一区切り。。。
この回で一応、一章にあたる話の流れがに一区切りがつきます。
次回から色々なものがガラリと変わるかもしれませんが、主人公の津田大和は変わりません。
夜になり、俺は今夜使用予定の無いピンクとフリルとレースと目潰しの部屋に来ていた。
アメリアとセリは町長の屋敷に泊まると聞いて、この部屋に逃げ込んだのだ。
夕方の六時頃に目が覚めて、一度帰ってきたクリフトがスクレイドを抱き枕に眠る俺を目撃し、本格的に二階の庶民向けの一人部屋へと引っ越したのを聞いていたが、それはもう誤解を解くのも面倒になり放置した。
問題はそれからのスクレイドの態度だ。
時折何か言いたそうにこちらを見つめてきたり、後ろに回ってきたりする。
適当な話題を振ってみるも会話は長くは続かず、すぐに一人で考え込んではまたこちらを見つめるを繰り返していた。
なんだと聞いても答えない。
気味が悪くなってきたところで二人の不在の報せが届いたというわけだ。
俺は何かスクレイドを怒らせるような事でもしただろうか、寝る前の事は何か会話をしていた記憶はあるが内容が思い出せない。
しかしスクレイドも関節を決められたからといって、途中から一緒になって昼寝をしてしまったのだから、怒られる筋合いはない。
違うかもしれない、本気で怒っているところはあまり、いや全く見たことがないから怒っているわけではないのだろうか。
思考を巡らせると自然と部屋の中を歩き回ってしまう。
その度に絨毯がキラキラと光り落ち着かない!
そんで目が痛い!
その時、
[ヤマトくん]
念話が聞こえてくる。
[なんだ?]
[あれだけ嫌がっておいて今さらとは思うんだけど、もう一度ステータス画面を見せてくれないかい?]
[本当に今さらだな]
[うん、申し訳なかったと思ってる]
しかし怒っているような様子はない、それどころか気持ちが悪いくらいしおらしいな。
あ!?
悩んで、俺を見て、何か言いたそうにしてた?
そして今ステータスを見せろ?
やっぱりバカだこいつは。
うんこ属性じゃねーっての!何を確かめようとしてんだ!?
そりゃ言い出しにくいだろうな!!
訂正するのを忘れていた俺も悪かったけどな、いつまで引っ張るんだよ。
クリフトもこいつも説明しても無駄な奴らだったのを忘れちゃいけない。
[いや、俺も学習した、もうステータス画面は誰にも見せない]
[ええ!?天邪鬼なのかい!?]
[そういう問題じゃない、つーかその言葉はこの世界にもあるのか!?]
[頼むよ、もう一度だけ…]
そしてバアーン!と勢いよくドアが開くとスクレイドが乗り込んできた。
え!?なんで!?
「見せてくれないかい!?ステータスを!!」
「さっきまでの念話はなんだったんだ!?そろそろ本気で気持ち悪いぞお前っ!!」
スクレイドが早足で近づく度に部屋がキラキラする。
わざわざこんな目潰し地獄に来てまで属性いじりしたいの!?
「それはちょっと聞き捨てならないな、今まで気持ち悪かったことあったかなあ!?」
「あるだろ!自分で考えろ」
違う!ダメだ。
話してるとこいつのペースに飲まれる。
論点がズレてるうえに出ていこうとしない。
[頼むよ、俺が悪かったからもう一度、ね?]
「どんだけテンパってんだ?この距離で念話すんな!なんで急にステータス見たがるのか答えたら考える!」
「…それは今は言えないんだけど確かめたい事があってね」
やはり!
隠すことはできても嘘がつけず、目的が明確に言えないところを見ると間違いないな。
「スクレイド、それ以上その話を続けるなら俺は一人で王都を目指す」
「俺が男のエルフだからかい!?」
「なんで今それを引っ張り出すんだよ!それはごめんて」
「あと気持ち悪いって言ったのも謝ってくれるかな?」
「調子に乗んな、そこは譲れない」
「ひどいね!?」
だから、誰かこいつの脱線事故をどうにかしてくれ。
話が進まない!
目潰し地獄でも一際攻撃的なギラギラカーテンまで追い詰められる。
「ヤマトくんは逆になぜ急にそこまで頑なになるんだい?」
白々しい。
「お前の目的がわかってるからだよ」
「目的を…知ってる!?」
これには本当に驚いた様子を見せるスクレイドだが、俺からすれば気づかれないと思っていたことに驚きだ。
「見てしまったら違うって言っても信じないだろ?」
そしてうんことかいじるんだろ?
