誤解
少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
こんな夜遅くに女の子に会いに押しかけるとはけしからん!
イライラと落ち着かない俺を見てクリフトが返答に詰まってスクレイドに助けを求める。
「ヤマトはどうしたんですか?」
「ヤマトくんはほっとこう、彼は今番犬に徹しているのさ」
「はあ…?」
「かまわないよ、アメリアの部屋に直接呼んであげてくれるかい?」
スクレイドは何を考えているのか!店員ににっこりとそう言うとクリフトとそのようにと伝えた。
「ええ!?どうせならこっちに来てもらうか俺たちが降りていこうぜ!?」
なんであんな軽そうな奴を女性陣の部屋に入れようとするのか、セリが居るとはいえアメリアに害があったらどうするんだ!
「なんでおたくまで会おうとしてるのかなぁ、嬢ちゃんに用があるんでしょ?」
「だから心配なんだろうがっ!お前こそもっと自体の深刻さを考えろよ!」
店員は若い森人、ということになっている俺と、スクレイドを交互に見ると頷いた。
「かしこまりました、ノーラはアメリア様のお部屋に案内させて頂きます」
もちろん選択したのは、スクレイドの指示だった。
そして礼儀正しくお辞儀をして降りていってしまった。
「ちょっと俺も二人の部屋に行ってくる!クリフトも行こうぜ」
「えぇ?俺はいかないぜ?大丈夫だって」
面倒くさそうなクリフトは動こうとしない。
「今行ったら湯上りのセリに会えるぞ?」
「おォし!行くか!」
なんてチョロいんだ!
味方を得て部屋を出ようとするが、スクレイドがドアの前に立ちはだかる。
「なぜ邪魔をするんだ」
「あのねぇ、こんな時間に女の子同士が話をしたいと言ってるのにその時間を邪魔しに行こうとしてるのはおたくでしょうが」
「それをノーラにも言ってやってくれよ、…ん?」
今なんて言った?
「女の子同士?」
聞き返してスクレイドの顔を見ると、涙目になりながら笑いを堪えている。
そしてすれ違いざまに肩をぽんと叩く。
「やっぱり勘違いしてたねぇ?レディに失礼だと思うけどねぇ」
「はい?」
捨て台詞と共にベッドに向かうと枕に顔を押し付けてから盛大に吹き出し布団を抱いて笑い転げている。
「なんだ!なんの心配をしてるのかと思ったらノーラは女の子だぞ」
クリフトも理解したらしく爆笑している。
「だって門の見張りを…え?」
ボロい西洋の甲冑のような装備に身を包み、髭面のオッサンと門番をしていた一人称が"自分"だったノーラが女の子??
確かに顔は可愛い系だったよ?
背も高くはないし小柄だなとは思ったさ?
でも声もハスキーで、いや、これ以上考えても門番という先入観以外にノーラを男性と言える要素は無かった。
俺が馬鹿だったのだ。
「あのー、俺以外は皆わかるもの?」
一応聞いてみる。
「少なくともアメリアはわかってて友達になりたがってたな」
クリフトは悪気なく少女二人の出会いを思い返し、微笑ましそうに言った。
そうだったんですね…
だから手を振りあったり、特別視した感じでよろしくねーって…
「俺邪魔するところだったじゃん!?」
「おう!嫌われなくてよかったな!」
兄ちゃんの元気な励ましが追い打ちをかけてくる。
そんで親父はいつまで笑ってるんだ。
「今日はもう寝よう」
外套をイスの背もたれに着せるように掛けて、通りがかりに部屋の魔鉱石の光を消して、ベッドの隣にあるスタンドタイプのライトのカサに触れ、部屋の明かりを完全に落として布団に潜り込むと、クリフトが何も見えないと騒いでいるが今の俺にはどうでもいい事だった。
[やっぱりって言ったな?気づいてたんなら教えてくれればよかっただろ…あと笑いすぎだろ]
[念話の乱用はよくないなぁ]
[知るか]
[ノーラちゃんに言っちゃうよ?]
