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森人とは

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

「スクレイド様は森人ですからね」

 セリが当たり前のように言うとクリフトとアメリアも頷く。

「へえー」

 空気を読んで一応頷いてみせるが、だからその森人ってのがわからないんだよ、森に住んでたまに人里にやってくる住所不定の自由人ってことじゃないのか?

「嬢ちゃん、今このヤマトくんに馬鹿にされた」

 アメリアにしょげたふりをしながら訴えるエロフ。

 このやろう。


「ヤマト様、森人の中でもスクレイドさんは本当に尊敬できる方なんですよ」

 アメリアは必死に弁護を始める。

「勇者様、スクレイド様は魔物や盗賊の被害にあった村に行き、復興の手伝いをして下さったり移住先を探してくださるのです」

「それだけじゃないぜ、廃墟になった町村や集落から使える物や持ち主のいない物を運んでは、生き残った人々に届けてくださるんだ」

 なんと!!

「それってすごい!ボランティアどころじゃない活躍じゃないか!?」

 セリは頷き、森人についての説明を続ける。

「壊さなければならない建物や家具からは使える材料を集め、新しい集落で外壁や柵を建てて、井戸を掘り水の確保までしてくださり、いつの間にか森から果樹の採れる大きい樹木を何本も持ってきては植え替えてくださるのです」

「そんなことまで!?」

それだけの物を運ぶのはやはりそのマントなのか!?

「勇者様にもご理解頂けたでしょうか、王都郊外の者の生活は我々も含めスクレイド様がいなければ成り立たない、どれだけ救われた者がいることか…私もその一人です」

 森人と呼ばれるスクレイドがそこまでの事をしていたなんて、正直村の人たちにあそこまで崇められるような扱いを受け、クリフトにまで尊敬される理由がわかった。


「スクレイド、俺はお前のことを正直食えないめんどくさいイタズラ好きの奴で、ただ長生きして森と人里をフラフラしては熟女を口説く、放浪癖のある暇な自由人だと思っていたけど考えを改めるよ」


「ひどくないかい!?そんな風に思われてたのかい?…だいたい合ってるけどね」

 合ってるのかよ。

 なんとも気の抜ける声であからさまにガッカリするスクレイドだったが、まあまあ、と手を振る。


「好きでやってることだからねぇ」

 その言葉に嘘は無いようだった。

 こいつは俺が思っているより本当にすごい奴なのかもしれない。


「ところでこの時計の持ち主がいないってのは?」

「それは生き残りのいない廃村で見つけた物。縁者を探しても見つからなかったから持っていたけど、使ってもらった方が道具も喜ぶだろうから」


 一瞬寂しそうな顔をしてからスクレイドは笑った。


「…そうか、有難く使わせてもらうよ」

 持ち主がいなくても手入れをして大切にするスクレイドに対し、少し尊敬という言葉の意味がわかった気がした。

「…勇者様、何度も言うようで恐縮なのですが」

 セリが言いにくそうに目を泳がせる。

 なんだ?


「その、偉業をご存知になって、より一層スクレイド様に対してのお気持ちが強くなり視線に熱がこもったのはわかりますが、睦言はお二人の時にお願い致します」

「はい!?」

 真面目な顔して何を言うのか!この堅物おバカ!

「そうだな、邪魔はしないようにしたいから、二人になりたい時の為に何か合図でも考えとくか、そうだ!俺の肩を二、三度軽く叩いてくれ!」

 クリフトはもう楽しんでないか?

「ちげぇー!!確かにすごいとは思うけど全く全然そんなんじゃないからな!?」


「じゃあ俺がヤマトくんと二人になりたい時はヤマトくんを少し浮かせるね」

 エロフも調子に乗るなああああ!!


