相談
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
『クキィエエエエーー!!』
『クキャアアアア!』
やっぱり何か聞こえる。
『ブルッヒイィィィン!!』
『ブルッフ!フー…フー…』
ルンナとブティシークもなんか興奮、というか怯えてるように見えるけど、こいつらのテンションが高いのはいつもの事だしな。
心無しかラファエルもそわそわ落ち着きなく見える。
しかしどんどん音が大きくなってるって事は近づいてない?
でもここには森人とやらも、強そうなクリフトも女剣士のセリもいるんだ。
考えないと決めたのだから気にしない、気にしない。
皆で談笑しながら昼食を食べ終わると、一足先に食べ終わり木陰で休んでいたスクレイドが、さっさと片付けを始めて立ち上がるとキリッと宣言する。
「さて、そろそろやばそうだから行こうか」
「「はい?」」
ブティシークを落ち着かせようとしていたクリフトと、食後の鍛錬と言って剣を振るっていたセリが同時に聞き返す。
よく思うけど、二人とも息あってるな。
じゃなくて、何がやばいって?
「早く飛び立たないと追いつかれて食べられちゃうかもしれないよねぇ」
当たり前と言ったふうに、木漏れ日の差す空を見上げながらスクレイドはにっこりと笑った。
「食べられちゃうって、何が?」
このエルフは何を言ってるんだ?いやな予感がするが一応聞いてみると、落ち着き払った様子で一言。
「俺たちが」
「はあ!?」
訳が分からずテンパる俺に代わり、スクレイドの言葉通り出発の支度を手早く済ませ、ルンナに乗ったアメリアが冷静に質問をする。
「スクレイドさん、今何が起こっているんですか?」
「まだ遠いけど飛竜が近づいて来てるから、急がないとペガルスでは逃げきれないかなぁ」
「飛竜ですか!?」
クリフトが驚きながらブティシークに飛び乗り、背中の鞘に収まっている長剣の柄を握る。
「時間をかけすぎたようですね、急ぎましょう」
セリもラファエルに乗りながら焦りを見せる。
「そんなにヤバい奴なの!?」
俺もルンナに乗るとアメリアが頷き、ペガルスたちは一斉に飛び立つ。
竜がいることにも驚きだが、出てくるなら中ボスかラスボス辺りを想像していたのに、旅の初日に会ってしまう位どこにでもいるものなのか。
「え?ヤマトくんは気づいてたんだったよねえ?鳴き声」
サラッと何言ってんのー!!
ここなら安全って言ったのお前だろ!?
「あれ飛竜って奴の鳴き声だったの!?」
だからヤバくないか聞いたじゃん!!
聞いたよね?俺!
「ヤマトさっきは悪かった、本当に鳴き声なんて聞こえなかったんだ」
クリフトが真剣に謝っている、もしかしてかなりの非常事態?
「勇者様と森人様が仰るのだから間違いはないのだろうが、私たちには今でもその鳴き声とやらは聞こえていないのだ」
そしてセリも腰の剣に手をかけながら警戒しつつラファエルを加速させる。
「飛竜は肉食だから、まずペガルスが狙われるだろうなぁ、追いつかれたら俺が食い止めるからその間に先に行っててくれるかい?」
後で合流しよう、と言うスクレイドの軽い口調に変わりはないが、俺たちではなく遥か後方を見つめるその表情はどこか冷め、人間では足でまといだという事は伝わってきた。
俺たちを逃がさなければいけない程に不利な状況なのか?
「こんなに大きい声が聞こえない?アメリアは?」
アメリアも首を横に振っている。
「どういう事かわかるか?スクレイド」
「ヤマトくんが何かの音に警戒していたのは知ってたんだけどねぇ、俺にも聞こえ始めたのはついさっきなんだよなぁ」
「嘘だろ、飯食い始めた頃からずっと聞こえてたし、俺は特別耳がいいとかじゃないんだよ」
「波長の問題か、異世界人特有の危機管理能力かなぁ?」
スクレイドが呑気に考察していると、クリフトが突然漢らしい表情で笑いかけながら言う。
「ヤマト、次があったら今度こそお前の話をちゃんと聞…」
「ばーか!クリフトばーか!そんなんだからセリに気づかれないんだ!ばーか!」
「なっ!馬鹿!やめろおお!本当に悪かったと思ってるのに!?」
余計なフラグを立てようとするのを全力で阻止してから考える。
俺に出来ることはないか、そう思い改めて視界のステータスを確認してみる。
【レベル】・・・【 ( ˘ω˘ ) 】
「あああああああ!!もう!!寝てんじゃねえか!」
「ヤマト様!?」
俺が思わず叫んだツッコミにアメリアがビクッと驚き心配している。
「ごめん、なんでもない」
アメリアを不安にさせてどうする。
色々なステータスやスキルを確認するが項目が多くて把握出来ない。
俺の知ってる異世界系の物語のキャラって、自分の能力を思いもしないような使い方でフルに活用して苦難を乗り切ってるはずなのに、俺には何が有効か思いつかない!
