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染料を作る

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

 それからしばらく進むと、森の木がまばらになって山肌が目立ち始め、小川が流れている草原を発見した。

「あの辺で休ませるとしようか」

 スクレイドは一足先にブティシークから飛び降りると、滞空しながら杖を取り出して何やら呪文を唱える。

 まるで空中に足場があるかの如く、杖を軽く足元にコツンと突くと、スクレイドを起点に一瞬ドームのような白く淡い光が辺りを包み込むと光はすぐに消え、白い壁だけが残った。

あれ?呪文は?普通は必要だって言ってたのはどの口だ?お前もチートじゃないか。

俺はそんな不満とツッコミを飲み込んだ。

「とりあえず簡易結界を張ったからこれで当分は安全だよ」

 そしてペガルスたちを降ろすように合図を送ると、近くの大木に手を添えて目を瞑り語りかけた。

「しばし自然の流れを乱す事を許してくれ」


 なんだ、目がおかしくなったのか、スクレイドが神々しく見える。

 まるで森の賢者と呼ばれるエルフみたいじゃないか。

 俺たちはその光景をただ見守っていた。

 すると風もないのに、大木が枝や葉を揺らしてまるで返事をしてるようにそよぐ。


「さて、ペガルスを休ませている間にヤマトくんの頭をなんとかしてみようかねぇ!」

 先程までの厳粛な雰囲気はどこへやら。

 こちらを振り向くと昼前に摘んだ花の入った袋を降ろし、マントから皮の手袋とガーゼのような布、すり鉢とすりこ木を2セット取り出してクリフトと俺に手渡す。

「じゃあ繊維が無くなるまで頑張ってね」

「手作業!?」

 しかもなんて原始的な…

 隣を見ると、クリフトが袋から花を取り出して黙々と擦り潰し始めた。

「クリフト、手間をかけさせてごめんな」

「気にすんな!オレはトレイスの方をやるから、ヤマトはナスティフな」

 アホな時も多いけどやっぱり良い奴だな。


「では私は器を押さえてますね」

 アメリアが目の前に座り、手伝ってくれる。

「ありがとう、疲れたら無理はしないでくれな」

「はい!」

 やはり俺は人に恵まれた。

 器を押さえるアメリアの表情は真剣そのものだ。

 10キロの米が入りそうな大きい袋に一杯の花を見て、折れかけた心を持ち直す、皆が俺の為に手伝ってくれているんだから頑張らねば!


「ではクリフトの方は私が押さえよう、皆でやれば早く終わるだろう」

 セリは善意からクリフトのすり鉢を押さえようと手を出すと、あまりの距離の近さにクリフトの顔がみるみる赤くなっていく。

「セリも休んでていいんだぞ!?ラファエルの世話もあるだろうしっ」

 嬉しいくせに恥ずかしさが勝ってしまったのか、せっかくのチャンスを棒に振ろうとする。

 見てられない!クリフトそういうところだぞ!


 しかしセリはフッと笑って男らしく言った。

「ラファエルたちなら草を食み小川の水を飲んで、それぞれくつろいでいる。クリフトの力になりたいんだ。邪魔でなければ先程の花束の礼に手伝わせてくれないか?」

「じゃ、じゃあ、たたた、頼もうかな!」

 ぐっと近づき強引にすり鉢を押さえるセリにクリフトは戸惑い乙女のような顔をして、良いところを見せようと始めとは比べ物にならない早さで花をすり潰していく。


 ちょっと待てよ?

 あんな事を恥ずかしげもなく言って距離を詰めるのも気にしないってことは、もしかして全く脈がないのでは…

 とは思ったものの、口にはするまい。


「うーん、なんか出てくる汁がねちゃねちゃしてる」

「ナスティフは熱で固めて接着剤にもしますから」

花から出てきた汁をすりこぎで掬い、すり鉢の中に垂らすとベチャッと嫌な音がする。

「アメリアは物知りだな」

「とんでもないです!」

 本人は焦って謙遜しているが本当に関心する。

 文明や環境が違うとはいえ、俺は自分の国や地域にある草花をそこまで詳しく知らなかった。

 そしてこのナスティフとかいうやつ、花の時はただ青臭かったのに潰すと茎や花の中からシャンプーのようないい香りがする。


 そして思ったより作業は順調に進み──主にクリフトのセリへのアピールの力だが──、袋の半分程の花をすり潰したところで布に包み絞ってみる。


 ベタベタの鮮やかな赤い粘液をたっぷりと滴ると、かなりの量になったところで、スクレイドが透明な瓶を渡してくる。

「じゃあ出来たものはここに入れてね」

 瓶の口は広く、零さずに詰めるとコルクのような蓋をして作業は終わった。

 残りの花の入った袋をペガルスに掛けてクリフトを見ると、ドロっとした緑がかった青いペースト状の汁が出来上がっている。

「二人共ありがとう」

「いやー、中々楽しかったぜ」

 クリフトは疲れた腕を回しながらそう言ってくれた。

 二本の瓶を見てふと思う。

 鮮やかな赤と青?

