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剣の道と脳筋教官と。

相変わらず拙い文章力にも関わらず、お時間を割いて読んでくださる皆様に感謝申し上げます。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。


▪️活動報告にキャラクター設定のイラストを投稿させて頂きました。


画質はもやっと荒いのですが、イラストを許容してくださる方、興味を持ってくださった方はよろしかったらそちらもご覧いただけましたら嬉しいです。

「もしもアメリアが誰かと戦うことになるなら、ほとんどの相手がお前さんより身体の大きい奴になるはずだ」

 クリフトはプレッシャーをかけるようにアメリアの前に出る。

 いつもは楽しい兄ちゃんだが、実際クリフトの身長は190センチ程もあり、鍛えられた身体に無駄な脂肪はない。

ムキムキではあるが。

 対してアメリアは150センチもないだろう。


 こんな奴と対峙したら俺なら正直ビビる。

「どうだ?この身長差で目や臓器、股間は狙えそうか?」

 クリフトにそう聞かれてアメリアは無言で首を横に振る。

「ならば狙えるところを全力で切りつければいい」

 セリ教官が助け舟をだす。

「足、ですか?」

 アメリアの目が鋭く光る。

「そうだな、身長差があるならば体勢を低くして、素早く切りつけたらすぐに離脱を繰り返すんだ」

 セリ教官は不穏な笑みを浮かべる。


「切りつけるんだぞ?絶対に剣を刺そうと思うな、手放したら死が待っていると思え」

「はい!わかりました!」

 そうしてクリフトの足に狙いを定め、教えられた通りに体勢を低く構えてにじり寄るアメリア。

「え、ちょっと待って?目が怖えぇ」

 まさか練習に付き合わされるとは思っていなかったクリフトは引け腰になったが、隣から厳しい視線が送られていることに気づいた。

「クリフト、本気で相手をしてやってくれないか」

 セリ教官は腕を組み観戦を決め込んでいるが、その表情は少し辛そうに見えた。

クリフトもそのセリの様子に反論することなく了承した。

「…わかった、その代わり一度でもお互いの剣が当たったら終わりな」

「よろしくお願いします!」


 剣を抜いてはいるものの、構えもせずに腕をだらりと降ろしてアメリアを見ているだけだが、俺から見てもクリフトには隙がない。

というより、どこを狙っても全て防がれてしまいそうで、自分の攻撃があたるイメージが全く湧かない。

 しばらく機会を伺っていたアメリアだったが、左右にステップを踏みながら勢いよく走り出した。

 なるほど、それならどちらの足を狙っているのかわからない!

 クリフトには後で治癒魔法をかけてやろうと思ったその時、鈍い鉄同士のかち合う音がして吹き飛ばされたのはアメリアの剣だった。

「きゃあっ!!」

 薙ぎ払われ空中で弧を描くように回転しながら飛んだ小剣は、手首を押さえてしゃがみこむ少女の1メートル後方で地面に落ちる。


「アメリア!!大丈夫か!?」

 思わず駆け寄ろうとするが、セリが俺を見て目で“ 来るな”と言っているようだった。


 そして動けない少女に近づくとクリフトは追い打ちをかける悪役のように言った。

「本当は剣ごと吹き飛ばされなきゃいけなかったんだぜ?剣を拾えればまだチャンスがあったかもしれない」


 今日初めて剣を振るった少女がそれをわかっていたとしても実践できるはずはない。

 現に手首を痛めたらしく痛みで汗をかいて息が上がっているじゃないか。

 スクレイドの方を見るが奴もそんなやり取りを気にも止めることなく、やはり木にもたれて休んでいる。

「それが剣を合わせるという事だ。手がしびれて動かないだろう?これが実戦だったらどうする、力の無いアメリアはまず体捌きと技術を磨かねばならない、人一倍速く動きそして頭を使うんだ」


 アメリアはセリにそう言われて真剣な顔付きで頷くと、よろけながら立ち上がりクリフトに礼をする。

「ありがとうございました!それから二人とも、ごめんなさい」

「わかってくれればいいんだ」

 クリフトとセリを見るといつも通りの明るい笑顔だった。


 そうか、セリは物騒な事は言っていたが、最初からまずは回避や基礎をと言っていた。

 しかし俺からでもわかるほどにアメリアは相手を倒すことに執着していたのだ。


 一見容赦なく見えた二人の行動の意図を理解したアメリアは恥ずかしそうに俯く。

 俺もセリをただの脳筋かと疑った自分を恥じて、今後ははただひたすら見守ることにしよう。

 と思った矢先。

「ヤマトーーー!!!アメリアの腕治してやってくれ、痛そうで見てらんねえ!」

 クリフトがドタバタと俺に泣きついて来ようとするが、セリに引き止められている。

「クリフト!何を言うんだ!この痛みはアメリアの成長の証だぞ!?認めてやるのもまた我々のつとめではないのか!」

 そんなことを真面目に言うとは、やはりただの脳筋かもしれない。

 アメリアもコクコクと頷いて自分の責任だと主張する。

そんなドタバタとする二人とアメリアの困った様子に、ついさっき見守るだけと決めた俺が宥めることになってしまった。

「えっとな、剣とか全く知らない俺でも二人の考えやそれぞれがアメリアを大切に想ってる事はわかった」

 それじゃあ!とセリは頷く。

「でもな?実戦には早いことを十分に理解しただろうし何より旅の一日目だぞ、今後その負傷した手でペガルスに乗れとは俺には言えない」


 どちらの言い分もわかる。

 でも現実的に考えて今日のところは治してあげたいところだ。


「そう、か、確かにそうですね。私が浅慮でした」

 なんでセリはそこで目からウロコみたいになるの?

