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侵入者

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

「…お前、そうだったのか?」

「さっきからクロウは何を言ってるの?」

 アトスは本当に何もわからないというように、首を傾げて純粋な目でこちらを見ている。


 うん?これはどっちだ?

 女と会う機会が無さすぎて、意識したことがないのか?

 それとも思春期特有の、異性より同性といる方が楽しいよなー!状態なのか。


 アトスの後ろに回り込み、後ろから抱きついてみる。

「なになに?あはは、食べにくいよ」

 何かの遊びと思ったのか、アトスは笑いながら俺の腕をペシペシと叩く程度だ。

 そこで発動【変態】の出番です。

「クロウったらなにして…え?」

 背中から絡めた手を緩ませ、そっと顔を覗き込んでみると、アトスの顔色が変わり固まった。

「だれ…!?」

「俺、俺!くろこちゃん」


 そう、これが俺の生み出した最強の変身術、女体化。

 ベースは俺自身。

 骨格、体型、声に至るまでを女性だったらと変化させ、身長は160後半になり、顔は自分では好みではないがかなり良いと言えるんじゃないかと思う。


 スタイルは大きな胸にしっかりとしたクビレ、尻はデカ過ぎず小さすぎず引き締まった形重視で。

声が姉ににているのが気になるが。

 自分で言うのもなんですが、黒髪がつやっと揺れる美女になりました。


「クロウ…?」

「くろこちゃんて呼んで」

「うわあああー!!」

「えっ」


 慌てて腕を振りほどき、アトスは叫ぶと箸を落としながら素早く部屋の隅に逃げ込んだ。

 このゲテモノか虫でも発見したかのような反応はまさか。

「女が嫌いなのか?」

「そういうことじゃないから!」

 近寄っていくとこちらも見ずに更に逃げる。


「あのなぁ!アトスがその、アレなら俺はここでは暮らせないぞ!?」

 するとやっと一瞬振り返ったかと思うと、目を固く瞑りながらアトスは叫んだ。

「いいから服着てーー!!クロウのばかー!」

「あっ…」

 そういえば、言われて風呂上がりに上半身は何も着てなかったのを思い出し自分を見ると、首から掛かったタオルがいい仕事をして胸を隠していた。

よく見ると、アトスの顔は耳まで真っ赤に染まりうずくまっている。

 とりあえず服を着てアトスを呼んでみるが、涙目で威嚇するように距離をとられてしまった。

 これは…免疫が無い方だったか。

 うん、悪いことをしたかもしれない。


「アトスー、元に戻ったから!ほら、ご飯残ってるぞ?」

「…クロウがソファの方に行ったらテーブルに戻る」

 怒ってる!!

