理想と現実と常識
少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
ええ!?☆異世界転生!?☆
初めての世界にドキドキワクワクしながら、まずは冒険者ギルドへ!
魔物を退治して冒険者としての実力とランクを上げながら、それぞれ得意分野の異なる頼れる仲間が集い世界を救う!
そしてパーティーは伝説へ…!
「へえ、あっ、これ美味い」
「はあ…」
「おたくの世界には面白い言い伝えがあるんだねえ」
食事をしながら俺の知る異世界転生のお約束を話してみた。
なんでそんなに冷めた反応なの?
長くなるけど最初から勇者扱いのパターンも話そうか?
「まずはそこの二人、クリフトにセリ!」
興味無さそうに食事を頬張るクリフトと、考え込みながら煮豆をフォークに刺し続けているセリを指さす。
「オレたち?」
「なんでしょうか」
二人は突然の名指しにキョトンとした。
「二人の武器はなんだったかな?」
にっこり笑ってそう聞くと少し考えて顔を見合わせてから戸惑いつつ答える。
「主に剣だけど…なあ?」
「使えるものがあれば武器として使います」
「それだよね!?まず武器が被ってるじゃん!?」
「「まあ…」」
なんてやる気のない…返事まで被るとは何事か。
「うん、まあそれは置いといていいや、二人の職業は?」
「職業…って、さっきのヤマトの話に出てきた魔道士や聖剣士みたいなことか?」
「そうだ!一度で覚えるなんてクリフトは頭がいい!」
「そ、そうか?」
褒められて素直に喜ぶクリフトに軽く拍手を送ってから、再び尋ねる。
「それで、二人の職業はなんだ?」
「剣を持っている、という部分だけを共通項とするならば、私たちも剣士ということになるのでしょうが…」
セリが俺の求める正解の答えを探るように、言葉を濁しながら考える。
「しかしこの世界で剣士というのは国に仕える前線の兵士や、剣で食ってく者を言うからなあ…」
クリフトが無い頭を捻りなんとか己に割り当てられそうなものを探すと、スクレイドも言う。
「魔法に長けた者は魔術師として術式の店を営むか王宮のお抱えになるからねぇ、その辺では見かけないんじゃないかなぁ」
そして間が空き、セリと同じく俺が何が言いたいのかわからないクリフトが話をまとめて答えを出した。
「俺たちは、無職?」
もうそこからして違うんだよなー。
俺はため息をついて二人を冷めた目で見てから次のターゲットをロックオンした。
「じゃあ森人の称号を持つスクレイド!」
「ええー、称号って…、なんだい?」
「なんで男なの、あと弓使えよ」
「俺だけ雑じゃないかなぁ!?」
スクレイドは猛抗議をし、クリフトは首を傾げた。
「魔法を使えるスクレイド様がわざわざ弓なんて使う必要あるのか?矢は消耗品だからおすすめ出来ないしな」
それは確かに一理ある。
「じゃあ武器はいいや、なんで男なの?エルフなら美女でしょ?」
クリフトのもっともな言葉に武器は諦めよう。
しかたなくもう一つの性別の点は譲れないポイントだ。
「グイグイ来ますね、勇者様…」
「様子がおかしいよな」
机をドン!と叩いて、ざわざわするアホ達の口を塞ぐ。
「はい!今セリが大事なことを言いましたあー!」
「な、なんでしょうか!?」
セリはビクッとして不安、というより迷惑そうに聞き返した。
「勇者って、何だっけ?」
「それは王によって異世界から召喚された方々の総称で…」
「召喚ね!そうだよな?じゃあ俺ちがうよね?」
「…え、あ…違い、ますね?」
言われてみればとセリが頭を抱える。
「なになに!?クリフトくん、ヤマトくんは酔ってるのかい?」
「わかりません、料理に酒は入ってないはずなんですが…」
「そこの二人も!」
「「はあ…」」
酔っ払いに絡まれたみたいな態度をしないで真面目に聞け。
「なんかこの世界での導き手みたいな役割とか持ってない?」
「そんな無茶なこと言われても!一応王都に連れてくんだからいいだろ?」
「それは心からありがとう、でもそれ引率の兄ちゃんな」
俺はスパッと切り捨てた。
そしてスクレイドはそれならばと言った。
「俺は能力の相談に乗ってるじゃないか!けっこう近くないかい?」
「全っ然近くないよね?視覚投影でステータス見せようとしたら嫌がるよね?」
「それは当たり前なんだけどなぁ???」
するとクリフトが勢いよく椅子から立ち上がり、フォークを床に落とす。
「ヤマト!?そんな事したのか!?」
「ああ!!したよ!?非常識な頭のおかしい奴だと思うだろ!?その非常識をしたんだよ!俺は!」
「え!?おも、思うぞ!?…えっ!?」
叱ろうとしたクリフトは逆に怒鳴られるとは思っていなかったのだろう、勢いを失って混乱しながら落としたフォークを拾う。
「昨夜やってたのはそれだよ!あのな、俺の世界じゃ個人の能力はむしろアピールしていくスタイルだったんだよ!個人情報とは別物な?ここ大事だぞ!」
「なんだ、スクレイド様と痴情のもつれで喧嘩してるのかと思ったぜ」
違うって言ったぞ?クリフトバーカ。
「それで、なんで俺がこんな話をしてるかと言うとだな!」
「やっと本題かい?なんだか鬼気迫るモノがあったよねぇ」
気を抜いたクリフトとセリに【視覚投影】を使ってステータスを見せる。
「こっ、これは!?勇者様!?」
「すごいケタの数字で目が追いつかない!ケタがおかしい!!」
「あ"ーーー!!またやってるのかい!?やめなさいってばこの子は!!アンチヴァイス!!」
「負けるかあ!!」
どうせスクレイドには防がれるのだ。
ならばクリフトとセリにさらに【視覚投影】を発動だ!!
