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不毛な会議

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

しかしルカは憤って言った。

「大切な物を奪ったうえに人質だって?ふざけてる!ベルが死ねばスクレイドが…、それだってただの脅しじゃないのか?」

「残念だが汚物がそれは真実だと言ってきた」

「それって信用できるのか?」

「…信じたくはないが、今のアイツがわざわざそんな嘘をつく心当たりがない、スクレイドが死ねば俺には少なからず心に隙ができるだろう。そのチャンスを逃すような真似をして、汚物に得があるとは思えない」


さらに聡一は悔しそうに頭を抱えた。

「アキトの遺品に手を出すとは…!」

「聡一大丈夫だ、アキトの物は無事だ」

「…何が大丈夫なものかね!」

「あれは偽物だ」

聡一はこちらを見て何度も瞬きをした。


「あの階段の途中から部屋まで空間転移の術式を五十はしかけてあったんだ、ベルが入った部屋はフェイクのうちの一つだ」

「し、しかし君の魔力の粉で術式を乱したと、しかも君は本当に怒っていたのではないのかね?」


そこで俺はニヤリと笑った。

「わざと反応して食いつかせたんだ、俺がどれだけ苦労して精霊から記憶を掴んできたと思っている?粉の使い道くらい知っていたんだよ」

だからこそ、汚物は俺がなぜ怒っていたのか不思議そうにしていた。


「どういうことかなぁ?」


スクレイドも術式の知識はあっても試せていない事が多い、それが救いだったのだが。

「ベルが言っていた、俺の術式に俺の魔力はよく馴染んだと。もしあの家の術式に俺の魔力で作った粉を使ったら強化されるよう仕掛けてあった。森の決壊は油断させるための囮だ」


聡一は俺に疑いの眼差しを向けた。

「アーツベルさんと話したことは、全て演技だというのかね!?君がかね!?」

それは最初に大根三流すぎる演技を見た事のある聡一ならば信じられなくても当然だろうが、もうあの時のことは出来れば無かったことにしてほしいものだ。


「でも大和、階段以外の術式は強化どころか無効化されてたんだろ?」

ルカは話を思い出して心配そうに言った。

「あれは攻撃用じゃない、短時間での賭けだったが途中で気がついて、試したいことがあって仕掛けをしたんだ。そしてやはり奴が効果も知らずに粉を振りまき強化してくれたことで、おそらく狙いは成功したといえるだろう」


そこでスクレイドははっとして言った。

「何をしたんだい?」

「ほら、お前が知らなければベルも知らないという事が証明されたな、いくら記憶の欠如があったとしてもベルはスクレイドを超えることはできない」

「答えになってないよ、なんでそう言いきれるのかな?」


俺は自分の手を見つめながら、さらに続けた。

「俺と同じだからだ…いくら力があっても自分で手にしたものでは無いからな、一つ確かなことは今日あの時点でベルは俺の敵になった」


そしてもう一点。

「白の王の魂を持つ者がもう一人…」

ルカがそう呟くと、聡一は期待を込めた眼差しで、俺とスクレイドを交互に見た。

「なら!大和くんは白の王などではなく!責任を感じることもなければ、危険なことに巻き込まれることも無いのだね!?」

しかしスクレイドの反応は思わしくなく、思いつめたように額に手をおいて首を振った。


「ヤマトくんは現に彼の存在…精霊に認められているんだ、白の王でなければ考えられないんだよねぇ」

聡一は納得がいかないとさらに考え込んだ。


「じゃあ、魂が欠けているって言っていたよな、ベルに見つかったのはそっちじゃないのか?」

「それも汚物によればありえないらしい」

俺はルカの推測を否定すると、聡一は認めたくないらしく厳しく問い詰めた。

「二人ともなぜそう言いきれるのかね?精霊が過去に人間を認めたのなら、大和くんを気に入っても何もおかしくはないのではないかね」

そう言われ、スクレイドは再び確証が持てずに考え始めた。

「心が、無いからなんだ」

先程のベルにもあてはまるのだが、このことはあまりにぼやけていて、あまり話したくはなかった。


「心がないとはどういうことかね?」

「汚物に聞いたのは、俺の魂がいくつにわかれても主導権が“俺”にあるのは、心を持つのが“俺”だけだからだということだ、だから分かれた先で心を持たない欠けた魂が何をしても力を使いこなせない…らしい」