ん?
「スクレイド」
「なんだい?」
「他に声が聞こえないように、二人きりで話すことはできるか?」
「ヤマトくんてばさぁ…今そんな場合じゃないんだけどなぁ?」
「ヤマト、さっきのは冗談じゃなかったのか!?」
「勇者様…時と場合を考慮して下さい!」
「ヤマト様、今はルンナの扱いで手が使えないので耳を塞げませんが、聞かないようにしますから!」
ちっげー!!
思い思いのとんちんかんな言葉が投げかけられて頭が痛くなる。
バカしかいねえ!もうヤダー!!
アメリアは良い子だけど、周りの大人がバカ。
「アメリアはしーっ。で、二人はちょっと黙れ、スクレイドできんのか?できないのか?」
「できるできる、やってみるかい?」
一瞬、気圧変化の時のように耳がぼうっと不快な感覚になる。
[これで俺とヤマトくんだけ念話が可能になったよ、念話ってわかるかなぁ?]
[たぶんわかる、ありがとう]
周りの音はそのままに、まるで電話で話しているようだ。
[それで話ってのは?]
これは言っても良いのだろうか…
[こんな時になんなんだけど、俺のステータスがおかしいしスキルと耐性が多種多様すぎてどう使ったら良いのかわからん]
[え、念話で言うこと?]
[アメリアに聞かれたくないんだよ!自分より幼い少女にカッコ悪いとこ見せたくないんだよ!]
だって何故かアメリアは俺に懐いてくれてるみたいだし、異世界人という存在にこの世界の連中は期待をしているらしい。
そんな状況で何もできませんと、スクレイドだけに任せておくのも何か違う気がするんだ。
[はいはい、なるほどねぇ。で、ステータスがおかしいってのはなんだい?]
クリフトのステータスを聞いた時には何かの間違いかと思ったが、スクレイドなら何かわかるかもしれない。
[俺のHP、64万3000あるんだけど…どう思う?]
ずるっとスクレイドがブティシークから転げ落ちる。
「スクレイド様ああああ!?」
「くっ、スクレイド様が離脱したという事は飛竜が近いのか!?」
だからそこの二人は黙って。
そしてすぐにブティシークに戻り、三人に大丈夫だと宥めると俺の方を目を見開いてガン見してくる。
[それは多すぎだろ!ヤマトくん、数字って読めるかい?]
生暖かい目で優しく聞くな!
[おいふざけんな。クリフトのHPを聞いたけど冗談かと思ったんだ!でも本当って言ってた!だから俺がおかしいのかって相談してんじゃねーか]
[待てよ…?ヤマトくん!それが本当だとしたら…]
おお!やはり長生きしてるだけある。
何か心当たりがあるのかスクレイドは顎に手を置き、とても真剣な表情で思考を巡らせて言った。
[ヤマトくんてどうやったら殺せるの?]
[夢は老衰だよ!!って違うだろ!なんで殺されなきゃならんのだ!お前から見てこのステータス合ってると思う!?]
このエルフは人をおちょくらないと気が済まないのか。
しかし今度はうーん、と唸りながら、思い出すように考察を始める。
[俺の知ってる異世界人でも高い子はHPが5万ちょっとだね、おたくの魔力を考えると全くありえない話じゃないと思うんだけどねぇ…]
[5万ちょい?]
やはり異世界人は少しばかりステータスが高いものなのだろう、それにしてもこの数値が事実なら俺ってチート系だったのか。
[そうだ、大体で良いんだけど、MPはいくつか聞いてもいいかい?今までも漏れ出すほどの強力な魔力ってのに興味はあったんだよね]
この場で知的好奇心が出るとは、やはりこいつは余裕があるようだ。
[そういうスクレイドはいくつなんだ?参考までに教えてくれ]
[えー…、エルフのステータスを知りたがるなんて、本当はありえないことなんだけどなぁ、教えるエルフもいないと思うなぁー]
[じゃあもうこの話は終わりだ、わかった、お前余裕そうだし一人で飛竜とやらをなんとか出来るんだもんな]
[あっ!そういうことかい?心配して一緒に戦ってくれようとしたのかなぁ?嬉しいよ]
改めて言われると小っ恥ずかしい!
[じゃあヤマトくんだけ特別に…俺自身の今のMPは10万くらいなんだよねぇ、他のエルフの平均は言えないけど]
まじかよ。
俺ともクリフトとも差がありすぎて参考にならない。
さっき妖精の国の戦力がわからないって話してたのにさすがというか、同種族のステータスもわかってはいるのか。
聞いておいてなんだが思ったより低くないか…、教えてもらったからには俺も意地を張って黙ったままという訳にもいかない。
しかし本当のことを言うべきか、スクレイドも大体で良いとは言っているわけだが、数字の後ろに×12とある時点でこの数値はアテになるのだろうか?
後々ステータスの数値を調整するかもしれません、無計画で申し訳ありません。
ここまで読んでくださってありがとうございます。