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物語2

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

「“魔王は人間を沢山殺しました。

魔王の生み出した魔物は数多の生き物を殺し、世界は死と恐怖に包まれてしまったのです。

絶望の淵に落とされた世界に希望を取り戻したのは英雄王でした。

英雄王は恐れることなく自ら軍を率いて魔王に立ち向かい、見事打ち倒したのです。

英雄王に争いを仕掛けてきていたいくつかの国は英雄王の活躍に改心し、世界を守るために強大な力を持って勇敢に戦い勝利した英雄王に降伏したので争いは無くなりました。

それが雄々しく気高いリゼイドの王、タールディア・リゼルフである。


おしまい”」


「お、終わり?」

「うん」

やはりなんだかスッキリしない物語ばかりだ。

力を誇示するような…弱肉強食的な野蛮な雰囲気に子供には読ませたくないような話だ。

「しかしリゼイドとかってどこかで聞いたことがある気がするな」

首を捻って唸っていると本をしまっていたアトスが見かねて答えを出す。

「リゼイドはこの国だよ、王都はリーゼンブルグ」


なんと!ここもリゼイドだったのか!

国自体の広さがわからないから、アメリアの村とどの位離れているのか予測もつかないが以前と同じ国にいたとは驚きだ。

それにしてもこの国に流通する本とはいえ王を持ち上げすぎじゃないか?

聞いていて恥ずかしくなるほどだ。

それだけ王の威光が強いということなのだろう。


「僕はね、この国の話より爺ちゃんが小さい頃にしてくれた話が好き」

アトスは本に飽きたわけではなさそうだが、少し昔を思い返して寂しそうに笑う。

「どんな話だったんだ?」


「タロたちが活躍するんだ」

「タロタチ?」

「うん、小さい頃だったからあまり覚えてないけど、明るい話で最後は幸せになるんだ」


タロタチ…また新しいキャラが出てきたな。

「でもそんな楽しい話もあるんだな」

「そう!悪いやつを懲らしめるんだ!」

「タロタチの話なら俺も読みたかったな、この中には無いのか?」

「無いみたいだね、爺ちゃんの作った話だったのかも」

それではもう知ることは出来なさそうだ。

「また思い出したら教えてくれよ」

「うん!」

アトスは元気よく立ち上がると腕や背を伸ばして凝りをほぐしてから座り直すと、また本を出してそれぞれに読み始めた。

時々感想を言い合い、辞書を忘れたため謎の言葉はそのままに笑いながら、知識としての目的も忘れて。

それはただの話題の一つのように、時間も忘れて楽しく過ごしていた。


辺りが薄暗くなった頃、ようやく歩きだしては思い出した本の話をしながら帰路につく。

「爺ちゃんとドクターは勘違いしてるんだけどね…本当は…僕は…」


アトスは玄関の前で足を止めると、頭を掻きながら珍しく言い淀んでいる。

「えっと、こんなこと言ったらいけないんだけど…」


アトスが話しにくい事とは一体なんなのだろうか。

「どうしたんだ?」

「…うん!やっぱり勉強は嫌いってことかな?」

気になり聞いてみるも、困った顔をしてはぐらかして家に入って行ってしまった。


もっと別のことを言いかけていたのはわかるのだが、そんなに言いにくい事柄だったのか、その後のアトスはいつも通りの明るさで夕食を作り始め、俺はというと何も聞くことも出来ずに干していた布団をとり込んでから食卓についた。


「今日は昨日より形のある物を食べてみようね」

用意してくれたのは帰りに採った山菜のスープと、オートミールのようなもの、そして魚の切り身のソテーだった。


「美味そー!!」

がっつこうとして、隣から視線を感じてアトスを見る。

「少しずつゆっくり、だからね?」

口調も笑顔もいつものままだが、底知れぬ威圧感をかもし出している。

「わ、わかってるって!いただきます!」

魚を一口食べると感動で泣きそうになる。

自覚は無かったが、二年ぶりの動物性タンパク質!

箸が止まらず、どんどん食べ進む。

「うまー!アトスは昨日も思ったけど料理が上手なんだな!」


しかしアトスは魚を食べる俺の姿を、驚いたようにじっと見つめている。


「アトス?」

「えっ!?あ…」

目の前で手のひらを振って見せると我に返ったように一瞬ハッとしてから、何かをぼんやりと考え始めた。

「どうした?俺なんか変なこと言っちゃったか?」


そこで次に目が合うと、なんでもないと言って自分の分の料理を食べ始めた。


時折こちらの様子を見ているようだったが、ゆっくり食べていると何も言ってこない所を見ると、食べるのが早すぎたのか。


久しぶりの散歩に美味い飯で満腹になり、幸福感で満たされていると、後片付けをし始めたアトスが噴き出した。

「クロウってば!わかりやすく顔に出すぎだよ」

「えっ、何が!?」

「なんだか幸せそう」

そんなにわかりやすかったのか、そういえばスクレイドにもよくそんな事を言われていたのを思い出す。


「幸せだよ、飯は美味いしお前と話すのも楽しいからな」

見よう見まねで片付けを手伝いながら言うと、アトスはさらに爆笑している。

そんなにおかしな事を言ったつもりはないのだが、楽しそうな少年の屈託のない笑顔にほっとしている自分がいることに気づいた。


「そうだ、明日は僕仕事があるから昼間はいないけどあまり無理に動いたらダメだからね」

突然の少年の注意に衝撃が走る。


「仕事!?」

「うん、朝から行ってくるけど、夕方前には戻るよ」


そんなまさか!

