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ゲスな男

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

「おーい、道わかるのか?」

「ああ!なんとなく行ってみるよ!」

気遣うクリフトに手を振り、小屋をあとにすると急いでペガルス舎から離れて来た道を戻ろうとするが、やっぱりさっぱり道がわからない。

仕方なく勘を頼りに歩き出す。


建物が高くて進んでみないと景色や方角が掴めないのには困ったものの、久々に一人になった気がする。

この世界に落とされて、アメリアに会ってからは出歩く時には必ず誰かと一緒だった。

かと言ってこんな所で放り出されたらたまったものじゃないが、たまには一人の時間も悪くはない。

町並みも悪くない、空気も美味しい。

探索でもしたらきっと楽しいんだろうな。

「それにしても広い綺麗な町だなあ」

「森人様にそう言って頂けるとはこの町の価値も一段と上がりますね」

「は!?」

突然独り言に返事をされ、驚きながら数歩後ろを振り返る。


そこにはスキンヘッドで色黒の大男が立っていた。


「これは、驚かせてしまいましたか」

大男は揉み手をしながらこちらにガツガツと歩いてくる。

「えっと、どちら様?」

強面の大男がニヤニヤしながら近寄ってくる、警戒するなと言う方が無理な話だ。


「ご挨拶が遅れました、私はこの町で宿屋を営むブロッキオです、お見知りおきを」

近くに来ると、クリフトよりデカいんじゃないか?ムキムキの身体にスキンヘッドがキラリと光る。

「どうも、それで何か用ですか?」

「森人様は朝餉はお済みですか?」

おい返事になっていないぞ。

あんまり好きじゃないなコイツ。

「これから宿に戻って食うところだ、それがどうした?」

「でしたらぜひ当店にお越しください」

気づくとかなり距離を詰められている。

しかしあからさまに逃げるのも不自然だろうか、何よりコイツの意図がわからない。

「遠慮しとくよ、仲間がいるんでな」

「そちらは森人様のご利用の宿とは反対ですが?」

なるべく自然に別れようと歩き出すも、ブロッキオはどこかから道に迷う俺を見ていたのか見透かすように意地悪く指摘する。


「ああ、まだ散歩中なんだ」

「道がお分かりにならないのでは?」

「そうだな、でも問題はない」

「よろしかったらご案内しましょうか」

そう言うと前に回り込んでくる。

なんだコイツ、ずっとニヤニヤして気持ちの悪い奴だな。

通り過ぎようとするとブロッキオは道を塞ぐように道の真ん中に立ちはだかり話を引き伸ばす。

「かまわないでくれ」

「そうはいきません、森人様がお困りですのに何もしない訳にはまいりません」

「そんなに困ってないけどな」

「さすがは森人様です」

なんだコイツ、馬鹿にしてんのか?

少し苛立ってきた。


「それで、俺を助けようとするフリで見返りは何を求めている?」

「ははっ!さすが…、っと、これは失礼しました」

単刀直入に嫌味を言ってみたというのに逆に嬉しそうにするこの男、上がった口角を手で隠してさらに作り笑顔をする。

人を逆なでするのが上手いやつだ。


「当店でお食事だけでもご利用頂きたいだけましたら幸いです」

「毒でも入ってなきゃいいがな」

「まさか、お越し頂くだけでいいのです!おわかりになりませんか?」

「行くだけで…?」

ああなるほどな、コイツの下卑た笑みはそういう事か。


「森人が利用した店には箔が付く、か?それでわざわざ来いと」

「滅相もございません!ただそういった事に左右される利用客がいるのも否定は致しませんがね」

「悪いが俺に森人としての価値はないぞ?森人のヤマトという名を聞いたことがあるか?」

「お名前は問題ではないのですよ、これからご高名になられるかもしれませんし」


森人ブランドのついた宿屋の利益を妄想して、ニヤけが止まらない様子のブロッキオ、だんだん本音がダダ漏れになってきている。

「森人という立場が必要なら、俺だけで判断できる事ではないのでな、スクレイドの方をあたってくれ」

「スクレイド様は今まで一度もおいでくださいませんでした、お察しください」

おい、スクレイドが行きたがらないような店ってことなんじゃないか、そこに俺ならと誘うとは何事か!


「ハッキリ言おう、お前が気に食わないから行く気は無い、そこをどけ」

「何故でしょう?森人様は慈悲深いのではないですか?商人や冒険者が減って困った宿場町の小さな宿に憐れみをかけてくださるだけでいいのです」

「話にならないな」

そうだよ、なんでもっと早く思いつかなかったんだ。

飛べば上から宿屋を探せるじゃないか。


いい加減コイツの相手も面倒だ。

そう思って上に方向を指定して強く念じたその時。

「嘘だろ」

足に不快感を覚え、確認してドン引きする。

「どこに行こうと言うのですかぁ!」

色黒スキンヘッドの大男が俺の足に掴まってぶら下がっている。

「離せ!しつこいぞ!」

「この高さから落ちたら私は重症を負いますが!?」

脅しのつもりか?勝手に飛びついてきて何を言っているのか、もっと距離をとっておくべきだった。

「じゃあ少しだけ高度を落としてやる、そしたら飛び降りろ」

「私の営む宿屋ですか!?あちらでございます!」

「そんなこと聞いてないだろ!」

正直気持ち悪いしイラつくが、ここまで経営、いや金に貪欲だと恐ろしいものがあるな。


あーだこーだと中途半端に浮きながら騒いでいると、下に人だかりができ始めている。

「おっ前ぇ!今落としたら他の人まで巻き込まれちまうだろ!?」

「さすが森人様です!慈悲深い!それではこのまま私の宿にどうぞ!」

言葉通じてなくない!?