 なんとなく、叔父夫婦が旅行中に預かった猫を思い出す。

 俺がソファに行き大人しく座るのを確認してから、アトスはテーブルについてこちらを警戒しながら食事を再開した。


「あの…ほら、つい練習したスキルを見て欲しくてさ」

 我ながら苦しい言い訳だが、いつかこれで驚かせようと思っていたのは嘘ではない。

 するとアトスはじろりとこちらを一瞥するも、黙々と食べると片付けを始めた。


 その日、繊細な思春期は"おやすみ"以外を喋ることは無かった。

 もちろん俺が悪い。


 次の日、俺が起きるとアトスは仕事に出かけた後だった。

 律儀にも例のごとく、自分がいない間の食事は用意してくれているが、もう怒りは収まったのだろうか。

 くろこちゃんは封印しようと思いながらアトスのいない間は筋トレと魔力操作の練習だ。

 と、森を走り込んでいると【周囲感知】に知らない気配が引っかかる。


 人間?にしてはなんだか変な感じだ。

【認識阻害】で俺の存在感を消し念の為木陰に身を隠していると、家の方からやはり聞き覚えの無い声がする。

「おかしいわね、いないのかしらー?」

 屋根の上に移動して様子を見ると、外套を羽織り大きなリュックを背負った怪しげな人物が玄関の周りをウロウロとしている。

 俺はこの世界に知り合いも無いのだから、間違いなくアトスの客だろう。

 天窓から屋根裏部屋に入り、顔や髪を隠すように服とマントを着込んで扉を開けた。

「はい」

「あら、良かった!やっぱり誰かいたのね」

 目の前に立っていたのは、俺と同じく色々と着込んでいて顔が見えない背の高い人物。

 声と話し方から女だとは思ったが、ノーラの事を思うと性別の判断はしない方がいいだろう。

「この家の主は今留守ですが、お知り合いですか?」

「そうなの?近くに来たら森がやけに元気だったから、どんな人が住んでるのかと思って立ち寄っただけなのよ!」


 イマイチ答えにならない事を言っているが、知り合いでは無さそうだ。

 そいつは図々しくも中に入れろと言い出した。

「申し訳ありませんが、俺の家では無いので勝手はできません」

「あら、お堅いのね」

「外で良ければそちらの切り株に座ってお待ちください。昼過ぎには家の主が戻ると思います」

「そう?」


 了承とも拒否とも受け取れない返事をすると、相変わらず森を見渡してフラフラと動いている。


 これは訪問販売のような怪しげな者だと困る。

 面倒事に巻き込まれてはいけないと思い、一人では行ったことのない王都の裏口に案内することにした。


「もしよろしかったら、他の者がいる所にご案内しますが」

「あら!それもいいわね!行く行くー!」

 隣に並ぶと俺より僅かに背が低いことがわかる。

「あら、アナタ背が高いのね」

「はあ…」


 こちらのセリフだと思いながら、森をぬけて一本道を進む。

 その間も怪しい人物は後ろを着いてきてはいるのだが、森をチラチラと見ては一人で話を進める。

「ほら、この辺て森がいっぱいあるじゃない?」

「はあ…」

「だから私も来たんだけど、入れたのは今日が初めてなのよね」

「はあ…」


 コイツの言うことは要領を得ないため、適当な空返事で流していると突然名乗り出した。

「私アーツベルっていうの、アナタは?」

「名乗る許可を貰っていません」

「名乗るのに許可がいるの?アナタのご主人様はずいぶん厳しいのね!?」


 俺の答えにすっかり家の小間使いか何かだと思われたのか、そいつは驚きながらついてくる。


 少しすると裏門の兵士が俺たちに気づき、警戒し始めたので会釈をした。

「お仕事中すみません、森の家にこちらの方が訪ねて来たんですが、俺ではどうしたらいいかわからなかったのでここに案内しました」


 そう言うとザワついていた兵士は誰が相手をするか目配せをし、中でも年長らしき口髭を蓄えたスキンヘッドのムキムキ男が前に出た。

「そのような事が…?ご苦労だったな、後は俺たちに任せてくれ」

「はあ、よろしくお願いします」

 兵士にアーツベルと名乗る不審者を引き渡すと、意外にも普通の対応で拍子抜けだがほっとした。

 兵士に任せてその場を立ち去ろうとすると、おかしなやり取りが聞こえてくる。


「あら?私を知らないのかしら?エルフよ?」

「エルフ!?森人様でいらっしゃいますか!?」

「それは知らないけど、そっか、そんなふうに呼ばれてたわねー!そうそう、私はただあの森に興味があるのよ」

「申し訳ございませんが、私共は森に関する権限を持ちませんので、一度街にいらして頂きまして…」


 兵士が困っているようだが聞こえなかったフリをして、この間に早く帰るとしよう。

 なるほど、【周囲感知】に引っかかったあの不思議な雰囲気はエルフ特有のものだったのか。

 これ以上関わらない方が良さそうだ。


 そうして森に戻り筋トレをして、昼飯を食っているとアトスが帰ってきた。

「お帰り、早かったな」

「うん、仕事が終わったら早く帰れと言われて…なにかあったの?」

 タオルでアトスの頭を拭きながら、先程の事かと思い当たる事を説明する。


「この森に、人が?」

「人っていうかエルフかな?森人様って呼ばれてる」

 アトスは驚き固まっている。

「勝手に裏門に行って、まずかったかな?」

「ううん、それは大丈夫だけどこの森に入れる森人って何者なんだろう?」


 アーツベルもそんな事を言っていたな。

「そいつもここには初めて来たと言ったが、何かおかしいのか?」

「うん、ここは関係者以外が入れないように、魔法術式の結界があるんだ」

「じゃあ俺が最初にここにいたのは?」

「それもわからない」


 二人で考えても解らないものは解らないので、兵士に任せたのだから気にしないということになった。

 アトスは森人と呼ばれる存在を知らないらしく、軽く話をすると会ってみたいなどと言い出したのでやめておくように注意した。


「アトス、もう昨日のこと怒ってないのか?」

「ああっ!忘れてた!」

 しまった、そのままにしておけば良かった。

「でも飯ありがとうな、ごちそうさま!」

「もうあんなイタズラはしないでね」

 少しすねているようだが、もう大丈夫そうだな。


「さてと、クロウも食休みできたみたいだし行こうか」

「アトスは休まなくて…良さそうだな」

 この子がやる気満々で屈伸を始めたということは。

「よろしくお願いします」

「今日も結界の中でね!」


 こうして今日も辛い猛特訓が始まった。


「今のを避けるとはさすがだね!」

「だってその全力振りかぶり痛いからな!!」

 今日のアトスは一度全力の攻撃をすると一度退り、また攻撃をしては別方向に飛び退くという謎の動きを見せた。

 普段の隙のない連撃も苦手なのだが、痛みがある今、弱点を狙いすました重い一撃がどれほど恐怖か。

 どこから来るかわからない攻撃に集中すると、大剣が当たるか当たらないか、スレスレのところで肌にピリッと嫌な緊張が走る事が増えた。


 そこを護ろうとすると、大抵攻撃を避けることが出来ている。

 頭で考えるのではなく感じるというのはこの事かと、わかりたくもない感覚が研ぎ澄まされていく。


 それでも全てを回避するのはまだ不可能で、時々重い攻撃を食らうと全てが嫌になりそうなほど痛い。

「いてえーー!!」

「ちょっと休憩しよう、集中が切れてきてる」

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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