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不審な異世界人

会話は誰が話しているか、わかりにくいと思います。皆さまの読解力と理解力に丸投げしてしまってすみません。

「眩しい…」

 窓から射す光と鳥の囀る声。

「何時だ?」

 枕元に置いてあるはずのスマホを探っても見当たらない。

 ガバッと勢いよく起き上がり部屋を見渡すと木の板がむき出しの古い壁が目に入る。


「夢じゃなかったのか」


 残念なことにクロウシスに会ってからの一連の出来事は現実だったようだ。

 ベッドから降りて窓を開けると昨夜馬車が運び込まれていた広場のような場所が見える。

 そこに馬車はなく人が行き来しており、走り回る子供達に水の入った桶や大きな麻の袋を運ぶ村人が忙しなく動いている。


 その光景をぼーっと眺めているとドアからノックの音がして、1人の恰幅のいい初老の女が入ってきた。

 昨夜も風呂の世話をしてくれたおばさんだ。


「おはよう。音がしたから来てみたんだけど、よく眠れたかい?」

 見た目通り陽気に笑うとベッドの毛布をバサバサと手際よくたたみ始める。


「おはようございます。お陰様で」

 慣れない場所だというのに余程疲れていたのか、1度も起きることなく眠れたのは助かった。


「そうかい、よかった。改めて昨日のお礼がしたいから朝食をとりに下に降りて来ないかい?洋服もじきに乾くと思うよ」

 そう言って毛布を持って俺の肩をポンポンと叩く。

「じゃあお言葉に甘えて…」

 言われて腹が減っているのを思い出し、おばさんのあとを着いて階段を降りると、1階は食堂のような造りになっていて、テーブル席とカウンターがある。

カウンターには一人分の食事が置かれていた。

「昨日は風呂場に行く時に通っただけであまり見てなかったけど、本当にゲームや映画の世界みたいだな…」

「なにか言ったかい?」

 つい一人言が漏れてしまい慌てて取り繕う。

「いえ!なんでも!」

「アメリアちゃんを助けてくれてありがとうね」


 おばさんが発した名前に重い空気が漂う。

 昨日この村に一緒に来た少女のことだろう。

「あの子はどうしてますか?」

寝る前に聞こえた悲痛な泣き声はきっとすぐにおさまるものではなかっただろう。


「大丈夫よ、泣いてはいたけど今は落ち着いてるわ」

 おばさんは元気づけるように笑ってカウンターの椅子をひいてくれる。

 腹が減っては戦ができぬ、とりあえず素直にいただくとするか。

椅子に腰かけて朝食を食べているとカウンターの裏から昨夜門で少女と話をしていた初老の男がでてきた。


「おお、昨夜…と言っても朝方だがな、少しは休んだか?」

「はい、道に迷っていたので助かりました」

そんな挨拶をして男は名乗る。

「オレはこの村で宿屋を営むガイル・グレイシアという者だ、あれは家内のレモニア、昨日の娘はアメリア・ファーレン」

 ガイルが送った視線の先には少し離れた場所に設置されたいくつかのテーブル席を拭いているさっきのおばさんがいた。

 軽く会釈をして俺も名乗る。


「津田大和です」

「ヤマト様?」

 おっさん、なんで様付けなんだ。

「昨夜襲われたのが妹夫婦でアメリアの育ての親だ。姪っ子を助けてくれたこと、どうお礼を言ったらいいか」

「そうだったんですか、俺はなにもできませんでしたけどね、もう1人は?」

たしか遺体は三人だったはず。


「街までは遠いので護衛にと、村の中でも腕が立つ若者も同行していたんだがな…」

 ガイルは少し遠い目をしてから頭を左右に振ってからこちらを向きなおす。

「ヤマト様が三人を連れてきてくれたおかげでな、村で埋葬してやることができた。感謝する」

 宿屋だからという理由だけではなく昨日亡くなったのが妹夫婦、それでこの人達が泊めてくれたということだったのか。


「アメリアが頑張って俺を呼びに来たんです。着いた時にはもう手遅れだったけど、妹さん達を送り届けられたのはあの子のおかげだと思いますよ」

 そう言うとダイルは俺を見て少し考えてから口を開く。

「見たところ、変わった衣服から異世界の方みたいだが、オレ達の村の要請で王都から派遣されたんじゃないんですかい?」

「へ!?異世界から来たってわかるんですか!?」

 思わずすっとんきょうな声を出してしまう。

 バレバレ?異世界の人間てすぐわかるもん?

「他にも異世界から来た人がいるんですか?」

「この辺りにはいませんがね、王都にいけば異世界から来た勇者様が多くいらっしゃると聞くが…ヤマト様は違うんで?」

「勇者?」

 って、なんのことだ?

 異世界から来たのは俺だけじゃないにしても、そんなにいるのか?

 勇者ってあれか?魔王とかと戦うために召喚されるような人の事か?そんなの聞いてないぞ?


