属性マーク
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少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
「クリフトくん、それは俺も気になったけどね、今食事中だから…」
「スクレイドが気になったのも属性の事なのか?同じところに違和感を覚えた…、重要な事じゃないか!なんで食事中だとダメなんだ」
「勇者様…ではなくて、ヤマトの属性?私も気になります」
セリに言われた途端、クリフトもハッとして気まずそうに黙ってしまう。
というか俺はもう食べ終わったけどな?
皆が俺の話を面倒くさそうに聞いたり、ステータス画面を見ないように勝手に騒いでただけだろうに。
「セリ、属性が画面で分かるのか?」
「はい、ステータスを開く前の、意識を集中した時に表れる画面にあるのはお分かりになりますか?」
「そこから同じなんだな!」
また一つ賢くなった。
ほら、やはり情報の擦り合わせは大事なことじゃないか。
「属性がハッキリと表示されるのはある程度の年齢になってからですが、まあそれまでに髪の色や無意識に扱う魔法で素質にあたりをつけることは出来るのです」
「なるほどー」
言われた場所を見てみる。
「セリさん?属性なんてないぞ?」
「文字ではなくそれぞれのマークが出ます、あ、マークは共通なんでしょうか?」
おい、今マークって言った?
その場所にマーク…。
「ちょーっとタイム」
「はい?」
そしてスクレイドとクリフトを見ると、やめとけと目や口パクで知らせてくる。
その反応。
まさかとは思うが、この世界にもあるのか?同じ意味で?
「ちなみにセリは雷だっけ?どんなマークか聞いてもいいか?」
「かまいません」
するとセリはフィンガーボールの水に人差し指をつけ、食事用に敷かれたテーブルクロスにマークを描く。
「この様な、感じです」
テーブルクロスは水でなぞった部分が濃くなり、その水の跡をしっかり確認する。
「ほー、カミナリだねー、イナズマ!って感じがする」
「はい、雷ですから」
ニコッとセリが微笑む。
「ありがとう、うん!!俺には属性のマークなんて出てないみたいだ!!」
「え?しかし、クリフトとスクレイド様が見たと…」
「たぶん他のマークと勘違いしたんじゃないかなっ、ほら結局俺って異世界人じゃん?」
「でもそこにマークがあれば属性だということになりますが?」
「違う違う、これは何か分かってるからいいの、その他にあれば属性だったんだけどなー!!」
珍しく食い下がるセリを宥めて、男二人に言い聞かせるように語気強めに話す。
「それ違うのか?じゃあなんでそんなマーク…」
「クリフトくん!ヤマトくんが分かってるって言ってるんだからほっといてあげようねぇ」
そこの二人は絶対に後で間違いを正してやるから、覚えとけよ?
それに俺が知りたいのは自分が知らないことだけだ。
誰の魂の残基マークがうんこ属性だ。
これが属性マークだとしたら、12個並んでいることにも違和感を覚えろよ。
久しぶりに残基マークを意識しながら心の中でボヤき、もうステータスを勝手に映像で見せるのはやめようと心に強く誓った。
これが後に語られるスキル乱用、ステータスハラスメント、略してステハラ事件である。
ちょうど食事が終わった頃、店員が花の回収…もとい片付けの終わりを告げにやってきた。
「それでは、私もフラウ様のお屋敷に行ってまいります」
この部屋に一秒たりとも居たくないのか、セリが急いで支度をして出掛けていく。
階段まで見送ってから俺たちも部屋に戻ることにした。
先程の魂の残機マークの事を伝えておかねばと意識を集中して、奇妙なことに気がつく。
「あれ?」
おかしい。
形こそ変わらないが、こんな色をしていただろうか?
うん…じゃなくて、魂が蒼白くなっている。
確かに緑だったはずだ。
一人で考えてみるが全く思い当たる節がなく、二人に相談しようとも思ったが途端に説明が面倒になる。
またステハラなどと言われて時間を無駄にするだけだろう。
「ヤマト、どうした?」
「なんでもない」
そういえば、ふと朝の事を思い出す。
一人で町を歩いた時は解放感があって楽しかったのだが、ブロッキオがぶち壊してくれたんだったな。
あの時はあまりの気分の悪さにドス黒い感情に飲まれそうになってしまった。
一人の時間も欲しいが今から出て、また面倒事に巻き込まれてはたまったものではない。
何より俺にはわからない髪の色問題でずっとフードを被り続けるのが窮屈だったので、ベッドの上でゴロゴロしながら暇をつぶす。
クリフトはまたどこかに出かけるらしい。
こいつはこの町に顔見知りも多くて馴染みがあるから、寄る所も用もたくさんあるのだろう。
スクレイドは、と見ると開け放った窓辺で肩に小鳥を乗せて読書にいそしんでいる。
このエルフのおかげでファンタジー感が増し増しだ。
時折小鳥と会話をするように相槌をうったり、礼を言っている。
「鳥はなんだって?」
なんとなく聞いてみると、エルフはファンタジーを上乗せしてくる。
「色々な場所での出来事を報告してもらっていたんだよ」
「へー、ほー、ふーん、あっそ」
本当に会話をしていたらしく、もう驚きの言葉もでない。
「おたくのことを知ったのも彼らの噂話だよ」
出会った時に話に聞いたやら、その場にいなかったゴブリンたちの撃退方法を見ていたように知っていたのもそういう事だったのか。
「ノーラの危機に駆けつけていたのも?」
「そうだね、いつもここに居られるわけではないからねえ」
初めて会った時は人間同士のゴタゴタには興味がないと言っていたのに、離れた場所にいる…それもきっとそれほど親しくもない者を心配して、誰より心を痛めているのを知ってしまった。
嘘が付けないならあれは強がりか?
