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レベル

サブタイトルとはむずかしいですね

「ヤマト様も異世界から来たのなら、一度王都に行ってみてはどうだい?」

 重苦しい空気を散らすようにレモニアが提案する。

「あっ、お、王都ですか?」

「王都には異世界の勇者様専用の支援施設や環境が整ってると聞くよ」

「そんなものまであるんですか?」

「なにしろ召喚された勇者様方はこの世界とはかなり違う世界からいらっしゃるらしいからねえ」

「なるほど、王都へはどのくらいかかりますか?」

「馬車を飛ばして途中の町や村に泊まれば15日ほど、早馬で休憩なく走り抜けても10日はかかる距離だねえ」

「15日!?」

 と、遠い…

 この世界に詳しくない上に一文無しの俺がたどり着けるんだろうか。


「どちらにしても今回の件は王都に知らせなくちゃいけないから、なるべく早いうちに近隣の村から集めた者達で王都に行く予定なんだよ、一緒に行ってみたらどうだい?」

「いいんですか!?」

 それは心強い!今のままでは身動きもとれない、何より異世界の王都には一度は行ってみたい。

 そんな話をしていると、ガタンとカウンター裏の扉から音が聞こえた。


 出てきたのアメリアだ。

 先程まで寝ていたのか、髪はボサボサでクリーム色のワンピースのようなものを着て裸足で柱に隠れるように立ち、気まずそうにこちらを見ていたが、決心したのかカウンターを出て俺に近づきおじきをする。


「勇者様…ありがとうございました」

「俺は勇者じゃないよ、こことは違う世界からは来たけどね。津田大和って言うんだ」

 まだ寝ぼけているらしく、視線があわない。

「ヤマト様…」

 聞きなれない発音なのか、アメリアはぽつりと復唱する。

 様付けはやめてほしい。



「体はどう?」

 神の話によると今までは垂れ流しや無意識に使っていたらしい治癒の力、今回は初めて意識して使用したのだから少女の傷が気になる。


「はい。ヤマト様のおかげで…」

 こくりと頷き、俺を見る。

「良かった」

「ありがとう…ございます」

 そう言って昨日と同じように俺の袖をにぎってくっついてる。

 その様子を見たガイルは困ったように諭す。

「アメリア、そんなにひっついちゃヤマト様が食えないだろう」

 しかし無言で首を振ると裾を握る手が強くなる。

 視線は足元の少し先を見て、ぼーっとしている。


 カウンターの中のガイルの方に目配せをする。

「アメリアは朝ごはんは食べた?」

「いいえ…」

「じゃあ一緒にいただこう?」

「…私は食べれません」

 どういうことだ?

 まあ、親しい家族の無残な姿を見たばかりだし気持ちもわからなくはない。俺も昨日は吐きそうだった。


「じゃあ隣に座らないか?」

 椅子を引いてみるが、それにも小さく首を振るアメリア。

 しかしこのままではどうにも居心地が悪い。


「きゃ!」

 掴まれている左手の袖が捻れるのを気にせず、アメリアの背中に手を回し、右手で身体をすくい上げ、向かい合うように左腿に載せると背中をポンポンと一定のリズムで叩いてみる。

 アメリアは硬直し、目を丸くしてこちらを見つめる。

「じゃあ食べ終わるまでここにいるか」


 その行動に一瞬カウンターから飛び出しかけたガイルだったが、アメリアが大人しく袖から手を離して腰の辺りの裾を握り直し、頭を肩にうずめてうつらうつらとする様子を見てカウンターに戻って行った。

 やっべー、おっさん恐い!


「ヤマト様は子供の扱いが上手ね」

 レモニアが目を細めてその様子を見守る。

「同じくらいの妹がいるんですよ」

まあ、本当の妹なら抱きあげようとした瞬間に何発か殴られるだろう。難しいお年頃だからな。

 なるほどとニコニコしながら台拭きに戻って行った。

 食べ終わる頃には店も開き、何組かの客が来ていた。

 客といっても村人のようで、ガイルに妹夫婦のお悔やみを言いに来ているようだった。

 俺とアメリアの様子を見てあらあらと笑う村人達はきっと悪い人達ではないのだろう。


 食事のあとは用意してもらった部屋に戻り、少し自分の出来ることを確認することにした。

 片手には少女を抱きかかえていたが、驚くほど軽く、苦にはならない。

 客が来たことに気づいたアメリアが恥ずかしがって降りようとするので、その都度頭を撫でると大人しくなるというのを繰り返していたのだ。


 昨日も思ったけど、俺の腕力おかしくない?

