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少女と小川で

少しずつ主人公の人となりを表現できたらと思います。

  キラキラと光る小川に俺のキラキラが流れていく…。


「ごめんなさい!ごめんなさい!」

 川に顔だけ出した状態で這いつくばる俺の近くで、年端も行かない少女が青ざめた顔で謝りとおしている。

「いや、だいじょ…うぷおろろろろろろろろ」


 問題ないと言ってなだめてやりたいのだが、キラキラが止まらない。

 そんな俺の背中を程よい重さで上から下にさするもの、それはペガルスのルンナの前脚だった。

 器用だけど、とても楽になるけども、なんとなく腹が立つ。

 ルンナの脚をどかし、川の水で口をすすいで草原に仰向けになって一息つくと、アメリアが恐る恐る声をかけてきた。

「ヤマト様…」

 申し訳なさそうに近づくアメリアを見ると、仕方がないという気になってくる。

「いいよ、おかげでペガルス乗れたしな」

 出すことも引っ込めることも出来なくなった少女の手を握って上下に振る。

「クリフトの兄ちゃんのことだろ」

「ごめんなさい…」

 振られた手を振りほどくことも出来ずにアメリアは俯く。


「あのな、アメリア」

 手を繋いだまま起き上がってアメリアの方を向いて座ると、怯えたように座り直した。

「これから俺が言うことをよく聞いて欲しい」

「はい…」

「昨日君の家族と村の兄ちゃんを助けられなくてごめんな」

「!?」

 俺に叱られるとでも思っていたのか、アメリアが目を丸くしている。

「ちっ、違います!悪いのは…」

「だけど俺は悪くない。悪いのは盗賊だ」

 自分を責めようとした少女は思いもよらぬ言葉に遮られ困惑している。

「どんな事情があったとしても、一方的に他人を傷つけるような奴がぜーんぶ悪い」

 俺の意図を察したのか、アメリアは口ごもりながらも話し始めた。

「でも私が熱なんか出さなかったら…昼間少し調子が良くなったんです。その時におじさんはお医者様に診て頂く為に街に行こうって言ったのに…」

 握った手は冷たく震えている。

「迷惑をかけたくなかったんだろ?」

 黙ったまま俯く少女は強い自責の念で今にも押しつぶされそうになっている。

「俺は、助けない方がよかったか?」

 アメリアがはっとして顔を上げる、意地悪なことを聞いただろうか、しかし自分だけが助かったことを悔やんで、俺を恨んではいないかと心配になり確かめずにはいられない。

「俺は自分に出来ることをしただけだ。アメリアも、痛いのを我慢してがんばって一人で逃げずに俺を呼びに来ただろ?」

 そう、あの時村と逆方向に歩いてきたのが気になっていた、そのおかげで俺はアメリアに会うことが出来たのだが、二人で歩いた距離を考えると引き返せば村に帰ることもできただろう。

「あ、明かりが、見えたんです。魔法の明かりで…」

「うん、その先に何がいるのか怖くなかったか?」

「早くおじさん達を助けないとって必死で…私は一度意識を失ってしまったんです、だから…これ以上時間が経ったらって…でも、怖ったです…!」

少女の目には大粒の涙があふれて零れ落ちる。

「うん、アメリアは自分の出来ることをしたんだ。来てくれなかったら俺は君に会えなかったかもしれない」

 声を押し殺すように泣く少女を抱きしめて、この小さい身体にあった傷と血を思い出し、どれだけの恐怖と苦痛がこの少女を襲ったのかと思うと胸が苦しくなる。

「皆大好きな人のためにその時出来ることをしただけだ。俺にはハッキリ言える、アメリアは何も悪くない」

 その言葉で(せき)が切れたように胸の中で泣き叫ぶ少女は、親しい人間が死んだのは自分のせいだと言う。

「最後まで…お父さんとお母さんって…呼べなかったっ!ごめんなさい!ごめんなさい!」

 そんなことを言ったところで死者が喜ぶのか、亡くなった者の分まで生きろなんてご立派なことは俺には言えない。

こんな悪夢のような経験をしたことも、親しい人をなくした記憶もないのに、人生経験も未熟で部外者の俺が偉そうに語れることなんて何一つない。

 ただ、俺も助けてもらったんだ。

 突然わけのわからない転生とかで、右も左もわからない暗闇に放り出されて、それでも誰かの力になれた。

 初めて見る悲惨な現場に俺はうろたえるしかできなかった、それでも諦めず声をかけていた少女、本当はあの場で僅かな希望にすがって留まり、目が覚めることを祈って呼び続けたかったのかもしれない。

