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誕生日

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

わかってる!虚しくなるのも!なんか罪悪感とか生まれそうなのもわかってる!

しかし今はそんなことはどうでもいいんだよォ!

こんな能力を持ってしまったら、誰だって試したくなるだろう!?ならない!?俺はなる!!

さて、これには邪な気持ちだけではなくオリジナルの生き物を創れるかという課題もある。

よーくイメージして出来れば胸は大きい方がいいな。

違うんだ、これには深くて浅い訳がある。

誤解しないで欲しい。

違いがわかりやすいようにサイズを指定するだけだ。

よし!心の準備は出来た!【変態】発動!

最初から鏡を見ていたのは初めてだったが、瞬く間に、本当に一瞬で身体の造りが変わる。

──しかし。

鏡に映ったのは、アメリア?いや、クロウシスか?

そう言えば二人は同じ髪の色で、顔も似ている気がする…。

今鏡の中にいるのは、二人を足して大人にしたような女性。

そしてもちろん出来ました!服の上からでもわかる胸の膨らみ…

その胸に手を伸ばそうとしてなんとなく動きが止まる。

顔が違うな。

色々確かめようと思ったのに、そんな気が咎めるような顔にならなくても良いのに。

もちろん確かめたいのはスキルの精度ですよ?でもなんだろう、一気にやる気がなくなった。


うん?

部分的にはどうだ?

一度解除して、右の肩から先を対象として意識する。

考えて発動させたのは漆黒の羽、ルンナの翼だ!

これはもしかしなくても、部位が合わなくてもいけるパターンじゃないか!?

そんな能力手に入れたら、厨二全開でメタモルフォーゼしちゃうけどいい!?


おっと、スキル一覧から着想を得ようと見ていたら今この瞬間に他のスキルがいくつか追加されたようだ。

増えるページ、把握しきれないスキル、戸惑う俺。

よし!新しいのは目だけ通して徐々にだな。


とにかく今夜は【変態】を極めたい!

「まずはここをこうして!アレをそっちにつけてぇー!!」

そうこうしている間に空が白んできてしまった。

「ふっ、まさか架空のキャラのあの部位と、実在のあの生き物の特徴に武器の要素を併せ持つパーフェクトキャラが完成するとは…」

【変態】の素晴らしさに感動し、肩で息をしながらキラリと光る汗を拭うと、やりきった感で満たされていた。


てれれてっててー!クロウはおもちゃスキルを手に入れた!


さて、もう家に戻るとするか。

思いつく限り遊ん…必要な事は試した、また時間を作ってさらなるクリエイトに挑戦することにしよう。


リビングに入るとアトスの姿はまだない。

少しでも寝ておこうと布団に入ると、起こしてしまったのか入れ違いにアトスが起き上がる音がする。

なんとなく外に出ていた事がバレると不味い気がして寝たふりをすると、アトスはそのまま部屋を出ていき、少しすると料理を始めたようだった。

まさかとは思うが、毎朝こんな朝方から起きているのか?