絶対に嫌だよ。
そんな事を考えていると、スクレイドの顔から感情が消える。
「やはりそうか…あいつの…なあ!本当に違うって言いきれんのか?」
一瞬怯みそうになるその口調、どこかで一度だけ聞いた。
そうだ、飛竜の目的が縄張り争いではなく捕食だとわかり、倒さなければいけないと判断した時だ。
「お前、なんでそんなにムキになってるんだよ」
「おたくこそ、今までの視覚投影が本物だと言いきれんのかよ?」
「…何が言いたいんだ?怖いぞ、スクレイド」
「おかしくねえか?」
「だから、何がおかしいんだ?」
「異世界人だからってステータスをあそこまで見せるのは、弱点を見つけてくださいと言ってるようなモンだ、けどな、それが偽物なら罠として使えるんじゃねえか?違うなら納得のいく理由を言ってみろ!!」
「それなら今見せない理由がないだろ?今だって、見られたくなかったら偽物を見せればいい」
「それが何かの理由で使えないとなれば話は別だ!」
エルフは嘘がつけないって言ったよな?てことは、こいつは本気でそう疑っていると言うことか?
なんだ…?俺は何かそこまでのことをしてしまったのか?
ステータスってそんなに大切か?
今まで短くても皆で過ごした時間を無かったことにして、ここまで疑えるほど。
きっと俺がどこかで間違えた。
ブロッキオにさえここまで感情を出さなかったのに…?
どこからスクレイドの様子が変わった?
目的を知ってると言ってから…。
違う、もっと前に…。
名前を…
《──アレイグレファー》
そうだ、アイツの名前を呼んだから…
吐き気がして意識が遠のきそうになる。
《──もういいだろう?》
待てよ、今は駄目だ。
俺の頭で考えて、俺の言葉で伝えなくてはいけない。
なんでそう思うんだ、俺以外に誰がいる?
スクレイドがこちらを冷たい目で射すくめている。
《誤解なんかじゃないだろう?》
誰かいる!?
「スクレイド…、助け…」
「…おい?」
《コイツ》は出さないから。
“俺”を信じてくれ。
薄れていく意識の中で、悲しそうな声が聞こえた。
《──この世界は要らないんだ》
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「大和様、大和様?」
「アメリア?聞いてくれよ、スクレイドが変なんだ…」
「大和様、私です。クロウシスです」
そうして視界に映るのはプラネタリウムのような世界。
上下の感覚の無い空間で確かに倒れているのがわかる。
ほとんど力の入らない身体を無理矢理動かし、右をゆっくり向くと見た事のある青みがかった銀髪の、美しい女の子が傍らに付き添っている。
「また夢で忠告しに来てくれたの?俺、なにかやらかしちゃったみたいなんだ」
そう尋ねられ、クロウシスは困ったような顔をする。
「色々聞きたいことがあったんだ、もう夢から覚めても忘れないようにするからさ、教えてよ」
少し話すだけでもとても疲れてしまう。
体力の回復を待って、どのくらいの時間が経過したのだろう。
やっと起き上がれるようになると、クロウシスを探して歩き出す。
やっと見つけたクロウシスは眼下に広がる惑星を、両手で自分を抱きしめるように交差させてしゃがみ込んで見つめている。
その表情はどこか悲しそうに見え、胸が締め付けられるようだった。
「大和様、起きられましたか」
声をかけるのをためらっていると、いつこちらに気がついたのか、クロウシスの方から名前を呼んでくれる。
そこには以前会った時と変わらない、優しい微笑みがあった。
「大和様、ここは夢の中ではありません」
「それじゃあ、ここは…」
「一度だけ、転生される時にお会いした場所です」
「俺は死んだのか?」
クロウシスは静かに首を振って否定する。
「それが、なぜこちらに戻られたのか私にもわからないのです」
「きっと怒ったエルフに殺されたんじゃないかな?」
自らの言葉の支離滅裂さに苦笑いをしながらも、予想をしてみる。
「魂は、どうなっていますか?」
「おかしいね、十二個あるんですけど?」
緑の魂の残機マークが上下六個ずつ、一つも欠けることなく並んでいる。
「そうそう、このマークの色が変わったの。青くなったんだよ」
「そうですか」
「何か知らないかな?」
「大和様の魂はこの手を離れてしまったので、私にわかることは多くありません」
少し会話をしたところで、また疲労感に襲われる。
「眠い、また起きたら話していいかな?」
「はい、お待ちしております」
