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早朝散歩

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

「合意っていうか、スクレイドが昼間は協力的と思わせておいて、いざとなったら拒むからこの騒ぎだよ」

「そうだったのか!やっぱり!!」

「ねえ、ヤマトくんまでなんの話をしてるのかなぁ?」


能力の相談に乗ってくれて、考えたり教えてくれると思ってたのに、いざステータスの情報を共有しようとしたらここまで拒否をするとは思わなかった。

何も嘘は言ってない。

と、スクレイドに嫌がらせをするつもりで言ってみたはいいものの、これじゃ誤解が解けない事に気づいたのは後の祭りだった。


「今のヤマトの訴えを聞いて、スクレイド様にお願いしたい事があります」

「はいはい、わかったわかった、努力するよ」


あっ、スクレイドが死んだ目で問題を放り出した!

誤解を解けよ。


「さすが森人様です!ご理解が早い!!これで二人の関係は心配ないですね!」

クリフトは力強く拍手をしながら、スッキリした顔で満面の笑みを浮かべた。

「待って、やっぱり待って!!今の流れでなんでそうなったのか聞いてもいいかい?」

「はい!俺が口にする前に察して、お約束下さるとは素晴らしいです!」

「ちょっと待とうか、やっぱりお願いってのを聞かせてくれないかい?」

ほら、雑に終わらせようとするからこじれていく。


「スクレイド様にも原因があるんですから、ちゃんと二人で話し合って下さい」

「大筋では間違ってないところが怖いねぇ、君は」

クリフトのお願い、もとい説教は大概のことに当てはまるタイプのものだ。

なんとも厄介な。

「あともう一つ、他の者がいる所では慎んでください」

「…うん、気をつけるね。どうしてこうなっちゃったのかなぁ」

「認めるようなセリフを吐くなよ」

このままだと痴話喧嘩をしていたと思われているんだぞ?