[やめてあげてくれ]
俺はこの夜この世界での先入観を捨てようと固く決意した。
さて、寝ようとは言ったものの一応ステータスの確認をしてみるか。
またも増えている一覧に謎のスキルを発見した。
【視覚投影】
ほう?これはまた面白そうな。
ステータス画面にしてから試しに使ってみる。
「急になんていう重大なモノ見せてくるのかなぁ!?この子は!!」
念話も忘れて叫びながらガバッとスクレイドが飛び起きる。
おお!成功した。
効果はそのまま、説明を読むと自分の見てる視覚、それも音までついて任意の相手にも見せる事が出来るらしい。
レベルの顔文字は言葉では伝わらなかったが、これなら理解してもらうことができそうだ。
「これから協力してもらうのに口で言うより見てもらった方が早いと思って」
「だからって、こんなモノ見せるのはどうかと思うよ!?」
「いいじゃん、それよりどう思う?コレ」
今のレベルは…
【レベル】・・・【(/ω\)】
腹立つな。
なんで照れてんの?
「見ないからね!アンチヴァイス!」
「魔法まで使った?そこまで拒否することないだろ!?」
「俺もおたくのことに興味はあるけどねぇ、さすがにこんなことは出来ないよ!」
くそ、こいつなら普通に話に乗ってくれると思ったのに!そもそもステータスの数値を積極的に聞いてきたのだから、見たって同じようなものじゃないだろうか?
顔文字を説明するのがめんどくさいんだよ!
もう一度発動だ!
【視覚投影】!!
「こらっやめなさい!アンチヴァイス!!」
「いちいち大袈裟に拒否すんな!見てくれなきゃ始まらないだろ!?」
そうか、魔法は呪文を唱えなきゃ使えないとか言ってたな!
スクレイドの詠唱を阻止しようと隣のベッドに片膝をかけてにじり寄る。
「ちょっと?やめなさいよ!?おたくの力に勝てるわけないでしょうが!」
どうでもいいけど、なんで叱る時オカンみたいな口調になるんだ?このエルフは。
「目を閉じても無駄らしいな、よしもう一度…」
俺は再びスキルを使おうとすると。
「やめろヤマトくん!!問題は俺の目に写したら駄目だと言ってるんだ!!」
スクレイドの思わぬ真剣な口調と焦るような表情に一瞬なんとも言えない緊張感が俺を襲い、身体が強ばった…。
「それってどう…ふがっ!!」
その時、明かりがついたかと思うと勢いよく枕が飛んできて俺の顔に命中した。
「ヤマト…」
枕を投げたのは顔色の悪いクリフトだった。
疲れているのに騒がしくしたせいで眠れず、たまらなくなって枕を投げてきたのだろう。
「あっ!ごめん、うるさかったよな」
スクレイドが大袈裟に拒否するのが珍しい事もあってついムキになってしまった。
「違う、そんな事じゃないだろ?」
クリフトが指摘しているのはそこでは無いらしい。
「へ?」
「無理強いはダメだろう!あとそういう事は俺のいないところでやってくれ!」
俺は枕元にスクレイドを追い詰めスクレイドの肩を掴んだ状態に気がつき、急いでその手を引っ込めて全身全霊叫んだ。
「そういう事ってなんの話しだあぁあ!!バーカ!クリフトバーカ!!」
「この話で俺はバカじゃないだろう!お前がスクレイド様に無理矢理、その、あ、アレを見せたり確かめろとかだな…げほん。」
「アレを見せ…って、なんだと思ってんだ!!やっぱバカだろ!!お前もセリも昼間から思ってたんだけどな!?頭のネジどこに落としてきたらそうなるんだ!」
「今現行犯のお前がそれを言うのか!?」
引きつった顔で責め立てるクリフト。
「その現行犯ってのやめろよ!」
一体なんの現行犯だ、聞きたくもない!
