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暗い森の中で

見切り発車ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

少女が右手をかざすと、どこからともなく洋風の玉座のような椅子が宙に浮かんで現れた。


「こちらにお掛けください」


言われたまま椅子に腰掛けると少女は裾などを整えてから礼儀正しく深深と頭を下げて話し始めた。


「改めまして、生命を司る神クロウシスと申します。津田大和様に救って頂いた数多の生命に代わりお礼申し上げます。」

「あっ、はい」

突然かしこまられるとこちらまで緊張する。


「貴方の選択肢は2つ」

そう言ってクロウシスが両手を広げ眼下に目をやると足元には先程まではなかった地球のような惑星が出現した。


「1つ目は転生を希望されない場合です。貴方の魂は資質だけなら神になってもおかしくない程の可能性を秘めています。」

「回復魔法垂れ流しでダメになるような魂が?」

「その認識はわかりかねますが。無限にある世界と融合の後、然るべき世界の何かを司る神となることも可能でしょう」

「世界がいっぱいある?異世界とか平行世界みたいな感じ?」

「はい。ご理解が早くて助かります。ただその場合は現在の記憶はなくなり、神として生まれその使命に準ずることとなります」

「なんの神様?」

「世界が必要とするものになります」

「じゃあクロウシスも昔は人間だったのか?」

「わかりません。何度転生を経ていつどのような姿だったのか、世界が争いによる血の涙を流した時、人々の祈りで私は産まれました」

「うっ、重いな」

「しかし神には世界に直接干渉する能力はありません。天秤が傾かないように調整をする程度のものです。天秤が傾ききった時、世界の終わりと共に神は新たな神に使命を託し消えるのです」


「2つ目は?」

「記憶はそのままに、あなたの世界から見た異世界に魂を移します。癒しの力を持つ特別な魂をお持ちの貴方が行くのは天秤の傾きかけた世界、そこで癒しの力で傾きを直し、私の力になって頂きたいのです。」

「そんな大層なことできませんけど?」

「大丈夫です。貴方の思う通りにしていただいていいのです」

そうは言われてもこの二択、どちらを選んでも重い。

お礼と言うなら見返りを求めずに異世界ライフを楽しませてくれればいいんじゃないか?


「普通の方は選択の余地なく魂の消耗で消えるか、自然な形で転生の輪に還るばかりですが」

と、俺の考えを読んだかのように補足された。


「なにせ貴方の魂は資質だけなら転生の輪すら外れた神の器、いえ…もしかしたらどこかで神だったのではないかと思うほどなのです。資質だけなら」

なぜ2回言った?

「さっきから気になるんだけど、そんなにすごいならなんで治癒魔法、とやらで死ぬんだ?」

「どの時の大和様かはわかりませんがご自身で強大すぎるその魂を分けたようです。大和様が本体のようですが、他の世界では抜け殻の魂がいくつかさまよっておりましたのでこちらに確保しております」


クロウシスがそう言うと色とりどりの光の玉が複数俺の周りを浮遊して取り囲む。

その光は懐かしいような、温かさを持っていた。

「普通に転生はできないのか?」

「そうですね、なぜ分けていたのかわかりませんが、同時期にこれだけ魂が集まってしまうと条件が整い自然と融合して神になると思われます」


「タイミングの問題?」

なんということだ、知らずに花を治して自ら転生の輪を外れるとは!


「全ての魂が揃い本来の力を取り戻した今、癒しの力を使ってもそうそう死ぬことはありません」


周りを飛ぶ光の玉に手を差し出すと、まるで喜んでいるかのごとく手の上でお手玉のようにくるくると回って跳ねている。

「そこで、新しい世界で魔法を使い続け、ある程度魂が消耗することで世界との融合は避けて次に命を終える時には自然と転生されることでしょう」

なるほど、今のままだと俺の魂の力とやらが強すぎて神様コースなので、その力を減らしてから輪廻転生の輪に戻ると。

そう聞けば悩むことなんてない。

「転生します!できればモテモテになりたいです!」


何が悲しくて何一つ経験のないまま神様に昇華されなければならないのか。居るかわからないけど童貞の神か!?そんなものにはならん!


そう思った時光の玉が俺の口の中に飛び込んできた。

「ぐっ!?おえっ!!」

一瞬にして光の玉は消え、今度は身体から淡い光が放たれる。

「他の魂も同調したようですね」

「それにしても口から!?なんか気持ち悪いんですけど!」

もっと他に入り方なかった?


