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合流

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

「いいからそこに出来るだけ魔力を注ぎ込んでくれるかい、少し魔力を減らしておくんだよ」

「今せっかく補充したのにまた減らすの?」

 その言葉にスクレイドは満面の笑みで俺を見ている。

「またおたくの生命力に釣られてどんな魔物がくるか興味はあるから強制はしないけどねぇ?」

「やります」


 最初にもらったネックレスを除き、合計で6つの水晶へ魔力を満タンに補充し終えると、スクレイドがそれを回収した。


「魔力の吸いすぎで壊れたら困るから預かっとくね」

 預かるも何も元々俺のじゃないし、そんな高価な物をいくつも持ってたら庶民の俺は眠れないところだった。

 ほっとして残った一つを握りしめる。

「それでも一つで一日と考えると、ヤマトくんの魔力の流出を防げないことになるんだよねぇ」

「何かほかに方法はないのか?」

「それはもう自分でコントロールする練習をしてもらうしかないだろうなぁー」

 おっと!?

 ここに来て優秀なエルフの師を得て、過酷な修行展開か!?

 パワーアップか!?パワーアップしちゃうのか俺!?

「えっへへぇ、でも筋トレも三日坊主だから俺に出来るかなぁ」

「おたくねぇ、どんな練習を想像してるのか知らないけどまずはイメージトレーニングが大事になるんだよねぇ」

「なんだそりゃ」

 楽そうで良かったけど、そんな事でいいの?

「まずおたくの居た世界とここでは、魔法の概念がだいぶ違うみたいだねぇ」

「意識して魔法を使える奴なんていない世界だったからなぁ…」

「君の世界では皆魔法が使えるんじゃないのかい?ほら、異世界人は魔力も高いよねぇ」

 他の異世界人を知らないと言ってるのに、それにしてもまだ勘違いしていたのか。

「俺の生まれ育った国には魔法なんて無いからな?弱いの!戦うとかしないの!わかるか?」

そう念を押すように言うと、スクレイドは何かを考え込み始めた。

「異世界…魂…ああなるほどねぇ、それで遺していったわけかい」

スクレイドは少し残念そうに呟いて、自分の中で何かの答えにたどり着いたらしくため息をついた。

「まあいいや、ならおたくには尚更イメージトレーニングが大事になるかな」

 イメトレ、というと?

「まさか精神力の強さとか言わないよな」

「ぅええ、なにそれ恥ずかしいねぇ」

「言ってみただけだよォ!」

なんだかさっきから地味に恥をかいているのはなんでだ!

「想像力と繊細さが必要になるんだよねぇ、自然に身体を巡る血のように、魔力と一体となるイメージを持つんだよ」


 なるほど、わかるようでわからない。

「あのな、俺がどのくらい魔力とかがわからないかって話を聞いてくれ」

「うん?」

「俺が転生者、つまり元の世界で死んでこちらに来たってのは話したと思う」

「それも気になってたんだ、その若さで亡くなったのは戦いか何かだと思っていたんだけど違うのかい?」

 本当を言うとあんまり知られたくはない。

だがここまできて隠す必要もないだろう。

「俺の死因は産まれた時から17年間魔法の存在も使えることも知らず、無意識に治癒魔法を手当り次第使い、更には魔力の垂れ流しによる魂の消耗、だそうだ」

「ん、なんて?」

真顔で聞き返すなよ。何度も言うの恥ずかしいんだぞ。

「だから、俺の死因は魔力の垂れ流しだ」


 スクレイドは瞬きを繰り返し、理解が追いつかないように口に手をあて珍しく本気で困惑している。

「…そんな事ありえるのかい!?」

 そしてやっと絞り出したのがこの言葉だ。

 すっげーわかるよ?

 俺だって信じられないし、認めたくない。

 でも現在の状況も考えるとそれが死因で間違いなさそうだ。


 しばらく無言で飛び続けていたが、やがてスクレイドは爽やかな笑顔を向けてハキハキと言い切る。

「ごめんよ!俺じゃおたくの力になれそうもないや!」

 だから諦めんなよォー!!

 しかもなんでそんな今まで見たことも無いほどスッキリした表情してるんだ!

「見捨てないで一緒に考えてくれよ!」

「あははは、どこから手をつけたら良いのかすらさっぱりだよねぇ」

 そんな問答を繰り返していると、前方に見慣れたペガルスたちの姿を発見した。


「あっ!アメリアー!!」

 思わず大きく手を振りながら加速して、少女が振り返るとほぼ同時にルンナの背に乗る。


「ヤマト様!スクレイドさん!」

 アメリアも余程不安だったのか、俺の顔を見るなり涙ぐみながら叫ぶ。


「スクレイド様が戻られたということは、危機が去ったと思って良いんでしょうか?」

 クリフトもまだ警戒は解けずに、後ろに乗ったスクレイドに尋ねる。

「うん、もう大丈夫だよ」

 いつも通りのスクレイドの余裕の笑みは三人を安心させたようだ。

「お二人のおかげで窮地を脱することができ、本当に感謝のしようもありません、しかし本当にこの速度に追いついてこられるとは…」

 セリは相変わらずお堅いが、俺たちの合流に喜んでくれているようだ。


「ヤマト様!お怪我はありませんか?」

 アメリアはルンナの速度を落として上半身を捻って後ろを振り向くと、俺の肩を掴んで必死の形相で怪我の有無を確認する。

それを見たクリフトは自分もブティシークの速度を落とし、後方を守りながらにこやかに見守っている。

「心配かけてごめんな、どこもなんともないよ」

「ご無事で良かったです!」

 成長して見た目は少し変わってしまったが、心の優しい素直なところは変わっていない。


しかし元が可愛かった少女が美少女になって、俺の身体をぺたぺたと触るのは少し変な気分だ。

今まで周りに子供扱いを受けていたのに寝て起きたら身体だけ成長していたんだ、俺も気づかなかったけどな?