聡一とルカは複雑そうに俺を見たが、スクレイドはもう一つの問題を提示した。

「それで、三人のことはどうするんだい?」


これは言うべきか言わないでおくべきか…。

「それが…たぶんアストーキンでやらかした汚物なんだが、アメリアなら行動を共にしてもいいと上から言ってきた」


するとそれを聞いたスクレイドは耳を疑いこちらを二度見した。

「…えっ、うん!?そういうことなのかい!?」

「ただのお気に入り!?」

ルカは訳の分からない事を叫び、聡一はメガネを押さえて真剣に言った。

「汚物にも好みがあるのだね…」


なんの話だ。

「こうなったからには、これ以上ベルを刺激しない為にも三人と縁を切るしかないな。本来関わるつもりも無かったんだ。いい機会だろう」

そして三人は頭を抱えて何やら至近距離で内緒話の要領で念話会議をし始めた。


隠す気があるのなら俺のいないところでやってはもらえないだろうか。

さらに俺は完全に蚊帳の外だが、いつの間に三人での混線した念話を会得していたのやら。


そして会議の終わった三人はこちらを向いて、スクレイドが深刻そうに言い出した。

「クリフトくんとセリちゃんは一人暮らしだし、おたくが誘えば来てくれそうだけど…、嬢ちゃんはガイルくんという天より高いハードルがあるからなぁ」

「なんだって?」

「オレも勇者繋がりで昔の大和の話と、アメリアちゃんの話ばかりレモニアさんから聞かされたよ、なんでも大和がアメリアちゃんを片時も離さなかったって」

「おい」


「僕もガイルくんからはアメリアさんの話ばかり聞かされたのだが、あの調子では手元から離れるのを許してくれるかが問題だが…ああ!そうか!娘が親元を離れるとしたらアレしかないのでは無いかね!?」


俺の言葉など聞こえていなかったのか、意図的に無視をしたのか。

三人の中ではアメリアとクリフトとセリを俺の近くで保護することが勝手に可決されているらしく、最後の難題と思われるアメリアの引き取り方について、聡一が何かを閃いてしまったようだ。


「聡一…?何を思いついたのか知らないが、聞きたくない」

「ソウイチくん!何かなぁ!!」

なぜにスクレイドが興奮気味なんだ。

さっきまでの真剣さはどこへいった。


「ほら!17歳の大和くんは無事に王都に送り届けて衣食住の保証に加えて、職が見つかったということでクリフトくんとセリさんが話してくれてあるのだったよね?」

そんな話は聞いていないし今の今まで知らなかったんだが…。


どうりでガイルもレモニアもヤマトの所在を聞いてこなかったわけだ。

そしてその流れから嫌な予感しかしない。


「あの頃の大和くんに変身して、生活も安定したのでお嬢さんをください!と言うのはどうかね!!」

何を言い出すんだ聡一よ。

突然はっちゃけすぎではないか?


「確かに!ガイルくんが妬くほど二人だけの世界を作っていたからねぇ、おたくと嬢ちゃんはいつも離れず一緒に寝てたらしいしねぇ!」

「…らしいね」

「そうそう!初めて俺と会った時寝ていたヤマトくんを起こしたら、自分のことより嬢ちゃんのことを聞いてきたっけねぇ!あれは可愛かったよねぇ!」

「スクレイドは黙れぇ!ルカはちょっと誤解してないか!?二人の世界!?い、一緒に寝てたのは、その…アメリアの歳を知らなかったからだっ!それにそんな理由だとしたらクリフトとセリまで連れていくのはおかしいだろう!却下だ!!いってえぇー!」


何故それが通ると思った!!

つい怒鳴ったことにより、全身の痛みがぶり返す。


「それならレモニアちゃんが後押ししてくれそうだったのに」

「そういう問題じゃないだろう!それにルカは嘘だとしてもそれでいいのか?」

ルカは笑顔の中にも困った奴でも見るような視線を向けて諭すように言った。


「オレのことを考えてくれるのは嬉しいけどさ、今はそれどころじゃないじゃん、オレたちはなんとかなるかもしれないけど、三人が危ないんでしょ?」


なんだと…、俺がおかしいのか?

もう、本当にあの酒の席の告白らしきものが夢だったのか思うほどに冷静すぎないか?

散々人を無神経だの頭がおかしいと言っておいて、自分はなんなんだ。


いや、やはりあれは夢だったのかもしれない。


「とにかく、俺にはそんな嘘はつけない」

「じゃあクロウくんのまま嬢ちゃんを見初めたってことにしよう!服まで送ってるからねぇ!」

「まず前提としてその方向性がおかしいだろう、服はセリにもやったはずだ」


くそ。ここまできたらコイツらは譲らないだろう。

どうしても近場に住ませるとなると...。

なんとかガイルやレモニアが不安にならないよう、かつアメリアの為になり嘘ではないこと…。


その時、俺の頭は未だかつてない程に冴え渡った。

「問題は解決した。術式と剣術を教える為に弟子として預かると言えば済む話だ」

全くの嘘というわけでもなく、アメリアとの約束が伸びてしまっていたのも気になっていたのだからちょうどいい。


そう言って三人を見ると、なんとも言えない残念そうな顔で俺を見ている。

「あのさあ…、誰が可愛い娘をわざわざ修行に出すかなぁ?」

「? 可愛い子には旅をさせろと言うだろう」

「旅にも程度ってものがあるよねぇ、そもそもガイルくんがそんなタイプに見えるかい?」

呆れたようなルカとスクレイドに言われて思い出してみると、そういえば王都に行くのですら必死に反対していた記憶がある。


しかしあの時ガイルを黙らせたのはレモニアだった。

ならば今回も同じようにレモニアなら賛成するのではないだろうか。


「レモニアちゃんは義父母を失ったばかりの嬢ちゃんの気が紛れるならと、明るく振舞って送り出したみたいだからねぇ、今回はちょっと期待はできないかなぁ」

「ぐっ…」

また顔に出ていたのか、レモニアに関してスクレイドに釘を刺されては何も言えない。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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