見送りをしようと思っていたが、眠気が限界に達し俺はそのまま眠ってしまった。



目が覚めたのは昼前、やはりアトスはまだ帰っておらずテーブルには昨日と同じく書き置きがあった。

〔病み上がりのクロウへ。夜はしっかり眠ること。

昼食があるので起きたら食べてね〕


夜中に出かけたのがバレていたようで、またも注意された上に起きる時間まで見透かされていた。

俺がわかりやすいだけでは無いのだろう、アトスは鋭い子だ。

顔を洗って頭をスッキリさせ食事を終えて箸を置くと、片付けを後回しにして紙を取り出し昨夜の作業の続きを開始する。


俺に出来るのはこんなちっぽけなプレゼントで、アトスが少しでも喜んでくれたら…そんな風に思ってしまうのはただの自己満足かもしれない。

しかしアトスはきっと何をしても好意的に受け止めてくれるんだろうな、目覚めて四日の付き合いながらもアトスがいかに素直で優しい性格なのかはわかってきたつもりだ。


ならば少年がかけてくれた言葉をそのままに、楽しめることを増やして行けばいいんだよな。


今日はアトスの誕生日を祝うために先生も来ると言っていたから、食事などの心配はしなくてもいいだろう。

その分これを渡すタイミングは考えないといけない。


やがてプレゼントの制作が終了し、屋根裏部屋の自分の使っているベッドに隠して準備は万端だ。

時間は午後三時をまわった頃。

そして洗面台の鏡の前に行き【変態】を発動すると、見る見るうちに髪がアトスと同じ深紅に染まる。


本当はこの先に一番試したいことがあったのだが【周囲感知】に人の気配を察知し、元の髪の色へと戻して部屋に戻る。


鍵を開けておいた玄関から入ってきたのは医者だった。

「やあ、クロウくん」

見ると、持ち物は小さい紙袋が一つ。

「先生、アトスは仕事でまだ帰ってないんだ」

「アトスくんとは職場で会うこともあって把握しているから大丈夫だが…ありがとう」

俺の報告を聞いて医者は頷き残念そうに荷物をソファに置いた。


「そうだ先生、誕生日の食事はどうする?と言っても本人に作らせるわけにはいかないし、俺にはあてもなくて…」

「ご馳走を用意していたのだがね…本当に…」

医者は深いため息をつくと俯きながら独り言のように話し出す。

「アトスくんは、──彼の祖父の健吾もだがね、仕事のある日は食事をしないのだよ」

出勤日は何も食べない?連日仕事になったらどうするつもりなんだ。

「なぜだ?」

俺の質問を余所に医者は苦々しく呟く。

「アイツら、今日は仕事を入れるなとあれほど言っておいたというのにこれかね…この世界は一体ボクたちをなんだと思っているんだ…!」

初めて見る医者の憤りに驚いた。

「先生!アトスの仕事ってなんなんだ」

強く呼ばれ、我に返った医者はしまったというようにこちらを見返す。

「アトスくんから聞いてはいないかい?」

「爺さんに口止めされてると言って教えて貰えなかった」

「そうかね…ならばボクの口から言えることは何も無いのだよ、すまないね」

そして医者はしばしの沈黙の後一つだけと言った。

「誤解しないで欲しい、アトスくんは自分の仕事に誇りをもっている。食事を摂らないのは彼自身の意思であり仕事は彼の生きる手段でもある」

規則ではないと?それは確かに働くことは生活に必要なことだろう。

日本でだって忙しい時に…いや、日本だったからこそかもしれないが、自分の誕生日はおろか家族の誕生日にでさえ欠勤できないことはざらだろう。



幼い頃に姉の誕生日に父親が出張になってしまい、その後すねて怒った姉は自分が大事ではないのだと父親を責めて母親に叱られていたのを思い出す。


しかしこの医者の様子からはそんな俺の記憶にある時が経てば軽く笑い飛ばせるような話ではないことが、…何か嫌な空気が伝わってくる。

ボクたち──それを指すのはきっと…


「だからこそ今日だけは仕事が入らないよう、ボクからも上司に頼んでいたんだがそれは通らなかったのだよ」

「上司はアトスが今日誕生日であることも、仕事のある日に食事をしない事も知っているんだな?」

医者は静かに頷く。


「それなら仕方ないな、食事は別の日に豪勢に用意してやろう!それまでに俺も料理の数品くらい覚えないとな!」

俺の言葉に医者は目を丸くしている。

「先生もアトスを祝ってやりたいんだろう?」

「あ、ああ、もちろんだとも」

「先生の方が知ってるだろ?アトスなら皆で楽しく過ごすことが一番嬉しいんじゃないか?」


ろくに少年の事を知りもしないで、偉そうなことを言ってしまったかもしれない。

しかしアトスを哀れむのも気を遣うのも失礼だと思った。


「そう…だったね、アトスくんには楽しんでもらわなくてはいけないね!」

医者の表情も明るくなり、二人でアトスを待つ間に医者は誕生日を祝う歌だと言って、俺にとっても馴染みのある曲を教えてくれた。


するとスキルが人の気配を察知した。


「もうじき帰ってくると思うぜ」

俺がそう言うと医者はキョトンとしながらこちらを見る。

「なぜわかるんだい?」

しまったー!

「ほら!昨日もこんな時間だったんだ!でも一度帰ってきたのに、身体を綺麗にするとかでどこかに行っちゃったんだよな」

それを聞いた医者は訳を知っているのか、それならばと歌の練習の続きを始めた。

「ならもう少しの間は帰ってこないはずなのでね、安心してもう少し覚えてみよう!ほら、ここで誕生日の人の名前を入れるものなのだよ!でぃあ?」

「…あとすぅー…?」

知ってます。

むしろ知らないフリをするのに苦労しながら、アトスが早く帰ってくることを待ち望んでいた。


そして玄関のドアが開くと昨日と同じく、頭が濡れたままのアトスが帰ってきた。


「「お帰りアトス!」アトスくん!」

「「誕生日おめでとう!!」」

二人で駆け寄るとアトスは驚きながら俺たちを交互に見る。

「うそ…もうこんなこと無いと思ってたよ」


そして俺に近寄って来て悪戯っぽく聞く。

「僕の誕生日だって知ってたの?」

「先生から聞いちゃったからな」

「ドクターは仕方ないなあ、でも忙しいのに来てくれてありがとう」

一度じろりと医者を見たアトスはそう言いつつも照れながら嬉しそうに笑顔になる。


そんなアトスの髪を肩にかけていたタオルで拭いて、ついでに頭をガシガシとなでる。

「いい加減いくつになったのか教えろよ」

「十六歳、もう立派な大人だよ!ね、ドクター!」

「そっ、そうだね、この国では立派な成人だ」

ぶふっと笑うとメガネの隙間から笑いすぎた涙を拭き医者が答える。

「十六歳!?」

「クロウ~その反応はどういう意味なの?」

「十歳くらい間違えてないかあ~?」

「失礼だなー!もう!」

皆で笑うとテーブルにつき、医者の合図で例の歌が始まり俺もぎこちなく合わせて歌うと、医者は上手いと言いたげにこちらに下手くそなウインクをした。

とうのアトスは歌の間照れているようだった。

豪華な食事もケーキもロウソクも無い、それでもアトスは三人で過ごす時間を喜んでくれた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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