しかたない!

「行ったら離れるんだな!?利用はしないからな!?」

「朝餉のお支度は整ってございます!」

「お前人の話聞かないってよく言われない!?」

「肩が痺れて手に力が入らなくなってまいりました!」

そりゃあそんなデカいガタイでぶら下がってりゃそうなるだろうよ。

しぶしぶブロッキオにも方向操作をかけて身体を浮かせてやる。

「素晴らしいです!身体が軽くなりました!」

「これなら手を離しても落ちることはないぞ、ほら離せ」

「いえ、これなら森人様のお気が変わるまで捕まっていられそうです」


振り出しに戻ってんじゃねーか。

もう攻撃していいかな?


その時地上から聞きなれた声がして下を見る。

「ヤマトー?何してんだ?」

下から声をかけてきたのはクリフトだった。

「「クリフト!!」」

ん?なんでブロッキオまでクリフトを呼ぶんだ?また知り合いか…クリフトはこの町でどれたけ顔が広いのか。

「いいところに来てくれた!助けてくれよ!コイツがしつこくて…」

「クリフト!お前からも森人様に当店のご利用を薦めてくれ!!」


被せてくるな!


「あははっ、ブロッキオのおっさんは相変わらずだなあ」

クリフトは状況が見えてないのか、助けを求める俺とがなるブロッキオを見て大爆笑している。

確かに傍から見たらおかしな光景ではあるのだろうが、いくらクリフトでも呑気がすぎないか?

「いいからなんとかしてくんない?」

いい加減足にぶら下がる禿頭から反射した日光にイラッとして、投げやりにそう言ってみるとクリフトは笑ったまま頷いた。


「よし、ブロッキオの腕を切り落とせばいいか?」

おいちょっと待て、今なんて言った?

冗談かと思って見ると、懐から取り出した小さな細身のナイフを投げようと身構えている。


周りに出来た人だかりも、クリフトのあまりにも迷いなく自然な動作に止めることも忘れて唖然と見ている。


すると目にも止まらない速さでナイフが飛んでくる。

「何考えてんだ!バカかクリフト!」

慌ててブロッキオを吊ったままさらに高度をあげる。

しかし反応が遅れたせいか、ナイフはブロッキオの片腕をかすめたらしく、出血している。

「ヒイィッ」

ブロッキオは怯えながら俺の足によじ登りしがみついてくる。


「何してんだよ、なんで避けるんだ?動いたら当たらないぞー!」

笑顔で大きく手を振りながらこちらに叫ぶ。

その様子にようやく野次馬がクリフトから離れる。


「なにしてんだはこっちのセリフだ!避けたんだよバカ!」

何やってるんだ?クリフトらしくない、いや、単純なクリフトらしいのか?俺が迂闊に何とかしろなどと言ったから…本気だった。

実際俺が避けなければブロッキオの腕はどうなっていたのか。

しかしクリフトはそんな非常な真似をするような頭のおかしい男ではないはずだ。

「ヤマト、動くなよ」

クリフトは動じることなく二本目のナイフを構えている。

「そこまでしなくていい!」

「ヤマトは気にしなくていいからな、とにかく動くなよ」

気にするとかしないとかそういう問題じゃないだろう!?

十分気になるわ!

「落ちつけクリフト!よく考えてみろ!今このでかいのが落ちたらそこにいる人たちにも被害がでるぞ!」

「今日は風が強いから大丈夫だ、落ちる軌道を読んでから狙う」

「バカにはわかりにくかったな!?ごめんごめん!!やっぱり自分でなんとかするから大丈夫だ!」

なぜ気に入らないオッサンを庇わなくてはいけないんだ。

「おい、お前も降ろしてやるから離れるよな?」

「は、はい…」

結果的に荒療治が効いたという事か、素直に頷くブロッキオを見せてクリフトに叫ぶ。

「もう大丈夫そうだ!今降りるからナイフをしまってくれ」

「そうはいかないよな、ノーラ、どうする?」

ノーラ?

よく見るとクリフトから少し離れた野次馬の中にノーラの姿がある。

なぜそこでノーラに確認する必要があるのかは疑問だが、野次馬も含めてクリフトを止める者はいない。

クリフトの過激な行動に何も言えないというより、

周囲を取り巻く空気はむしろクリフトに期待をして見守っているようにも見える。

この異様な雰囲気はどういうことなのか。

「ノーラもいたんなら、クリフトを止めてくれよ」

呆れながら降りていくと、二本目のナイフが放たれた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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