それにしても、ノーラの件で驚いたのはブロッキオまで庇おうとしていた事だったな。
ブロッキオが変わると信じていたのか、それともコイツはどこまで行っても中立なのか。
こんな眠い昼下がりにまで情報収集とは頭が下がる。
「お前がこんな問題をあと何件かかえてるのか、想像したくもない」
「俺だって数えるのも面倒だねえ」
それとなく出た言葉にスクレイドも肩を竦めて、やれやれと笑ってみせる。
やはり他にも問題児がいるらしい、これ以上知るのはやめておこう。
「腹がいっぱいで眠くなってきた…」
「そうだねぇ色々あったから、ゆっくり休むといいよ」
しかし確かに昼飯で腹は満たされたし種類もあって美味いのだが、ガイルの作る食事とレモニアの特性ジュースが恋しくなる。
何か調味料や素材が違うのか、それとも本当にガイルの腕が良すぎたのだろうか。
眠気のせいか思考がまとまらず、集中ができない。
ここ数日で起きた色々な事が目まぐるしく頭に浮かんでは消えていく。
最初に会ったのがアメリアとその村の人たち、そして今こうして旅の仲間に入れてくれたのが、クリフトたちで本当によかった。
あの森で最初に遭遇したのがアメリアじゃなく、盗賊だったら俺はどうなっていたんだろう。
もし落ちた先がこの町で、何も知らない俺が異世界人であると知られ、ブロッキオのような者に利用されていた可能性もある。
《──人間は醜い生き物なのだから》
わかってるよ、でもそれだけじゃない事も知ってる。
《──まだそんな事を言うのか?》
もう少し、優しさに触れていたいんだよ。
「ヤマトくん?」
突然声をかけられ何事かと身体を起こす。
「ん、何?どうした?」
「あ、ああ、眠っていたのかい?」
「わからない、何か考えてた気もするけど、まどろんでたのかもしれない…それで何?」
スクレイドが心配そうにベッドの端に手をかけて、こちらの様子を見ている。
「なんか俺、寝言でも言ってた?」
「少しうなされてたかな」
疲れているのかもしれない。
それとも暇すぎて余計なことを考えすぎたか。
そんな事をぼんやりと考えているとスクレイドが読みかけの本を閉じ、近づいて俺の顔をじっくりと見つめてくる。
「なぜだろう…おたくはなんだか俺たちに近いみたいだ」
「あー…そう?」
俺たち、というのはエルフの事だろうか?
それとも異世界人ではなくこの世界の人間てことか?
こいつの物言いはいつもわかりにくい、喋っていない時の方が何をしたいのか気持ちがわかるくらいだ。
「魔力の量とか?」
「それもあるんだけどね、以前から知っていたような気さえするよ」
ほら、真面目に相手をしているとこの調子だ。
「非常識の塊の俺が?そりゃ光栄だな」
「ヤマトくん?何か怒ってるのかい?」
「お前の話は要領がつかめない、後で聞くからアレイグレファーにでも伝えておいてくれ」
「…なんて?」
スクレイドは顔色がかわり、聞き返された俺自身も不思議な感覚になる。
自分で言っておいてなんだが、アレ…なんだって?
そんなキャラの出てくる作品あっただろうか、思い出そうとするが記憶がボヤけて何も浮かばない。
「スクレイドごめん、俺本当に疲れてるみたいだ…」
そう言って話を終わらせようとするが、スクレイドは真剣な表情で食い下がる。
「アレイグレファーを知ってるのかい?」
「知らない、誰だよ」
「おたくが言ったんだよ」
じゃあなんでお前まで知ってる感じになるんだよ。
「スクレイド、かまって欲しいのか?暇なのか?」
「真面目に聞いてくれ、アレイグレファーを知っているのかい?」
「知らない。またこの世界の常識問題か?それとも紹介されたのに忘れてる人か?」
ああ、ペガルスを初めて見た時に誰かのペガルスがそんな名前だったか…いや違うな、どっちにしろ何か変なことを言ってしまったのだろう、あとで起きたら謝るから今は勘弁して欲しい。
しかしスクレイドが引く気配はない。
「ヤマトくん、真面目に聞いてくれないかい」
面倒だ。
「お前も寝ちまえ」
「くるしっ!?」
スクレイドの首に腕を回して強引に隣に横にならせると腕や足を引っ掛け、関節を決めて黙らせる。
「悪いな、ほんの少しでいいから眠らせて…」
スクレイドは俺の腕をタップしている。
この世界でもタップはギブアップの意思表示、と。
覚えておこう…。
そして襲いくる睡魔に抗えず、眠りに落ちた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。