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医者との攻防

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

「そんなの当たり前じゃないですか、こんな色…」

「なんだろう、見当もつかないのだがね」

「わかりませんか…?」

「全くわからないのだよ、ぜひ教えてくれないかね」

どうしても俺の口から何かを言わせたいらしい。

医者は俺が失敗するのを待ち構えるかのように、白々しくとぼけている。


ならば教えてやろう。

クロウの黒髪コンプレックスの重さを舐めるなよ!


「土属性の魔法が消えたんだ!」

「…なんて?」

医者はアホのように聞き返すと、口を開いたまま俺を見つめた。

「俺は元々茶色の髪だった、そこは確かなんだ!」

「ん?」

「なのに目が覚めたらこんな色になってて、しかも得意な土魔法のガードまで使えなくなったんだ!」

「土属性の、ガードかね??」

「土をこう、操るでしょ?ウッ、頭ガー。そしたら地面がこの位まで盛りあがって俺を守ってくれるんだ!イテテテテ。最強の魔法が使えなくなったのはこの色のせいだ!」


ソファから立ち上がり、膝位までの高さの架空の土ガードを説明してから大袈裟に、そして心底悔しそうに崩れ落ちて床を拳で叩いてみる。

すると堪えきれなくなった医者は吹き出して笑う。

「土属性が、最強…ぶっ、ははは!」

「何がおかしいんだ?」

「いやっ、違うのだよ!これは笑ってすまなかったね!」

医者は慌てて両手を振ると、俺を助け起こしてソファに座り直させるが、土魔法最強を信じる俺が余程おかしく見えたのか、医者は時々笑いながらも話を続ける。

俺だから良かったが、実際にこの世界の人間にその態度をとったら反感を買うだろう。

まあ俺には関係ないがな。


「それは、ふっ、確かにショックだっただろうにね…ぶっふ!」

「視界の属性マークまで消えちゃって…、もう俺には魔法が使えないって事だろ?この際あんたが異世界人でもかまわない、治せるものなら治してくれよ!」

それを聞くと意外そうにこちらを見て、腕を組みながらしばらく考えている。

「そうか、…うーん」


はっはっは!俺が言うわけないだろ?

髪の色が嫌な理由が嫌っている異世界人と同じだからなんて。


嘘のつけない森人様に聞いたんだよ。

異世界人でもこちらに来たら髪の色が属性に左右されて変化するって。

だから俺みたいな奴が異世界人の元の髪の色なんか知ってるわけがないからな。

もう一つ馬鹿になる言葉があるが、それは言わせないでくれよ。


「なぜ、異世界人にこだわるんだ?」

いや、言わせんなよ!

「い、異世界人が…」

言うぞ、俺は馬鹿だ。

記憶を無くした可哀想な馬鹿だ。

よし。


「異世界人はスキルとかいう力まで持ってるのに不公平だ!きっと俺の魔法は異世界人に奪われたんだ!」

んなアホな。

わかってる、本当はそんなアホな話ないってわかってます。

どうだ?八つ当たりする頭のおかしい奴…やけに役が板についてる気がするが、気の所為だろう。


「それは有り得ないのだよ!?異世界から来たからってそんな事をする…いや、出来る者はいないから安心しなさい!」

医者は慌てて身振り手振りを使って全身全霊で否定している。

アホなフリの演技を信じてくれてありがとよ!!


「嘘だな。先生が異世界人だから仲間の肩をもつんだ」

「確かにクロウくんの言う通り、ボクは異世界人だ」

知ってるよ、スキル持ってるもんな。

やっと白状したか。

なんでそんな悪役っぽいことしてんだよ。

そうじゃなきゃコッチだって素直に異世界転生人だと話せて保護を求められたかもしれないじゃないか。


…じゃなくて、記憶を無くしたクロウに戻らなくては。

「やっぱり異世界人だったんだな!」

再びソファから立ち上がり、まるで悪者の言質をとって追い詰める主人公のように医者に人差し指を向けてポーズをとる。

こんな感じでどうだろう?


「待ってくれたまえ、この世界に来て得た力はこの世界に還元しようと…難しいかな、この世界の為に使おうと思ってるんだ」

カンゲン、ワカル。

デモ、ワカラナイ。

「嘘だ!異世界人が俺たち…?の世界の為にだって?」

「信じてもらえなくても仕方ないかもしれないのだがね、実際この仕事も王様の命令でやっているのだよ?」


なぜそこで王様が出てくる?


はっ!しまった、本当に首を傾げて変な間を空けてしまった!

「うむ…これは間違いないようだね、スキルを使うまでもなく確かに君は記憶喪失のようだ」

「……は?」


医者は思わぬところで緊張感を解き、今までの威圧感が嘘のように饒舌に騙り出した。


「森人の話と土ガード…ふはっ…失敬!魔法では頭痛がし、魔法の消失―つまり記憶を失った後に起きた事では話しても痛がらないということは心因性だと思われるのだよ」


やっばい!頭痛忘れてた!

お前、よくそこを見てたのに俺の演技には気づかなかったな。

洞察力があるのかないのかハッキリしろ。

「心因性…?治せないのか?異世界人のお前でも」

「考えられる事はあるのだよ、その黒髪が原因だ!」

「黒…髪が?」

「君は勘違いをしてる!」

「はあ…」

今度は医者のテンションが上がり仁王立ちで俺の頭を指さす。

「記憶喪失になってから黒髪に変わったんじゃない、黒髪になって魔法が使えなくてショックで記憶喪失になったのだよ!!」

え、すごくない?