 やっと旅の途中…というか出発して間もない事に気づいたらしく、遠慮するアメリアに謝りながら治してもらうようにと勧め始める。

 これで決まりだ。セリは真面目なおバカのようだ。


「アメリアおいで」

 俺が呼ぶと申し訳なさそうにおずおずと歩み寄ってくる。

「ご迷惑をおかけしてすみません」

 謝る少女の手に軽く触れて治癒魔法をかけるが、手より心の方が重症そうだ。

「クリフトもセリもカッコイイなあ!剣、俺も習おうかな」

「え?」

「そうだよ!一緒に教えてもらって基礎から練習しよう!あー、でも俺運動不足だからすぐにアメリアの方が上手くなっちゃうんだろうな」

「そんなことは…」

 キョトンとこちらを見つめるアメリアにこそっとお願いをしておく。

「俺よりアメリアの方が強くなってもさ、たまには引き分けてくれる?」

 するとアメリアは吹き出した。

「ありがとうございます!」

 そしてお礼を言うと元気よく立ち上がり、飛ばされた剣を拾いに行った。


 うん、やっぱりアメリアには笑顔が似合ってる。

 なんて、くさいことを考えていると気配もなく隣にスクレイドが立っていた。

「うわあああ!びっくりした!!」

「そろそろ流す時間だからねぇ」

欠伸をしながら俺の頭を見回して一人で頷いている。

 今けっこういいシーンじゃなかった?

いや、そのいいシーンで頭がガビガビだったのは俺か。


 するとマントから桶を取り出して、川に身を乗り出す俺の頭をガシガシと洗いながら水をかけるを繰り返す。

「だから雑じゃないか!?禿げない!?まだ髪あるか!?」

「だってベタベタで中々落ちないんだよね」

困ったと言うわりに楽しそうに見えるのは俺だけか?

「本当に!染める前に無くなるだろ!?」


ギャーギャーと騒ぎながら攻防を繰り返していると目の前に見慣れたものが差し出される。


「だったらこれを使うといいんじゃないか」

そう言って旅の袋からネットに入った固形の石鹸を取り出したのはクリフトだった。

「なんて用意がいいんだ!もう俺が自分でやるからお前は手を出すなよ!」

感動してそれを受け取り泡立ててから丁寧に染料を落とす。

しかしここで気を利かせるのがセリではなく、クリフトというのがまたなんとも…。

「色変われ~って念じながらでも洗うといいんじゃないかなぁ」

しぶしぶ手を引っ込めると隣に座り込むスクレイドは拗ねたように適当なことを言っているが、なぜつまらなそうにしている。

だんだんベタベタが落ちて来た頃、リンスでも使ったみたいに髪が滑らかになったところで水気を切ってみる。


「ええ?嘘でしょ?」

すると、しばらく大人しかったスクレイドが気になる声をもらす。

それに釣られて他の三人も近くに寄って来て、興味深そうに見守っている。

なんだ?何が起こってるんだ?やだ、もしかして似合ってないとか!?


「ちょっと待って、乾かしてみよう、ブレッザヴァイス」

起きるように指示を出すと、自分の指をパチンと鳴らして俺の頭に風を起こす。

なんという便利な魔法の無駄遣い。

髪が一瞬で乾くと三人から戸惑いフォローするような声が聞こえる。


「一瞬で乾かすとはさすがスクレイド様です!」

「私はな、大切なのは結果ではなく過程という考え方もあると思うのだ」

「ヤマト様、私はヤマト様らしくてとてもいいと思います」


その反応なに?

嫌なフラグを立てないでほしい。

いや、この場合フラグというより、すでに起こっている事なのだから、結果のわかりやすい反応と言った方が適切だろうか。


まさかと思いスクレイドを見ると、目を逸らしマントから手鏡を出すと確認するよう押し付けてくる。

鏡に映った自分の頭を見ると…

「なんっにも変わってないじゃーん!!」


そこに映っていたのは、いつもの見慣れた黒髪だ。

なんだかつやっとさらっとした気はする、でも問題はそこじゃない。


「俺のまじないも魔法も効かないなら仕方ない、フード付きの外套を持ってたよね、王都に着いたら目立たないようにずっと被ってるしかないんじゃないかなぁ?」

少し疲れ気味のスクレイドはお手上げだと言わんばかりにその場に大の字になって寝転ぶ。


最初はまただらけ始めたと思ったのだが、なんだか雰囲気がおかしい気がする。

生命力を感じないというのか、その存在がとても希薄に思えた。

少し不安になり無防備に寝転ぶスクレイドのフードを少しめくって顔を覗き込んでみる。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

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