「今俺とセリって言ったか?一緒にするなよ!セリに失礼だろ!?」
「遅いしそこじゃないし!スクレイドも黙ってないで誤解を解けよ頼むから!」
ん?
スクレイドを見ると、布団で口元をガードしながら空いた手でどこから出したのか杖を構えて身を守るような格好をしている。
余計に誤解されそうなポーズやめろ。
「スクレイド様が本気で防御するほど嫌がって…!?」
「違う、俺がやろうとしたのは…」
[ステータス画面をそのまま見せようとしたなんて、この世界の人間に言ったら頭がおかしいと思われるからねぇ?そもそもそんなスキル信じてもらえるかなぁ]
この状況でわざわざ念話で忠告してくるなんて余裕あるじゃないか。
ちょっと待てよ?
真実を話したら狂人扱い、このままでは男に対する痴漢容疑?
そんな…俺はこんな不名誉な誤解すら解けないというのか?
ってアホか!なーんにも迷うことはない!
嫌がる男を力ずくで襲う危険な変態だと思われるより、異世界人だから感覚が違うと思われた方がいいに決まってる。
「実はな、クリフトには頭がおかしいと思われるかもしれないけど…」
「そんな事思ったりしないぜ!気持ちはわからなくはないぞ?確かにスクレイド様は中性的な美しいお顔立ちをしているもんな!」
「「は?」」
俺の話を遮ったクリフトからは、犯人への共感話をして自白を引き出そうという意図が垣間見える、のだが。
もうずっと話が噛み合わない。
思わずスクレイドまで呆気に取られた顔をしてるじゃないか。
「尊敬はもちろんのこと、うーん、そうだな、淡い金色の御髪が風に揺れたり耳にかけ直した時に魅力的に見えることもあるんだろうな、それからえーっと、普段アンニュイでお優しい色気のある流し目が鋭くなるとドキッとしてしまう事もあるよな、うん!」
どうしたクリフト。
もうよせ、そんなに無理に絞り出すことないぞ。
「自分が何を言ってるのかわかってるのか?それ以上はやめた方がいいと思うけど」
一応クリフトの名誉の為に止めてみる。
しかし彼は止まらない。
「あとほら、少しいたずらっぽいところ!いたずらっぽいと言えばすぐにヤマトをかまうな、そんなにかまわれたら勘違いしちゃう事もあるかも…おっ?あれ?待てよ?」
「クリフトくん?」
雲行きが怪しくなりスクレイドがクリフトに声をかけるが、クリフトは何かの考えにたどり着いてしまったようだ。
「そういや、むしろ積極的にヤマトをからかっているのもスクレイド様の方か?こんなによく笑う方だと知ったのもヤマトと会ってから…、待てよ!?村を出る時にヤマトを好みだと言ってましたよね!?」
「それはヤマトくんが世間知らずで面白いからだよ?あと好みとまでは言ってないんだけどなぁ…聞いてるかい?」
やはりスクレイドの声はクリフトには届かない。
「髪まで洗ってやる必要はあったんだろうか…、洗ってあげたかったと言うべきか!俺が石鹸で邪魔をしてしまった時は拗ねていらっしゃった!?」
「必要あったでしょ!?よく思い出してみてごらん?魔法とまじないをかけながらだったんだからねぇ!?拗ねてないでしょうにっ!」
そしてクリフトの背景には雷が落ちたような効果が見える、気がした。
「いつも積極的なのに、いざとなったらお預けをするという焦らしプレイ!?」
ヤッベーところに行き着いた。
スクレイドを見てみろ。
俺以上に不本意のあまり固まってるぞ。
「合意の上か!」
一人で納得したようにクリフトが俺に明るい笑顔を向けてくる。
ここまで読んでくださってありがとうございます。