次に起きた時には何を話そうか、そんな事を考えながら眠りにつく。
それで、そのスクレイドって奴と話してたらここに来ちゃったんだ」
どのくらいの時間が経過したのか。
話をしては眠り、起きては話しを繰り返し、やっと記憶の中で一番新しいところまで話し終えた。
「他にも異世界人がいるらしいんだけど、なんで俺は違うのかな?」
「それは、ルートが違いますから」
「あの世界に行くのにはクロウシスを通さなくても行けるの?」
「はい。世界に干渉できない私に転移を止めることは出来ません」
「神様って思ったより不便なんだね」
「そうなのですよ」
クスクスと笑うクロウシスと、ゆったりした時が流れる。
「あと、俺の力が生命の力とか言われたんだけど、治癒とは違うの?」
「治癒の能力が使えなかったのですか?」
「いや、それも使えた。でも他にも…」
「それでは魂の融合で得た力ではありませんか?それより気になるのは、魔王と呼ばれる者の存在ですね」
クロウシスはいつも玉座のような豪華な椅子を用意し、そこに俺が座ったのを確認すると、向かい合わせの宙に座り込んで話をするようになった。
最初に来た時には感じなかった安心感がここにはあり、ただの雑談のように今までいた異世界で起きた事の話をする事が楽しい。
「魔王については知らないの?」
「はい、神は不便ですから」
顔を見合わせて笑う。
「しかしその存在であちらの世界の天秤が傾いてる原因がわかりました」
「そうか、クロウシスは生命の神様だったっけ」
「はい、それで天秤の調整の為に大和様にお力をお貸しいただきました」
しまった!そう思って頭を抱えると、クロウシスが不思議そうに覗き込む。
「どうかされましたか?」
「その事なんだけど、俺なんの役にも立ててないんだ」
異世界にいる間にした事といえば、元の世界と同じく魔力を垂れ流していただけだ。
「大丈夫ですよ、大和様の存在そのものがあの世界にとっては調整なのです」
「待って、もしかして俺があっちでも魔力を垂れ流す事がわかってた?」
「それは、はい。そうなりますね」
ということは期待されていたのは俺の行動ではなく、大地の花に水を撒くように、俺から漏れだした魔力が世界の栄養になることが目的だったのか。
「意外とずるいな」
それを聞いて笑うクロウシス。
「でも魂は消耗してないのですよね?」
なるほど、最初にも魂の融合でそう簡単には死なない、そう言っていたのも計算に入っていたという事だろうか。
「死なない程度に魔力を撒くわけか」
「これからどうなさいますか?」
どう、とは?
「神になるか、あちらの世界に戻られるのか、です」
「あの世界に戻れるのか?」
「はい、私自身が干渉できないだけで、大和様をお送りするくらいなら出来ますよ」
しかし、そうは言ってもスクレイドはどうなっているだろう?
そういえばアメリアにも何も言わずにこちらに来てしまった。
「恐らく、元の身体は抜け殻でしょう」
「抜け殻?」
どういう事だ?
死体という事ならば、腐ってるか焼かれていたら戻れないんじゃないだろうか?
「大和様を大和様たらしめるものは、その魂です。魂が揃っている今、どこに身体があろうとも魂のある者が貴方様なのです」
「えーっと、つまり?」
「違う場所に用意した新しい肉体に、魂を移して差し上げます」
「そんな事できんの!?」
「はい、神ですから」
「神様って便利だね!」
それを聞いてクロウシスがクスクスと笑う。
なぜだろう、ここにずっと居たいのに、それは許されない気がする。
「神になっても、あちらの世界でも、もうクロウシスには会えないのか?」
「はい」
「それじゃあ、とりあえずまたあの世界に戻ろうかな」
そうすれば、またこんな形で会える時があるかもしれない、何よりクロウシスの力になるという望みもまだまだ叶えられていない気がする。
「あ!髪の色は黒以外がいいな!」
「はい、大和様の今の姿形そのままに、どうぞ行ってらっしゃいませ」
姿形そのまま!?
待って!?話聞いてた!?
クロウシスが礼儀正しくお辞儀をすると、足元に大きな穴が開く。
そしてやってくる浮遊感。
あああああ!!
デジャブ!!
えーい!しかたない!!第三の人生、やれるだけやってやる!!
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
明日からの更新で転章のような、少し暗いエピソードが二話ほど入ります。
主人公を取り巻く環境が一変しますが、よろしかったらお付き合いくださるとありがたいです。