「ヤマト様?」

 1人でブツブツ言っているとガイルが怪訝な顔をして覗き込んできた。

「その、様ってのはやめてください。異世界から来たってのは合ってるんですけど、俺昨日の夜山の中に落とされたばっかりで、この世界のことをよく知らないんですよね」

「落とされた?召喚魔法じゃないのか?」

 ますます怪しむようにガイルは首を傾げる。

「召喚魔法って?」

「ああ、今この世界は魔王軍と戦うため、異世界から勇者様を召喚する儀式が昼夜問わず行われているって話でな」

 

はい出た!魔王軍!

 帰りたい!

「なんでも異世界の方々はオレ達より強力な魔法が使えて、とても強いらしいんだが…」

そこで何かを考えるように顎ヒゲを数回なでて、こちらを見る。

するとカウンターの端を拭いていたレモニアが話に入ってくる。

「アメリアの着ていたものを見たけど、あれは相当な深手だったんじゃあないかい?肩や腕に背中、切り裂かれたような跡がたくさんあったけど…」

「はい、俺が会った時には全身ボロボロで、歩いているのが不思議なくらいで」

「それを魔法で治した、と?」

 ガイルが眉をしかめながら聞いてくる。

「魔法って言うのかわかりませんが、治せたみたいで安心しました」

 なんだ?何か変なのか?

 さっきの話からすると、異世界人ほどの強さではないにしてもこの世界には魔法があるような口ぶりだったはず。

「にわかには信じられないんだがね、実際にアメリアの話と服や妹夫婦の傷を見るに信じる他ないだろうな…」

 むう…と唸りながらガイルはさらに続ける。

「いいですかい?ヤマト様、この世界に治癒魔法なんてものを満足に使える者はいねえんだ。弱すぎるからな」

「弱い?」

 そりゃあ戦闘向きじゃないだろうけど!そこまでハッキリと言わなくてもいいんじゃないか!?そう喉まで出かかって、突然のディスりに俺は肩を落とした。


「言い方が悪かったようで…治癒魔法は特殊な魔法だとかで、せいぜい擦り傷の痛みを軽減するくらいで、血を止めるほどの効果もないって話です」


「え?そのくらいじゃ意味ないんじゃ」

 いや、元の世界ならかなり助かると思うけどな?

 俺の知る剣と魔法と魔王の異世界は回復役が当たり前にいて、それこそ初級の回復魔法は職違いでも、誰でもある程度使える気がする。


 なんなら回復薬まであるのが当たり前、時に魔法要らずだ。

「それをあそこまでの怪我を治癒できる魔法とは…やはり異世界の勇者様ということなんだろうな」

 ガイルは納得したように頷いている。


「えっと、それで王都っていうのは?」

「さっき魔王軍の話はしたが、魔王軍と言ってもまだ魔王は姿を現してないんだ」

 魔王不在!良かった!でも帰りたい!


「昔から人間の王族に伝わる秘石があるんだが」

 こちらをチラッと見る。

「何ですかそれ?」

 当然知らないので一応聞いてみる。


「その秘石が悪しき黒に染まる時、魔王が目覚めて命を刈り取るという伝承がある」

 俺を世間知らずのアホと認定したらしいガイルは、やれやれというふうに続きを話して聞かせてくれる。

「黒に染まる?」

「元は美しい白か透明らしいんだが、近年秘石は黒く染まって魔王の目覚めまで猶予がないのではと言われているな。そのせいかこんな田舎の村の近くにまで魔物が住みつき、冒険者が近寄らないのをいい事に盗賊が増えちまったのさ」

「いるのか…魔物…」

「ヤマト様は魔物を見たことがねえのか?」

「ないですね、冒険者がいるなら魔物を退治してもらえないんですか?」

「オレ達も魔物が出はじめた頃は近くの村で話し合って雇っていたんだがね、冒険者には褒賞金を出さないとならないが…倒しても魔物が増えるんでキリがねえ、それで王都に魔物退治を依頼したんだ」

「それがさっき言ってた派遣された異世界人?」

「そうだ、だが今や世界中のどこに行ってもこんな有様だからな、優先度の低い村や町は近隣同士で金を集めて冒険者を雇って自衛団を作るか、順番が来るのを待つしかないんだ」

命を金で買う世界観…俺はなんて嫌なところに来てしまったんだ。

「そんな物騒な時に夜中に街に何をしに?」

 魔物が住みついて盗賊まで出てくる、そんな時は昼間だって出かけるのが怖いくらいだ。


 俺の質問にガイルは黙り込み、その様子を見かねたレモニアが代わりに答えた。

「アメリアが何日も続く高熱を出してね、隣街の医者に診せにいくところだったのさ…」


 やってしまった…。

 そうか、誰だってそんな危険な場所に夜中に出たりしない。でも可愛い娘が病気だっていうなら危険を顧みずに出かけて行くだろう…

 その当の本人は命からがら逃げ伸びて、自分のせいで三人も死んだと思っているかもしれない。


「そこを見たって傷だけじゃない、熱までひいてるんだから、確かにヤマト様の回復魔法が素晴らしいってことじゃないか」

 レモニアのフォローが胸に刺さる。

ここまでお付き合いくださりありがとうございます。

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