「じゃあヤマトくん、染めるから川の近くに来て」

「あのさ、もしかして染まったらこのどちらかの色になるのか?」

「そうなるよね」

 今まで脱色も染めたことも無いのに、人生初のカラーチェンジがこんなファンキーな色だなんて…

 言われた通りに上半身裸になり、川に身を乗り出して待機する。


「はい!ここで決を取るよ!ヤマトくんにどっちの色から試すかなぁ?」

 染まればだけど、と付け足すとスクレイドはいたずらっぽく皆を集める。

 残りの三人の視線が俺の頭に集中する。


「それはどっちでもいいけど、どうせなら脱ぐ前にやってくれ!」

 どちらも似合わなさそうだし、ヒョロガリを晒し続けるこの時間も辛いものがある。


「ヤマト、髪の色はお前が考えてるより重要だぞ?」

 俺の嫌そうな顔を見たクリフトが真剣に念を押す。


「治癒魔法の魔力素から、緑がかった青になってもおかしくはないよな」

「クリフトの言う通りだが、しかし治癒魔法自体使える者は多くない、王都でその色は目立ってしまわないか?」

 意外にもセリまでも真剣に悩み始めた。


「そうか、風属性だと緑っぽい金になる事が多いしな、でも異世界人や各地の者が集まる中で青緑も珍しくはないんじゃないか?」

「しかし下手に目立つよりは赤で炎属性だと思われた方が自然じゃないか?」


 どう転んでもファンキー決定だ。

「あの、元の色が黒いので、染める時間を少なくして赤を多めにして二色を混ぜたら茶色になりませんか?」

 アメリアが挙手をして提案すると全員がなるほど、と手を叩き可決された。

「よーし、じゃあそれでいくとしようかなぁ」


 新しい玩具を手に入れた子供のようにスクレイドが両手いっぱいの染料を俺の頭に塗りたくる。

「ぐあっ!気持ち悪い!」


 生暖かい緩めのスライムを頭にかけられたような気持ち悪さで鳥肌が止まらない。

 あとスクレイドが雑!


「自分でやるからいい!なんか扱いが悪い!」

「定着の魔法を使いながら染めてるんだから文句ばかり言わないの」


 ぐぬぬ…

 そんな事を言われたら拒否できないじゃないか…

「丁寧にお願いします!」

「あははは、仕方ないなぁ」


 やっと真面目に染め始め、全体に馴染むと30分ほど待つように言われる。

 頭がベタベタで気持ちは悪いが、いい香りがするのでなんとか耐えられそうだ。

 その間セリが自分の荷物から小剣を取り出してアメリアに剣の握り方や構えを教えている。

「殺し合いになったら実力の無いものはためらうな。手加減など出来もしないものをしようとした愚か者から死んでいく。相手を殺す気でいけ、しかしまずは基礎の素振りと回避の足取りを極めることだな!」


 この世界ではそれが常識なのかもしれないけどな?なにも初めからそんな物騒なこと教えなくてもいいと思う。

 しかしアメリアは元気よく返事をしてから質問をする。

「急所はどこですか?どうしたら倒すことが出来るでしょうか」

 なんてこと聞いてんのこの子は。


「逃げる隙をつくるのではなく、相手を倒す術が知りたいのか?」

「はい」

 淀みなく答えるアメリアにセリ教官は眉間にしわを寄せて、クリフトを呼び寄せる。


「そうだな、アメリアはどこだと思う?」

「目か心臓でしょうか?」

 呼ばれたのが余程嬉しかったのか小走りでやってくるクリフトが間合いに入った瞬間、目をめがけ突然剣を振るうセリ教官。

「うわっ!?と!」

 抜剣と同時に頭をずらし攻撃を躱す無傷のクリフト。

 え!?今けっこう本気で狙わなかった?


「いいか?このように眼という的は存外小さく、少しでもズレたら逆にこちらに隙ができる」

「なんの話なんだ!?呼ばれて来たら攻撃されたんですけど!?」

 クリフトの嘆きを全く意に介さず、セリ教官は続ける。

「クリフト、お前なら命の取り合いで相手の心臓を狙うか?」

「ん?そりゃ狙わないな」

 抗議が無駄とわかり、頭を掻きながら話に乗るクリフトは良い奴だと思う。


「目はわかりました、心臓を狙わないのは何故ですか?」

 アメリアは勉強熱心だなー、という事にしておこう。


「まず相手の懐に入ることは容易くはない、そしていざ剣が届いたところで、肋骨の隙間を確実に狙って穿つことはほぼ不可能だろう」

 教官の言葉にクリフトも頷いて補足した。

「アメリアの力で骨を断ち切るのは無理だろうしな、ちなみに急所なら男の股間を狙うのはやめとけよ?」


 突然何言ってんだこいつ。

 アメリアに変なこと教えるな、とは思うが同感である。


「ダメなんですか?」

 純粋な少女が残念そうにしているところを見ると、その場所への攻撃も考えてはいたらしい。

「理由は二つある、一つは単純に読まれて警戒されているから、下手に蹴ろうとして足を掴まれたら負けるぞ、二つ目は股間にカップを入れて防御している奴もいるからだ」


 なんと!

 案外真面目な話だったのか。

 俺はてっきり金的はマナー違反とか、痛いからとかいう意味合いの話をしていると思っていたのに。


「それではどうしたら良いんでしょうか」

 困ったようにアメリアは考え込む。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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