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回復

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

 目眩と吐き気で最悪の気分で目が覚める。

 そうだ…

「アトスっ!」

「うん、ここにいるよ、目が覚めた?」


 隣にはベッドの上で折り紙を折る姿があった。

 アトスは折り紙の手を止めて、俺の額に手を当てると頷きベッドから降りた。

「着替えとタオルと飲み物を持ってくるけど、離れても大丈夫?」

「あ…ああ、ありがとう」


 扉を開けたままドタバタと階段を駆け下りて、下の部屋でも急いで走り回っている音がする。

 しばらくすると着替えを小脇に抱え腕にはタオルをかけ、トレーに飲み物を持ったアトスが戻ってきた。

 ベッドの脇のイスにトレーをおいて渡されたタオルで顔を拭くと、着替えの間にと身体を拭いてくれた。

「ご飯は食べれたらでいいよ?お茶と水があるから好きな方を飲んでね」

「ははっ、最初に目覚めた時みたいだ」

「今日は僕の分もあるよ!」

 イスをもう一つ用意すると、テーブル代わりにポットとカップを置いて、隣のベッドに寝転んだ。


「クロウ、調子はどう?」

「ああ、まだ気分が悪くて動けそうもない、心配かけてごめんな」

「そんなことはいいのいいの!疲れが出たんだよ」

 明るく励ましてくれるアトスの存在に助けられ、着替えてお茶で口を湿らすが、吐き気に耐えられず横になる。

「アトス、今アトスのMPは満タンか?」

「えっと、半分くらいかな?回復薬は不味いから飲みたくなくて…回復に時間がかかるんだよね」

回復薬?そんなものまであるのか。

「ちょうど良かった…」


 首からレイムプロウドのネックレスを外してアトスに渡す。

「この中に俺の魔力が入ってる、吸収できるだけしてくれないか?」

「え?…わかった」

 アトスは最初こそ戸惑っていたがレイムプロウドの水晶を握り、言われるまま目を閉じて意識を集中する。

 そして目を開き、ステータスを見て首を傾げる。

「どうした?」

「満タン…どころか、上限が1万も上がっちゃった…すごい!ファイヤフロウが三回も撃てる!」

「よかった、そいつも空になったみたいだな」


 ステータス画面を凝視するアトスからレイムプロウドを受け取り、首にかけるとまた魔力を限界まで吸わせる。

 俺もステータス画面を見るがMPに変化はない。

 しかし、気のせいか魂の残機マークの色が少し蒼っぽいような…緑にも見えるし、よくわからない。


 とりあえずこれで少しの間だけでも、魔力の調節ができるだろう。

「アトス」

「あっ、どうしたの?」

「また魔力が無くなったらでいい、同じ事を頼めるか?」

「いいけど、クロウの魔力は足りてるの?」

「ああ、こうしないと魔力の調節ができないんだ」

「今回の不調はそのせい?」

「わからない、試せることは試しておきたくて…うっ」

「クロウ!?」

 吐き気で喋ることができない…


 文字を書くジェスチャーをすると、アトスは紙とペンを用意してくれた。


〔念話は出来るか?〕

「ねん、わ?」

〔心で思ったことを声に出さずに会話するんだ〕

「そんなことできるの!?」

〔試しに話しかけるから、聞こえたら強く思って返事してくれ〕

「わかった!」


[吐き気がひどくて喋れない]

[初の念話がこれ!?]

[出来たみたいだな]

[あっ!本当だ!クロウすごい!]


 二人で数回頷いてから、俺は目を瞑って休みながら至近距離で念話をする。


[これ、注意が必要なんだけどな]

[なになに!?]

[念話で話しかけられた時に、思わず声に出して返事すると、周りからは頭のおかしい奴だと思われるから気をつけろよ]

[うん、わかった!]

[ごめんな、もう少し休んでもいいか?]

[大丈夫だよ]


 片目を開けてアトスを見ると、アトスは笑顔で首を傾げる。

[アトスが…無理のない程度でいいから、できる時は傍にいてくれないか]


