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指導者と要望

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

「アメリアちゃんの問題を利用するようで、こんなこと言いたくないんだけどさ、でも…うーん」

「なんだルカ、言いたいことがあるならはっきりと言ってくれ」

何かを言いかけて一人で悩み始めるなど、ルカらしくもない。

そしてやはり気持ちが悪い。


「アメリアちゃんが純粋な人間でなく魔力や体調に不安があるのなら、医療施設が揃ってて知識を持つ人間もいる王都で様子を見るから、ってのはどうかな?でもそれじゃ本人に秘密にしていることがバレる危険もあるか?」

「「「それだーーー!!!」」」


さすがはルカだ!

「本人には術式と剣術を教えると言えばいい!それならばアメリアをよく知るクリフトとセリに同行してもらうのもおかしくはないし、ガイルとレモニアも口裏を合わせるだろう!」

「すごいじゃないかルカくん!完璧じゃないかね!」

「元凶は俺とヤマトくんなのに、嬢ちゃんの為のように言うのは思いつかなかったなぁ!」


黙れスクレイド、これならば嘘はひとつも無く三人をまとめて保護できるわけだ。

「ルカ…、お前がいてくれて本当に良かった!」

「じゃあ空間術式で部屋はよろしくね」

「ん?」


そういえば保護するのは仕方ないとして、どこに居てもらうかまでは考えていなかった。

「王都の宿屋を長期で借りるのはダメなのか?」

「ベルが本気になったら間に合わないよねぇ」


スクレイドがそう言うのならそうなのだろう。

しかし…まさか。


俺は肉体の目を開いて森に戻り、急いで逃げようとしたが遅かった。

三人も同時に森に戻ると俺の腕や服を全力で掴んでいる。

大怪我が痛むと言っているのを忘れたのかコイツらは。


「ならばあの森に家を建てようじゃないか!!」

聡一は目を輝かせ、どこかウキウキとしている。


「家を…建てる?」

「うむ!僕らがここまで自由にしているのに王が何かをしてくるわけではない、ならば好きなだけ泳がせてもらおうじゃないかね!」

英雄王の動きを気にしすぎて身動きが取れないのではと、一番の不安材料だった聡一からそんな言葉が出るとは。

念話会議でまたこの賢い変態に何を吹き込まれたのか。


「俺は今までと変わらず出来ることをするだけだが、嫌な予感しかしないその家ってのはなんだ?」


すると聡一は代表してハツラツとした笑顔で言った。

「森の家に空間術式で部屋を作って皆で暮らそうじゃないか!」

「な…嫌だ!いてえ!」


アキトとの思い出の大切な家を勝手に増築だと!?

聡一にとっても友人であった祖父やアキトとの大切な場所ではないのか!?

吹っ切れすぎだろう。


「その増築は誰がやる…」

「もちろん大和くん!君だとも!僕の部屋はあまり豪華でなくていいのだよ?ハナエさんはどんな部屋がいいのか聞いてみないことには…」

「あ、オレはキッチンと寝室がしっかりしてればおっけー!大和はオレのところに寝に来るよね?」

「俺はねぇ、おたくのボールベッドが外から見えないようにしてくれたら、それ以上のスペースはいらないかなぁー!」

「お前らも住むのか!?」

その日、俺を無視して進む話と好き勝手に好みを注文する男三人の絶叫と大岩が彼らを襲う爆音が森に響き渡った。

全力で叫んで逃げ回り、肩で息をしながらその場にへたり混んでいる三人を森に置き去りにして、俺は家に戻るとユキを呼び寄せ彼女の名を呼んだ。


「フィール、今は話せるか?」

「はい」


声がしたかと思うとユキは俺の隣にくつろぎ始め、ユキがいた場所には美しい女の姿があった。

「まだ透けているな…」

「極力ベルに感知されないよう存在を薄め、魔力を抑えていますので」

「そうか」

生命力を注ぎ続けていた成果により、フィールは姿と力を取り戻しつつあった。


「また術式の相談をしたいんだが、その前に」

「知る限りを貴方に」

ここ最近のプロウドの試作品をするには、可能な場合はフィールにも意見をもらうことにしている。

知らずに造ったものがスクレイドの毒になってはいけないからだ。

だがフィールは白の王や英雄王の話をあまりしたがらない。


本当はそこが一番知りたいところなのだというのに、無理に聞くのもためらわれた為に術式や魔力について話をするようになったところ、やはりスクレイドと話している以上に会話がスムーズに進み、リゼイド式と黒魔術式を混ぜると言い出した俺に、驚くことも止めることも無かった。