 小学三年生くらいの子供が猫より軽い。


 集中して視界の端を見るといくつかアイコンがある。

 そのうちの一つのアイコンを開いてみると、そこには【スキル】と【レジストスキル】一覧がある。

 レジスト…抵抗?何気なくレジストスキルの文字の羅列に目を通すと、オレンジの文字の一覧の中で一つ緑に点灯する【重力耐性】を発見した。

「これか?」

 昨夜馬車を難なく引っ張れたのも、無意識にスキルを使っていたということか、確かに身体も軽いがその他で普段と変わった様子はない。

 うーん、重いと想定して力を入れた時に軽いと空ぶった勢いで微妙な感覚になるが、便利ではある。

 腕力が上がったわけではないのが残念だ。

 さらに視界を注視してみると見たことがないアイコンが浮かぶ。試しに開くと【ステータス】と書かれたページが広がった。


【レベル】の項目には【(´ω`)】この顔文字である。

 しばらくステータスを読み、うんうんと頷いてみるが正直…わかんない!!


 他の人と比べないとステータスが高いのか低いのか、何が良いのかわからない。

 あとレベルの顔文字は絶対ふざけてる。

 レベルが顔文字の奴なんているか?いやここにいる。

 どういう事だよ?


 試しにアメリアに「レベルってわかる?」と聞いてみた。

「私は、9です」と返ってきた。俺以外にもレベルってあるんだ?でもそれって歳じゃないよね?


 俺は人にレベルを聞かれたらなんて答えたらいいのかわからなくなったので、見なかった事にした。

 そうして視界のスキルやアイコンを見ているとノック音が聞こえたので返事をするとレモニアが部屋に入ってきた。

「服が乾いたから持ってきたよ。今着てる服とこの国の服を何セットかあげるから、好きに使っておくれ」

「助かります」

俺は初期装備、布の服を手に入れた。

それにしてもレモニアは快活で優しく話しやすい、いかにも面倒見もよくてありがたい。

 そうだ、いい機会だ。

「この世界にはレベルがあるんですか?」

「そりゃあるだろう、勇者様の世界にはないのかい?」

「俺のいた世界にはなかったです」

 よほど不思議な事を聞いたように目をぱちくりさせている。

「じゃあ強さはどうやってわかるんだい?」

「わかりません、わからなくても生きていける世界なので」

 などと変なやり取りをしてからレモニアのレベルを聞いてみると、作り笑いのような笑顔で声のトーンが一段低くなる。

「女性にレベルを聞くものじゃないよ?」

「そんな…歳みたいに」

「なぜ歳を隠すことがあるんだい?」

 ダメだ、常識が違いすぎる。

 そして困る俺を見ているうちにレモニアはケラケラと笑って、気が変わったのか小さい声で教えてくれた。

「私は25だよ、ヤマト様は?」

 禁断の質問返しになんと答えたらいいのやら…


 初老の女性であるレモニアが25、異世界人ということを加味しても俺の方が少し高いはず。

「35…くらいかな」

 あさっての方向を見ながら答えると、ふうん、と聞き流された。

「アメリアちゃん、ヤマト様もお疲れだろうから、あんたも身だしなみを整えに降りておいで」

 そう言われてアメリアは慌てて降りると急ぎ足で掛けていき、深く一礼してから部屋を出た。

 レモニアは去り際に少し反った体制でドアの隙間からひょこっと顔だけのぞかせ

「そうそう、自分のレベルを言えない時には、駆け出し冒険者の基準値の40って言うといいんじゃないかね」

 そう言って大笑いながら去っていった。


 どうやら俺が適当なことを言ったのがバレていたらしい。

 でも意地でも言えない、レベルが顔文字で読めませんとは。

そもそもこの世界に顔文字があるのか…?

 元の世界の格好だと浮いてしまいそうだったので、着替えはせずに裏口のような扉を開けた先の階段を使って一階に降りて倉庫を抜けて外に出る。


 外の空気を思い切り吸い込み深く深呼吸をする。


 村を一周する外壁沿いに畑が見える。

 稲穂のような作物が青々と茂っていて、風に揺れている。

 二階建ての家は少なく一階建ての木造の家がほとんどのようだ。

 森を抜けた時には平原だと思っていたが、建物の背が低いせいか村全体が勾配のある土地にあるせいか、昨日出入りした場所から降るように村が広がっている。

昨日入ってきた門の反対側の出入口がかなり下の方に見える。

 山の麓の村って感じだ。


 散歩がてら村を探索していると、簡素な鎧に身を包んだ屈強そうな男が数人馬に乗って集まっている。

 馬?いや、二度見して目が釘付けになる。馬に翼が生えている!なんだあれペガサス!?異世界っぽい!!

 近くで見たい!!

 急いで一団に近づき、横目でペガサスらしき生き物を見る。


 基本は馬そのものだが身体と同じ色の大きい翼が時折広がる。興奮しているのか、地面を蹴っては手網を引かれている姿はとても大きく、近づくことはできない。


 すると男達の中でも最も大きく、190センチくらいはありそうな一人が俺に気がついてペガサス?から降りると手綱を近くにいた仲間に任せ、近づいてくる。


 ジロジロと見すぎて気を悪くしたんだろうか。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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