「えーっ!全然いいよ!クロウが甘えてる!珍しい!」

 注意したのに、念話に喋って返すなってば…そして何故そんなに嬉しそうなんだ。

 それでもアトスがいることに安心して再び眠りについた。



……

………

「…で、…るから……かも」

「もし…………、………かね?」


 誰かの話し声が聞こえる…

 無意識にアトスを探そうとするが、身体が動かず念話も届かない、頭も重く働かないまま眠気に襲われる。

 またこのまま長い時を眠ってしまうのか?その間に始末されたりしてな。

 そうしたら、またクロウシスに会えるだろうか、それとも魂の残機が減るだけで、ここに留まることはできるのか。


 そんな事を考えては微睡み、また眠ってしまった。

 次に目が覚めると、少し身体が軽くなっているのを感じる。

 隣を見るとアトスが俺の手を握りながら、ぐっすりと眠っていた。

 良かった、まだここに俺は残れたようだ。


 ぼんやりと部屋を見回すと、天窓から見える空で夜だとわかる。

「…ん、クロウ?」


 アトスが目をこすりながら起き上がり、近くに座った。

「起こしちゃったか、ごめんな」

「僕もいっぱい寝たから、それより体は?」


 言われて身体を起こしてみるとまだ軽く目眩はあるものの、倦怠感も無く動けるようになっていた。

「お陰様で、かなり回復したよ」

「よかった!」

「ところで、俺はどのくらい寝てた?」

「一日だけだよ、今は朝方の四時で、念話のあとから今まで」

「そうか…」


 アトスが魔鉱石のライトを点け、顔を覗き込んでほっとしたように笑顔になる。

「顔色も良くなってる」

「心配かけてごめんな」

「ほんとだよ、また起きなくなっちゃうかと思った」

「俺も」


 その時、グーッと鳴ったのは俺の腹だった。

 ちと恥ずかしい。

「食欲あるなら、ご飯持ってこようか?」

「いや、下に行くよ、アトスはまだ寝てろよ」

「僕も今日は仕事だからそろそろ起きる時間」

「早すぎないか?」


 二人で下の部屋に行きテーブルに座ると、アトスが温かいお茶を出してくれた。

 その後、胃に優しいものだと言ってスープを用意すると、アトスも隣の席に座りお茶を飲み始めた。

「いただきます」

「めしあがれー、夜ドクターが明日仕事になったと伝えに来たんだよ」


 なるほど、話し声がしたと思ったのはそれだったのか。

「それでクロウの事を相談したら、泣きながら心配して診察するって聞かなくて」

「えっ」

 とうとう医者の振り切りが俺にまで?

「よく寝ていたから断っちゃった」

「ありがとな!今日先生に会ったらよろしく伝えてくれるか?」

「うん!」


 食事を済ませると腹が落ち着き、今度は身体を動かしたくなってくる。

 昨日は筋トレも鍛錬も休んでしまったし、走り込みにでも行ってこようか。

 が、それを読んだかのようにアトスが食器を片付けながら注意する。


「病み上がりなんだから、僕がいなくても動きすぎないでね!」

「よくわかったな!なるべく…大人しめにするけど」

「動きたいって顔にかいてあるよ!」


 だからといって禁止するわけではないのが、最初の頃より変わったところか。

「アトス、仕事の日にわざわざ早起きしてまで、俺の飯の準備とかしなくていいんだぞ?」


 何か料理をし始めたアトスをカウンター越しに覗き、一応自分の食べるものくらいなんとかすると言うと、アトスはくすくすと笑う。

「僕がやりたくてやってるからいいの!それに仕事の日は他に準備もあるし、早起きすることにしてるんだ」

「アトスこそ、あまり無理するなよ」


 そういえば、仕事の日に朝一緒に起きているのは初めてだ。

「少し散歩してくるけど、出る時は見送りたいから教えてくれよ」

「えっ?えーっと…見送りは大丈夫!」


 なんだか気まずそうに目をそらされてしまった!

 祖父に言うなと言われている仕事の内容に関係があるのだろうか?

「そうか?じゃあ気をつけて行ってこいよ」

「うん!ありがとう」


 今一つ腑に落ちないが、拒まれてしまうとそれ以上踏み込めない。

 家を出て森の中を歩きながらステータスの確認をすると、やはり魂の残機マークは緑だ。

 蒼に見えたと思ったのだが気のせいだったらしい、次はスキルを確認すると二つほど増えている。

 【転送】【耐性無効抵抗】【認識阻害】


 【転送】は意識したものをイメージした場所に送る。

 そのままだな。

 試しにその辺の石ころを二つ拾い、一つは屋根裏部屋、もう一つは日本の俺の部屋へと【転送】を発動してみる。


 一つめの石は消えたが、もう一つ…異世界に送ろうとした石は手に残ったままだ。

「…ダメか」


 【認識阻害】は、おお?説明を読むと、対象の存在を他から認識できなくなる、隠密系スキルか!


 そして、【耐性無効抵抗】は意味がわからない。

 説明には、耐性無効への抵抗とある。

 たまにこういった使いどころが謎のスキルがあるのが困る。

 今あるスキルも全て使いこなせてるわけじゃないし、意味がわからず放置しているものも多い。


 森の中を走り出した俺は、気づくとアトスが魔物を退治した場所にやってきていた。

 そういえば、魔物はアトスの炎の魔法で塵のように跡形もなく消えた。

 アトスの魔力はあの日に減ったままレイムプロウドで補充するまで、完全には回復していなかったのか?

 他に魔法を使う機会があるのだろうか?


 【周囲感知】にアトスが動いた気配を察知したが、それは以前言っていた井戸のある場所だ。


 仕事の前にも井戸に行っていたのか、今日がたまたまか。

 正直アトスの仕事が気になってしかたがない。

 一度は何も聞くまいと決めたのに、それもこれもアイツのせいだ!剣神・剛田!

 アイツがアトスの仕事にまでケチをつけて、その上汚らわしいだのなんだのと言いたい放題言ってくれたせいで余計心配になってきた!


 と、やはり詮索はいけないな。

 あんな世紀末野郎にかかれば、どんな仕事も人物も貶されるのだろう。

 それにしてもあの時、先生が相手になると言ったら怯んだのはなぜだ?


ここまで読んでくださってありがとうございます。

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