しかし最初の認識よりはマシになったと思えるのが不思議だ。

クリフトは問題児同士を仲直りさせたとでもいうような満足そうな顔をしている。

「さ、スクレイド様もヤマトも今日のところは休むとして、明日は日程に余裕ができて宿がとれそうなら二人部屋にすればいいからな!」

「「はーい…」」

言い切るとスタンドライトの明かりを消して一人ですやすやと眠り込むクリフトを見て、俺たちに返事をすること以外に出来ることは無かった。

こんなに疲れた夜は初めてだ。



朝になりクリフトが元気に窓を開けると、陽当たりのいい部屋には朝日が差し込み目に染みるほど明るくなる。

「朝から元気だな、おはよう」

「おはよう!そういうヤマトも早いな」

この眩しさで目が覚めない方がおかしいだろう、確信犯ではないのが恐ろしい…そう思いながら異様な香りに気付き隣に視線を移すと。


「…なあ、クリフトこれなんだと思う?」

「さあ、オレにもわからん」

真ん中のベッドには大きな布団の塊があり、その周りに植物のツタが絡み、色とりどりの花が咲き乱れて、フローラルな香りが部屋を満たしていた。

いやだ、なにこれ気持ち悪い。


時間を見ると朝の六時前。

あまり深く考えないように、ベッドから降りて浴槽の隣にある洗面台で顔を洗っている間にクリフトが部屋に置かれていたティーポッドからカップにお茶を注いで手渡してくる。

それを受け取り、一気に飲み干してからイスに掛けた外套を羽織るとフードを深く被る。

「どこかに行くのか?」

「少し散歩してきたいんだけど、ダメかな」


この世界、どころか町の常識がわからないので一応伺いを立てると、クリフトは少し悩んでいる。

「他の店が開くにはまだ早すぎる、ブティシークの様子を見に行こうと思ってたところだ、一緒に来るか?」

「行く!」


一階に降りると食堂では朝の開店準備や料理の下ごしらえで慌ただしく人が動いていた。

その様子を横目に見ながら店を出てしばらく歩いていく。

まだ外は少し肌寒いが、空気が冷たくて頭がすっきりする。

町を見渡すと大通りと呼べる広い通路が何本かと、それぞれから店の裏に繋がる道が無数に伸びているようだ。

宿屋が多いせいか、どの建物も似たように見えて一人なら迷子になりそうだった。

肩を叩かれクリフトの指さす方角を見る。

「あっちが市場になってるんだ」

「そういえば、来る前に聞いてたより平和そうで活気のある町だな」

「昔ならもっと人が多くて、この時間でも仕入れの商人や旅立つ冒険者を見送る店の者、客引きで溢れかえったいい町だったんだ!アニキもこの街を気に入っていた…」

「想像がつかないな、今もそれなりに落ち着いたいい町だと思うけど」

「祭りってわかるか?記念日や祭事に各地から人が集まって数日間行われる、道や広場を埋め尽くす出店、旅芸人がショーをしてそれに群がる笑顔の人々」

「似たような文化があるから、それはわかるよ」

良かった、と白い歯を見せて笑うと、市場の方角を見つめて今は無き風景に思いを馳せるように寂しそうに話しを続ける。


アメリアの手前、表に出すことはなかったがやはりクリフトにとって兄を失ったことは深い心の傷になっている。

在りし日に兄とすごした思い出深い景色を見つめる姿は哀愁に満ちていた。


「今はどこも祭りが終わった後みたいだ」

「そんなに違うんだな、昔の状態も見てみたかったよ」

「ああ、すごかったぜ!出身が田舎だったから、親父と兄貴に連れられて初めてここに来た時は驚いたもんだ」

「それで迷子にでもなったんだろ?」

にやりと笑うとクリフトもにやりと笑い返す。

「よくわかったな、旅芸人が点呼をしている時に知らない子供が紛れてると大騒ぎして、気づいた兄貴が迎えに来てくれた時は死ぬほど叱られたけどな」


クリフトはこの町に深い想い入れがあるらしい。

「きっとまた昔みたいに人で溢れるさ」

「ああ、アメリアみたいな子供たちにも見せてやりたいからな」

安い気休めに怒るでもなく、明るくガッツポーズを取るクリフトを見ると、本当にいい奴だと思う。

昨夜のように噛み合わない時もあるけれど。


話をしているうちにペガルス舎に着いた。

ここは何件かの宿屋が合同で管理しているらしく、日替わりで町の者が小遣い稼ぎにペガルスの世話をしていると聞いている。

大きな木の小屋は窓が全て開いており、風通しもよく掃除も行き届いて清潔に保たれていた。


「今日はお前さんだったのか、早くからご苦労なこったな」

小屋の奥でペガルス用の餌を用意している者に気づくとクリフトが驚きながら駆け寄っていく。


「おはよーございます、相変わらず早いっスね」

この喋り方、ハスキーな声。

まさかと思い俺も奥に進むと、やはりそこに居たのはノーラだった。

「森人様も昨夜は休めたっスか?」

白い半袖にジーンズの繋ぎのような服装に長靴、頭にはタオルを巻いて、すっかり農業仕様になっている所を見ると、女の子だとなぜ気づかなかったのかと申し訳なく思う。

「お陰様で休めたよ、ノーラがペガルスの世話してくれてたのか、昨日はアメリアと仲良くしてくれてありがとう」

後ろめたさから自然と優しくしてしまう俺はやはり小心者なんだろう。

「いやー、はは、宿屋に遅くに押しかけちゃって申し訳なかったっス」

「いいんだよ、全っ然いいんだ!!」

「さすが森人様、お優しいっス!」

そんな無邪気な笑顔を向けないでくれ。


「そうだノーラ聞いてくれよ!ヤマトったらお前のこと…」

待てクリフトーー!!

何を言おうとしてる!!

「そう!昨夜は楽しく過ごせたか気になっててな!」


慌ててクリフトの言葉を遮ると、ノーラが少し困ったような様子でこちらを見つめる。

「ブティシークとラファエルは何度か預かった事があったんスけど、ルンナの癖がわからなかったので聞きに行ったら、アメリアと二人でセリさんに剣の稽古まで付けてもらっちゃったんス、うるさくなかったっスか?」


おいおいおい!!誰がナンパ野郎だって!?

仕事熱心ないい子じゃないか!!ごめんなさい!!


昨夜の自分の悪態が今になってじわじわとボディーブローのように効いてくる。

ていうか、高価な品ばかりで落ち着かないとか言ってたのに、セリは部屋でなに武器振り回してんの?

「全く何も聞こえなかったよ!大丈夫!」

「良かったっス、この町にいても貴賓室なんて入ったことなかったけど、すごい造りなんスね!いい経験になりました」

「そ、それは良かった…」

「そういえば三頭の様子っスよね、こちらにいるっスよ」


分け終えた餌を持って案内してくれる。

クリフトはいつの間にか両手に飼葉を抱えて世話の手伝いまでしている。

三頭に顔を見せると、ラファエルは黙々と餌を食べて、ルンナとブティシークは相変わらず興奮気味だが元気そうだった。


「あっれー?さっきまで落ち着いてたんスけど…」

俺のせいです。

「やっぱり自分の世話じゃ気に入らなかったんスかね」

いやもう!俺のせいだよすいません!!

「オレたちが来たから喜んでるだけだろ」

クリフトがフォローをするが、ノーラは周りを見渡して慌てる。

「えっ!?他のペガルスまで興奮してるっスよ!?どうしましょう…」

雌率たけーな。


「あ、えっと、俺は外に出てるよ」

逃げるように退散しようとすると、ノーラがショックを受けたような顔をしている。

「すみません、自分なにか失礼な事でもしちゃったっスか?」

「それどころか、三頭の元気な顔が見れて感謝しかないよ、早くこの事をアメリアに伝えてやろうと思って!」

偉そうに適当なことを言うと、一目散にその場を後にする。


ああ、あんなにいい子なのに、俺はなんて失礼な勘違いをした上に邪魔までしようとして…

後で何か宿屋で弁当を作って貰ってアメリアから届けてもらおう。


ここまで読んでくださってありがとうございます。、

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