 それでも俺を呼んだから巻き込まないように村に帰る決断をしたんだ。


 そんな強い女の子が俺の前を歩いてくれたから、俺も歩くことが出来た。アメリアに会えて本当に助けられたんだ。


「アメリア、俺は暗い山の中で一人は怖かったよ、見つけてくれてありがとうな」

 こんなに悲しいことは夢だったらどれだけ良かったか、しかしこれはもう現実なんだとわかっている。

俺に出来ることは何もないんだろうか、アメリアの背中をさすりながら空を見上げてそんな事を考えていた。


 やがて日が暮れ始めた頃、少女は静かに鼻を鳴らして俺の胸に顔を埋めていた。

「ん?」

 いきなり顔の前に陰りができたと思ったら、ルンナの顔が近い。

「ル、ルンナ?」

 上下の前歯をガツガツと鳴らし、俺の髪を齧るペガサスもどき…

「あのー、アメリアさん?ルンナはなぜ噛んでくるんでしょう?」

「たぶん、帰らないといけないって教えてくれてます」

 確かに村からそんなに離れてない見晴らしのいい小川とはいえ、ガイル達が心配しているだろう。

「そろそろ帰ろうか」

「はい」

 ちょっと待てよ?

 チラッとルンナを見るとやる気満々に鼻息が荒い。

「歩いて帰らない?」

「明日から旅にでるのでしたら、ぜひルンナを連れてってください」

 ニコッと微笑むアメリア。

 うっ、そうか。

 忘れそうになってたけどアメリアが俺を探しに来たのってそれだったんだよな。

「今日は私の後ろに乗ってください」

 そう言ってひらりとルンナに跨り、夕日を背に手を差し出す少女。

 逆じゃないか?


「俺もね、アメリアの気持ちに応えたいんだよ?でもね」

 こんなに小さい手に体重をかけるわけにはいかない、意を決してルンナに跨ろうと試みるが、高い。

 よじ登ろうとして片足を上げて跳ねる姿はきっととっても可哀想に見えるに違いない。

 そして視界に浮かぶ文字。

【スキル】【方向操作】

方向操作?

スキルのアイコンを注視すると説明らしき文字が表れる。

【対象を定め〈レジスト〉を無視し方向を操る】

 それって自分を対象にして上にって意識すれば飛べるってこと!?そんなものがあるならもっと早く教えて欲しかった。

 俺はスキルで飛ぶことを選び、決定の意志を強く固めると、身体が突然ワイヤーで吊るされたように空中に飛び上がってアメリアの頭上でジタバタと飛んでいた。

「ヤマト様は…空まで飛べるんですか?」

 アメリアは唖然として口をあけている。

「そうみたいなんだけど、上手くコントロールが出来ない!」

 上昇し続けるスキルをなんとか制御しようと身体に力を入れてみるが、下へと思うと急落下しそうになり体勢を崩して逆さまになる。

「ヤマト様!」

 今度は上へと思えば糸の切れた凧のように上昇していく、そんな俺を見たアメリアはルンナと飛び上がり手を伸ばしてきた。

 思わず手に捕まると少し身体が安定する。

「ありがとう、なんか泳ぐ練習みたいだ…」

 だから、逆じゃないか?


 アメリアがくすっと笑って俺の手を引く。

 気を抜いて前に出すぎたり前傾姿勢になると羽ばたくルンナの翼に叩き落とされそうになりつつ、少しずつ手を辿ってアメリアの頭上に移動する。

 アメリアが両手を挙げるので、俺の姿勢は谷の少女の乗り物に乗っているような形で落ち着いた。

 たまにスキルの対象がブレてアメリアも浮き上がりながら、ルンナの加速に引かれて村に帰ることができた。


 宿屋につくと一階の食堂でクリフトが待っていた。

 客がいないところを見ると、店を閉めて待っていたのだろう。

 心配したガイルがカウンターからでてきて叱ろうとするが、クリフトがまあまあと宥める。

 その様子にアメリアは一度俺を見て、繋いでいた手を離す。

 俺も頷いてみせると決心したのか、クリフトの前に進んでいく。


「クリフトさん、さっきはごめんなさい」

 勢いよく頭を下げてからゆっくりと顔を上げるとまっすぐにクリフトの目をみつめる。

「それから、お兄さんのこともごめんなさい!」

 クリフトは一瞬驚いた顔をしたが、アメリアの頭をガシガシとなでてニカッと笑った。

「気にすんな!それより今アメリアが無事に帰ってきてくれて良かったぜ!そうじゃなきゃ俺がガイルさんに殺されちまうところだったんだぞ?」

「え…?」

 戸惑い怯えた視線を少女に向けられたガイルは、身振り手振りでそんなことはないと訴えている。

自身も兄を失ったばかりだというのに、少女を気遣うクリフトは本当にいいやつだな。

読んでくださってありがとうございます。

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