ここでの生活は亡き祖父の財産と自給自足か、医者が世話をしているものだとばかり思っていた。

「仕事、してたのか…」

なぜかショックを受けてしまう。


「それは仕事くらいしてるよ」

「もしかして、昨日は俺のせいで休ませたのか?」

「安心して、必要な時に行くだけだから昨日は元々休みだったんだよ」

テキパキと片付けを済ませると、屋根裏部屋でベッドにシーツを敷いて寝る支度を進めていく。


「いつから働いてるんだ?」

「爺ちゃんの跡を継いだから、二年半くらいになるかな」

「そんな小さい時から!アトスは偉いな…」

「この家にいたら皆がする仕事だから普通だよ」


俺が二年も眠っている間、アトスは一人でこの家で暮らし、俺の面倒まで見ていたとは。


「家業ってことだよな?何をしてるんだ?」

「爺ちゃんに人に言っちゃダメだって言われてるから、内緒」

自分の口に人差し指を当てると布団に潜り込んで黙り込んでしまった。

気にはなるが、何か事情があるのだろう。

「そういえばタロタチの話、もう少し覚えてるところがあったら教えてくれよ」


話題を変えるとアトスは布団から顔を出し、少しずつ記憶を辿って説明をする。

「タロ達は、魔物をやっつけるんだ」

「タロタチはどんな奴なんだ?」

「タロ達は、えっと…タロと三匹の変な魔獣がいるんだ」

ん?

タロ?

タロ〔達〕ということか!

タロタチという名前かと思っていた。

「それで、タロタチは食べ物をあげたら仲良くなるんだ、そして強くなるって話なんだけど、詳しくは思い出せないんだ」

アトスは断片的と言いながらも要所要所を教えてくれた。

タロと三匹の動物、魔物をやっつける…。

「そうか!」

「びっくりした!」

急に大声を出した俺に驚き、アトスが跳ね起きて心配そうに寄ってきた。

「なにかあったの?」

「い、いや!なんでもない!ちょっと忘れてた事を思い出しただけだ!」

慌てて下手な誤魔化し方をしたが、アトスはほっとしたように胸を撫で下ろすと、また自分の布団に入ると複雑そうな、叱られた子供のような顔でぽつりと呟いた。

「クロウ、あんたの記憶が戻ることを素直に喜べない僕を許してね」

「え?」

「クロウは記憶を取り戻したらいなくなっちゃうんだろうね、僕はずっとここにいて欲しいんだ」

「それは…」

それは俺にもわからない。

この世界の事も、ここで何をするべきなのかも。


アメリア達といた時には異世界人がいるという王都を目指していたが、今旅立つことになってもたどり着けるのかすら怪しい。


今まで考えないようにしてきた不安が一気に押し寄せる。

これから俺はどこで何をしたらいいのか。

スクレイドが俺の力を過大評価していたのか、実際にそうなのかはわからないが強いと言っていた。

しかしそれはこの世界で生活していくために必要な力とは違うのはわかっている。

俺は…


「ごめん!嫌なことを言って困らせちゃったね」

アトスは自分の言葉のせいだと思ったのか、俺の不安が顔に出ていたのか、謝ってからも申し訳なさそうにこちらを見つめている。


「違うんだ、アトスのせいじゃない」

そう、いつも成り行きに身を任せてきた自分の責任だ。

そうして周りの人に助けて貰って思考停止していたんじゃないか。

「アトス、俺はこの国どころか、この世界のことをほとんど知らない。きっとそれは記憶が戻っても変わらない気がするんだ」

「何を言い出すのさ?」

「ああ、何を言ってるんだろうな」


本当に。

アトスまで巻き込んで不安にさせて、今回はこの世界に戻ると決めたのは俺自身じゃないか。


「俺の方こそ変なことを言ってごめんな、明日は仕事なんだろ?今日はもう寝よう」

「うん、クロウ!また明日も起きてね?」

「うっ、頑張るよ」

どもついてしまった俺に、アトスはジト目を向けたあとニカッと笑顔になり、子供をあやす様に囁く。


「クロウ、僕にはあんたがいてくれるだけでいい。不安なんて僕が追い払ってあげるよ」

「アトス?」

「大丈夫、クロウが今出来ることを少しずつやっていけばいい」


なぜ、アトスは俺の本当の状況を知らないはずなのに、こんなにも欲しい言葉をくれるのだろうか。


「ね?」

「ありがとう。アトスには助けられてばかりだな」

「クロウさえ良ければ、このまま好きなだけここにいていいんだよ」

アトスの気持ちはわかっている、しかしそれを叶える約束はできない。

それでも何か言わなければ…。

しかしその言葉に何も答えられずにアトスを見るが、アトスは突然腰に手を当て、親指を自分に向けると高らかに宣言する。

「つまり僕が頑張ればいい!」

「…は?」

唐突な話の展開に呆気に取られる。


「あんたがずっとここに居たいと思えるように、僕が家事も仕事も頑張って、楽しく過ごせるよう頑張るよ!」

なぜその発想に至ったのか!


「俺はヒモか!アトスに養ってもらって日がな1日ボケっと過ごす!?やばくないか!?」

思わず突っ込むと、聞きなれない単語にアトスは首を捻るが、ケラケラと笑いながら俺の布団を肩までかけ直してくれる。


なんだかいつものペースを取り戻し、不思議と心が軽くなる。

「それじゃあ、しばらく世話になってもいいか?なるべく邪魔にならないようにする」

「いいって言ってるでしょ?クロウは真面目だなあ、二年も五年も十年も変わらないよ」

「そんな軽い感じ!?」

「いいの!」

それは流石に変わりすぎだと思うが、実際二年も世話になったのだ。

この際もう少し甘えてしまおう。

流されたって人に頼ったっていいじゃないか。

その分俺は俺の出来ること…──アトスを守ってみせる。


改めてこの世界の常識や知識はもちろん自分の能力を把握する為に精進しよう、そう心に誓い夜は更けていった。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

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