「ベルがいる時はユキが姿を見せないのはお前の意思か?」

「いいえ、この宿り主自体がベルに警戒しているのです、そして私が話している間の記憶もないようです。私は起きてさえいれば宿り主を通して世界を見れますが」

「なるほど、それはアレイグレファーにも言えることか?」

「はい。そして宿主どころか、貴方以外に私たちを外から認識することは不可能でしょう」

「そうか、ところで石以外ではプロウドはできないのか?」

ソファに座りユキを撫でながらプロウドに組み込む術式を描き、ふとした疑問を投げかけてみた。


「アレイグレファーなら知ってるかもしれません」

「アレイグレファー?」

魔力に関してはフィールの方が専門だった記憶があるのだが。


「出力の調整さえ出来れば弟も力はあるのです。使いこなす為に努力をしていたので、私より広い視野で知識を集めていました…あまり上達はしませんでしたが」

「そうなのか」

「本当は私がスクレイドを育てるつもりでしたが、珍しくアレイの反対にあい断念致しました」


なぜだ?フィールだって魔力や術式をよく知り、俺と話している時には不足なく思うのだが。

と、その疑問が顔に出ていたのか、フィールも不思議そうに頬に手を置いてその時の弟を思い出しながら言った。


「アレイが言うには私の教え方は感覚的でわかりにくいと、とても必死に…まるで死ぬ覚悟でもしているのかと思うほど鬼気迫るものがありました」

「え」


「確かにアレイは面倒見もよく、教えを乞う多くの人がいつも周りにいましたが…」

「わかった!フィール!アレイグレファーの居場所がわかったら今度聞いてみるとする!すまなかったな!」

「お役に立てず申し訳ございません」

「術式の相談もまた今度でいい…今は休んでくれ」

「? はい、ありがとうございます」


そうしてフィールはユキに吸い込まれるように消えた。


あー!なるほどな!

やはり努力もせずに力を持つ者は、分からない者が何を理解できないのかすら見失ってしまうらしい。

どうりでフィールとの会話のテンポがいいはずだ。

それはまるでルカの術式の師匠二人の話を聞いているようで、なんとも言えない残念な気持ちになった。


俺も初心を忘れずに気をつけなければいけない…。

そして渦中の男に対しての脳筋という認識を改めるとしよう。

今のスクレイドを作り上げる為には、アレイグレファーという者が必要不可欠な存在だったのだ。

スクレイドが怒りに身を任せた時に出てくるヤンチャぶりや、出会った頃には何を言っているのかさっぱりだったふいに出る感覚的な独り言を思い出してみても、もしも育てていたのが逆だったのならば…。


恐ろしい存在であったはずの姉に対して、死を覚悟してまで主張した結果が今のスクレイドの穏やかさと理性に繋がっているのだろう。


「なんとかしてアレイとも話をしなくてはいけないのか…うっ、胃が痛い…」


ユキはふわふわと宙に浮いた術式を追いかけ、家の中がドタバタとしてホコリが舞った。

「ユキの部屋とバトルステージ…家はこれ以上改造したくない…」

誰に言うでもなく、俺は膝を抱えて落ち込んだ。


──次の日、寝ずに色々と考え込んでいた俺の意志とは関係なくルカが部屋に現れて一枚の紙を渡してきた。

「これは…」

「それぞれの部屋の希望だよ」

「却下だ」


その紙にはすでにクリフトとセリの好みまで書かれていたので床に落とした。

「聞いた話によると、セリってあの集落で空き家を借りて世話になってるから、相当気を遣ってるんじゃないかな、これ以上気詰まりする場所に住ませるのは可哀想だと思うよ」

「…そうか」

「クリフトは小さい時に母親が他界してるらしくて、父親も旅の途中で魔物に襲われて無くなってからはお兄さんと二人だったんだって、今は一人で寂しいんじゃないかな」

「……そうか」

「アメリアちゃんは君がよく知ってると思うけど」

「………そうだなっ!」


同情で俺を落とすつもりか、だが残念だったな。


「なら朧月に部屋を作ってやろう」

「アメリアちゃんの教育に問題がないならね」

「それはそうだが…そもそも放浪癖のあるスクレイドは置いておくとして、お前と聡一には部屋があるだろう!それも王都だぞ?能力もあるから好きなところにも行けるはずだ」


何のために念話や移動手段を使えるようになったのか。

俺のプライバシーを侵害させるためでは無い!


しかしルカは相変わらず読めない笑顔のままだ。

「効率が悪いと思わない?」

「なにが」

「国医殿もハナエさんもオレも王都にいるのに、話す時にわざわざ森に集まるのは非効率じゃん」


それを言われるとそうなのだが、だから皆で住みましょうとはならないだろう。

しかたない、この手はあまり使いたくなかったのだが。

「ルカ、お前と二人きりでいられる時間が減るのは俺にとって望ましくない」

「…え!?」


よし、食いついたな。

俺はルカをちらりと見てから少し大袈裟に言ってみる。


「俺はお前にしか話せないことも、お前だからこそ楽になれる時もあるんだ」

「うわ…大和そうくるのか」


その言葉にルカは警戒し、笑顔は引きつっている。

想定していた反応と違いすぎる、もう心変わりでもしたのだろうか?


「ルカ、もしかして俺は気持ち悪いか?」

「いつもの君から言われたら嬉しかったけど、スクレイドから先に注意されてたんだ」

「…スクレイドがなんだって?」

「この話で俺と二人きりがいいと言い出したら、確実に作戦だから気をつけてってね、…この話を無かったことにしたいからって理由で本当にそんなふうに言われると思わなかった…君はやっぱりひどいね」

「ル、ルカ…違うぞ?本心ではある!!」


ぐあーーーーー!!しまった!!

スクレイドの奴なんて余計なことを!!


焦って取り乱だせば余計に認めているようなものである。

ここはなんとか冷静に…

「そうだよな、いくら目的が同じでもオレは足でまといの自覚もある、しかも君にとってこの家と一人の時間がどれだけ大事か知ってたのにな…」


出てしまった、ルカの自虐ネタ…ではなくて地雷原…でもなくて黒歴史による不安定さ。

そうか…!

なぜ三人で説得に来ないのかと思ったら、俺がルカの黒歴史に対して弱いことを見抜かれていたのか!

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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