ふと視界の端にアイコンのようなものが浮かび上がる。

ソフトクリームの上だけのような…

「うんこ?」

「魂の数です」

クロウシスは額に手をやりカウンターばりの速さで俺の言葉を遮った。


「魂が揃ったことで、分かれていた魂に刻まれた魔法が蘇ったようですね。その魂が最後のひとつになったとき、自然の転生の輪に還ることができるでしょう」

「そんな、ゲームの残機みたいな作りなのか…」

数は…12個。


「それでは貴方のご希望通り転生を」

「待ってくれ!将来イケメン確定で金持ちの家に生まれたい!あと回復以外の力も欲しい!」

「ご安心ください。融合した魂が他の力をもっているようです。姿形もなにもかもそのままに」

「え!?話が違うぞ!それは転生じゃなくて転移…」


言い終わる前に足元に魔法陣のような模様が広がる。

「それでは、次の人生を楽しんでください」

「待っ…異世界の説明を…」

クロウシスが頭を下げて見送る中、足元の魔法陣がマンホールのように開き、身体が落ちていく。

急激な落下の衝撃で吐きそうになりながらも目が覚めたら自分のベッドに横たわり机には広げた菓子、そんな期待をしつつ意識は渦に飲まれていった。


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・


重く湿った空気に木々の香り。

地面に張り付いた身体には草がまとわりついている。


「口に草が入った…」

残念な異世界転生に泣きそうになりながら、ゆっくりと起き上がると身体の軽さに驚く。

相変わらず視界の端にはうん…いやいや、魂の残機と別のアイコンのようなものが見える。

「なんだ?これ…ゲームのスキル一覧みたいな…」

画面には【スキル一覧】の文字。

しかし一覧に並ぶスキルは三つだけ。


目が慣れてきて周りを見渡すと、どこかの森の中のようだ。

真っ暗なはずなのにハッキリと見えるので困ることはなかったが、それとこれとは別、明かりがない事が不安感を煽る。

「ライトとかはないのか?」

そう呟くと視界に文字と点滅するアイコンが表示された。

【スキル】・・・【明灯】

迷わず決定をすると蛍のような光が浮かんで辺りを照らし始める。

「おお!移動するとついてくる!」

いや、だめだ。少し楽しくなってしまった。

都会育ちというわけじゃないけど、こんな真っ暗な山中に一人きりという初めての経験に戸惑い、怖いし腹も減った。

早めに街や人を見つけて落ち着きたい。



熊でも出そうな不気味な暗闇に心細くなってきた。

そうだ、歌を歌えば獣は近づかないと聞いたことがある。

できるだけ大声で今期ハマったアニメのオープニングを歌う。オタク仲間や姉に連れられて行ったカラオケを思い出しながら途中で拾った枝をぶんぶん振りながら進んでいく。

かなりヤバい奴っぽいが、怖いから仕方ない、よな?

近くに人がいたらこの声に反応して見つけてくれるかもしれないと、淡い期待を持ちながら歩き続けること体感一時間ほど。


森林を抜け、ガタガタの道のようなものに出た。

道にはあまり草がなく幅も広い。けもの道というよりは舗装されてない道路のようだった。


「これを道なりに行けばどこか街に行けるか?」


しばらく道なりに進むと木が減ってきた気がする。

もしかしたらここで待ってたら誰かが通るかもしれないと道の脇に腰を下ろした時、よろよろとした人影が近づいてくる。

「ちょうど良かった!すみません、道がわからないんですけど」

やった!これでなんとかなるかもしれない!

そう思って声をかけて人影に手を振る。


すると俺の周りを飛んでいた蛍がいくつか移動して人影を照らし出す。


「助けて…」


そこに居たのは血塗れの女の子だった。

歳の頃は7、8歳といったところだろう。

右手で左の肩をおさえ、だらりとぶら下がる左手からは血がしたたり落ちている。

おぼつかない足取りから右足も深手を負い傷めているようだった。


「どうしたんだ!?」

慌てて駆けより、今にも倒れそうな少女の身体を抱きとめる。

「馬車が…盗賊に襲われて…皆が…」

浅くなった息と、やっとのことで喋る声には涙と悲しみが滲んでいた。

「盗賊!?」

そんなものがいる世界なのか!?

少女の様子を見るに、このままでは命が危ういことは一目瞭然だった。

少女の傷に集中して、治れと強く願うように念じる。

「待ってろよ、今治してあげるから」

今までは使い方も存在も知らなくて垂れ流しだった治癒の力、どこまで出来るのかわからないけど試すしかない。

少女の身体には触れず、手をかざすように近づけると緑の淡い光が灯り、刃物で切り裂かれたような傷が見る見る閉じていく。

「治癒魔法!?」

少女は戸惑いを隠せないというように目を見開き、傷口を触って確かめる。

「治すことしか出来ないんだけどね、まだ痛いか?」

少女が怖がらないように妹に言うように聞いてみる。

視界の残機は…何も変わらない。

この位では減らないのか。


「だ、大丈夫です!…どこも痛くない…ありがとうございました!」

少女は驚きながら自分で立ち上がると、ハッとして急いで来た方向に駆け出そうとする。

「待って!危ないんじゃないか!?」

制止の声は少女には聞こえていないようだ。

盗賊がでるような山に一人でいるのも怖いが、少女が気になる。着いていくしかないようだ。



「俺も行くから…」

急いで少女のあとを追う。

ここまで読んで下さりありがとうございます。

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