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ビフォーとアフター

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

仮に昨日のように三人で来たならば、聡一にはこの家の重要さを説き、ルカはこの手の話で今の状態が十分であることを説明して話を終わらせようと思っていたというのに。

スクレイド?あいつはデコピンすれば済むだろう。


『 あの小賢しいエロフめ、次に会ったら覚えているがいい…』

ん?俺は今なんと言った?


すかさずルカが後ずさって俺を指さした。


「ちょっ!嘘でも二人きりが良いと言うことは、君にとって汚物がでるほど嫌なのか…!?」

「え…汚物が出てたか?」

「それでもいつも心配ばかりしてくれていたのか…ははっ、オレには本当に大和がわからない…」


このルカの反応は間違いない…嘘だろう?

こんな話でも無意識に汚物に乗っ取られかけていた…だと?


ルカはあからさまにショックを受けながら、先程までの笑顔は自嘲の笑みに変わった。

だから、俺の目が覚めてからこいつの地雷が増えていないだろうか?

「わかった!!ルカはどんな部屋がいいんだっ!!」



──その後。

「オレは大和の好みの部屋でかまわないよ、あっ、でもユッキーがくつろげるスペースは欲しいかな」

「そうか」

「ベッドは二人とも寝相悪くないけど、ユッキーも一緒だと大きい方がいいかも」

「そうか」

「ん?国医殿は動きたくないからワンルームみたいなのがいいって」

「そうか」


「えっ、スクレイド、やばいって!笑う!それはさすがに自分で言ってくんない?あ、大和ごめん!念話と会話間違えた」

「そうか」

俺はルカに言われるままに適当に紙に希望を書きとめ、いつの間にかルカの話には念話で混ざっていたらしい、聡一とスクレイドの部屋の希望まで入っていた。


「ハナエさんは朧月に通じてて、あとはたぶん、防音でサンドバッグとか殴るものがあればいいんじゃないかな」

「そう…え?なんて?」


そこまでぼんやりと聞いていただけだったが、突然のキーワードに思わず手が止まる。

「一日に一時間くらいは何かを殴ってるらしいよ?軽いスポーツって言ってたけど絶対にストレス発散だろうね」

「女将さん…」

「魔法も使うからレベルも上がるらしいよ」

そこまでの全力で物にあたらないと解消できないほどストレスを抱えて!?


そんな情報は知りたくなかった…なんて事を聞かせるんだルカよ。

そもそも女将まで住むことが決まっていたのか。

「…女将さんの部屋は強化必須だな」

「じゃあオレはクリフトとセリを誘いに行ってくるよ、アメリアちゃんの方はスクレイドが説得するらしいから任せておこう」


こうしてとりあえずの部屋の要望がまとまり、それから数日間、俺は可能な限り存在を薄めて一切の念話を遮断し、ガイルの宿屋で回復をしつつあちこちを移動しながら術式を描き続けた。


空間術式が完成すると、ルカや聡一の留守を見計らい元の部屋から家具を転送し、最後にリビングを作りそこから全ての部屋に繋げてシェアするハウスが完成した。


[…できた、物置部屋の奥に入口…ある]

[大和!?ねえ!?今どこにいるんだ!?]

俺は完全に不貞腐れていたので、直接会うことなくルカに念話をして、ベルへの警戒を怠ることも忘れず、また数日姿をくらました。

と言っても回復するために見つからないよう、ガイルの宿屋のベッドの下で寝ていただけなのは秘密だ。


──なんということでしょう。

一見なんの変哲もない物置小屋、の中の奥の扉を開けると、そこは広いホールの玄関になっており、そこからはガラスの扉越しに広いリビングが見えます。


リビングにはアイランドキッチンと、その奥にも対面式システムキッチンが。

冷蔵庫は用途別に三箇所に設置、広いテーブルに加え、全員が離れすぎないように小さいテーブルやソファも備え付けられているという気配り。


リビングを一歩出るとそこは、ウッドデッキから降りることのできる吹き抜けの中庭はまさに開放感と癒しの空間。


いつでも晴天に恵まれ、規則正しく並んだ木々と取り放題の果物や野菜。

暑い日にはバーベキューをしたくなるような心地のいい広さ。


地下に通じる階段を降りると、贅沢にも大地の精霊の協力により出現した森林をごっそり移動させた広大な森、通称会議室があるではないですか。


そして中庭の壁にある扉を開くと、匠の気遣いがこんな所にも。

それは観客席のない闘技場を模したバトルステージ。

強化に強化を重ねたその造りは耐震、耐魔力性に優れ、虎が暴れて異常気象を起こしても崩れることはありません。


リビングに戻ってみると、七つの扉が並んでいますね。

それは個人のプライバシーを守る部屋に通じ、各部屋は防音と結界術式が何重にも施されており、風呂トイレ、洗面台に洗濯乾燥機はもちろん空調完備に個人用の小さな冷蔵庫が設置済み。


電化製品は全て汚い金で買った王都の最新式の物。


ベランダは二重になっており、一つ目はプライベート用に夜っぽい空の星を眺めるのに最適。

さらに空中に浮かぶガラス戸を開くと、全部屋共通のバルコニーが姿を現します。

眠れない夜に出れば、誰かに行き交い会話を楽しむこともできるでしょう。


もう一度玄関を見ると?