噛み合って来てる!?

面白いからもう少し喋ろうじゃないか。


「な、なんだってェー!?」

「簡単な事だったんだ、原因と現状が逆転していたのだよ!」

「じゃあ、髪を戻せるんですか!?」

「そ、それはボクの力では難しい。力になれなくてすまないね」

「そんな、じゃあ髪の毛も魔法も記憶もこのまま…」

何一つ変わらず日本生まれ日本育ちのまま…何も問題ないです。


「そんなに気落ちすることはない、魔力が無くなったのじゃないかもしれない、試しに今のMPを教えてくれないかね?」

「へっ、MPを…?」


えーっと!モデルのクリフトさん!いくつくらいだったっけ!?

早く思い出さないと怪しまれるぞ!!

俺の脳が大回転して答えを探そうとしたその時、先に口を開いたのは医者だった。


「あ、またやってしまった…」

「なにを…?」

「この世界では人のステータスを聞くのはマナー違反らしいね」

「そ、そうですよ!?当たり前だろ!?他の人にまで聞いたのか!?…まさか、アトスにまで!?」


わかるーーー!!!

先生その気持ちは痛いほどよくわかるぞ。

そうなるよな!?ステータス全部教えろとは言わないがそこまで隠さなくてもいいと思う!

お茶でも飲みながら語り合いたいくらいだ!

しかし今回は今まで俺自身が受けた叱責を真似させてもらう、悪く思わないでくれ。

「違うんだ!ボクとしては隠す事はないと思っていて…」

焦る医者に対し、俺は共感する気持ちを飲み込んでさらに追い詰めていく。


「待てよ?まさかアトスを追い出したのは、俺のステータスを知るため…?非常識だ!やめてください!医者としてもっと慎みを持つべきだ!!」

「なんでこの世界のステータスはそんな扱いなんだね!?ボクは決してクロウくんのステータス目的ではなくて…」

「…ではなくて?」

「…アトスくんを守るために、だね…」

こら!

口を割るならもっと張り切ってスパーンと割らないか!


「ただのステータス狙いなのにアトスを出すなんて卑怯だ!やっぱりこれだから異世界人はっ!!」

「違っ!それなのだよ、クロウくんがボクを異世界人と呼んだから召喚反対派の者かと思ったのだよ!」

「なんだ?それ…」

「ここだけの話にしてくれるかね?異世界人の召喚に反対する過激派がいるのだ、それがアトスくんを狙ったのかと思ったのだよ…」

「アトスに、なんの関係が?」


医者はわかりやすく悩み、そして決意したように告げる。

「ここまで話してしまったのだから中途半端は好奇心の元になる…か、うむ!絶対に本人には知らせないでほしいのだがねアトスくんも異世界人なのだよ」


何を苦し紛れに…

「アトスはお爺さんとここで暮らしていたと言ってたぞ?」

「お爺さんも異世界人なのだよ、アトスくんと血縁はないがね」

「本人が知らない召喚なんて…」


言いかけて嫌なものが込み上げる。

まさか…やっちゃってるのか!?


「そう、赤ん坊や幼児の時に召喚された異世界人さ」

医者は苦々しそうに言って自分の膝あたりのズボンを握った。


「へー、異世界人にも色々あるんですね」


そう言った俺の返事を聞いて、医者は少し残念そうにため息をつきながらも続ける。

「…うむ、まあこの世界の人からしたらそんなものなのかもしれないがね…とにかく異世界人に抵抗があってもアトスくんの事は嫌わないでやってほしい」

「それはアトスを嫌う理由にはならないな」


いつもなら気持ち悪い世界と切り捨てたのか、それともここは怒るところなのだろうか、なぜか冷静になる頭と態度。

本当にわけがわからなくなると感情と行動がちぐはぐになっていく。

「アトスくんは唯一の家族であるお爺さんが亡くなって元気をなくしてたんだ。しかし付きっきりで君の世話をしている時は心配しながらもどこか嬉しそうだったものだよ」

「アトスが、俺の世話をしてくれたのか…」


「ただいまー!!」

その時、玄関のドアが外れそうなほど強く開き、アトスが顔を出した。

医者は驚きのあまり軽く飛び跳ねると、すぐにアトスに返事をしてスキルを使う振りをしながら俺の頭に触れ耳元で念を押す。

「絶対に本人に言わないでくれたまえよ」


アトスはキッチンに立って、山ほど採れたキノコと山菜をこちらに見せびらかしている。


「先生、また会えるか?」

俺と医者はアトスの収穫に手を叩き、素知らぬ顔で小声で話をした。

「急にどうしたね?」

「アトスを大切に思ってるならあんたは悪い奴じゃないだろ?」

「…わかった、アトスくんの事じゃなくても話したい時は言っておいで、今度一度アトスくんと二人で家に来るといい」

「ああ、これからもよろしくな先生」


「あれ?なんで診察続けてるの!?スキル使えないんじゃなかったの?」

「んあっ!!あ、これは…ははは」

おい。

しっかりしろよ先生。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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