「勇者様!?おっ、おやめ下さい!」
「セリは恥ずかしがるな!なんか変なもの見せてるみたいだろ!?クリフトも目を閉じても無駄だぞ!」
「アンチヴァイス!!」
なんとかクリフトとセリに発動されたスキルを解こうと、スクレイドは今までにないほど力強く呪文をとなえる。
「だから!やめなさいって言ってるでしょうが!!」
「スクレイドは邪魔すんな!いいからクリフトとセリもよく見て考えてくれ!」
「ええっ、俺が見てもなにもわからんし、これはさすがにやりすぎたヤマト!!」
「勇者様!恥じらいを持ってください!」
「勇者じゃないっつーの」
「アンチヴァ…もぐ!」
「ほい!」
呪文を唱えようとするスクレイドの口にパンの切れ端を放り込む。
「ごっくん、アンチヴァイス!そこまでするのかい!?」
「だからレベルがさ!レベルの問題だけでも見て一緒に考えて!?」
ここまで譲歩しているのになにがいけない!?
とうとう一対三でテーブルを挟んで対峙すると、スクレイドがレイムプロウドを一つ取り出して、二人を後ろにかばいながら杖を構える。
「これは魔力の増幅に使わせてもらうよ!」
「汚っ!それ俺が魔力溜めたやつ!」
「アンチヴァイス!」
三人の身体が白く発光し、集中力の無くなった俺の【視覚投影】は弾かれてしまった。
舌打ちして椅子に座りなおして食事を続ける。
「今おたく舌打ちしたかい!?」
「してないしてない、で、誰かレベルの事わかる?」
すると手を挙げたのはクリフトだった。
「実はちょっと気になって、他のステータスの桁を数えてたけど途中で消えるから、次の時には数え直しで何もわからなかった」
「クリフトバカだもんなー」
「またバカって言ったのか!?」
そしてセリは宥めながら得意げにした。
「まあまあ、私はとにかく視線を動かして焦点が合わないようにしてたので見てません!」
「セリは頭のいいおバカさんだなー」
「どういう事です??」
この二人はやはりあてにならなそうだ。
「スクレイドは昨日見て何かわからなかったか?」
「疲れた…」
「おじいちゃんだもんなー」
「そういう問題じゃないっていってるでしょうに!おたくは本当に!!」
全員でため息をついてから食事を再開する。
「でもねえ、ちょっと気になることはあったんだけど…」
ぽつりと呟いたスクレイドに、指パッチンをしたままの手の形で人差し指を向ける。
「いいね!そういうのを待ってた!スクレイド言ってみようか?」
「…やっぱりやめとこうかなぁ」
「なんで!?」
そこまで言いかけてやめるなんて、嫌がらせだろうか。
「おたくに聞いてもわからないだろうし、知っていたとしてもまた非常識な答えが返ってきそうだからなぁー」
「セリ、スクレイドに注意してやってくれよ」
「何故私なのです!?」
「俺がスクレイドにステータスを聞いた時、セリはなんて言ってた?」
え?と右斜め上を見てから、思い当たることがあったらしく額に手を当てる。
「この世界の常識の擦り合わせをしておけば、と後悔した記憶があります…」
「そうだよねー?今がその時じゃない?よく考えてみてくれ!行く先々で、果ては王都でまで俺が人にステータスを見せる変態になってもいいのか?」
「勇者様!?それは困ります!」
セリは焦って立ち上がった。
「まずはその勇者って呼ぶのもやめてみようか!?スクレイドは俺を勝手に森人ってことにしたのに、齟齬が生じるぞ!」
なんとかそれらしい事をスクレイド関連で言うと、セリはすぐにしまったという顔になり素直に謝り始めた。
「申し訳ありません!なんとお呼びしたら…」
「普通に呼び捨てでいいよ」
しかし、と戸惑うセリに一応聞いてみる。
「あ、あのさ、女性にこんなこと聞くのもどうかと思うんだけど…」
「…なんですか?」
嫌そうな顔をしてセリが身構える。
「セリは、そのー、歳はいくつなんだ?」
「二十になりました」
「そこは素直に答えるのかよ!!」
もう何から突っ込んだらいいのか、本当に訳が分からない。
「ほらぁー、セリの方が年上なんだから呼び捨てで、敬語も要らないからな」
なんだかだんだん面倒くさくなってきた。
って、そうじゃない。
「スクレイド、結局気になることってなんだ?」
「話が戻ってきちゃったねえ」
「常識教えといてくれないと、俺何するかわからないぞ?」
「脅すのかい!?」
人聞きの悪い、限りなく実現してしまいそうな可能性の話だ。
「んー、とにかくヤマトは不安なんだな!」
肉を飲み込むとクリフトがびしっと言う。
「そうだよ?他に何だと思ってたんだ?」
「嫌がらせとかじゃなかったんだな…!じゃあ言っとくけど、さっきチラッと見た限りではステータスが高い以外は俺たちと同じ画面だったぞ」
おおー!最初に言ったことは気になるけど…、そういうのが欲しかったんだよ!!
クリフトはバカが太陽と月のように顔を出す不安定な要素を除けば本当に良い奴なんだよ。
「クリフトっ!いや兄ちゃん!他に気づいた事ないか!?」
「属性が変わってるなって事かな?」
ぐはっ!とスクレイドが飲み物を飲み込むのに失敗してむせる。
落ち着きのない奴だなあ。
ここまで読んでくださってありがとうございます。