「えっと、私は…」

「アメリアはそんな事考えなくていいから!皆冗談で言ってるだけだからな?」

 えっ?と信じかけていたらしいアメリアは困惑した表情でスクレイドを見る。


 するとスクレイドは伏し目がちに自分の頬に手を添えて何か呪文を唱えると俺を数センチ浮かせた。

 やめろ。なんの真似だ。


「先程の合図ですね!」

 アメリアはちゃんと気づいたぞと言わんばかりに右手で作った拳を左手を受け皿にするようにポンと叩き、広げていた昼食を中断して離れようと行動を開始する。

 おバカ二人も頷きあってアメリアに続いて移動しようとしていた。


「待って!!本当に違うから!」

 三人を引き止めてスクレイドを睨む。

「とまあ、冗談はこのくらいにして本当にお腹が減ったから昼食にしようね」

 誰のせいだと思っているのか、マイペースに食事の続きを再開するエルフを一瞬でも尊敬しかけた自分に腹が立つ。

 昨日からスクレイドに振り回されて疲れた。

「クリフトとセリも悪ノリが過ぎるぞ」

 二人に注意するとクリフトは笑いをこらえながらまあまあとなだめてくる。

 が、セリは本気だったようで首を傾げてこちらを見ている。

 まるで頭の上にハテナマークが見えるようだ。

 彼女に関しては真面目なのか天然なのか頭があまり良ろしくないのかわからなくなってきた。


 全員で円を描くように座ると、人数分用意されたガイルお手製の弁当を頬張っていたその時、何か甲高い叫び声のようなものが聞こえて周りを見渡す。

「なあなあ、今なんか変な音しなかったか?」

 隣にいたクリフトに聞いてみる。

「なんだ?さっきの仕返しにビビらせようってのか?」

 しかし全く相手にされない。

「ひでえ!本当に何か、生き物の鳴き声みたいなのが聞こえるんだって」

 その音は少しずつ、しかし確実に大きくなっている。

「ここはさっきもスクレイド様が仰ったように安全だから大丈夫だって。そりゃ山の中だ、動物くらいいるだろ」

 そう言われたらそうなのかもしれない、確かに気にしすぎて反対隣に座っているアメリアに聞かれて不安にさせることもないだろう。

 あまり考えないようにしながら弁当の続きを食べる。

『クアーーー!!』

『クキャアアアアア!!』


 ほら、こんな野性的な謎の鳴き声が聞こえていて、いくらペガルスたちがそわそわしていても皆は落ち着いてるじゃないか。

「ところでガイルの料理ってマジで美味いよな、顔に似合わず味も見た目も繊細だし」

 アメリアの行儀よくもくもくと食べる姿が小動物のように可愛らしく、弁当の美味さもあって音を気にするのはやめることにした。

「はい!ガイルさんは若い頃に料理修行の旅に出ていた事があるそうですよ」

 アメリアもガイルの腕を褒められ嬉しそうだ。


「アメリアはよくガイルの料理を食べてたのか?」

「はい、育ててくれたおばさんがいつも言ってました。料理はできる人がやればいいんだって」

 あ、つまり食育は兄のガイル任せだったってことね。

「その代わり、おばさんは手先が器用で織物名人だったんですよ!おばさんが作った物をおじさんが行商していたんです」

 しまったー!!

 育ててくれた人達を亡くしたばかりなのに何を聞いてんだ俺は!


「そうそう、あの布や工芸品は王都にまで卸されていたくらいだから、本当に腕のいい職人だったよね」

 スクレイドも話に加わりマントからストールのような布を取り出すと手渡してきた。

「これ、おばさんの作った物です!」

 布を見ながら誇らしそうにアメリアが付け足す。

「すごい、綺麗で手触りもいい」

 紫の布はまるで絹のように美しい光沢と艶があり、手作業という話を聞いても信じ難い程に綻び一つない仕上がりだった。

「それはあげないよ」

 スクレイドが俺の手から布をするりと取ると、またマントにしまい込んでニヤリと笑った。


「わかってるよ!そんなもらってばっかりじゃいかんだろうしな!」

 と強がってみるが、本音としては少し欲しかった。

「アメリアのおばさんは本当にすごい人だったんだな」

「はい!」

 思わず過去形にしてしまったが、少女は気にすることなく嬉しそうに答えた。


「それになー、ガイルくんが村を離れてる時にチャンスだと思ってレモニアちゃんにアタックしたのに、忙しいって断られたんだよなあ」

「忙しいって、ただの口実だろ?」

 いつの話か知らないけど、そんな時まで口説いてたのか。

 一途というか、諦めが悪いというか。


「違うんだよ、忙しい理由がなんだったと思う?」

「は?だからお前に割く時間はないってことだろ?」

 その言葉にスクレイドは俺を冷めた目で一瞥して、深いため息をつく。


「その時期レモニアさんに何かあったんですか?」

 クリフトも話が聞こえていたらしく、前のめりになって質問する。

 するとスクレイドはレモニアの声真似らしく、というかレモニア本人そのものの声色で答えを話す。

「"あの人が店を出す時に、私も料理に合う飲み物を出せるように練習しなきゃ"って言われたんだよ」

 あっ、本当に忙しかったんだ。


「えっ!?えっ!?今レモニアさんの声出しました!?流石ですね!?」

 クリフトは別のところに食いついている。


 しかしガイルの不在を狙っても袖にされた理由がガイル絡みとはスクレイドも報われない。

 思わず笑ってしまいそうになったが、

「素晴らしい…内助の功とはまさにレモニアさんのことですね」

 セリの熱い眼差しと真剣な表情に、俺はなんとか笑いをこらえて一応頷いておく。

 そのやり取りを見てアメリアは笑っている。

 よかった、迂闊な事を言ったかと心配したが、スクレイドに助けられたな。

ここまで読んで下さってありがとうございます。

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