本人に自覚は無いだろうがもう少し恥じらいを教えなければいけないようだ。


「嬢ちゃーん?俺の心配はしてくれないのかなあ?」

 スクレイドは寂しそうにアメリアに聞くが、

「スクレイドさんもご無事で嬉しいです!でもスクレイドさんに何かあってもヤマト様が治癒してくれますが、ヤマト様は自分は治せないんですよ?」

 と、冷静にバッサリ切って捨てる。


「何かあったら痛みはあるよねぇ!?いや、ヤマトくんの心配なんて無駄だよ、無駄」

 ため息をついてスクレイドが肩を竦めると、クリフトが訝しげにスクレイドを見る。

「どういう事ですか?」

「あのねぇ、ヤマトくんおっそろしく頑丈なんだよ、どうやったら死ぬのか方法が一つしかわからない」

「スクレイド様が言うほど…そんなにですか!?というか一つはあるんですか…」

「あると言っても、自滅を待つ感じ」

おい、その自滅っての魔力の垂れ流しのことか。

言わなきゃ良かった!!

「はあ…、えっと…」

 訳が分からないとクリフトはとりあえず返事をして、考え込む。

「でも少し高い所から着地に失敗して足を捻ってましたよ?」

 その話は忘れてくれていいんだぞ?

 しかしスクレイドは首を捻ると適当に答える。

「集中力でも切れてレジストスキルを発動しなかったんじゃないかな?たくさんあるのに宝の持ち腐れとはこの事だよね」

 その言葉にセリが反応している。

「スキルですか?レジストとは?」

「ああ、異世界人特有の能力だよ、レジストは魔法で言うところの耐性の事だよ」

「私の耐性はあまり強くは無いですが魔法属性と一致しているのは幸いです、が、異世界人の勇者様は皆複数のスキルというものやレジストスキルをお持ちなのですか?」

「どうかな?ヤマトくんを基準にするのは良くないかもね」

その会話を聞いていると、スキルではなくても耐性などは一般人も持ち合わせているらしい。

 それにしてもスクレイドのなんという酷い言い草。

 イレギュラーな形でこの世界に来たらしい俺自身、自分の事がよくわかってないのは確かだが。


「それではヤマト様は何があっても大丈夫なんですね?」

 アメリアがほっとしたように確認する。

 何があっても、とは言ってやることは出来ないが、スクレイドが太鼓判を押す程には頑丈らしい。

「そうみたいだな、だからもう心配はいらないぞ」

 アメリアの頭を撫でているとくすぐったそうに前を向いて座り直した。


「ところでペガルスたちにはかなりの無理をさせてしまったので休憩をとらせてやりたいのですが、可能でしょうか?」

 セリはラファエルに労いの言葉をかけながらスクレイドに相談し始める。


「そうだね、俺の魔法のせいでいつもより全力疾走しているし、不安材料は取り除いておくに越したことはないかもね、セリちゃん偉いねぇ」

「しかし先程のように魔物が現れたらと思うと、もう少し先の森林地帯を過ぎてからの方がいいんじゃないですか?」

 クリフトは飛竜の事を思い出して休憩をためらっているらしい。

「それは原因がわかったからしばらくは大丈夫だと思うよ」

「そうなんですか!流石スクレイド様ですね」

 あえてスクレイドも詳しくは言わずにいてくれているようだが、それなりに平和に暮らしてた飛竜を刺激した挙げ句、皆を危険に晒した元凶が俺だとは言い出せなかった。


「あとね、これからちょくちょくヤマトくんとやらなきゃいけない事が出来たから、その時は二人にしてね」

 おお!無理だ面倒だと言っていたのにやはり助けてくれるのか!

 なんだかんだ面倒見のいい奴じゃないか!

「スクレイド、いいのか?」

「乗りかかった船だから仕方ないよね、スキルにも興味があるからなぁ…、ヤマトくんの相手は俺しか出来なさそうだしねぇ」

「よろしく頼むよ!」


「スクレイド様しか出来ないヤマトの相手?やっぱりヤマトって…」

 クリフトはまたきっとアホな勘違いをしてるようで、顔がひきつっている。

 しかしなんで俺だけ引かれなきゃいけないんだ。


「飛竜を撃退し、より親睦を深められたようでなによりです」

「お二人が仲良しで嬉しいです!」

 セリとアメリアはスクレイドの言葉を素直に受け入れ、任せてくださいと言わんばかりに各々納得している。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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