こんなところにまで匠の気遣いがぁー。


玄関マットが数種類、どれも転送術式を組み込み、それぞれの町や村、王都付近に繋がっているではありませんか。


「大和って凝り性なんだね…」

「ボ、ボールベッドが外から見ると気持ちの悪い花柄なんだけどねぇ、その中にたまに見かける鈴の絵に悪意を感じるのは気のせいかなぁ…」


「す、すごくセンスが良いといいますか…、豪華なのに壁は木のままでフローリングも明るすぎず暗すぎず落ち着きますわ?」

「大和くん…地下室に図書室まであるのだがね…?」


「大和様、す、すごいです…」

「なんだこれ!?この部屋どうなってんだ!?」

「なぜ私はこんな豪華な部屋に住むことになったのだ、ヤマト…」

「にゃー!!」


「お前らは、ここを使えばいい…」

一週間ほど徹夜で作った部屋はそれぞれの元いた部屋の物を再利用して、あまり気疲れのしない作りになったはずだ。


「母屋の俺に用がある時は一度外に出て玄関をまわってこの“ベル”を三回鳴らせ、いいか?“ベル”だぞ、そして“ベル”を三回鳴らしても反応がなければすぐに諦めてどこへなりとも行くがいい」

「その呼び方を強調する意味はあるのかい!?」

「ふっ」

「ぇえ...?」

俺はぐったりとしながらスクレイドに不気味に笑い、部屋の案内を終えたところで、その空間に全員を置き去りにして母屋に戻ってソファに寝転んだ。


これだけやれば文句はないだろう。

アメリアとクリフトとセリの部屋からはペガルス小屋に通じる扉も作っておいた。


あれだけの強化を重ねた空間ならば、下手をすれば魔王すら凌げるシェルターになり得るのではないだろうか。


と、その時、増築した部屋の闘技場から腹に響く重い音と、術式の乱れる気配がしてベルが三度鳴りルカの叫び声がした。

「大変だ大和!!ハナエさんの一撃で闘技場が崩れかけてる!!」


魔王!?


「大和さん申し訳ございません、遊び場でしたのに壊してしまいましたわ…」

急いで向かった闘技場の地面中央には大きな穴が空き、その穴の近くにはクリフトが気絶している。

そしてその衝撃に術式が綻びかけていた。


遊び場だと!?

ここは全員の強化のためと俺の特訓用に血を使ってまで魔術式を組み込んだ一番苦労して強化した場所のはず!!


「何をしたらこうなった!?…んですか!女将さん!?」


そこで答えたのは何故か嬉しそうなセリだった。


「クリフトが土属性で!ハナエ殿が地属性なので近いという話になったんだ!そこで何が違うのか二人でリングに上がって、ハナエ殿が魔力をまとって放った拳を寸止めしたらこうなったんだ!」


魔力をまとわせて拳を寸止め…

で、この威力だと!?


「女将さん…、レベルっていくつ…ですか」

「あら…他の方には秘密ですわよ?」

「…な、ぇえっ!?なんだと!?そんなケタが存在す…ええ!?」

女将は恥ずかしそうに耳打ちをし、俺は魂の残基が無くなるのではないかと思うほどの魔力を使い、女将の部屋と闘技場の再強化をした。


そして力尽きた俺はフライハイトの森に運ばれ草むらに倒れた。

「ルカ…女将さんにだけは、逆らう…な」

「や、大和ぉー!!」


俺は自分が井の中の蛙であったことを知り、それから丸一日眠り続けることになった。


「起きた…」

「おはよう大和」


草むらで目が覚めて懐中時計を見ると朝の6時半、隣には本を読みながら術式を描く練習中のルカがいた。

その指先には線の太さが均一に揃った綺麗な銀に光る魔力が紡がれ、さらさらと本の通りに式を描いている。


「…上達したな」

「ありがとう」


俺はルカの部屋に設置したユキの森林部屋を通り、母屋に戻ると、シャワーを浴びてさっぱりとしたところで部屋にはグラスを片手に微笑むルカがいた。

「スムージー飲む?」

「…欲しいけどな、ベルを鳴らさず入るのはどうかと思うぞ」

「人の部屋には突然降って湧いてきてたのに?」

「…これが因果応報というやつか」


用意されたジュースを飲み干すとルカは不思議そうに何やら考え込んでいる。

「どうした?」

「ベルが何もしてこないのが不気味で」


ベルはおそらく…。

「来ないなら来ないで放っておけ、ところでアメリアの剣の練習を見るがお前も来るか?」

「剣の…!?行くに決まってるじゃん」

ルカはなぜか力強く頷くき、二人で闘技場に行くとそこにはクリフトに教わりながら剣を振るアメリアの姿があった。


「あ!ヤマト様、ルカさんおはようございます!」

「二人ともおはようさん」


俺たちに気づいた二人は手を止めて挨拶をし、アメリアがクリフトを見ると優しく頷かれ、嬉しそうにこちらに駆け寄ってきた。

「おはよう、休めたか?」

「はい!」

「約束よりだいぶ遅くなってすまなかった、練習しようか」

「よろしくお願いします!」

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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