれてくるまで何もできずに、成り行きに身を任せて待つだけ?
じっとりと汗が滲む両手を見つめる。
また間に合わないかもしれないのに?
目を閉じて集中する、視界に色々なスキルの文字が浮かび上がる。
見たところで何が何に使えるものなのかなんて理解が追いつかない。
平和な日本で平凡に育った俺なんかに何ができるのか…
そんなの知ったことか!!
「ヤマト様!?」
「ヤマト様、どうしたんだい!?」
体が勝手に動くというのはこういうことをいうのだろうか、俺はそんなことを考えながら二人の制止を振り切り外に飛び出した。
ここまで読んでくださってありがとうございます。